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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第七章 家族ハプニング
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004 そう、今日は春夢の誕生日

 ワゴン車に乗り込んだ雪野は、木崎家を出発した。

 その間、雪野は季流に疑問を投げかけた。

「そういえば春夢が今日は何の日か、俺にも聞いてきていたんですけど、あれなんだったんですかね? 俺、適当にスーパーの野菜が安くなる日だって答えちゃったんですけど……」

「へー、そうなんですか……」

 そこで花月も季流に聞いた。

「私も朝、聞かれましたよ。てっきり私はゴミ出しを、忘れている事を春夢ちゃんは伝えようとしていたのかと思いましたよ。でも違ったんですかね?」

「あはは、花月はそう答えましたか……」

 何やら春夢の言いたい事がまるで分かっているような口ぶりの季流に、雪野はこう聞いてみた。

「お兄さんは、さっき答えられなかったですけど、今日が何の日か分かっているんですか?」

「これでは春夢がかわいそうなのでじっくり考えてみてください、二人とも。今日は何の日でしょうか?」

「う~ん、今日は……」

「何の日なんでしょう」

 雪野と花月は考えた、じっくりと考えこんた。

そしてその答えはというと……

「あー、ダメだ。俺、スーパーの安売りの野菜しか思いつかない。とういうか気になるー」

「さすが、木崎家の主婦といったところですね」

 季流のそんな言葉に雪野は続けた。

「お兄さん帰りはショッピングセンターの中にあるスーパーに寄れますか?」

「あ、はい。そうですね。寄りましょう。私も少し用事があるのっで」

「ん? 何の用事があるんですか? まさかそこでも【変物】退治とかするつもりじゃ……」

「私が仕事大好きな人だと勘違いしていません? 雪野くん」

「え、そうじゃないんですか?」

「違いますよ……ちょっと買いたいものがあるので寄りたいだけです」

「そうなんですか?」

「そうですよ!」

「お兄さんが買いたいもの……それはそれで興味あるかも」

 そんな会話が続く中、花月はまだ考え込んでいるようだった。

「う~ん……」

雪野たちはしばらくして蓮や紀菜と合流した。

そこはいつも通り、かつて小学校の通学路のちょうど蓮たちと分かれる田んぼ道だった。

その近くには、空き家がありその周りを小規模に木々が覆っている。

 蓮たちはその木陰の下で待っていた。

「雪野、おはよう」

「今日も囮、よろしく頼むわね」

「う~ん、囮はちょっと……二人とも今日もよろしく」

「よろしくお願いします」

 花月も雪野に合わせて二人にあいさつを交わした。

「うん。花月ちゃん、よろしくね」

「今日も雪野くんを守ってあげてちょうだいね」

 その後、車に後ろの席に二人は乗り込み、雪野たちは中央の席に座った。

 そしてそれを見て、季流は車を走らせた。

 そしてしばらくしてのことだった。

「いったい何だったのでしょうね……」

 先ほどから季流に言われたことを守り、無言で考え込んでいた花月が言葉を漏らした。

「どうしたの、花月ちゃん? なんか悩み事?」

 蓮はそれを聞きもらさず、そう聞いた。

 花月は蓮たちに向けて、朝の出来事について話した。

「あ、実は今朝、春夢ちゃんに今日は何の日かと聞かれまして……いったい何の日なのかと、考えていました」

「そうそう、俺も季流お兄さんもそう聞かれて、答えられなくて……いや、お兄さんは何か知っているようなんだけど。考えても、考えてもスーパーの野菜に行きついて……」

「スーパーの野菜……? 何それ?」

 紀菜ちゃんが眉を寄せた。

「いや、これは、何でもないぞ」

 自分の主婦ぶりを彼らに披露していいものだろうかと一瞬考えた。

 まあ、ひどくどうでもいい事なのだが……

「今日は野菜が安売りなんですよね」

 花月にそう聞かれ雪野は言葉を返した。

「ああ。この日を逃すととってももったいないから絶対に後でいこうと決めているんだ」

「雪野まるでお母さんだね。家計を支えるお母さん」

「なんかしっくりくるなぁ自分でも。家事全般を日ごろからしているしね」

「雪野さんはすごいです。私にはできない事をたくさん出来ます!」

「お前が出来なさすぎな、だけなんだよ。お前ゴミ出しや力仕事しかできないからな」

「それは私がよく分かっています。雪野さんも私を褒めてくださいよ」

「それがすっごい難しい事だという事がお前は分かって言っているのか?」

「なんですかそれ! どういう意味ですか!」

 そこで蓮は面白そうに言った。

「それじゃあ、花月ちゃんはお父さん的なポジションだね~。縁の下の力持ち的な感じで」

「そうね。いつも雪野くんを守ろうと、彼を想っているところが花月ちゃんのいい所だと思うわよ。きっと彼もそれに支えられていると思うわ」

「そうそう、素直じゃないから言わないけどね」

 蓮と紀菜の言葉を聞き、花月は嬉しそうな顔になる。

「ありがとうございます。二人とも」

 そう言った後、花月は雪野の方を見た。

「雪野さん、これからも私は雪野さんを想い続けます。しっかり守りますね」

「思わなくてもいいし、守らなくてもいい!」

「またまた、雪野は照れ屋なんだから」

「蓮は黙れ!」

会話がはずんだところで、

「雪野くんや花月が、お母さん、お父さんなら私はおじいさんですかね~」

 季流はそう冗談めかして言った。

「いや、お兄さんはお兄さんとしか区分できなさそう……てか、自分でおじいさんとかいちゃいます?」

