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[隔週更新]「女みたい」と笑われた僕ですが、美少女VTuberとして配信したら毎日が楽しくなりました。  作者: 双葉アリア


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17話 僕が決めていいこと

挿絵(By みてみん)


――2階・千尋の部屋


「どうして……」


僕はベッドの上で、布団を頭から被っていた。


ドアモニターに映っていたのは、大樹君。


僕を虐めて。


それだけじゃなく、お金まで要求してきた人。


昨日。


僕がVTuberを始めたことは、クラスLINEでも話題になっていた。


だったら――。


「もしかして……」


嫌な考えが頭をよぎる。


『そこで稼いだ金、全部俺たちに持ってこい』


あの時の言葉が、頭の中で蘇った。


「お金……取りに来たの……?」


昨日、僕が配信したことを知ったから。


白雪ゆのとして活動を始めたことを知ったから。


だから――。


本当に、お金を取りに来たんじゃ……。


「…………」


身体が震える。


まだ。


配信を始めてから、1日しか経っていないのに。


昨日はあんなに楽しかったのに。


「やだ……」


せっかく。


やっと見つけたのに。


僕が楽しいと思えるものを。


「取らないでよ……」


思わず、布団を強く握り締める。


その時――。


コンコン。


「ヒッ!!」


「千尋?」


「…………」


聞こえてきたのは、お姉ちゃんの声だった。


「大丈夫だよ」


一拍。


「私だけだから」


「…………本当に?」


「うん」


「……入ってもいい?」


「…………うん」


僕が答えると、ゆっくりとドアが開いた。


「…………」


お姉ちゃんが部屋の中へ入ってくる。


そして。


僕が布団から顔を出すのを待つように、ベッドの端へ静かに腰を下ろし、優しく抱き寄せる。


「大丈夫だから」


そう言って僕の頭を優しくなでる。


「…………」


「今、お母さんが対応してるから。私はしばらくここにいるよ」


「お母さんが?」


「うん」


その後、僕の部屋には長い静寂が訪れた。


その静寂を破ったのはお姉ちゃんだった。


「聞くまででもないかもしれないけどさ」


一拍。


「やっぱ大樹君に会うの怖い?」


「…………怖い」


僕は、お姉ちゃんの服をぎゅっと掴む。


「すごく……怖い」


「そっか」


「…………」


お姉ちゃんはそれ以上何も言わず、僕の頭を撫で続ける。


「やっぱり…………」


それだけ言って僕は言葉が出なくなる。


言葉に出したくない――。


せっかく少しずつ平穏な日々を取り戻していたのに、壊されたくない――。


そう思うと言葉がうまく出てこない。


「『やっぱり』どうしたの?」


そう言って僕を強く抱きしめる。


「大丈夫だよ」


一拍。


「ゆっくりでいいから言葉にしよう」


「…………」


ゆっくり。


言葉にする。


「昨日……」


「うん」


「楽しかったの……」


「配信?」


僕は小さく頷く。


「最初はすごく緊張したけど……」


「うん」


「みんな優しくて……」


「うん」


「僕の声も……かわいいって言ってくれて……」


「…………」


「また配信したいって思えたの」


昨日までなら。


こんなことを誰かに話すだけでも、少し恥ずかしかったかもしれない。


だけど今は。


それ以上に――。


怖かった。


「なのに……」


僕は、お姉ちゃんの服をさらに強く握る。


「今日、大樹君が来て……」


「うん」


「だから……やっぱり……」


また。


言葉が喉の奥で止まる。


「…………」


お姉ちゃんは急かさなかった。


ただ。


僕が続きを言えるまで、ずっと待ってくれていた。


「……お金」


ようやく。


声が出た。


「お金?」


「取りに来たんじゃないかって……」


「え?」


お姉ちゃんの手が止まる。


「昨日、僕がVTuberを始めたこと……クラスLINEで話題になっていた」


「……うん」


「だから、大樹君も知ったんだと思う」


「…………」


「前に言われたから……」


あの時の光景が。


また、頭の中に浮かんでくる。


『お前さ、そんなに女みてぇな顔してるんだから、VTuberでもやれよ』


そして――。


『そこで稼いだ金、全部俺たちに持ってこい』


「…………」


「千尋?」


「VTuberやって……」


声が震える。


「そこで稼いだお金、全部持ってこいって……言われたから……」


僕がそう言うとお姉ちゃんは布団をめくる。


