第106話 一つだけの選択肢
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椅子に縛り付けるってマフィア映画でも中々無いシーンだよな。
それをまさか俺が体験することになるなんて。
でも、流石にロープの縛りがキツすぎるので、緩めていただきたい。
そして、ついでにここから解放してくれ。
「大丈夫か、凛。」
隣には凛も一緒に並べられている。
目立った傷も見当たらないので、恐らく抵抗すら出来ずに連れて来られたのだろう。
下手に抵抗して傷付くよりは何倍もマシだ。
「ウチは大丈夫。それよりこの状況は?」
「あら、お二人共ご機嫌よう。」
「随分、白々しい演技だな鬼龍院。」
「流石は文化祭で重要な役を演じたお方ですね。演技についてはお厳しい。」
嫌味にはもっと強い嫌味で返して来やがる。
表情や態度からも余裕そうなのが伝わってくるな。
ここから自分が思い描いたシナリオ通りに事が運ぶって顔だ。
どんな結末を考えているか知らないがその通りにする訳にはいかない。
「悔しそうな顔をしてますね。でも、残念ながら物語は急激に動き始めました。」
「どういう事だ。」
「薔薇姫をここへ呼び出しました。本当は貴方達を拷問でもして助けを呼ばせる作戦だったのですけど、貴方達を見て助けなんて呼びそうにも無かったので。」
大正解だな。
俺は死んでも口を割るつもりはない。
それは多分凛も同じ考えだ。
わざわざ手間を掛けて華を呼び出すよりは、直接呼んだ方が早い。
「華が来たら勝ち目はないけど、良いのか?」
「随分と可愛く吠えますね。私達の勢力がどれほどがご存じないなら、教えて差し上げますね。」
鬼龍院が指を鳴らす。
それと同時に倉庫のシャッターが上がる。
奥からゾロゾロと人の波が押し寄せて来た。
数にすれば百人もいないくらいかも知れないが、体感では何千もあるように見える。
「すごいな、ここまで集められるのは金か?それともカリスマ性か?」
「そのどちらもだと自負しております。」
「でも、こんなに雑魚そうなの何人集めたって意味ねーよ。」
「なんだとコラッ!」
「ぶっ潰すぞ!」
噛ませ犬にどれだけ噛みつかれようとも怖くないない。
他に強い奴ならいくらでも見てきたから。
「黙ってくださる、皆様。」
「しかし、お嬢。これだけ馬鹿にされたままでは。」
「黙ってくださる?」
二回目の警告で誰も言葉を発さなくなる。
よく出来た上下関係だ。
「確かに貴方の言う通りかも知れませんね。なので、貴方にチャンスを上げます。薔薇姫が来るまでの間拘束を解いてあげます。その間にこの子達を減らす事が出来れば、薔薇姫の負担も減るでしょうね。」
この子達って言うのに、深澤や天竹が含まれていないのであれば勝機はある。
凛がいなければ、逃げ出す選択肢もあったがそれも出来ない以上戦うだけだ。
「駄目だよ!この量は死んじゃう!」
「安心しろ、俺はタフなのが取り柄だからな。」
凛には心配を掛けるかも知れないが俺は行く。
俺にだって格好を付けたい時はあるんだ。
覚悟が決まったと同時に拘束は解かれる。
全身に血液が巡る感覚がはっきりと伝えて来た。
軽く準備運動をして、戦う気分に切り替えていく。
全員を殴り飛ばせるとは思ってないが、二、三人は最悪殴り飛ばす覚悟だ。
それが何の足しになるかは分からないが、ここで立ち向かわないより心が楽になる。
俺だけの自己満足かも知れないけど、それで良いよな。
「よし、いつでもどうぞ。」
掛け声と同時に傾れ込むヤンキー達。
連携もクソもあったもんじゃないな。
俺にとっては好都合だけど。
