第110話 屋台は誘惑の連続
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夏祭りの会場に着くと案の定人で溢れ返っている。
ただでさえ、夜でも暑くなる今日この頃だと言うのに、これだけの人が密集していれば間違いなく熱中症で倒れる人がいるだろうな。
妹にはこまめに水分を取る事しつこく言っておかねば。
「あ!翔ー!」
妹と咲耶ちゃんは、翔を見るなり走って駆け寄って行く。
ここから先は三人の時間なので俺は大人しく離れることにしよう。
時計を見ると時刻は十六時四七分。
早く着いてしまった方だけど、待つのは慣れっ子なので問題ない。
途中で準備が切れたりしたら嫌なので、携帯を触る事が出来ないのは辛いけど、外にいる時の携帯の充電って気付けば無くなってるからな。
翼には悪いが先にどんな屋台があるかでも見ておくことしよう。
プラプラっと歩くと中には藍連祭の時にも有志で参加していた屋台もあった。
藍連祭とは違って今日は戦いに来ている顔だけど。
「あ、陽太くんだ!」
まさかのタイミングで出会ったのは凛。
ここにいると言う事は誰かと一緒に来てるのか。
「よう、一人か?」
「翼ちゃんに誘われたんだけど、ちょっとだけ早く来ちゃったから先に見て回ったの。」
「奇遇だな、俺も全く同じ状況だ。」
「あ、やっぱり陽太くんも一緒なんだね!嬉しいなー!」
俺と一緒で嬉しいなんて変わってるよ。
でも、そう言ってもらえるだけでありがたい。
前までは陰でコソコソと悪口を言われるだけあるの存在だったのに。
それと翼にも感謝しないとな。
思い出作りなんて今までして来なかった俺を連れ出してくれたのだから。
「そうだ凛、浴衣似合ってるな。結構、着付けするの大変だっただろ?」
「ありがとう!お母さんに手伝ってもらったんだー!」
「それは感謝しないとな。」
「おーい!お二人共!」
遠くの方から走ってくるのは、翼だった。
服装は至ってシンプルな私服。
浴衣を着てくるのだと思っていたが、これはこれで良い。
「私服、可愛いな。」
「それが聞いて欲しいんだよ。浴衣は買ったんだけど、誰も着付けが出来ないらしくてさ。もっと早めから準備しておけば良かった。でも、可愛いって言われたからセーフ。」
「浴衣はまた来年のお楽しみだな。」
「それって来年も一緒に来てくれるって事で良いのかな?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
来年も一緒になんてつもりは無かったけど、実際にそうなると嬉しい。
こうやって、貴重な外出の機会を与えてくれるからな。
翼は俺が何も答えていないのに、何度も膝でつついてくる。
心の中を読まれているみたいで恥ずかしくなってしまい、軽く払いのける。
「後、どれくらい呼んでるんだ?」
「うーん、それは来てからのお楽しみだけど、そろそろ揃い始めると思うよ。」
その感じだと少なくとも一人では無さそうだ。
この感じだと華は来そうだと予想している。
だけど、他の人は想像も付かないな。
「よ、よう。」
三番目に来たのは予想通り華。
ただ、驚いた事に私服では無く浴衣を着ていた。
髪もいつもと違って可愛くアレンジしてある。
華は恥ずかしそうにしているが、見ている俺も変に緊張してしまう。
「似合ってないなら、ハッキリそう言えよ。アタシだって柄にもないって分かってるから。」
「いやいや、めっちゃ似合ってるぞ。」
「そうだよ華ちゃん!やっぱり一緒に浴衣着たいって言って良かった。」
なるほど、凛からの提案だった訳か。
流石の華も凛からのお願いは断れないみたいだ。
華に抱きついて褒め合いを始めた凛。
あの空間に入り込む勇気はないので、大人しく腕組みをしながら見守る事に徹する。
