第120話 聞こえてくる声に耳を澄ませて
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起きると目の前から二人が消えていた。
慌てて携帯の時間を確かめて飛び上がるが、よくよくもう一度見ると全然問題ない時間だ。
何故、二人がいなくなったのかと思い、辺りを探し始める。
すると、ベランダの方で話をしている二人を見つけた。
声を掛けようかなとも思ったけれど、わざわざ二人で話していたという事は俺に聞かれたくない話なのかも知らない。
ここは大人しく室内で待っておく事にしよう。
「あー!おはよう!」
「まだ寝てても良かったのに。」
「偶々、目が覚めたんだ。それより朝食でも食べに行こうぜ。今日は忙しくなるからしっかり食べないといけないし。」
「賛成ー。昼ご飯食べられるかも分からないもんね。」
腹が減っては戦が出来ぬという先人達の教えがあるように空腹では動きや思考も鈍る。
今日のような一大事をそんな状況で挑む訳にはいかない。
昨日のように朝食を自分達で取って席に着く。
その後、挨拶をしてから手を付ける。
メニューはスクランブルエッグに厚切りベーコンとウィンナー、それに白ご飯、味噌汁。
朝食だから軽めにしてあるのだろうけど、これじゃ全く足りないので、とりあえずご飯のお代わりをしておく。
「よし、腹も満たした。行くか。」
「いよいよ直接対決って事だよね。上手く行くかな。」
「上手く行く必要はない。どんな形であれ、七瀬先輩が助けられたら。」
「それが第一目標だし。警察呼ばれなければやりようはいくらでもあるから。」
「お願いだから強引な解決だけはするなよ。」
「アタシをなんだと思ってるの。」
さて、これ以上の談笑は俺が不利になるだけなので、部屋に戻って準備をするか。
それぞれが準備を終わらせるとエントランスに集まった。
いつもなら何かダラダラと喋りながら向かうのだが、今日だけは無言だ。
それぞれに思うことがあって、近付いてくる試練に備えているのだろう。
俺達、恋愛支援部にはいつもと同じ七瀬先輩が必要だ。
それがお見合いをすることで消えてしまうなら、全力で止める。
ただそれだけのこと。
さぁ、屋敷も見えて来た事だし、気合いを入れて始めよう。
チャイムを一度鳴らす。
インターホン越しに俺達の姿を確認してから、メイドが中から現れる。
「何か御用ですか?こちらは忙しいのですけど。」
いきなり帰らせることはしないけれど、相手をするのは面倒だという顔をしている。
それもそのはず。
今から街を巻き込んだ一斉捜索が始まる。
俺達の相手なんかをしている暇はないのだろう。
「七瀬蓮也さんに合わせていただきたい。」
「何の冗談を?アポイントを取っていない者に合わせることは出来ませんし、そもそも忙しいとお伝えしたばかりですが。」
苛立ちが顔に現れている。
軽く軽蔑するような視線をこちらに送ってくるが、俺には痛くも痒くもない。
第三者の評価なんて気にしていられる程、余裕はこちらにもないからな。
閉めようとした扉を強引に掴んで離さない。
どれだけ力を入れようとそれ以上閉まることなかった。
「なんですか!警察を呼びますよ!」
「警察が来るなら歓迎ですね。」
「勝手な事をするな、メイドの分際で。入ってこい。話ぐらいなら聞いてやろう。」
意外にも七瀬蓮也自身が家の中に招き入れた。
最初から話を聞いていたなら、もっと早い段階で出れば良かったのに。
それにしても、警察を嫌ったのは俺の読み通りか。
もしもそのまま通報されていれば道連れの未来しか無かったな。
前と同じ場所に通されて座らされる。
俺達が協力でもすると思っているのか、余裕そうな態度だ。
少しだけ間を開けて俺から話出す。
