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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第六章 花月と月花
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013 足手まといの私は

数日たってすぐ夏休みに入り、父の代わりに迎えに来た母、紫に連れられ久しぶりに富山にある夏川家、紅葉亭へと戻って来た。

「やあ、月花、花月、おかえり~」

 帰って早々、家の前に立って出迎えてくれたのは父の草路だった。

彼は二人の姿を見るなり玄関から駆け出して、二人を抱きしめた。

「ただいま、父さん! 元気にしていた? 寂しくなかった?」

「お父さま、ただいま戻りました」

「うん。元気だったよ。とって~も寂しかったけどね~」

「そうなんだ。私たちは元気にやってたよ」

「はい」

 月花の言葉に合わせて、頷いた。

「それはよかったよ。二人とも友達にいじめられたりしていないか、心配だったんだよ」

「それはないよー。どっちかというと私がみんなをいじめ倒す側だしねー」

 月花は冗談めかして、そう笑う。

 そして、

「で、心配なのが花月のほうだよ。人見知りでおとなしいからさ、誰か悪口言われても返せないと思うんだよね」

「そうだね。実際にそういうことはあったのかい?」

「あ……えっと……」

 花月は言いよどみ、月花へと目線を合わせる。

 華憐との出来事の事は言わないでほしかった。

 困惑した花月の表情を読み取ってか、月花はこう言ってくれた。

「なかったよ。でも、もしそんなことがあれば私が花月を守ってあげるから大丈夫だよ」

「そうか。それはたのもしいね」

「うん。花月の心配なら私に任せておいて」

 そう月花が言った時、母が言った。

「月花、それはいいことかもしれないけど、あんまり花月を甘やかさないようにもしなさい。花月は怪力のせいで、一人でできないことも多いけど一人でできることぐらいはさせないと、花月のためになりませんからね」

