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[隔週更新]「女みたい」と笑われた僕ですが、美少女VTuberとして配信したら毎日が楽しくなりました。  作者: 双葉アリア


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11/17

11話 予算は気にしなくていい②

挿絵(By みてみん)


「それで、どのくらいの構成を考えてるんです?」


深瀬さんがお父さんに尋ねる。


「まだ決めてない。ただ――」


お父さんは少し考えてから答えた。


「余裕はかなり持たせたい」


「なるほど」


「あと、場合によっては自作することも視野に入れている」


「え!?」


思わず僕が声を上げる。


「お父さん?」


「なんだ?」


「今からパソコンを買いに行くんだよね?」


「そうだ」


「でも完成品は買わないの!?」


「ああ」


「???」


言っている意味が分からない。


そんな僕を見て、深瀬さんが笑った。


「パーツを買って組むんですよ」


「…………」


「パソコンを」


「パソコンって作れるの!?」


「誰でも簡単に作れますよ!」


一拍。


「ちなみに私のパソコンも自作ですねー」


「…………」


僕は深瀬さんを見る。


次にお父さんを見る。


最後にお姉ちゃんを見る。


「……もしかして、パソコンを作れない僕がおかしいの?」


「大丈夫だよ千尋!」


お姉ちゃんが僕の肩へ手を置く。


「私も作れないから!」


「よかった……!」


初めてお姉ちゃんが頼もしく見えた。


「いや、作れなくても普通だぞ」


「お父さんが言っても説得力ないよ!」


「そうか?」


「そうだよ!」


僕の中ではパソコンというものは、お店で完成したものを買ってくる家電だった。


それなのに。


目の前にいる2人は、まるで家具でも組み立てるような感覚で話している。


「でも、本当に簡単なんですよ」


深瀬さんが笑いながら言う。


「CPUを付けて、メモリを挿して、SSDを付けて、CPUクーラーを付けて、マザーボードをケースに固定して――」


「待ってください」


「はい?」


「もう分かりません」


「まだ半分も説明してないですよ?」


「聞かなきゃよかった!」


深瀬さんが笑う。


隣ではお父さんまで笑っていた。


「まあ、千尋が組むわけじゃないから気にしなくていい」


「お父さんが作るの?」


「ああ」


「作ったことあるの?」


「何台もある」


「…………」


知らなかった。


僕のお父さん。


どうやら僕が思っていた以上に、パソコンに詳しいらしい。


「それなら自作の方がいいかもしれませんね」


深瀬さんがお父さんへ視線を戻す。


「100万円くらいまで考えてるなら、完成品から探すより用途に合わせてパーツを選んだ方が無駄が少ないですし」


「ああ。俺もそのつもりだ」


「100万円の話が普通に進んでる……」


怖い。


ものすごく怖い。


さっきまで16万円で驚いていた自分が、なんだか可愛く思えてきた。


「じゃあ、そろそろ行くか」


お父さんがそう言って、深瀬さんから受け取った箱を持ち上げる。


「パソコンのお店?」


「ああ」


僕はその箱を見る。


結局。


これが何なのかは、まだ教えてもらっていない。


「……ちなみに、それいくらだったの?」


「ん?」


お父さんが箱を見る。


そして――。


「60万円」


「…………」


聞かなかったことにした。


ーー10分後


お父さんと僕たちは謎の箱を抱えてお店を後にした。


まだパソコンを買っていないのに既に76万円の大金を使用している事実に僕は何故か冷や汗がとまらない。


「お父さんそんなに使って大丈夫なの?」


お姉ちゃんが首を傾げる。


「またお母さんに怒られるよ?」


するとお父さんはにっこりと微笑む。


「千尋の為という大義名分であれば母さんも何も言わないさ」


......フラグにしか聞こえないよ!?