「僕も混ぜてよ!」
ここで翼も参戦する。
最初の頃は翼が馴染めるか心配だったけど、持ち前のコミュニケーション能力の高さで完全に二人共仲良くなっていた。
あんな感じで振る舞う事が出来るのであれば、最初の数日も普通に俺と接して欲しかったな。
おかげで、男から鋭い視線を浴びる機会も多くなっただろ。
今だってそうだ。
夏祭りに来た男共は俺を見て、言いたい放題だ。
容姿に文句言うのは致し方ないが、性格のことまで言ってくるのはやめろよ。
何も知らないだろ俺のこと。
「お待たせ、思ってるより準備に時間掛かっちゃった。」
「よし、これで全員だね。」
「最後の一人は、神崎だったのか。」
神崎は私服姿か。
カジュアルな服装で、シンプルさが良い。
「やっぱりオシャレだな神崎。」
「陽太も似合ってるよその服。」
「はいはい、イチャイチャしないで行くよ。」
強引に背中を押されて屋台の方まで連れて行かれる。
イチャイチャとか大きな声で言うなよ。
神崎が恥ずかしくなってるだろ。
それに俺とそんなことして何が楽しいんだよ。
屋台には、人がギュウギュウに詰められていて歩くので精一杯だ。
もっと通路を広くしておけよと思うが、こればかりは一日でどうにかなる訳ないし仕方ないか。
「見てよ!あれあれ!射的あるよ!」
翼が射的を見つけて一直線に向かい出した。
こんなに人が多いのに、勝手な行動したら危ないだろと思いつつみんなで射的へ向かう。
「おっちゃん!これやりたい!」
「五百円ね!お嬢ちゃん可愛いから二発おまけしてあげる。」
五百円って冷静に考えば高いよな。
後ろに置いてあるディスプレイはほとんど手に入らないように設定しているはずなのに、良い商売だよ本当。
「えい!ほいっ!そいやー!」
三発中使って当たったのは一つもない。
これに関しては悪徳以前の問題だ。
それでも本人は楽しそうだから良いけど。
次の二発は当たったけど、やはり落ちる気配はない。
あれは中に水が入ってるタイプのペットボトルか。
落とさせるつもりはないのかよ。
てか、そもそもゲーム機狙ってもやらないだろ翼は。
「えー、陽太変わって!僕じゃ倒れそうにないよ。」
だからって俺も残りの二発だけではどうしようもない。
当たったとしても落ちないだろ。
頼まれたからにはやれる限りの事やって見るけどさ。
まずは受け取った銃を持ち、台に乗り上げて出来る限り近くで撃つ。
横目に見てくる小学生の視線が痛いけど関係ない。
見てろよ、小学生。
これが夏祭りの現実だ。
一発当たってクラクラと動く。
これで落ちないのは予想の範疇。
揺れてる間に素早くもう一発を当てる。
当てさえすれば問題ないので、多少狙いが定まらなくとも。
「おぉー!流石、僕の陽太!変な所で器用だよね。」
「お前のじゃないし、変な所は余計だ。」
これを見ていた店主はちょっと怒りながらも景品を渡す。
信憑性を持たせる為に一・二個くらいは高額景品を用意して置いたんだろう。
ただ残念な事に今のやり方を小学生が見ていた。
特殊なテクニックが必要じゃない分、誰でも再現可能だ。
小細工を怠った自分の甘さを恨むんだな。
きっと痛い出費になる。
「さてと、次何行こうかなぁ?」
「ウチ、食べて見たい!」
今度は凛の番だ。
指を示す方向には、りんご飴のコーナーがある。
屋台とかでは定番だけど、それ以外の場所ではあまり見かけないよな。
「あっ、恋愛支援部と豊中さん、神崎さんじゃないか。」
「あれ?今仲じゃねーか。何、バイト中?」
「彼女の家の手伝いだよ。もちろん、自分から率先してだけどね。」
まさかの人物の登場でちょっと会話が弾みそうだ。
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