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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第七章 家族ハプニング
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002 今日は何の日でしょうか?

 それは、休日の朝だった。

「今日は何の日でしょうか?」

 朝、唐突に春夢はそう聞いてきた。

 雪野はまだいつも通り布団の中でぐっすり寝ていたのだが、起こしに来た相手が花月ではないと分かると、このままでいるわけにはいかないと思った。

 だから、まだ開きそうにないまぶたを無理やり開けする。

 差し込んでくる光がまぶしかった。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 雪野お兄ちゃん!」

 そして、我が妹の顔をぼんやりととらえると、雪野はだるそうに言った。

「どうした? 春夢……お兄ちゃん、まだ眠たいから寝ていたいんだけど……」

 と、寝起きのテンションが低い雪野に対して、

「今日は何の日でしょうか?」

 と、元気よく、なんだかわくわくした様子で聞いてくる明るい春夢。

「えっと、今日は何の日? う~んっと……今日は……あ!」 

 雪野がひらめいた顔をすると、春夢はきらきらした面持ちでこう言う。

「分かった? 正解は?」

「今日は……スーパーの野菜が安くなる日だよ。春夢」

「え~違うよ」

「え、違ったけ? いや、チラシで土曜日だと……うん、やっぱりあっているよ。今日は野菜が安い日だ」

「そうじゃなくて……」

「ちょうど野菜使いきるころだから、買いだめしておこうっと。それと確かあれも……」

 なにやら雪野の家庭倹約ぶりが働いているようで、彼は一人ぶつぶつと今後の予定を呟いた。

「……」

 春夢はすっかり気落ちし、そのまま雪野の部屋を後にする。

「もう、いいよ……」

 そして、誰もない廊下でそっと言葉を漏らした。

「はぁ、お兄ちゃんもか……」


「今日は何の日でしょうか?」

 春夢は朝、起きて初めに、台所にいた花月にその言葉を言ってみていた。

 そして、帰ってきた答えはこうだった。

「うーんと、分からないなー。えっと……」

 花月はその場をきょろきょろと見渡し、ヒントになる物を探していた。

 そして、ある一点へと目が向く。

 それは、冷蔵庫に張り付けてあるゴミ出しの予定表だった。

「ゴミ出し……あ、ゴミ出しの日ですか?」

「へ……」

「そう言えばそうでしたね。危うく雪野さんに怒られるところでした」

「え、ちが……」

 違う、と言おうとしたのだが、花月は時計を見て慌てるように言った。

「あ、もうこんな時間。ぎりぎりですね。春夢ちゃん、ちょっと私はゴミ出しの方に行ってきますから、おるすばん頼みます」

「うん、分かったよ……」

 花月はゴミ袋を両手に掴みあげると、廊下の方へとせかせか移動する。

「それでは行ってきます」

 そう言って、花月は外へと出て行ってしまった。

 そして、その後、雪野の部屋に寄ったのだが、彼もやはり期待とは外れた言葉を返した。

「今日は春夢の誕生日なのに……」

 春夢は誰もいないところで、そう呟いた。

 そう、今日は春夢の誕生日で彼女はそれを誰かに祝ってほしくて朝、雪野たちに聞いてみたのだ。今日は何の日かと。

 しかし……誰にもそのことは気づかれず時間は経過していく。

「もう、どうしようか……」

 春夢は、自分で誕生日である事を伝えてしまおうか迷った。

 と、その時だった。

「ただいま」

 元から声がし、春夢はそこへ向かった。

 そこには着物を着ている季流の姿があった。

 そして、ゴミ出しに言っていた花月の姿もそこにはあった。

「ただいま、春夢ちゃん。おるすばんありがとう」

「うん。おかえり。二人とも」

 季流は春夢に聞いた。

「春夢、雪野くんはまだ寝ていますか?」

「う~ん。さっき雪野お兄ちゃんの所でお話ししていたんだけど、また寝ちゃったかな?」

「そうですか。ちょっと、呼んできてくれますか? 任務がありますと伝えてください」

「あ、うん」

「もし、起きなかったら、頬っぺたつねってでも、騒ぎ立ててでも起こしてきてください」

「はーい」