ここまで隠していた事があるけど解禁するか。
こんな時の為に習っていたのだから出し惜しみする必要はない。
「音無直伝・一本背負い!」
何も出来ないままの自分だと思うなかれ。
進化していくのが世の常だろ。
都合が合う日に放課後の十〜十五分程度の稽古を音無に付けてもらっている。
勿論それだけで形になるとは思っていないが、コイツらを倒すには十分だ。
俺が一人を投げ飛ばしたのを見て、少しだけ躊躇する雑魚達。
しかし、ここでつけあがるのは愚か。
「掛かってこい。」
「怯むな!大勢で行けば勝てやしねーよ!」
一人の男が指揮をとった。
一人が吠えれば、連鎖して吠え始める。
負け犬の遠吠えにも聞こえるが、一理あるのは確か。
一人一人丁寧に背負い投げしている猶予はないからな。
「止まれ!」
横槍を入れてくる天竹。
馬鹿野郎、こっちの戦いに入ってくるじゃねーよ。
「ヤンキーにズルいも何も無いよな!」
地面に落ちている鉄パイプ。
これを躊躇いもなく振りかざす事が出来れば、楽に立ち回れただろう。
しかし、そうもいかないよな。
手に握った鉄パイプで間合いを保つ。
そして、勢いを失った奴らを一人一人蹴り飛ばす。
絶対に大勢を相手にしてはならない。
そうなると勝ち目は無くなってしまうから。
「ちょっとだけはやるみたいだなー。」
「おいおい、嘘だろ。天竹が相手とか聞いてねぇーよ。」
「まぁ、深澤も苦戦してたし、納得は出来るか。」
「なるべく傷付けるなって指示があったからよ!じゃなきゃ圧勝だっての。」
勝手に喧嘩を始めるなよ。
てか、あれは手加減してたのか。
いや、悔しくてそう言っている可能性もある。
俺の実力が上がっているのは確かな事実だからな。
なんてのは今どうでも良くて。
油断させる為の罠だったのか?
相手は出会った中でも5本の指に入る程の実力者。
これで年下っていうのだから驚きだ。
「姉御は俺が貰って行くぞ。」
人を物みたいに言いやがって。
確かに華にどんな暗い過去があるのかなんて知らない。
てか、知りたいとも思わないけど。
だけど、苦しんでるんだよ。
なら、ここでお前らと立ち向かうしか選択肢はないよな。
「もう、華の居場所はそこじゃねーんだよ。」
「黙りやがれぇー!!!」
珍しく感情的になっている。
逆に俺は冷静だ。
相手の呼吸や心臓の音まで聞こえてしまう程に。
俺の長所は耳が良い事。
それはここでも発揮される。
どこへ向かって拳を出しているのか分かる。
目を瞑ると余計に感覚が研ぎ澄ませれていく。
避けれる、避けれるぞ。
「おい、そこまでしな。」
待ったを掛けたのは、話の中心人物である華。
どうやら、バイクに乗ってここまで駆け付けたらしい。
「馬鹿野郎、本当に来たら華が危険だろ。」
「関係ない。もう二人も危険な目に遭ってるんだから。助けるに決まってるでしょ。」
「なら、凛の方へ早く行ってやれ。」
頷いて凛の方へ走る。
鬼龍院のそれを邪魔しようとするが、俺が防いで見せた。
「天竹!ちゃんと抑えておきないよ!」
雑魚の俺に邪魔されたのがよっぽど気に食わなかったらしい。
それなら、もっと屈辱を味合わせてやるよ。
ピッタリと鬼龍院と背中合わせになる。
これで迂闊には攻撃して来ないはずだ。
俺が無理なら、華か凛に攻撃するべきだがそれも出来ない。
引き剥がしたくても、鬼龍院を半分盾にされては攻撃も難しいと思う。
卑怯な作戦だが、案外時間稼ぎは成功している。
後はどうやって反撃するか。
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