↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[隔週更新]「女みたい」と笑われた僕ですが、美少女VTuberとして配信したら毎日が楽しくなりました。  作者: 双葉アリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/18

7話 優しさを描いて

挿絵(By みてみん)


朝。


カーテンの隙間から差し込む柔らかな光で、僕はゆっくりと目を覚ました。


時計を見ると、午前八時を少し過ぎたところだった。


本来なら、とっくに制服へ着替えて家を出ている時間。


だけど今日は違う。


今日も学校は休む。


二日続けて学校を休むなんて、小学生の頃に風邪をひいて以来かもしれない。


ベッドの上でぼんやりと天井を見つめる。


昨日、お父さんとお母さんは学校へ行って先生たちと話し合ってくれた。


帰ってきた二人は「大丈夫だから」とだけ言って、それ以上は何も話さなかった。


きっと、僕が余計なことを考えないようにしてくれたんだと思う。


それでも――。


学校のことを考えると、胸の奥が少しだけ苦しくなった。


「おはよう、千尋」


机の上には、とても美味しそうなイギリス風の朝食が並んでいる。


焼きたてのトーストに、ベーコン、スクランブルエッグ。


サラダにスープまで添えられていて、いつもと変わらない朝の食卓だった。


「お姉ちゃんは?」


「まだ降りてきてないわ」


お母さんはトーストへバターを塗りながら、優しく微笑む。


「きっとお仕事が立て込んでいるんじゃないかしら?」


「そっか……」


昨日、「完成したら見せるね」と言っていた真由姉ちゃん。


もしかしたら今も、最後の仕上げをしているのかもしれない。


そう思うと、自然と胸が高鳴る。


どんな女の子になったんだろう。


雪をモチーフにした、僕だけのVTuber――。


想像するだけで、朝ご飯の味もよく分からなくなるくらい落ち着かなかった。


すると、お母さんがそんな僕を見て小さく笑う。


「ふふっ」


「そんなに気になるの?」


「えっ?」


「朝から何度も二階を見てるもの」


「うっ……」


図星だった。


思わず照れ笑いを浮かべると、お母さんはくすりと笑った。


「もう少し待ってあげなさい。」


「イラストレーターさんにも、最後の仕上げっていう大事なお仕事があるんだから」


「……うん」


そう返事をしながらも、僕の視線はもう一度だけ二階へ向いてしまった。


完成した「僕」に会えるまで、あと少しだ。


「でも……息抜きは必要ね」


そう言ってお母さんは立ち上がり、階段の方へ向かって声を掛ける。


「真由ー! 朝ごはんできたから休憩しなさーい!」


二階から返事はない。


「真由ー?」


もう一度呼ぶと、


「はーい!」


少し遅れて、慌てたような返事が聞こえてきた。


続いて、バタバタと部屋の中を動き回る音。


「あっ、もうこんな時間!?」


そんな声が聞こえてきて、お母さんは思わず苦笑する。


「やっぱり夢中になってたみたいね」


「……うん」


どうやら、本当に最後の仕上げをしていたみたいだ。


完成まであと少し。


そう思うだけで、胸の鼓動が少しだけ速くなった。


しばらくして、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。


トントントン――。


「おはよー!」


真由姉ちゃんは軽く伸びをしながら席へ着く。


髪は少しだけ跳ねたまま。


目の下にはうっすらと隈ができている。


それでも、その表情はどこか達成感に満ちていた。


「ごめーん! もう少しでキリのいいところだったから!」


そう言って席へ着くと、真由姉ちゃんはコップの水を一気に飲み干した。


その様子を見て、僕は思わず尋ねる。


「もしかして……」


真由姉ちゃんはにやりと笑う。


「ふふっ」


「それは朝ご飯を食べてからのお楽しみ♪」


「えぇー……」


思わず肩を落とすと、真由姉ちゃんはくすりと笑った。


「そんなに見たい?」


「……うん」


「即答だね」


真由姉ちゃんは楽しそうに笑いながら、トーストを一口かじる。


「昨日ね、気付いたら夜中を過ぎてたの。」


「えっ?」


「髪の流れを少し直して、目元を少し調整して……ってやってたら止まらなくなっちゃって。」


「それで一睡もしてないんだ。」


「うん。でも、全然苦じゃなかったよ。」


真由姉ちゃんは僕を見て優しく微笑む。


「だって、千尋の初めての姿だから。」


その言葉に胸が少し熱くなる。


「絶対に『かわいい』って思ってもらいたかったから。」


「……ありがとう。」


照れくさくて、それしか言えなかった。


朝食を食べ終えると、真由姉ちゃんは満足そうに手を合わせた。


「ごちそうさまでした!」


そう言って勢いよく立ち上がる。


「じゃあ、行こっか。」


「う、うん!」


朝食を食べ終えた僕たちは食器を片付け、2階へと続く階段を登る。


一歩進むたびに胸の鼓動が少しずつ速くなっていく。


お姉ちゃんの部屋の前へ立つと、自然と息を飲み込んだ。


「入るよ」


「どうぞー!」


扉を開けると、部屋の中は昨日と同じように静かだった。


モニターはまだ真っ暗なまま。


完成したイラストは、まだ僕には見えない。


そのことが、かえって期待を大きくしていく。


お姉ちゃんはデスクチェアへ腰を下ろすと、キーボードを軽く叩いた。


パソコンが静かに起動し、黒かった画面がゆっくりと明るくなる。


見慣れたデスクトップが表示されると、お姉ちゃんは僕の方を振り返った。


「準備はいい?」


その一言だけで心臓が大きく跳ねた。


「……うん。」