「千尋ー! 青だよー!」


「あ! 待ってー!」


僕は慌てて信号を渡る。


近くの牛丼屋さんのようなお店を横目に細い道を歩くとお父さんが立ち止まった。


「今日の一番の目的地だ」


そう言って階段を登り始める。


「ここがパソコン専門店......」


「私もお店があるのは知っていたけど入るのは初めてかも」


お姉ちゃんと並びながら階段を登り切ると目の前には初めて見る光景が広がっていた。


棚いっぱいに並ぶ、大小さまざまな箱。


パソコン本体も置いてあるけど、それ以上に何に使うのか分からない商品が多い。


「…………」


僕は近くにあった箱を見る。


そこには、何やら英語と数字がたくさん書かれていた。


「これなに?」


「グラフィックボードだな」


「ぐらふぃっくぼーど?」


また知らない言葉が出てきた。


「ゲームの映像を処理したり、3Dを動かしたりするための部品だ」


「これがパソコンの中に入ってるの?」


「ああ」


へぇー。


僕は何気なく値札を見る。


「…………」


そっと箱から離れた。


「どうしたの?」


お姉ちゃんが不思議そうに覗き込んでくる。


「これだけでお姉ちゃんのパソコンより高い……」


「え?」


お姉ちゃんも値札を見る。


「…………」


そして僕と同じように、そっと離れた。


「怖いね」


「怖い……」


僕たちが2人で怯えている一方、お父さんは楽しそうに棚を眺めている。


さっきまでとは明らかに目が違う。


「お父さん」


「なんだ?」


「なんか楽しそうだね……」


「久しぶりだからな」


「何が?」


「パソコンを買うのが真由以来3年振りだからな」


そう言って色々なパソコンを見始める。


決して大きい店舗ではないが、それなりにお客さんがいる。


その殆どが、いかにも強そうな人たちだった。


「うーん......」


僕でもわかるマウスやキーボードを眺めているとお父さんが何やら難しそうな表情を浮かべながらやってきた。


「???」


僕が首を傾げるとーー


「やはりあそこでこいつを買っといて正解だったようだな」


そう言って、お父さんは抱えていた謎の箱を見る。


「……それ?」


「ああ」


「結局なんなの?」


さっきからずっと気になっていた。


60万円。


それだけあれば、お姉ちゃんのパソコンが3台も買える。


そんなものが、この箱の中に入っている。


お父さんは箱を僕たちに見えるように少し傾けた。


「グラフィックボードだ」


「…………」


僕は少し前に見た棚へ視線を向ける。


そして、もう一度箱を見る。


「これが?」


「ああ」


「さっき見てたやつ?」


「同じ種類の部品だな」


「これが60万円!?」


知ってから改めて聞くと余計に恐ろしい。


「正確にはRTX 5090というグラフィックボードだ」


「ごーまるきゅーまる……」


「現行では最上位クラスだな」


「…………」


何も分からない。


分からないけど。


60万円という数字だけは分かる。


「でも、それならここで買えばよかったんじゃないの?」


僕が棚を指差す。


さっきから似たような箱はいくつも並んでいる。


「それがな」


お父さんが棚を見る。


「5090がない」


「ない?」


「ああ。在庫切れだ」


そう言われて改めて見ても、僕にはどれが5090なのか分からない。


「そんなに人気なの?」


お姉ちゃんが尋ねる。


「人気もあるし、元々高い上に入荷数も少ないんだろうな」


「へぇー」


「それに最近は生成AIの需要も凄いからな。高性能なグラフィックボードは値上がりするわ、品薄になるわで大変なことになってる」


お姉ちゃんは納得したように頷く。


「つまり、今買えてよかったってこと?」


「そういうことだ」


「でも60万円だよ?」


「そうだな」


「…………」


お姉ちゃんは何とも言えない表情で箱を見つめた。


「とりあえず足りないパーツやらモニターやら買って帰るぞ」


そう言って奥の売り場へと歩いていく。


「千尋には黒は似合わないからマザーボードとかは白を基調にしてーー」


「メモリは64GBもあれば十分だな......」


「CPUはどっちのメーカーにするか……」


……うん、さっぱり分からない。


僕は隣にいるお姉ちゃんを見る。


「お姉ちゃん」


「なに?」


「分かる?」


「全然」


「だよね」


「でも白いのは可愛いと思う」


「そこだけ!?」


僕たちがそんな会話をしている間にも、お父さんは次々と商品を見ていく。


「今回はゲーム配信もするからCPUは――」


「…………」


「SSDは最低でも4TB、できればゲーム用と録画用は分けて――」


「…………」


「電源は5090を載せるなら余裕を持たせて――」


「…………」


もうダメだ。


日本語を話しているはずなのに、何を言っているのか全然分からない。


「千尋」


「なに?」


「私たち、モニター見に行こっか」


「そうする……」


僕とお姉ちゃんは、専門用語を呟き続けるお父さんを置いてモニター売り場へ向かう。


こっちなら僕にも分かる。