 春夢が雪野の部屋に行こうとすると、花月は後ろの方で言った。

「雪野さん、また逃げたりしないでしょうか? 念のため私も起こしに行きます」

「大丈夫だよ、花月お姉ちゃん。春夢一人で起こしてこられるよ」

「そうですか?」

「うん。大丈夫だから、花月お姉ちゃんは自分の用意をしてきて」

「はい、分かりました。それじゃあ、お願いしましょうか」

 季流はそこで言う。

「それがいいでしょうね。春夢が相手だと雪野くんも逆らえないと思うので」

「アハハ……」

 花月が半笑いをこぼす中、春夢は再び雪野の部屋へと訪れた。

 案の定、雪野は二度寝していて、

「雪野お兄ちゃん、起きて!」

「んん~?」

春夢は彼を起こした後、季流が家に来たことと任務があることを伝えた。

いやそうな顔をする雪野に、

「お兄ちゃん、逃げちゃだめだよ」

 彼女は雪野の腕をしっかりとりながら、雪野を立ち上がらせた。

「はいはい……逃げないよ、春夢。だからそんなに引っ付かなくても……」

「それはダメ! 春夢は季流お兄ちゃんに雪野お兄ちゃんが逃げないようにって、言われているんだからね」

「春夢は第二の花月かよ。お兄さんめ!」

雪野が着替えを終え、いつも通り人形を黒い袋に詰め腰ひもにかけたところで、春夢は彼を玄関へ誘導する。

 こうして玄関には季流、雪野、花月が集まった。

 そして二匹の姿も今、見えていた。

「ニャー、眠たいニャ」

「確かに眠たいですニャン」

「こんな朝早くに任務なんて珍しいニャ」

「そうですニャン。何かあったんですかニャン?」

 季流はそんな二匹の声を受け流し、言った。

「全員、集まりましたね」

「はい、お兄さま」

「準備オッケーですよ。いくの嫌だけど……そういえば、クロとシロは置いて行くのでいいんですよね?」

「はい。春夢が今日は家にいますので、二匹には春夢の見守りをしてもらいたいと思います」

「よかったニャー。これでまだ寝ていられるニャ……」

 そう言って、うとうとしだすクロがいた。

 それにシロはクロに話しかけた。

「クロ、寝てはいけませんニャン。起きますニャン」

「ニャー。分かったニャ、シロ……」

 寝ぼけまなこのクロがそこにいた。

「春夢、おるすばんちゃんとできますか?」

 季流がそう聞いた後、花月も心配した様子で言葉をかけた。

「外に一人で出たら危ないから出たらだめですよ」

 そして雪野も同様に春夢に伝えた。

「そうだぞ。あと、危ない人が来たら家に入れたらいけないからね。あと、昼ご飯は作っておいたからレンジでチンして食べてね」

 春夢はそこで雪野たちに向けて少し不満げにこう答えた。

「みんな春夢を子ども扱いしないでよー」

 そんな春夢の言葉を聞いて季流はこう言ってなだめた。

「はいはい、分かっていますよ。春夢はちゃんと一人でもお留守番できるいい子ですよね」

「うん!」

「でも、春夢はまだ、未成年なので家に一人にしておくのは私たちが心配なんです。だから、クロとシロと一緒にいてくれますか?」

「分かったよ。春夢ちゃんとお留守番しているから心配しないで」

「はい。分かりました」

「お兄さま、そろそろ行きますか?」

春夢はふと、自分が誕生日である音を思い出し、最後の期待を込めてまだそれを聞いていない季流に言ってみた。

「あ、あのね、季流お兄ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

「はい、なんでしょう? 春夢」

「今日は、何の日でしょうか……?」

 春夢はじっくり季流の目を見る。

「今日は何の日、ですか? あーえっと……」

 思い出して、季流お兄ちゃん。

 今日は春夢の誕生日だよ!

 季流はしばらく考えてからつぎの瞬間、言葉を吐いた。 

「さて、なんの日やら……」

「分からないの?」

「はい……あ、もうこんな時間ですね。すみません、春夢。今の話しはまた帰って来た時に。雪野くん、花月、任務に向かいます。急いでください」

 季流は腕時計を見るなり、そう言って雪野たちを急かした。

「クロとシロ、春夢のことは頼みましたよ」

「ニャー。任せとけー」

「任せてくださいニャン」

 こうして春夢は自分が今日、誕生日である事を言えないまま外へと出て行く雪野たちを玄関前から見送ったのだった。

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