「私もお兄さまは、お兄さまだと思います」

「そうですか……これでも、けっこうあれなんですがね~」

「ん?」

「あれとはなんですか、お兄さん?」

 首を傾げる二人に季流はそれに答えず、さらっと話を変える。

「まあ、それは置いておいて……結局、春夢が何を言いたかったのか分かりましたか? 二人とも」

「いえ……全く」

「お兄さま、私も分かりません!」

 そんな二人に季流はやれやれといった感じで、ため息をついた。

「はあ、仕方ないですね。花月が知らないのは分かりますが。雪野くん、春夢の兄であるあなたがなぜ覚えていないんですか?」

 そんなこと言われ雪野は困った。

「そんなこと言ったって、分からないことは分かりませんよ。お兄さん、答え言っちゃってくださいよ」

「分かりました。言いますね。今日は……」

 季流はじれったく言葉を止めてから言い切った。

「春夢の誕生日です」

「え……そうなの?」

「はい。今日、四月二八日は春夢の誕生日ですよ。なぜ知らないんですか?」

「逆に言うとなぜあなたが覚えているんですか?」

「家族ですからね。それくらいは把握しておかなくてはどうしますか。ついでに雪野くんの誕生日は一月十四日、花月の誕生日は十月十三日、と二人の誕生日もしっかり覚えていますよ」

「お兄さんが家族思いだって事はよく分かりましたよ……」

「はい。そういうわけで今日は任務の帰りに春夢のプレゼントを買う事にしているんですよ」

「あー、だからショッピングセンターに寄るんですね」

「その通り。木崎家に帰ったらそく春夢の誕生会です。二人とも祝ってあげてくださいね」

「はーい」

「分かりました。お兄さま」

 それを聞いていた蓮は言う。

「なになに、誕生会するんですか、今日。それ俺たちも参加していいですか、季流さん?」

「いいですよ。人数は多いほど盛り上がりますから、蓮くんや紀菜さんもぜひ春夢を祝ってあげてください」

「はい。よろこんで」

「春夢ちゃんのプレゼントは何がいいかしら」

 そう言って思案しだす紀菜を見て蓮は聞いてきた。

「雪野の春夢ちゃんが欲しい物とかって分かる?」

「えっと、分かりません。全く」

「はあ、それでも兄ですか? 雪野くん」

「仕方ないでしょ、分からないんですから! お兄さんこそ、分かるんですか……? 春夢が欲しい物……」

「んー、いや、自分もそればかりは分かりませんね。普段家を空ける事が多いので、春夢をちゃんと見てやる事ができませんでした。でもかわいい物には興味があるんじゃないかと思いますよ。女の子ですから」

「さすがのお兄さんでもそこまでは分からないかぁー」

 雪野はそう言った後、ふと考えてしまった。

自分は彼女について何も把握などしていない事、何も分かる筈がない事について……

自分が春夢に向ける日ごろの態度について振り返って、悩ましくこう思ったのだ。

「あーでも、自分ってダメですね。お兄さんの方がよっぽど春夢のお兄さんぽいですよ。俺なんか、全然春夢の事分かってないですよ。その自信だけはいっぱいあります……」

〈あの日〉、春夢を日の中からすくいあげるのを戸惑った自分がいた。

 その事実があり、春夢を見るたびにその事実が突きつけられた。

 自分は春夢を見ようとはしていなかった。

 どうしても、心のどこかでわだかまりみたいなものが生まれてくる。

 もう過ぎたことなのに……

 春夢はそんなこと気にしていない様子なのに……

 いや、そんな事は知らないのに……

「私は花月の兄しかなれませんよ。雪野くんが春夢の兄でしょ。しっかりしなさい」

「だって……自分は今まで兄として春夢に何もしてやってないと思うんですよ。顔さえろくに合わせようとしない兄がいたらどうしますか? 普通なら嫌われるはずなのにあの子は自分に関わってくるんですよ」

「昔の事を気にしているんですか? あなたが春夢とうまく関われず、戸惑いがあるのは、あなたが春夢に火傷を負わせてしまったから、そうですか?」

「はい……」

「あなたはまたバカな事を考えて、春夢がそんなこと気にしているように思えますか? むしろ何もしていないあなたに懐いていますけど、それは分かっているんですか?」

「それは分かっていますよ。だからこそ心苦しいと言うか、対応に困ります……」

「雪野くん、春夢とちゃんと向き合いなさい! 今からでも間に合いますから、ちゃんと春夢を見るようにしてあげなさい!」

「でも……」

 弱気な雪野に季流は続ける。

「何かをするのに遅いことはありません。雪野くんが思っている気持ちは普段春夢にも伝わっていることもあるんですよ。だからちゃんとこれからは春夢の事を見てあげるんです。分かりましたか?」

「はい……できる限りは頑張ります」

「春夢はあなたの大事な妹であり家族です。それを忘れずに」

「はい」

 家族か……

雪野は最近不思議な感覚になっていた。

家族や友達というものがこれほど自分の近くで実感できる……幸せを感じる事に。

「あ……」

ふと雪野は、朝見た夢の影響か昔、季流とした約束を思い出す。

その約束とは生きる事だった。苦しんででも雪野は生きなくてはいけなかった。

 そんな中で自分は、幸せを感じてはいけないんだと思った事もあったし、生きている事が辛いと感じる事もあった。

毎日のように朝目覚めると人形がある事でそれを忘れる事はできなかった。

 最近ではそれが薄れていたと思う。

 任務によって、日々、季流や花月、蓮たちに振り回される事によって、生きている事が幸せと感じる事がある事に気づいた。

 雪野はしみじみと自分の周りの変化と自身の変化を感じていた。

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