画面だ。


大きさが違ったり、綺麗さが違ったりするだけ。


少なくともCPUとかメモリとかいう謎の部品よりは分かりやすい。


「お父さん、2枚欲しいって言ってたよね?」


「そうだねー」


「これとかどうかな?」


僕が指差したのは、白いモニターだった。


「お、可愛いじゃん」


「だよね!」


ようやく。


ようやく僕にも分かる買い物が始まった。


そう思って値札を見る。


「…………」


「どうしたの?」


「お姉ちゃん」


「ん?」


「モニターってこんなに高いの……?」


「…………」


お姉ちゃんも値札を見る。


「高いね」


「2枚買うんだよね?」


「……そうだね」


僕たちは顔を見合わせた。


どうやら。


僕に分かる売り場へ来ても、値段だけは分からないらしい。


ーー20分後


「ケースの色これでーー」


お父さんが店員さんを引き連れやってきた。


「......お父さん?」


「モニターそれがいいのか?」


「かわいいなーって思ってて......」


そう言うとーー


「じゃあそれも3台ばかし貰おうか」


「畏まりました」


「お父さん!?」


「なんだ?」


「3台!?」


「ああ」


「さっき最低でも2枚って言ってたよね!?」


「最低でも、だからな」


「そういう意味だったの!?」


お父さんは何事もなかったように頷く。


「配信用、ゲーム用、コメントや配信管理用。3枚あった方が便利だ」


「でも僕、今までノートパソコンの画面1つしか使ったことないよ!?」


「ならすぐ慣れる」


「そういう問題なの!?」


「千尋」


隣からお姉ちゃんが僕の肩を叩く。


「なに……?」


「3枚並べたら絶対かっこいいよ」


「お姉ちゃんまでそっち側に行かないで!」


「しかも白で揃うよ?」


「ちょっと嬉しいけど!」


危ない。


僕までお父さんの金銭感覚に飲み込まれるところだった。


「では、こちら3台ですね」


店員さんが慣れた手つきで何かを書き込んでいく。


「他に必要なものはございますか?」


「そうですね」


お父さんが少し考える。


嫌な予感がする。


「モニターアームも3台分お願いします」


「畏まりました」


「増えた!」


「モニターを買うなら必要だろ?」


「机に置けばいいじゃん!」


「邪魔になる」


「…………」


正論っぽい。


でも、何かがおかしい。


「あとは――」


「まだあるの!?」


僕の叫びを無視して、お父さんと店員さんの会話は続いていく。


もはや僕には。


今日いくら使っているのか計算する勇気すら残っていなかった。


しばらくして――


「60万円です」


「…………」


聞き覚えのある金額だった。


僕はゆっくりと顔を上げる。


「……今、なんて?」


「60万円になります」


店員さんが笑顔でもう一度教えてくれた。


聞き間違いじゃなかった。


「お父さん」


「なんだ?」


「さっきも60万円払ってなかった?」


「払ったな」


「また60万円なの!?」


「今回はパソコン本体とモニターなんかも入ってるからな」


「『今回は』ってなに!?」


お父さんは何事もなかったようにカードを取り出す。


「これで」


「かしこまりました」


「待って待って待って!」


僕は慌ててお父さんの腕を掴んだ。


「どうした?」


「どうしたじゃないよ! 60万円だよ!?」


「そうだな」


「さっきまで76万円だったんだよ!?」


「そうだな」


「足したら136万円だよ!?」


「計算できて偉いぞ」


「さっきまで数学で苦しんでいた僕でもできるよ!!」


隣でお姉ちゃんが吹き出した。


「千尋、数学できるようになったじゃん」


「こんな形で成長したくなかったよ!」


「まあ、落ち着け」


「136万円使った人に言われたくない!」


お父さんは僕の手をそっと外すと、そのままカードを店員さんへ渡した。


「一括で」


「かしこまりました」


「一括!?」


ピッ。


無情にも決済端末から音が鳴った。


「…………」


136万円。


今日だけで136万円。


しかも――。


僕は嫌なことに気づいてしまった。


「……お父さん」


「なんだ?」


「これで全部?」


「いや?」


「…………」


今日何度目か分からない。


僕は聞かなきゃよかったと心の底から後悔した。


「とりあえず今日は帰るぞ」


「……うん」


そうして、大量の荷物を抱えた僕たちは家へと帰った。


そして――。


「136万円!?」


リビングにお母さんの声が響き渡った。


「千尋のために必要だったんだ」


「別に金額のことを怒ってるんじゃないわよ!」


「?」


「なんで136万円も使う前に一言相談しないのよ!!」


「…………」


僕はお父さんを見る。


お父さんは静かに目を逸らした。


……やっぱりフラグだった。


その後。


お父さんが1時間のお説教コースになったのは、言うまでもない。


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