お姉ちゃんは僕の顔を見て、小さく頷く。


そして。


「それじゃあ――」


「世界で一番最初のお披露目。」


「見てみよっか。」


カチッ。


クリック音が静かな部屋に響く。


次の瞬間、モニターに一人の少女が映し出された――。


挿絵(By みてみん)見てみん表示領域


「……っ」


思わず息をのむ。


そこにいたのは、雪のように透き通った優しい雰囲気をまとった、一人の女の子。


ふんわりと揺れるラベンダー色の髪。


優しく微笑む紫色の瞳。


白を基調に、水色や淡い紫が重なり合った衣装には、雪の結晶がさりげなく散りばめられている。


胸元のリボンや腰の大きな飾りも派手すぎず、それでいて華やかで。


後ろへ流れる透明感のあるレースは、本当に雪が風に舞っているようだった。


どこを見ても、優しくて。


どこを見ても、可愛くて。


まるで絵本の中から飛び出してきた冬の妖精みたいだった。


「……かわいい」


気づけば、その一言が自然と口からこぼれていた。


「でしょ?」


真由お姉ちゃんは嬉しそうに笑う。


でも、僕はその声すら遠く感じるくらい、画面の中の女の子から目を離せなかった。


(この子が……僕?)


信じられなかった。


昨日まで、鏡を見るたびに自分のことが嫌になっていた僕が。


学校では「女みたい」と笑われていた僕が。


そんな僕が目指したいと思った”優しい女の子”が、そこにいた。


胸の奥がじんわりと熱くなる。


なんだろう、この気持ち。


嬉しい。


それだけじゃない。


安心する。


見ているだけで心が落ち着いていく。


まるで雪の日の朝みたいに、静かで、優しくて。


「……好き」


小さく呟く。


その一言に、真由お姉ちゃんは満足そうに微笑んだ。


「よかった。」


「千尋が最初に言ってくれた『優しそうで、見てると笑顔になれる子』っていうイメージ。」


「それを、そのまま形にしてみたんだ。」


僕は何度も何度も頷く。


「うん……。」


「本当に、僕が思ってた通り。」


「ううん……。」


首を横に振る。


「思ってた以上。」


「こんなに可愛くなるなんて思ってなかった。」


思わず画面へ近づき、細かな装飾まで見つめる。


雪の結晶。


淡い青のグラデーション。


柔らかなリボン。


一つひとつに、お姉ちゃんが込めてくれた想いが伝わってくる気がした。


「ありがとう……お姉ちゃん。」


その言葉に、真由お姉ちゃんは照れくさそうに笑った。


「どういたしまして」


「でもね」


お姉ちゃんは、モニターの中で微笑む少女を優しく見つめた。


「これで終わりじゃないよ」


「え?」


「今完成したのは、この子の姿だけ」


お姉ちゃんは満足そうに頷くと、保存ボタンを押した。


カチッ。


画面の隅に『保存しました』という小さな文字が表示される。


「これでイラストは完成!」


「お疲れさま、私!」


「おめでとう、お姉ちゃん!」


思わず拍手すると、お姉ちゃんは照れくさそうに笑った。


「ありがと」


「でも、まだ半分なんだよね」


「半分?」


「うん。イラストは、この子を動かすための設計図みたいなものだから」


お姉ちゃんは画面を指差す。


「この子が笑ったり、瞬きしたり、自然に動けるようになるには、次はお父さんに3Dモデルを作ってもらわないといけないの」


「じゃあ、ここからはお父さんの仕事なんだ」


「そういうこと」


そう言って、お姉ちゃんはUSBメモリをパソコンへ差し込んだ。


数秒後、コピーの進捗バーが100%になり、軽快な完了音が鳴る。


お姉ちゃんはUSBメモリを抜き取ると、大切そうに手のひらへ載せた。


「この中に、この子の始まりが全部入ってる」


その言葉を聞くと、胸の奥が熱くなった。


画面の中にいる女の子は、もうただのイラストではない。


僕たち家族が少しずつ形にしてきた、大切な夢だった。


ーー夕方。


ガチャッ。


玄関の扉が開く音が聞こえた。


「ただいま」


聞き慣れたお父さんの声だ。


「おかえりー!」


お姉ちゃんは、まるでこの瞬間を待っていたかのように部屋を飛び出した。


僕もその後を追い、階段を下りる。


リビングへ向かうと、お父さんはネクタイを緩めながら、鞄を置いているところだった。


「おかえり、お父さん」


「ああ。ただいま」


お姉ちゃんは背中に隠していた手を前へ出し、USBメモリを差し出した。


「はい、お父さん」


「イラスト、完成したよ」


お父さんはUSBメモリを受け取り、小さく笑った。


「ご苦労さま」


それから、お姉ちゃんの頭へ軽く手を置く。


「いい仕事をしたな」


「へへっ。でしょ?」


お姉ちゃんは少し照れくさそうに、それでも誇らしげに笑った。


お父さんは手の中のUSBメモリへ視線を落とす。


「じゃあ、次は俺の番だな」


その声には、仕事を引き継ぐ人としての確かな自信が込められていた。


「お父さん」


僕が呼び掛けると、お父さんはこちらを向く。


「この子……動くようになるの?」


「ああ」


お父さんは迷うことなく頷いた。


「笑わせて、瞬きをさせて、千尋と同じように動けるようにする」


「時間は少しかかるが、必ず完成させる」


「……うん!」


お父さんはUSBメモリを大切そうに胸ポケットへしまった。


次に画面の中の少女と会う時、彼女はもう1枚のイラストではない。


笑って、瞬きをして、僕の動きに応えてくれる。


そんな未来を想像するだけで、胸が高鳴った。


お姉ちゃんが生み出してくれた僕の新しい姿に、今度はお父さんが命を吹き込んでいく。


僕の新しい姿が、本当に命を持つまであと少し。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。