お姉ちゃんは僕の顔を見ると、ゆっくりと微笑む。


「せっかくかわいいお洋服を着ているのにその顔はだいなしだよ」


そう言って優しく頭をなでる。


「それに千尋が稼いだお金は千尋のものだよ」


一拍。


「たとえ大樹君達が集金に来ても、お姉ちゃんが蹴散らすから!!」


「蹴散らしちゃダメだよ!?」


思わず。


いつものようにツッコんでしまった。


「…………」


「あっ」


お姉ちゃんが、少しだけ嬉しそうに笑う。


「やっといつもの千尋に戻った」


「……え?」


「さっきから全然ツッコんでくれなかったから」


「そんなところで判断してるの!?」


「うん!」


「即答!?」


「やっぱり千尋はこうじゃないとねー」


そう言いながら。


お姉ちゃんは、もう一度僕の頭を撫でる。


「…………」


なんだろう。


ほんの少しだけ。


さっきまで胸の奥を埋め尽くしていた怖さが、小さくなった気がした。


「でもね」


お姉ちゃんの声が、少しだけ真面目になる。


「本当に渡さなくていいんだからね」


「…………うん」


「千尋が配信して稼いだお金は、千尋のもの」


「うん」


「大樹君たちが何を言ってきても関係ない」


「…………」


「それに――」


お姉ちゃんは僕の目を真っ直ぐ見る。


「千尋がVTuberを続けたいなら、続けていいんだよ」


「…………!」


「誰かにやれって言われたからじゃなくて」


一拍。


「千尋がやりたいから、やるの」


「…………」


その言葉に。


昨日の配信が頭に浮かぶ。


ものすごい速さで流れていったコメント。


僕のことをかわいいと言ってくれた人たち。


『ゆきんこ』なんて名前まで決まって。


最後には。


また配信したいって。


僕自身が、そう思った。


「……僕」


「うん」


「続けたい」


今度は。


ちゃんと言葉にできた。


「VTuber……続けたい」


「うん!」


お姉ちゃんは嬉しそうに笑った。


「じゃあ続けよう!」


そう話していると――


「千尋ー入るわよー」


お母さんの声が響く。


「待って!」


お姉ちゃんが慌てて静止する。


「大丈夫よ! 追い返したわ」


「追い返したの!?」


お母さんがドアを開け、部屋の中へ入ってくる。


「正確には、向こうのお父様が連れて帰ったんだけどね」


「…………?」


僕は首を傾げる。


「お母さん」


「なに?」


「大樹君……何しに来たの?」


「謝罪よ」


「…………え?」


思わず聞き返した。


「謝罪……?」


「ええ。今回のことについて、直接謝りたいって」


「…………」


予想していなかった。


僕はてっきり――。


「お金……取りに来たんじゃなかったの?」


「違うわよ」


お母さんは即答する。


「そっか……」


その言葉を聞いた瞬間。


胸の奥にあったものが、ほんの少しだけ軽くなった。


少なくとも。


僕が昨日始めたばかりの大切なものを、奪いに来たわけじゃなかった。


「…………」


でも。


それなら――。


「大樹君……謝ってたの?」


僕がそう聞くと。


お母さんは、すぐには答えなかった。


「……お母さん?」


「そうね」


少し考えるように間を置いて。


お母さんは口を開いた。


「謝ろうとはしていたわ」


「……?」


なんだろう。


妙な言い方だった。


「正確には、謝りに来たというより――許してもらいに来た、という印象だったけどね」


「それってどういうこと?」


お姉ちゃんが立ち上がる。


「表面上だけってこと!?」


「私にはそうとしか思えなかったわ」


「なんなのあいつ!?」


お姉ちゃんは声を荒げる。


「まぁ、とにかく」


一拍。


「今日のことは、もう一度学校に伝えておいた方がいいわね」


「学校に?」


「ええ」


お母さんは頷く。


「大樹君のお父様も、学校から聞いていた内容と実際に起きていたことに差があったみたいだから」


「……差?」


「特に、お金のことね」


「…………」


「大樹君のお父様は、知らなかったみたい」


「えっ!?」


お姉ちゃんが声を上げる。


「なんで!? 学校は知ってるんでしょ!?」


「学校には伝わってるわ。ただ、かなり重大な話だから、保護者への詳しい説明は慎重に進めていたんでしょうね」


「…………」


「今日も、本来なら学校から詳しい説明を受けてから来るべきだったと思うわ」


お母さんは小さく息を吐く。


「少なくとも、突然家まで来るべきではなかったわね」


「…………」


その言葉に。


僕は無意識に、お姉ちゃんの服を握る。


「……また来る?」


思わず。


そんな言葉が口から出た。


「来させないわ」


お母さんは即答した。


