015 小さな変化
それは雪野が夏川家分家、紅葉亭にきて、半年がたったころの話。
夏の季節だった。
その時、雪野の長い髪は肩ほどまでに切られていた。
「雪野さん、あなたに話しておかなければいけない事があるんです」
突然と花月は雪野に話しかけてきて、
「な、なんだ、花月?」
「雪野さん、私には昔、双子の姉がいたんです」
「……」
花月の口から辛いはずの月花の話が出た。
それに雪野は、どんな態度でいればいいか分からなかった。
今は、花月の言葉の続きを待った。
「実は月花はもう亡くなっているんです。私のせいで亡くなったんです」
「そ、そうなのか……」
「あまり、驚かれていませんね」
「あ、えっと……実はおじさんからお前に双子の姉がいたことは聞いていたんだ」
「そうだったんですか……全部聞いたんですか?」
「ああ……」
「あの日、死ぬのは私のはずでした。やっぱり私は月花の足手まといだった……」
花月からぼそりと漏れた言葉。
「花月……」
「また同じことが繰り返されないか怖いんです。私は雪野さんに出会いました。大切な人に出会いました。そんな大切な人がまた私の足手まといになったり、また私のせいで……亡くなったりすることがないか怖いです」
「……」
「そして……同時に思うんです。私は今、幸せです。しかし月花の代わりに生き残ってしまった自分が幸せになっていいのかと思うんです。こんなに幸せな自分がいることを思うとなんだか……罪悪感が芽生えてきて、うまく笑えないんです」
雪野はその時、思った。
花月も自分と同じなんだな。
自分は人を殺してしまった。
それは花月も同じで、そう思い込んでいる。
そしてこんな自分が、今の自分が幸せに生きていいのか悩んでいる。
全く、同じだった。
その後、何も言わない花月に雪野はこう言葉をかけた。
「えっと、その~。あんまり気に病むなよ。お前が悲しんでばかりだと月花も心配するだろう? だから、お前は笑っていればいいんだ」
「私、あまり笑えませんよ。どうしたらいいですか?」
あまりと言うか、かなり笑えていないけど……
「あーそうだな。なら、できるだけ笑うように努力すればいいよ」
「そうですか。雪野さんがそう言うなら、そうします」
ニッと、わざと笑いを浮かべる花月の笑いは少し頬が引きつっていた。
愛想笑いにしても、これはひどい。
「まあ、がんばれ……」
「なんですか? その顔は……やっぱり、うまく笑えていないんですね」
「う~ん、まぁな」
雪野が正直にそういうと、花月はしゅんと顔を下に向ける。
「ああ、もう! 落ち込まず、少しずつ笑えるようになろうよ。俺もなるべく心から笑うようにするからお互いに頑張ろう! もうそれでいいな!」
「雪野さん……はい!」
花月はそう返事して、にこっと嬉しそうな笑みを浮かべた。
雪野は思う。
ああ、ちゃんと笑えている。
「雪野さんが笑ってくれるように、私も笑えるようになりますね」
「うん。その調子でな」
「ん?」
その後、雪野は草路の部屋に出向いてたまたま草路と話している季流と会った。
「あ、お兄さん、任務から帰っていたんですね」
「はい。雪野くんはどうしてここに?」
そう聞かれて、雪野は答えた。
「えっと、それは……花月からさっき月花の事について明かされました。そのことをおじさんに伝えようと思って」
雪野の言葉に驚いた様子で草路は目を丸くしていた。
「え、花月が自分から月花の話をしたの? それは本当かい?」
「ええ、まあ。花月はどうしてその話してくれたんでしょう?」
そう聞くと季流はこう答えた。
「それは、もうすぐ月花の命日ですから、花月はその日が来る事を気にしているのかもしれませんね」
それに続いて、草路も言った。
「それか雪野くんが来た事で、少しだけ花月自身にも変化が見えてきたのかもしれないね」
すると季流は少しだけ、微笑を浮かべて雪野に向けて言った。
「そうですね。雪野くんが来てから、花月は変わりましたよ。よく表情を動かすようになりましたし、言葉も喋るようになりました。これも雪野くんのおかげです」
「え、そんな……自分は何もしていませんよ」
「雪野くんの存在自体が花月の励みになっていると思いますよ。雪野くんと花月は境遇が似ている」
「はい。それは、なんとなく分かります」
雪野は花月の事を思い出すようにして、次にこう言葉を紡いだ。
「僕のほうこそ彼女に励まされましたよ。花月の突拍子のない行動とかに振り回されて、なんだかいつの間にか気持ちも晴れていたりして、そして何より彼女も自分と同じ悩みを抱えていることを知って、自分も暗闇に負けていられないなぁと思いました」
「そうですか。それはお互いにいい傾向ですね。花月は心に深い傷を残しながらも今笑っている。幸せに暮らせている。私はそれがよかったです。ありがとうございます、雪野くん」
「いえいえ」
雪野は照れくさそうに笑った。




