第111話 今度は俺達が
「げっ、アンタらかよ。」
奥の方から岡田が現れた。
人の顔を見るだけでそんな嫌そうな顔をするかね普通。
ましてや客だぞこっちは。
「んで、二人は上手くいってるのか?学校でもイチャイチャしてるみたいだけど。」
「それ嫌味?わざと言ってるよね。」
「ごめんね、みんな彼女口は悪いけど本当は良い子なんだよ。」
人の弱味に漬け込んで金撒き上げようとしてましたけど。
今は反省してるんだよな、多分。
少なくとも色んな男を引っ掛けるような真似はしてないと信じたい。
「それでね、今日は夏祭りだからそろそろ手伝いを終えて屋台とかを回る予定なんだ。」
「私の彼氏はアンタみたいな男じゃないから、ちゃんと私だけを見てくれるのよ。」
腕に抱きついてラブラブなのをアピールしてくる。
全然羨ましくないけど、俺が貶されたのは腹立つな。
いちいち、人を馬鹿にしないと気が済まないのか。
前の猫を被っていた時は胃がもたれるような甘ったるさがあったけど、それでも今よりはマシだ。
「本当に君達には感謝してて。」
「それ前に言ったんだから、何回も言わなくて良いのよ。」
「まぁ、それはそうだな。一回言われただけで順番伝わってるし。とりあえず、人数分のリンゴ飴を。」
「ありがとうございます!」
「あ!ウチ冷やしパインも食べたい!」
「じゃあ、アタシも。」
好き勝手に注文するからゴチャゴチャなり始めた。
最初の雑談タイムもあったからなのか、後ろに人だかりが出来始めている。
「注文は一回にまとめなさいよね。りんご飴四個と冷やしパイン二つ。お会計二千円。あ、ここで割り勘どうこう言うのも面倒だから誰かが代表で払って後で割り勘してよ。」
ごもっとも過ぎる意見だ。
この場は俺が支払う事にして後から徴収しよう。
道は混み合っていて食べ歩きなんて到底出来ない。
だから、屋台の並ぶ道から外れて休憩出来るスペースを探した。
案外見つけるまでには時間が掛からず、ようやく落ち着ける。
みんなで一斉に一口いただく。
「「美味しーい!」」
「この飴の部分もリンゴの味がする。」
「僕初めてリンゴ飴食べたけど、こんな美味しいんだね。」
俺も最後に食べたのは小学生くらいだったか。
りんご飴って普段から食べたいってなるような奴じゃないけど、夏祭りは絶対食べたくなるよな。
しかし、俺達は最大のミスを犯した。
余りにも早く買った物を食べた過ぎて休息地を探したが、一度座ってしまったので動きたく無くなってしまった。
目の前には止まる事のない人の波。
再度入るにはかなりの勇気が必要だろうな。
「君達、丁度良いところにいた。」
近寄って来たのは生徒会長と佐々木先輩。
こんなイベントに二人で来るということはあの後上手くいったのだろう。
それにしても、俺達を見て丁度良いとはどう言う事だ。
何か用事でもあったのか、それとも前回のお礼か?
「見ての通り、私達はお付き合いする関係に発展した。そのお礼をと思ってね。君達なら夏祭りというイベントを逃さないとだろうと考えたんだよ。」
「あ、あの、その節はお世話になりました。」
「俺らって訳じゃなくて、先輩達の活躍なんですけどね。」
「謙遜する必要はない。それに彼等にも感謝は伝える予定だ。・・・ただ。」
その後の言葉を出すのに躊躇いが見えた。
何か不安そうな顔だ。
生徒会長がどんな事を言おうとしているのか俺には分かる。
夏休みに入ってからずっと引っかかっていた事だからな。
「君達は、糸井と七瀬、どっちかでも見かけたか?」
やっぱりだ。
夏休みに電話を掛けた時、不在だったのは記憶に新しい。
不在なのは別に問題がないが、その後から一週間経った今でも音沙汰が全くないのが異様だと思う。
メッセージでも何でも反応を残すことは可能だからな。
「いや、見てません。俺も一応気にしてはいたんですけど、休暇期間に下手な詮索はしない方が良いかと思って。」
「彼らもその程度で起こるような奴らではないさ。そうか、君達なら分かると思ったんだけどな。」
「あの、糸井先輩なら私見ましたよ。」
「僕は七瀬先輩を見ましたよ。」
神崎と翼からの目撃証言。
まさか、ここの二人から出てくるとは思わなかった。
俺も気になっていたことではあるから、詳しく話を聞きたい所。
「まずは、糸井の目撃証言からだ。聞かせてもらえるか神崎。」
「はい、えっと確か夏休み一日目の十時くらいに体力作りの為にランニングをしてたんです。その後で寄った駅のコンビニで見かけたんです。」
コンビニ?それなら何ら不思議な事ではない。
誰だって利用するし、ヒントになりそうにも思えないけど。
「まだ、話の続きがあるんだろ?」
「えっと、キャリーケースを持ってたので、恐らく遠方にでも行っているのかと。」
「キャリーケース?」
駅でキャリーケースを持っていたなら、確実に新幹線に乗ったはずだ。
その付近での新幹線を携帯で調べる。
行き先を何個か絞れるかもしれないからな。
「大体は絞れてきた。よし、次は豊中。」
生徒会長は早くも何かを掴んだようだ。
俺はまだこのヒントだけでは何も掴めていない。
でも、これは恋愛支援部の問題でもある。
だから、生徒会長だけで解決させる訳にはいかない。
これが我が儘だってのは百も承知での結論だ。
「僕は終業式があった日の夜中だったかなー。一瞬だけ車がすれ違ったけど、多分あれは七瀬先輩だったと思うよ。」
「一瞬だけでよく分かったな。それとも、乗る瞬間を見かけたのか。」
「顔は一瞬だけしか見えなかったけど、車の種類がリムジンだったので。」
「繋がったな。邪魔をしたな、これ以上は私だけで動く。」
自分だけで納得してそのまま帰るつもりかよ。
確かに今は楽しい空気でいたいけど、それだけが理由で先輩達放っておくほどの人間じゃない。
「生徒会長さん、貴方彼女いますよね。」
俺は逃さないように肩を掴んで問いかける。
「それがどうした。君達のおかげで素敵な彼女がいるよ。」
「彼女との最初の夏休みに、彼氏が他の事優先するのはどうかと思いますけどね。」
その言葉にチラッと佐々木先輩を見る。
聞けば生徒会長は彼女が出来たのは佐々木先輩が初めて。
なら、この手の言葉を言われてしまうと弱いはずだ。
それに、彼等は三年生。
夏休みが過ぎてしまえば、勉強ばかりで本格的に一緒に遊べる時間も短くなるだろう。
「・・・はぁ。君は賢い誘導をするんだな。良いだろう、私の推測を話してやる。彼らは今、七瀬の実家にいると思うぞ。噂程度だが、彼女はお見合いをするように親族から迫られていたらしい。もしも、夏休みの間に連れて行かれたとすれば、間違いなく糸井が動いているだろうからな。」
「なるほど、七瀬先輩の実家は何処ですか。」
「それは教えられないな。」
俺は掴んでいた手を離して、頭を下げる。
どんなに無様だと思われても良い。
ここは俺が解決しないと。
「ウチからもお願いします。」
「アタシも見て見ぬふり出来ないです。」
華と凛も頭を下げる。
「本当に彼等は良い後輩を持ったな。詳細は後日必ずメールする。だから、今は夏休みを楽しめ。それが生徒会長命令だ。」
「ありがとうございます!」
去り際の後ろ姿を初めてカッコいいと思った。




