第108話 薔薇姫の呪い
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アタシは今まで一人だった。
最初は何となく怖いという理由だけで、いじめられていた事から始まる。
無視だけならまだ耐えられたけど、次第にいじめは限度を超え始めてしまった。
だから、アタシも抵抗した。
それが暴力という一番いけない選択肢だったという事は、今でも後悔している。
人が寄りつかないのは当然の事だ。
暴力的な女として知れ渡ってしまったから。
なら、残された選択はその道の上で生きる事だけ。
浅い頭をフル回転させて出た結論がそれだった。
すると、気付けば後ろに人がいる。
どいつもこいつも世の中からはみ出してしまったような奴らばかりだけど、アタシが居場所を作れるならそれで良いと思った。
組織として歩みを進めることになると、アタシは薔薇姫と呼ばれるようになる。
姫なんてガラでもないし、死ぬほどやめてほしい通り名だ。
でも、みんなで騒いでる時間だけが孤独を埋められる。
だから、一生この時間が続いて欲しいと思えた。
しかし、その願いは叶わない。
中学二年の冬の事。
彼女は突然現れた。
鬼龍院と名乗る高校生の女。
誰も最初はコイツの話には耳を傾けなかった。
ただ、鬼龍院と会ってから一人、また一人と様子がおかしくなっていく。
完全にアタシ達のチームが崩壊するのは、一ヶ月掛からなかったと記憶している。
何故こうなったのか、メンバーの一人を捕まえて問いただす。
アタシはただ何が起こっているのか知りたかっただけなのに、仲間のみんなまで恐怖の目をアタシを見ていた。
ここも結局は居場所じゃなかったのかと思うと急にどうでも良くなってしまう。
立ち去る前に何故かを聞き出す。
この時の事は今でも覚えている。
一人のメンバーが震えながら言ったのだ。
アタシは、その言葉を聞いて我も忘れて暴れ回った。
金が欲しかっただって?
たったそれだけの為にアイツらは鬼龍院に付いたのか。
だから、アタシは一人を選んだ。
これは自分から選んだ選択。
全くもって後悔はない。
高校は知り合いの絶対に選びそうにない藍連高校を選んだ。
しかし、呪いというのは一生付き纏う。
入学式の時には既にアタシが薔薇姫だという噂が広まっていた。
それでも構わない。
アタシに居場所など最初から無かったのだから。
入学式が終わりすぐさま帰ろうとする。
この空間にいる事に耐えられそうにないから。
「ちょっと待ってよ。」
誰かが話し掛けて来た。
噂を聞き付けて興味本位で話しかけて来たのか。
いや、そもそも話し掛けて来たのは上級生だ。
それも三年生。
「君に僕の部活に入って欲しいんだ。」
何を言っているのか理解出来ない。
当然、この人もアタシがどんな奴か知っているはずだ。
それなのにわざわざ声を掛けてくるなんて。
それに部活なんて入るはずがないでしょ。
あんなのアタシには必要がないから。
バカバカしくて返事すらまともにせず、無言で通り過ぎていく。
何か後ろで話しながらついて来ているけど、ハッキリ言ってうざい。
どこまで来るつもりなんだと思った時だった。
後ろを振り返ると子供が道路へ飛び出しているのが見える。
「危ないッ!」
咄嗟に出来たのは大声を出す事だけ。
直進している車は子供の姿が見えていないようで、声を出した所で止まるはずがなかった。
ただ、見ている事だけしか出来ない。
でも、三年生の男は違った。
間に合うかどうかも分からない距離なのに道路へ飛び出している。
結局はどちらも無傷で済んだが、結果論に過ぎない。
他人の為にここまで命を掛けるのは一瞬の狂気を感じる。
同時にその狂気が羨ましく思えた。
どうしてここまで他人に命を尽くせるのか。
気になって気になって仕方ない。
「部活の話、入るよ。」
アタシは弱い。
前に一人で生きて行くと決めたのに。
また誰かと共に過ごす選択を取るのか。
こうなってしまった以上は、この選択が間違いでは無かったと言えるような未来が待っていると信じたい。
◇◆◇
「間違いじゃなかった。こんなにもアタシなんかを助けてくれる仲間が出来た。」
今、この場にいる人だけじゃない。
糸井先輩や七瀬先輩、ハイラ先生、まだまだ数えらない人に感謝している。
「別に貴方を恨んでいる訳じゃないけど邪魔になったんですよ。欲しい物が手に入らないから。」
「だから、邪魔して周りも傷付けるって?それで許せるはずないでしょ。」
「許して欲しいなんて一切思っていないですよ。ただ、力尽くで行かせてもらいますから。」
激しい攻防が始まった。
簡単には誰も踏み込めない領域の戦い。
結果が出るまで、声も息をする音すらも我慢する。
どちらも互角。
一歩も譲ることのない戦いだ。
気絶していた蛇龍門もメンバーも目を覚ましているが、この決着の行方を見守っている。
長い長い死闘の末、決着が付いたのは三十分後だった。
どちらも倒れて動けなくなっている。
しかし、決定的な差があるとするなら側による人がいるかどうか。
鬼龍院の周りには誰一人として人がいない。
それどころか逃げ出す者が殆ど。
あれだけの大所帯だった蛇龍門に残ったのは深澤と天竹ぐらいだ。
数はただのお飾りでしかなかったと思い知らされる。
一方では、華の周りには人が集まっている。
全身傷だらけの男に、溢れる涙を出す女、助っ人に来ただけのはずの二人だってそうだ。
孤独に呪われた薔薇姫だったはずなのに。
華と鬼龍院、どこで道を違えたのか。
「私は羨ましかったのかも知れない。自分では孤独だと言いながら、不思議と人を集めてしまう貴方の魅力が。」
「鬼龍院、ふざけんなよ!ウチはアンタを本気で尊敬してここまでついて来たんだよ!アンタは一人じゃないだろ!」
深澤が倒れ込んだ鬼龍院の胸ぐらを掴む。
鬼龍院の力があれば、簡単に抵抗出来るはずなのにそれをしない。
「ありがとう深澤さん。でも、私はそれに気付くのが遅くなってしまいました。そして、手元には何も。」
「あんだろ、まだ二つも。三人からまた始めようぜ。罪滅ぼしって訳じゃないけど、今度は違うことでもしてさ。」
肩を貸して鬼龍院を起き上がらせる天竹と深澤。
ふらつく足でこの場から立ち去って行く。
「良いのか追わなくて。彼等がまた襲ってくる可能性だってある。」
「そんなの分かってるけど、そん時はまたみんなが助けてくれるんでしょ?」
「当たり前だ。そうやって強くなるんだろ、俺らは。」
今は恵まれた環境にいる。
もしかしたらすぐに壊れてしまうかも知れないけれど。
それでも、人を信じて生きてみようと思う。
「あーあ、腹減ったな。」
「おい、本当に大丈夫なのかよ。」
「珍しいな真。心配でもしてんのか。」
「当たり前だろ。お前らこんなボコボコにされてよ。」
「なら、お願いがあるんだけど良いか?」
「なんだよ、俺に出来る事なら何でも。飯奢ってくれ。」
「ふざけんなって言いたいけど、行こうぜ!全然奢る!」
「おい、冗談だっての!」
「あーあ、陽太くんが冗談言うからですよ。ウチはしーらない。行こう、華ちゃん!」
「僕は、イタリアンを食べたい気分なんだけど。」
アタシは前へ進む。
そうする事で、薔薇姫として生きてきた古東華の呪いは消えて無くなるのだから。
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