第112話 いつ見ても花火は感動する
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ちょっとだけ思い空気が流れている。
この空気をどうやって変えようか、それだけを今は考えなければ。
翼と神崎はこの件に関して無関係だからな。
俺達の事情に巻き込まれて楽しめないってなっなら最悪だろう。
「よし、何か食べる物探すか!」
こう言う時は食べ物の話題を出すのが一番である。
先人達もきっとそうやって生きてきた。
甘い物ばかりは流石にきついので、次は塩味を欲している。
「誰か付いてくる奴いるか?」
「勿論、僕は付いて行くよー!」
真っ先に立ち上がったのは、翼だった。
だけど、他の三人は同行する気配がない。
翼みたいにすぐ切り替えることの出来るタイプじゃないか。
それが知っている人なら尚更だ。
「三人はそこで場所をキープしておいてくれ。後、何か食べたい物あるか?」
「なんでも大丈夫だよ、ありがとう。」
なら、俺のセンスで選んでくるか。
どれだけ食べるのかは分からないが、余ったら俺が食べれば良い。
「じゃあ、行こうっか陽太。」
「分かったから押すなよ。」
無理矢理背中を押されて人混みへと戻される。
どうしてそんな乱暴をするのか問いたい所だったが、翼自らが答えた。
「陽太の気遣いも嬉しいだろうけど、静かに考え込みたい時だってあるんだよ彼女達には。」
「それだと自分は違うみたいな言い方になるぞ。」.
「いやいや、僕にだって落ち込んだり、考え込んだりする時はあるさ。でも、今回は相手がそこまで関わりが深くないから他人事ってだけ。」
そう言う所は意外とドライなんだな。
もっと誰彼構わず友達みたいタイプかと思ってたけど。
まぁ、でも当たり前の話か。
俺が逆の立場ならあまり感情移入は出来ない。
それに今は夏祭りの最中、楽しまなければ損だ。
彼女達も徐々気持ちを切り替えられている事だろうから、何か夏祭りっぽい食べ物を探して持って行ってやろう。
屋台のコーナーへ戻り、色々と見て回る。
そして、俺の両手一杯になる程に買い込んだ。
これ以上は残してしまいそうなので戻ろう。
「ねぇ、陽太。」
翼が俺の服の袖を引っ張る。
なんだよこのタイミングで、重い物持ってるから早く帰りたいんだけどとは思いつつ振り返る。
「こんな二人っきりだとさ、カップルみたいだよね!ありがとう、僕の誘いを受けてくれて。」
「俺達がカップルなんかに見えるかよ。藍連の生徒に見られてたら俺が脅して付き合わせてるとしか思われねぇーよ。」
「アハハハ!そんな訳ないのにねー。そう思ってくれた方が僕と本当に付き合ってくれたりする?」
「他人の評価なんぞじゃ変わらねーよ俺は。」
「うん、知ってた。でも、いつか絶対に落としてみせるからね。」
その感情は偽物だ。
小さい頃の微かな思い出だけを頼りに抱いた感情。
だから、それを向けるのはやめて欲しい。
俺はたった十年程度の間に全く違う人間へと生まれ変わってしまったのだから。
「さぁ、みんな待ってるだろうから行こう行こう!」
人混みの中をスルスルと移動する翼を、俺は必至に追いかけた。
また、元の場所に戻る頃には完全に息が上がっている。
体力を全部使い果たした訳じゃなく、余計な神経まで使ったからだ。
もう二度とここから動きたくないという意味を込めて、座り込む。
なんであんなに人が多いのかと思えば、一時間もしない内に花火が打ち上がるからか。
ちょっと遠くの場所であるここもパンパンに人が詰まっている状態に。
既に場所取りを終えた俺達には関係ないけど、所々立ちっぱなしの人達を見ると可哀想だ。
「何買って来たか見せてー。」
凛が最初に近付いて来た。
それに続いて華や神崎も。
色々と物色しているが、俺と翼のチョイスどれを選ぶか気になる所だ。
「アタシはたこ焼きにしようかな。」
「じゃあ、私は焼きそばで。」
「うーん、めっちゃ悩むなー。でも、焼きとうもろこしに決めた!」
結果は二対一で俺の勝ち。
勝負の決め手は焼きとうもろこしだな。
やっぱり女子はカロリーとか気にして少しでもヘルシーなのを選ぶと思ったけど、大正解だった。
俺も余った奴を適当に手に取る。
そして、みんなでいただく。
疲れてる時って甘い物が良いって言う人もいるけど、やっぱりガツンとしょっぱいのを食べる方が個人的には良いと思う。
「美味しいな。」
「なんで、屋台の食べ物って外で食べると七割増しくらいで美味しく感じるんだろ。」
「その場のテンションが高くなるからじゃないか。」
「それも一理ある。」
頭の中で一瞬夏休み何するかの話題を振ろうと思ったが、やめておく事にした。
この質問をする事で先輩達の事を思い出させてもいけないからな。
会話に困ったタイミングで一つの明かりが空へと上がる。
それは細い細い光だけど、最後に目一杯の力で綺麗な花を咲かせた。
「うわー!綺麗だね!」
テンションが上がっている凛が最初に口を開いた。
「久しぶりに会場で見たな花火を。」
「アタシもだけど、やっぱり市販の奴とは違うね。」
ここからギアを上げ、次々に打ち上がっていく。
人々はそれを眺めて感動の声を漏らしたり、無言で携帯を取り出したりしている。
俺達も黙って終わるを見届けた。
花火が終わった後、あれ程いたはずの人々は一気に捌けて行く。
これ以上、屋台もやってないだろうから、この場に留まる理由もないので仕方ない。
「よし、俺らもそろそろ行くか。」
「そうだねー。」
荷物をみんなで片付けて、ゴミのチャックをしてから帰路に。
俺らだけが気をつけても、その辺には大量のゴミが散乱してしまっているが、これを拾うと朝になってしまう。
帰り道は今日の夏祭りの感想で会話が弾んだ。
久しぶりに行ってみたけど、案外楽しめる物だな。
値段が高いので、財布はかなり削られたけどそれも思い出の一つということで。
途中で各々解散という事に。
俺と神崎は同じ方向なので、帰り着くまで二人で歩いた。
「なんか、悪かったな。関係ないのに暗い空気にさせてしまって。」
「ううん、良いんだよ。私、ちょっと感動しちゃった。見ない間にどんどん成長しててさ。何か遠くに行った見たい。」
「俺も同じ事を神崎に思ってた時があった。ってか、今も思ってる。進む方向が違うから遠くいる様に思うだけだろ。お互い進んでる事に変わり無い。」
「ちょっと寂しくもあるんだよ。私としては昔みたいに隣を歩きたいからさ。」
「嘘でも嬉しい言葉だな。」
「嘘じゃ無いんだけどなー。」
神崎とは同じ方向を向いていない。
これは俺が目を背けているが為に起こっている事。
どうしても怖い。
向き合った先にあるのが、底知れぬ喪失感であるような気がして。
「じゃあ、頑張って来てね。」
この頑張って来てねは、先輩達の元に行く事についてだろう。
たかが部員かも知れないが、俺達は二人の事を慕っている。
だからこそ、彼等の口から何が起こっているのか説明してもらいたい。
そして、少しでも力になりたいと思うのだ。
「おう、頑張る。」
不器用な返事をして玄関を開けた。
少しだけ夏の夜が静かに感じる。
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