第121話 家族としてもう一度
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「楓ちゃん、君は何も分かっていないんだね。君のお父さんが経営している会社は沢山ある。だけど、その内の一つが大きなマイナスを出したんだ。その穴を埋める為に僕と結婚することが必要なんだよ。」
財閥と聞いていたので、いつも上手く行っているイメージがあったがまさか事業の一つを失敗していたのか。
初めて聞かされたお見合いの真実。
それによって七瀬先輩の動揺を誘うのがこの男の狙いか。
優しい楓先輩ならきっとこの話を聞いた事によって自らの判断でお見合いを了承する。
そんな可能性を考えての発言かもな。
姑息ではあるが十分過ぎる程効果がありそうな作戦だ。
「私は例えこの家が貧乏になったとしても構いません。」
「お金が無くても良い?そんな話があるか。」
「この世はどんなことをしていても金がいる。息をするにしたってそうだ。そんな世の中を金無しでどう生きる。」
「お金は確かに生活を豊かにしますが、愛情だけはその限りではない。家族愛も恋愛も、友情だってそこにはありませんよ。そんな人生私はいらない。」
「一言えば十返してくる女だな。顔が可愛いから気に掛けてやろうと思ったのに。腹は立つがちゃんと毎日可愛がってやるから安心してよ。」
おっと、気持ちが悪いな。
いつもの俺だったらこの場で殴り飛ばす事も考えるが、今は我慢だ。
もう少しだけ我慢すれば、父親の反応が見れるはず。
もしも、少しずつ心が入れ替わっているなら七瀬先輩に寄り添った言葉が聞けると思う。
誰が次に口を開くのか。
空気読みのような時間が続く。
「俺は・・・。いや、その話はもう少し待ってくれ。今はそれよりも大事な事を済ませないといけない。」
「何を言ってるんですか。急がないといけないって言ったのは貴方の方ですよ。僕も気が長い方ではないので早く話し合いを進めましょう。」
考える時間を与えない。
冷静になれる時間を作れば、この話も流れる可能性が高くなる。
そう考えているのだろう。
楓先輩は父親へ助けを求めている。
心変わりしたと信じて助けを求めているはずだ。
ここが大きなターニングポイント。
選択肢を間違えれば、二度と家族の中が修復されることはない。
「なら、結論を言い渡そう。・・・娘とのお見合いは中止だ。」
「ふざけるな!なら、大きく出た損失をどうやって補填するつもりだ!いくら金があるとは言え、あの損失を埋めるのは痛いぞ!」
「どうとでも言ってくれ俺がそう決めたんだ。話し合いはこれで以上。出て行ってくれ。」
「・・・ふざ、ふざけるな。」
客人用のフルーツバスケットと一緒に用意されていた果物ナイフを手に取った。
ここで暴れるつもりか。
凛に警備の人を呼ばせに行かせて、俺と華で間に立つ。
最悪、俺が壁になっている間に華が取り押さえば問題ない。
多少の痛みはあるだろうが大事にはならないで済む。
「ちょっと待った!」
扉を勢い良く開けたのは警備員ではなく、俺らが頼りにしている糸井先輩。
いつ来るのかと待っていたが、まさかこのタイミングで来るとは。
「って、あれ?なんかタイミング間違えたかも。」
「いや、ナイスタイミングですよ!」
視線が糸井先輩に行った隙にタックルで取り押さえる。
急な衝撃によって、手に持っていた果物ナイフも地面に落とす。
後は素早い手付きで手を縛っておく。
「僕の狙いとは違ったけど、これはこれでオッケーと言うことで。」
「・・・糸井くん。」
「ちょっと遅れてしまったみたいだね。あの作戦が本当に成功したからここへ来たんだ。」
どうやら糸井先輩は何か作戦を実行したいたようだ。
「作戦とはなんだ。」
「僕に損失の補填をさせてください。」
「何を寝ぼけた事を言ってるだ。額で言ったら億を超える。一学生にそんな大金を生み出せる訳がないだろ。」
「僕の両親が経営している自営業へアドバイスをして、利益を作りました。足りない分は、ネットで運営しているコミュニティサイトの利益で賄います。」
「・・・それはやっぱり受け取れない。自分で生んだ損失は自分で埋める。」
「そうですか。そこまで言うなら僕がこれ以上言う必要もないですね。」
こんな形になってしまったが、ようやく恋愛支援部が全員揃ったか。
顔を合わせるのは久しぶりでちょっとだけで気恥ずかしい気もするが、無事再開出来た事を素直に喜ぼう。
「そうか。知らない間にこんな沢山の友達がいたのか。」
「ウチ等だけじゃないんですよ。学校に行けばもっともっと沢山の友達がいるんです。」
「知らなかったな。ずっと見ていたはずなのに、どこか違う所を見ていたみたいだ。楓、成長したな。」
「ありがとう、お父さん。」
感動のラストを無事に迎えた事に一安心。
俺はどれだけ説得しても心が揺れ動かないと思っていたのだけど、糸井先輩の言う通り七瀬蓮也は一人の父親だった。
この流れの中、華が糸井先輩に近寄って七瀬家には聞こえない声で質問する。
「七瀬先輩の事、好きなんですよね?このタイミングで告白しなくて良いんですか?」
「え、えーっと。今は良いかな。もっと進展を深めてからでも遅くないと思うし。」
「これ以上どうやって仲を深めるんですか。」
「うーん、どうやってだろ。兎に角、その事は内緒だからね三人共!」
ベラベラ喋るような真似はしないけど、どこかもどかしい。
俺はてっきり今回の件で一気にゴールまで決めるのかと思っていたけど、思っているより歩幅は小さいようだ。
「なんの話をしてるのみんな!」
会話に参加してくる七瀬先輩を見て焦る糸井先輩。
こんな貴重な姿を見れるのは今のうちだけだろう。
その後は、事の収束へと向かって行った。
まず、河野は警備の人に連れて行かれそうになった所を七瀬先輩のお父さんが止めた。
そして、娘は飽きらめてくらる事を条件に解放。
これ以上事を荒立ててもメリットがないと感じたのか素直に言う事を聞いて帰って行った。
金があるんだから、若さを求めなければ顔の良い奥さんなんてすぐ見つかるだろうに。
人の好みってのは中々変わらないってから大変だな。
「次は外にいる人達に声を掛けないとな。」
「そうだな。あの感じだと楓が解放されるまで続けるだらう。夜までされたら寝れなくて困る。声を聞かせてあげなさい。」
窓から大きな声で街の人達に声を掛ける。
七瀬先輩が見えた途端に静まり返った。
「私、もう大丈夫だよ!みんなありがとう!」
その言葉を聞いて歓喜の声が上がる。
一時はお祭り騒ぎになる始末。
「愛されているんだな、この街に。」
「うん。この街、好きだよ私。」
「愛理も同じ事を言っていた。」
「お母さんも?」
「この街に住む事を選んだのは愛理なんだ。俺はもっと発展した街の方が良いって言ったんだけど、どうしてもって三日三晩言われてな。遂には俺が折れてしまった。」
「お父さんもお母さんだけには勝てなかったんだ。」
「あはは!そうかもな。あの顔にはとても弱くて。」
街を見ながら家族で話をする後ろ姿。
これ以上は俺達がいる必要もないので、こっそり屋敷を出た。
最後にメイドから何度も頭を下げられたけれど、俺達は俺達の為に動いただけ。
また笑顔の七瀬先輩と学校で会えるように。
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