「本日はお話があって来ました。」
「それは聞いている。で、娘の居場所が分かったのか?」
「いえ、全く。」
「何?では、何故ここへ来た。あのメイドも言っていたが、生憎今日は忙しくてね。構ってやれる時間は無いんだ。」
「七瀬楓さんのお見合いの話は今後一切受けないでいただきたい。」
七瀬蓮也の表情を伺った。
怒りか動揺か、もしくは呆れか。
しかし、そのどれにも当てはらない無関心な顔。
「赤の他人がそれを指図する筋合いがあるのか?それとも君は娘に惚れているのか?」
「後者は違うが、前者はそうだと思っております。」
「ほう、今後の参考までに理由は伺っておこう。」
「七瀬先輩は貴方の事業を発展させる為の導具ではないからです。」
「もっと七瀬先輩の話を聞いてあげてください。」
「そうか、娘の声をね。入って来い楓。」
まさか、ここで七瀬先輩が現れるとは。
俺達に時間を与えてくれると言ったのに、屋敷に乗り込んで来たのを見て焦って飛び出したのか。
どちらにせよ、ここで出て来たという事は自分の口からはっきりと拒絶すれば良い。
それで収まるはずだ。
「・・・。」
「これが答えだ。楓に自分の意志はない。親に敷かれたレールの上を正しく進む。それがこの子が望む道だ。」
「どうして!どうして何も言ってくれないんですか。」
「手が焼ける娘だ。話はこれで終わりで良いか?」
話が終われば俺達を追い出して、早急にお見合いを進めるつもりだろう。
ならば、意地でも残るつもりでいよう。
てか、そんな暗い顔しているのになんで助けを求めてくれないんですか七瀬先輩。
今目の前に俺達がいるじゃないですか。
少し声を出すだけで手を伸ばして助け出しますよ。
でも、それは今の七瀬先輩には出来ない。
父親の顔色を伺って萎縮してしまっている普通の子供だ。
「納得しようとは思うんです。・・・思うんですけど、やっぱり腑に落ちない。」
「そんな事を言うのは構わないが話し合うつもりはないぞ。」
「子供は親の操り人形じゃない。貴方の思ってる以上に、七瀬先輩は素晴らしい存在で強い心を持った人だ。」
風に乗って外から声が聞こえる。
夏の五月蝿い蝉の声すら掻き消す音。
それも一人、二人なんて話じゃない。
子供も大人も関係なく、行列を作った人々がこの屋敷に向かってくる。
声を聞いた先輩もそのお父さんも窓を覗いた。
「何が起こってる。一体、何が。」
「うっ、ううぅー。」
泣き崩れる七瀬先輩。
昨日集めた協力者よりも遥かに多い人の数。
「楓ちゃんを自由にー!」
「俺達はいつでも味方だからなー!」
「「楓お姉ちゃん負けないで!」」
いつまでも病まない応援の声。
これだけ街の人に愛されているという事だ。
「いつの間にこんな人が。それに全員楓の為に集まったのか。」
目に溜まった涙を拭く楓先輩。
いつもの頼りになる先輩の顔に戻った。
「お父さん、やっぱり私はお見合いはしません。」
「お前が反抗的な態度を取るのは何年振りだろうか。」
「お母さんが死んだあの時以来。その時を最後に私はお父さんの操り人形になった。でも、街に出れば私も一人の少女に戻れたのかも知れない。」
ここに来てからずっと母親の顔を見ていなかったと思ったが、既に亡くなられていたのか。
「これまでやって来た事は間違いじゃなかったはずだ。金も時間も全部お前の為に使って来たのに。」
「私の望んだ生活はそれじゃないよ。」
ようやく、複雑に絡まった糸が解け始めた。
しかし、そこに現れる邪魔者。
「残念だったね。僕とのお見合いは進めさせてもらうよ。」
河野厚人。
良い感じになって来てるんだから、邪魔をしないでくれよ。
まだ、もう一波乱ありそうだ。
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