第117話 恐怖に支配された街
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「お見合いの話はどこまで進んでいたんですか?」
「七瀬くんの話を聞く限り、知らない所でほとんど話は進められていたようだね。夏休みに帰る様に促されて帰ったら、無理矢理結婚させられそうになったらしい。」
「だから、夏休み初日から荷物もあまり持たず会いに来たんですか?」
「泣きながら電話があったんだ。彼女が泣きながら電話するなんてよっぽどだよ。一人にはさせられない。」
確かに今まで一緒にいる中で七瀬先輩が泣いているのを見た事がない。
それ程完璧で狼狽えることがない人間だと思っていたが、普通の生徒と変わらない一人だった様だ。
遠い存在に思えた人が意外にも近くにいて安心出来る。
問題は七瀬家の方だ。
あんな気持ちの悪い年上と結婚させられるなんて最悪としか言いようがない。
どうにかして助ける術を探さないと。
学生の内は糸井先輩の作戦の様に逃げていれば、先延ばしに出来る。
だが、結局は卒業と同時に捕まってしまうだろう。
解決するとしたら受験にも差し支えない夏休みの内にしないと。
「七瀬先輩はどこにいるんですか?糸井先輩が連れ出しているのかと思ったんですけど。」
「流石の僕でも犯罪は出来ないからね。一番安心な所に身を隠してもらっているよ。」
「なんでちょっと濁すんですか。教えてくださいよ。」
場所は誰にも教えないつもりか。
俺くらいには教えてくれたって良いだろ。
「彼女が誰にも言うなって言ってるんだ。気持ちは分かるが、七瀬くんの居場所は重要じゃないだはずだよ。」
「うーん、そう言われたら何も言えないですね。」
「で、どうするんですか糸井先輩。」
「力は貸しますけど、ウチらじゃ何をして良いかさっぱり。」
凛の言う通り、今後の展開は全く持って見えてこない。
あの頑固そうな七瀬先輩の父親を説得するのは不可能だ。
ならどうやって解決に導く。
正解はなんだ。
糸井先輩の口から答えが出るのを待った。
「僕もさっぱりだよ。頭がいつもより回らないんだ。」
「それってやっぱり好きな人のことだからですか。」
「そうなのかもね。人にはあれこれ言う癖に、いざ自分の番になったらこれだ。」
「いや、普通そんなもんですね。自分の事は分からないものですから。」
何となくお似合いの二人だと思っていたので、糸井先輩が七瀬先輩を好きなら全力で応援したい。
ただ、付き合うかの選択をするのは七瀬先輩だ。
どんな結果になったとしても気まずい思いをしなければ良い。
「好きになったキッカケとかは?」
一旦、今後どうするかは置いておき、糸井先輩の恋愛話に移る。
「キッカケは分からないな。気付いた時に好きなんだろうと思ったんだ。」
「一緒にいるうちに段々とって感じですね!」
凛が恋バナになってからテンション爆上がりだ。
華も興味が湧いているらしく、真剣に話を聞いている。
そんな俺も人の事言えないけど。
「僕は自分で恋愛をした事がないけど、他人の恋愛を沢山見てきた。そんな特殊な僕が彼女と付き合えるだろうか。」
「付き合えるかどうかは分からないですけど、自分と同じ相談者がいたらなんて言うんですか?」
「可能性はゼロの中では生まれない、一を作り出そうとした者に与えられる。かな?」
「じゃあ、さっさとこの件を終わらせて告白すべきですね。」
「それが良い!早く解決しないと!」
今回のポイントを軽くおさらいすると、進んでしまっているお見合いの破談、七瀬先輩の父親の説得、糸井先輩の恋路の応援だ。
最初の二つは家族間の問題でないから、非常に触れずらい部分ではある。
それを他人がどうやって解決するか。
「やっぱり直接話を付けるしかないんじゃ。」
「婚約破棄はどうにか出来ると思うんだ。何せ、あのお見合い相手には黒い噂があるからね。」
「何かはあると思ってたんですけど、既に見つけてたんですね。」
「後はどうやってそれを見せるかだよ。きっと多少の事はあの父親も知っているだろうからね。」
ここはかなり迷うな。
失敗は許されない。
どんな方法を使うにしても何かしらのデメリットがあるとしか思えない。
どこまで危険を取るか。
それによって話が大分変わってくる。
「あ、こう言うのはどうかな。街の人に協力してもらうの。それで、どれだけ街の人に愛されているかをアピールすれば、娘の成長を感じて父親の気持ちも変わるかも。」
情に訴えかける作戦か。
悪くはない作戦だ。
宿屋を出て、街へ向かう。
糸井先輩はやらなければならない事があるらしいので別行動だけど、作戦が決まったのなら速攻動くべきだよな。
それと出る瞬間は服装と髪型を変えると言う手間が掛かったけれど、あんな風に糸井先輩の部屋を特定したのだから仕方ない。
「さて、まずは街の人に声を掛けていこう。」
「そうだな。昨日行った所とかが良いかも。」
確かに和菓子屋のおばちゃんなら、協力してくれるかもしれない。
昨日の道を思い出しながら進むと意外と早く着いた。
「こんにちはー。」
「あら!また来てくれたの?嬉しいねー!」
元気良く俺達を出迎えてくれるおばちゃん。
買い物に来た訳じゃないことを伝えて、手短に要件を伝える。
おばちゃんも最初は比較的にこやかな笑顔で話を聞いていたが、最後は青ざめた顔でこちらを見ていた。
やっぱりこの街にとって七瀬蓮也に楯突く者は異常者として映るのか。
「絶対そんな事しないよ。あの人に逆らってこの街で生きていけれるはずないんだから。」
優しかったはずのおばちゃんも急に声色が変わった。
闇がどれだけ根深く張り巡らされているのか。
今の一瞬のやり取りだけで十分に伺える。
「でも、楓先輩がこのままだと。」
「・・・楓ちゃんがどれだけこの街の人々へ優しく接してくれたかは、痛い程良く理解しているよ。」
「なら!」
「帰ってちょうだい。話はこれで終わりなんだろ?」
これ以上は店の迷惑になると判断して引き下がる事に。
友好的に接してくれた和菓子屋のおばちゃんでさこの反応なら、他に誰が協力してくれるのか。
先が思いやられるがあった住民に手当たり次第頼み込もう。
「すみませーん。」
「話なら和菓子屋から聞いてるよ。あのババアお喋りだからな。帰ってくれ、要件がそれだけならな。」
次に立ち寄った酒屋は門前払いだ。
俺達が七瀬蓮也に逆らおうとしているのは、後数時間もしないうちに街全体へ広まるだろう。
酒屋の店主はそれ以上口を開かないと思っていたが、諦めて次の所へ行こうとした時に呼び止めて来た。
「こいつはただの一人言だから聞き流せよ。」
呼び止めておいて、聞き流せってことは今から重要な事を言う前触れに決まっている。
本当は七瀬蓮也を怖がりながらも、七瀬先輩の事を心配しているのかもな。
「俺は一切協力してやるつもりはないが、向かいにある駄菓子屋のババアなら協力してくれるだろうな。楓ちゃんが小せえー頃から世話焼いてたから、孫の様に可愛いんだろうよ。」
これは有力な情報だ。
まだ一人目かも知れないが、まずは一人目だ。
自分の事より七瀬先輩を思っている人がいるという事実が、何よりも暖かい。
希望が見えて来た俺達は、深く頭を下げてから急いで駄菓子屋を目指した。
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