第127話 翼の記憶
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僕は元から男らしく育って来た。
それは兄弟の影響なのか、元々自分の性格がそうだったのかは分からない。
けれど、女で生きるより何倍も楽しかった。
そんな僕を母は気に入らないらしく、事あるごとに可愛らしい服を買って来ては無理矢理着せようとするのだ。
最初は嫌がっていたのだけど、途中から母はヒステリックを起こす様になって来たので仕方無くきるのがお決まりだった。
家にいると小言を言ってくる母があまり好きではなく、日中は外へ出掛ける事が多くなった。
探検をしてみたり、虫取りをしてみたり。
一人で出来る遊びは何でもやっていたと思う。
「退屈だなー。一人はやっぱり寂しいよ。」
友達がいない僕は一人で遊ぶ事に飽きて限界を感じていた。
それでも公園にいる子供達へ一緒に遊びたいとは言えない。
拒絶されたらどうしよう。
後ろ指差されてたらどうしよう。
だって、僕は普通の子じゃないらしいから。
女の子なのに男の子として過ごしているのは、きっと同世代の子には理解してもらえないはずだ。
「寂しいなら一緒に遊ぶか?」
僕の背後から声が聞こえて来た。
何で声を掛けてくれたのかは分からないけど、優しい声だったのは覚えている。
「良いの?」
「良いのも何もみんなで遊んだ方が楽しいだろ?って言っても、俺も一人なんだけど。」
どうやらこの子も一人でいたみたいだ。
確かに周りには友達がいる様には見えない。
「じゃあ、なんで僕に声を掛けてくれたの?」
「俺は困ってる奴見たら誰でも助けてしまうヒーローだからだよ。あれだよ?決して、俺も一人が寂しかったとかそういう訳じゃないから。」
この歳で戦隊物とかが好きなのは納得出来る。
僕も良くテレビで見ていたから。
だからこそ、この時の男の子が本物のヒーローに見えた。
一人ぼっちの僕を助け出してくれるヒーローに。
「俺は、佐倉陽太。お前は名前はなんて言うんだ?」
「僕は豊中翼。」
「翼?めっちゃカッコいい名前だな!」
その価値観は僕には分からなかったけど、すごく嬉しかった。
カッコいいなんて今まで言われた事がなかったから。
深い意味は無いと分かっていても僕の生き方の全てを肯定してくれたように思えた。
「何して遊ぶ?俺は一人遊びなら得意だけど、二人で遊べるものは知らないんだ。」
「あははは!それなら僕と一緒だね。僕も一人遊びは得意なんだよ。」
「なら、秘密基地とか作ったか?」
「えっ?秘密基地って一人で作る物なの?」
「やめておけ、それ以上は俺が傷付くぞ。兎に角来いよ。」
手を握られて秘密基地まで案内してくれるみたい。
今、僕の胸は高まっている。
これは秘密基地が見れるからワクワクしていてこうなっているのか、それとも他に理由があるのかは本人である僕にも分からない。
でも、凄く楽しいって事だけは分かる。
「着いたぞ!ここだ!」
連れてこられたのは、街のはずれにある山。
そこには廃棄されたソファーやテーブルを使って秘密基地の様にしてある場所があった。
眺めの良い崖側にあるけれど、危なく無いようにフェンスが建てられている。
もしかしたら、山の所有者が気付いて付けてくれたのかも知れない。
「綺麗だねー!感動するよ!」
「だろー!ここに連れてくるのは翼が一人目だ。まだ、絢音にだって見せてないんだぜ?」
「僕が一人目で良かったの?」
「当たり前だろ。俺達今日から友達なんだから。」
友達か。
僕とは無縁な言葉だと思ってたけど、まさか僕にも出来るとは。
家に帰り着くまでの間も友達が出来たという興奮が残る。
僕を女の子としてではなく、一人の友達として見てくれる子が現れたのだ。
「お母さんただいま!あのね・・・」
「翼!今何時だと思ってるの。いつもいつも勝手に外へ行っ・・・何よその泥だらけの格好は。」
ただ友達が出来た事伝えたかっただけなのに。
母はそれよりも先に泥の付いた僕を見て怒った。
どの家でもこんな格好をして帰れば怒られるのは当然。
でも、母が言いたかった意味は違う。
どうしてそんなに女の子らしくいられないのか。
楽しかった時間も一瞬で無に帰る。
また長い長い時間が始まるのだ。
聞きたくない説教を永遠に聞くのは耐え難い。
逃げ出したいけど、こんな幼い僕には一人で生きていく術を持ち合わせてはいなかった。
ピーンポーン
誰かが来たみたいだ。
どうせ怒られるなら一瞬だけでもこの時間を先延ばしにしたかった。
だから、扉を開けた。
「あ、やっぱりここだったのか。おばちゃん達の噂ってのは当てになるな。」
「陽太くん、どうしてここに?」
「貴方が翼を連れ回したのね。良い?ウチの子は野蛮な遊びに付き合うほど暇じゃないのよ。」
悔しかったし、恥ずかしかった。
友達が目の前で怒られているのに、やめてと口に出来ないでいる自分が。
またいつもの様に友達を一人失ったのだと思うと苦しかった。
「翼のお母さんが何言ってるか分からないけど、翼は翼だろ?何したって良いじゃん。」
「あのね、もっと慎ましくあるべきなのこの子は。」
「全然分かってないなー翼の事。あ、やべっアニメ始まるから帰るわ。これ、お前にあげよと思ってよ。友達の印だ。」
無理矢理握らせる様にしてピンバッジを渡して来た。
全く見た事のないアニメのピンバッジだったけど、凄く嬉しい。
それにさっきの言葉で、僕は僕らしくいて良いのだと思える。
お礼を言おうと思ったけど、陽太くんは既に玄関を飛び出して何処かへ行ってしまった。
「何なのあの子!私は翼の将来の事を考えて・・・」
「要らないよそんな心配!僕は自分で決めた道を生きるもん!」
陽太くんの後を追いかけて両手を振って見送る。
「ありがとう!また遊ぼうね!」
急いでいるらしくこっちを振り返る事はなかったけど、片手を軽く振って返事を返してくれた。
明日もまた公園に行ってみよう。
約束はしていないけど、もしかしたらまた会えるかも知れない。
こうして僕は空に羽ばたく鳥の様に自由な翼を手に入れた。
◆◇◆
ブゥーブゥー
携帯の着信が鳴った。
これで何回目になるか分からない母からの連絡。
確認したか分からない様に通知画面だけで文章を読む。
『貴方の居場所が分かりました。今、向かっていますので逃げないように。』
意外と早かったな。
もう少しだけ遊べると思ってたのに。
母は僕が逃げ出すんじゃないかと思ってるみたいだけど、そんな事する訳ないじゃん。
だって、この街には彼がいるんだから。
待ってるお母さん。
僕が翼を授かったこの街で直接対決と行こうじゃないか。
でも、ただで見つかってやる訳にも行かないよね。
出来るだけ困らせてあげないと気が済まない。
これは復讐だ。
今からする事に決して他意はない。
ピンポーン
チャイムを鳴らしてから三十秒足らずで、玄関から陽太が飛び出して来た。
「やっほーマイダーリン!ちょっと僕を匿ってくれないかな。」
彼の表情は困惑。
だけど、ここで簡単に突き放したりはしない。
だって、多分だけど僕の表情は少しだけ暗い物を秘めていたから。
それに気付くのが佐倉陽太という男だ。
ごめんね、陽太。
ちょっとだけ付き合ってね。
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