「はーい。分かっているよ、母さん」

「花月も月花に頼りっきりになるのはおよしなさいね」

「はい。お母さま……」

 母にも言われるように、私は月花に頼りっぱなしなのだろうか。

 花月はこれではだめだと思った。

「もう紫ったら、二人が帰ってきて早々そんなこと言うんだから」

「なんか文句でもあるかい?」

「いえ、ありません」

 父は母に睨まれた事でそう答えた。

 家の中に入ると、祖母と祖父が出迎えてくれた。

「久しぶりだね。月花、花月や。元気にしてかい?」

「うん、おばあちゃん、私も花月も元気にしていたよ!」

「わしのかわいい孫たちやおじいちゃんの事覚えているか?」

「うん、当たり前に覚えているよ!」

「おじいさま、おばあさま、久しぶりです」

「うん。さあ、二人とも中へお入り」

「はいったぁー、はいったぁー」

 こうして、花月たちは自分たちの部屋に入り、荷物の整理をまずした。

 そして着替えについて考え込んでいた。

 学園ではシャツとスカートを着こんでいて、動きやすい格好をしていた。

 夏川家にいる時は基本和服で、花月は月花が和服を着たのを見てから自分も和服を着こみ始めた。

久しぶりの着物は少し体が窮屈に感じられた。

「やっぱり、着物は動きづらいね。ね、花月」

「うん。そうだね。月花」

「私はやっぱり着物じゃなくいつもの服にしよっと! 花月はどうする?」

そう聞かれて、

「私も……あっ、いや……」

 いつもは迷わず月花の真似をするのだが、今はそうすることはあえてしない方がいいと思った。

 なぜなら、私は月花に依存し過ぎているから、それは自分でも分かっている。

 クラスメートにも、母にも言われたことから分かっている。

 だから、こう月花に返した。

「私はこのままで……着物のままがいいや」

「そう……?」

 月花は怪訝そうな表情で見てくる。

「うん」

「そうか……」

 月花は考えるように眉をよせてからいった。

「花月、この後、どうする?」

「えっと、どうしようか?」

 ここで花月は思った。

 月花にどうするか聞かれて、その問いを自分で答えず月花の行動に私は合わせようとしている。

 これではいつもと同じだ。

「私はこの後、久しぶりに外の森を探索したいなぁと思っているんだけどどう? 花月も一緒に行こうよー」

「えっと、私は……」

 ここで月花と同じ行動を取ってはいけない気がした。

「勉強をしたいな。夏休みの宿題いっぱい出ているから、少しでも早く終わらせておきたい」

 それを聞いた月花はしばらく花月をまじまじと眺めた後、

「花月はまじめさんだね~。えらい、えらい!」

 こう言ってきた。

「そんなことはないよ。私は人より勉強できない分ここでがんばらないとおいてかれてしまうから……」

「そんなことないでしょ。花月は普通に勉強できる方だと思うよ」

「月花はもっと勉強できるでしょ?」

「私は私で花月は花月でしょ。そんな気にすることないって」

 そう言われても……

「……気にしてしまう事はしかたなくやっぱり気にしてしまうものです……」

 月花はアハハと、苦笑いを浮かべた後こう言ってきた。

「やっぱり、私も花月と一緒に勉強をするよ」

「え、なんで? 遊びたかったんじゃなかったの、月花は?」

「だって、花月がいないと楽しさが激減するから、それに分からないところとか一緒にやっていけば効率も上がると思うから一緒にやった方がいいんじゃない?」

「そ、そうだね……」

「じゃあ、決まりだね。一緒に夏休みの宿題終わらせるぞー」

 月花は花月の腕を取って上にあげてこう言った。

「おー」

 こうしてこの後、月花と一緒に自分たちの部屋で勉強をすることになった。

 断れなかった……

 そう思いながら、勉強をしていく。

花月は今やっている算数の問題の文章問題に苦戦していた。

 問題を解くと同時に月花の事とか、華憐に言われたこととかを考えたりしていたのだが、それらは一端難しい問題の前では打ち消されてしまった。

 いつのまにか、勉強に集中してしまっている自分がいた。

 こうでもないああでもないと首を傾げながら、鉛筆を走らせてはなんども消しゴムで文字を消す作業を繰り返している花月の姿を見かねて、月花は尋ねてくる。

「花月、分からないところあった?」

「うん……」

「ここはね。こうやって公式を立てていけばいいんだよ」

「ああ、なるほど!」

 月花の説明で問題はさらりと解けた。

 自分で解けなかったもやもや感と多少は教えてもらってその後自分で解けたスッキリ感が同時に生まれた。

 そして、その後でハッと気づく。

 また、月花の力を借りてしまったと。

 それではだめだと、自分が月花の足手まといだという事をまた思い出した。

 そしてがっかりして、花月は下を向いた。

 と、その時だった。

「二人とも、帰って早々勉強とはいい心がけですね」

 そこには兄、季流が立っていた。

「兄さん!」

「お兄さま!」

 二人は同時に振り向き声をはもらせた。

 さすが双子である。

 時刻は五時頃だった。

「兄さん、お仕事から帰ったの?」

「はい。ちょっとの間だけよることにしました。あなたたちが帰ってくることを父さんから聞いていたので」

「それなら、一緒に遊んでよ。久しぶりにさ」

「遊ぶ? 今からですか?」

「うん。勉強の気晴らしに森で鬼ごっこしようよ」

「それはダメです。せめて家の中でかくれんぼはどうでしょ?」

「うーん」

「森での鬼ごっこは明日やってあげますから」

「まあ、それでもいいかー。ねぇ、花月。花月は何したい?」

「私は、今は遊びたくはないです。まだ勉強していたい……」

 本当は久しぶりに会った、お兄さまと一緒に遊びたかった。

 どんな遊びでもいいから月花が提案した遊びを私たちはするということ、そんないつも通りの流れで進んでいくことが望ましかった。

 でも、その時、花月はやはり気にしていた。

 自分は月花のいう事だけを聞いていてはダメだと思っていた。

「花月……」

「そうですか……」

 月花も季流がどこかがっかりした様子で呟いた。

 それに花月はなんだか二人に悪い事をした気になって謝った。

「ごめんなさい……」

「いえ、勉強熱心なのはいい事ですよ」

「そうだね。お姉ちゃんも勉強頑張ろっと!」

 そういう月花。

 これでは逆に気を使わせてしまっている。

 一瞬、勉強の事は取り消して、遊ぶことを優先しようと思ったが、

「それでは、私は失礼します」

 今さら、言うのも遅かった。

 こうして、花月は夕食の時まで勉強を月花と続けた。

 夜の事、月花は兄に言う。

「兄さん、一緒に寝よう。昔みたいにさ」

「それはちょっと……育ち盛りの妹と一緒に眠ることはできませんよ~」

「そんなこと言いながら、兄さんは何かはぐらかして言るでしょ。その何かは分からないけど……」

「さて、なんのことかな?」

「兄さんが一緒に寝てくれないなら、父さんと母さんと一緒に寝るからね」

「そうしなさい。私は二人が眠るころまで絵本でも読んであげますから、それで我慢してください」

「もう、分かったよ」

「花月、おいでー」

「えっと、月花……私は……」

 勉強をまたしようかと考えた。

 それしか、月花との距離をとる口実が浮かばない。

 花月が言いよどむと月花は口を開いた。

「また、勉強できないこと気にして宿題しだすのはなしね、花月」

「え、なんで分かったの?」

「それは分かるでしょ。私は花月のお姉ちゃんだから花月の考えていることはあらかた分かるのだよ。それに双子だしね。というか、花月は分かりやすいよ」

「えっ、分かりやすいの?」

 花月は月花を見た後、季流の方を見る。

「まあ、そうですね。普段は分かりにくいけど、ある意味で分かりやすいですね」

「むむむ? どういう意味ですか、それは?」

「とにかく、私は花月の気持ちに気づいてあげられることだけは確かだから、困ったときは言ってね。花月」

「う、うん……」

「それでは、読み聞かせしましょうか」

 そう言って立ち上がり、季流はいったん出てある一冊の本を持ってくる。

「今日のお話はなに? 兄さん」

「不思議の国のアリスです。二人とも好きでしたよね」

「やったー」

 その本は花月が一番好きな本であった。

「それでは、読み聞かせしますね。あるところに――」

 季流は最後まで読み聞かせてくれた。

 花月たちは、うとうとしだしそのまま自分たちの部屋で眠った。

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