「……え?」


「少なくとも、千尋の了承もなく突然ここへ来るようなことは、もうさせない」


「…………」


「学校にもそう伝えるわ」


お母さんは僕の前まで来ると、目線を合わせる。


「だから千尋」


「……うん」


「大樹君に会いたくないなら、会わなくていいのよ」


「…………」


「謝りに来たからって、会う義務なんてないんだから」


「でも……」


「でも?」


「謝りに来てくれたのに……会わないのって……」


どう考えても状況が悪化するだけに思えた。


そもそも大樹君達は、僕を虐める手段は選ばない。


それはあの日を振り返っても言える。


誰も見ていないところで――。


もっと陰湿に――。


僕が謝罪を受け入れなかったせいで、僕自身だけでなく家族にまで被害が及んだらと考えると――


嫌でも謝罪を受けるべきだと思った。


「……会う」


「え?」


「僕、大樹君に会うよ……」


お母さんの表情が変わった。


「千尋?」


「謝ってくれるなら……ちゃんと聞く」


「…………」


怖い。


本当は会いたくない。


顔を見るだけでも怖い。


だけど――。


「その方が……いいと思うから」


「どうして?」


「だって……」


僕は、お姉ちゃんの服を強く握る。


「会わなかったら……また何かされるかもしれない」


「…………え?」


「学校ではもうできないかもしれないけど……」


誰も見ていないところなら。


先生の知らないところなら。


学校の外なら。


「もっと分からないところで……何かされるかもしれないし……」


「千尋……」


「それに……」


言葉が震える。


「僕だけなら……まだいいけど……」


「よくないよ」


お姉ちゃんが即座に言った。


「千尋だけでもよくない」


「……うん」


分かってる。


分かってるけど。


「でも……お姉ちゃんとか、お母さんとか……お父さんに何かされたら……」


「…………」


「僕が謝罪を受けなかったからって……」


一拍。


「家族に何かされたら嫌だから……」


部屋が静まり返った。


お姉ちゃんも。


お母さんも。


何も言わなかった。


「だから……」


僕は俯く。


「謝ってくれるなら……」


怖くても。


嫌でも。


「ちゃんと聞いて……」


「…………」


「許した方が……いいんじゃないかなって……」


そう言った瞬間。


「千尋」


お母さんの声が響いた。


怒っているような声ではなかった。


だけど。


さっきまでより、ずっと強い声だった。


「それは、千尋が許したいんじゃないわ」


「……え?」


「怖いから許そうとしているだけよ」


「…………」


何も言えなかった。


「また虐められるかもしれない」


「家族に何かされるかもしれない」


「だから許した方が安全かもしれない」


お母さんは、僕が考えていたことを1つずつ言葉にしていく。


「それは許すんじゃない」


一拍。


「怖くて、許さざるを得ないと思ってるだけよ」


「…………」


「そんな状態で謝罪を受ける必要はないわ」


「でも……本当に何かされたら……」


「その時に千尋1人でどうにかする必要もない」


「……え?」


「私たちがいるでしょう?」


お母さんはそう言って。


僕とお姉ちゃんをまとめて抱き寄せた。


「学校だっている」


一拍。


「必要なら、他の大人にだって助けを求めるわ」


「…………」


「千尋が怖いからって、自分を守るために嫌な相手を許さなくてもいいの」


「お母さん……」


「それにね」


お母さんの声が、少しだけ柔らかくなる。


「千尋だけなら何をされてもいい、なんて考えるのも禁止」


「…………」


「そうそう!」


隣から、お姉ちゃんも声を上げる。


「千尋に何かするのも禁止!」


「禁止って……」


「禁止ったら禁止!」


「そんなルールあるの!?」


「今作った!」


「今!?」


「白石家家訓、第1条!」


お姉ちゃんが僕をぎゅっと抱きしめる。


「千尋を大切にすること!」


「僕限定なの!?」


思わずツッコむと。


お母さんが小さく笑った。


「第2条は家族全員を大切にすることにしましょうか」


「順番逆じゃない!?」


「いいのいいの!」


「よくないよ!!」


また。


僕の声が部屋に響く。


怖さが消えたわけじゃない。


大樹君に会えるようになったわけでもない。


明日から何も心配しなくていいわけでもない。


それでも――。


少なくとも。


怖いから許さなきゃいけない。


そう思わなくてもいいのかもしれない。


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