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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第六章 花月と月花
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012 似ていて違う花月と月花

花月と月花は双子だった。

姉の月花、妹の花月、二人の容姿はよく似ていて、両親も見間違えるほどだった。

だが、性格はあまり似ていないようで、その違いから家族以外の周りからも見分けが付けられていた。

二人は六歳から八歳まで家ではなくある学園で生活をしていた。

そこは[JHSA]によって東京に設立された[開希学園]というところであり、寮で暮らせる場所で花月たちは両親と離れてそこで過ごしていた。

「花月おいで」

「うん、月花」

引っ込み思案な花月は、常に双子の姉の月花の後ろをついて回っていた。

二人にとって、お互いに一緒にいることはずっと当たり前のことであった。

月花は花月の腕を掴み走った。

今、周りでは……

「わぁ―逃げろ、逃げろ!」

 そんな子供たちの声が響きわたる。

 今は休み時間、同い年の子たちと共に鬼ごっこをしていた。

 先頭を切って走る月花の後ろをついていくように花月は走った。

 鬼は隣のクラスの()(つき)という子で彼は必死に周りにいる数名の子たちを追っていた。

 特に、彼の双子兄である朝日(あさひ)を夜月は追いかけまわしていた。

 自分たちと同じ双子という事で、花月は今日初めて彼らと遊んだのだが、彼らの名前をすぐ覚えることができてしまった。

「夜月、なんで僕ばかりを追いかけるのさー」

「別にいいだろう。朝日は俺が捕まえる」

「鬼ごっこはみんなでやるものなんだから、ちゃんとみんなの事も追いかけてやれ。ほら、お前の好きな双子の何とかちゃんの所に行ってこい!」

「バカ! 声がでかいよ。聞こえたらどうするんだ!」

「なら、僕がこれ以上大きな声で言ってしまう前に彼女たちの所に行くんだね」

「もう、分かったよ」

 そんな微かに掛け合いが響く。

 そして、夜月は私たちの所にやってきた。

「待てー二人ともー」

「捕まえられるものなら捕まえてみせな、おーにさん」

月花は鬼である夜月くんを挑発した。

「なんだと、花月ちゃん」

「ち、違います。花月は私です!」

 双子だとよく名前を間違われる。

「あ、ごめんな。花月ちゃん。じゃあ、月花ちゃんかぁ!」

「そうだよ。間違えてやんの~。あははは~」

「くっそ!」

 結局この後、メンバーの中で背が低くて足が一番遅かった(たく)という男の子が最終的に狙われ夜月は彼を捕まえた。

 そして、卓が鬼になったところで休み時間は終わった。

「みんなお疲れさん。また一緒にやろうね~」

 月花は終わりと同時に、そう言ってまた遊ぶ約束を取り付けた。

「うん、しようね」

「遊ぼうね」

「今度は捕まえてやるぞ。二人とも。それと朝日も」

「はいはい、捕まえられるものなら捕まえて見ろ」

「俺も最後の最後で捕まったから、絶対捕まらないぞ!」

 口々にそんな声が漏れる。

「そうだね。まあ、私のように無敵になれるように頑張る事だな、二人とも」

「なんか悔しいけど、言い返せない」

「月花ちゃん花月ちゃんペアとは今まで何回も鬼ごっこしてきたけど、俺の記憶じゃ二人ともまだ捕まったことないんじゃないの」

「それ本当? だとしたらすごいな」

「はっはっはー、私はすごいのだよ。それと花月もね」

 月花はそう言って花月の肩を自分の方に寄せた。

 姉はいつも明るかった。

 男の子とも普通に接して、対等に渡り合っている姿を見るとすごいと思う。

 そして、何でも器用にこなし、授業中では、

「月花さん、この問題の答えを黒板に書いてみてくれるかな?」

「はーい、先生! そんなの簡単に解いて見せるよ」

 そう自信満々に席を立ち、黒板の前まで来た。

そして先生にあてられた問題もそつなく答えられる。

そんな姉の月花を花月は慕って頼りにしていた。

「はい、正解です」

 同時にうらやましいとも思っていた。

 姉はすごい。

一方の私は怪力のせいで細かい作業ができなかったこと、怪力が関係ない勉強でも月花よりはるかに劣っていた。

花月は自分の事を無能な人間だとずっと思っていた。

「ちょっと、のろのろと机はこばないでくれる? 花月ちゃん」

 掃除の時間だった。

 花月は教室で机を運んでいたのだが、気の強そうな同級生に声をかけられた。

 名は間守華憐(まもりかれん)と言い、ショートヘアーで前髪をあげている女の子だった。

「あ、えっと……すみません。でも私、力のせいでゆっくり運ばないと……」

 月花と離れる時間は何度かあった。

 その一つが掃除の時間。

「もうすぐ、夏休みだからって気が緩んでいるんじゃないの?」

「別にそういうわけじゃあ……」

「なら、なるべく早くしてよね」

「はい……」

 花月はなるべく早く机を運ぼうと急いだ。

 しかし、

「あっ……」

その時、机に置いてあった筆箱や教科書が落ちて、花月は言ったん机を運ぶのをやめ、落ちた物を拾っていった。

するとその様子を見ていた華憐は、こう言ってくる。

「ほんと、どんくさいわね。あなたは姉の月花ちゃんがいないと何もできないのかしら。まるで役立たずね」

 花月に向けてきつい言葉を放つ彼女に周りの者はザワザワと会話しだした。

 彼女は成績のいい、月花をライバル視している節があった。

 そんな彼女は、いつも自信満々で言葉がどこかきつかった。

 そんな不穏な雰囲気をどうにかしたいと思った花月は全部落ちた物を拾い上げた後、華憐に話しかけた。

「あの、華憐ちゃん」

「なに? なんか文句でもある?」

「あ、いえ、私の名前覚えていてくれたんですね。うれしいです、ありがとうございます」

 花月は相手に不快に思わせないため精一杯笑った。

「ふん、普通に見分けは付くでしょ。成績良くて明るいのが月花ちゃん、バカで地味でどんくさいのがあなたでしょ。」

「えー、ひどいよー」

「本当のことでしょ」

「でも、華憐ちゃんは私たちの事よく見てくれているんですね。だから、そういう違いを見つけられる」

「べ、別にそんなんじゃないわよ。なんでこんなに分かりやすいのに二人を間違う人がいるのかしらね?」

 華憐はまじまじと花月を睨みつけるように眺めた。

「そ、そうですね」

彼女は次にこう続けた。

「言っておくけどね、私はねあんたみたいのが本当に嫌いなの」

「え……あ、はい……」

 突然、自分を嫌いとか言われると、どう反応すればいいか困る。

 私は嫌われている。

 そう思うと、なんだか嫌いと言ってくる相手の事を怖いと思ってしまう。

「あなたには何もない。何もできない哀れな子。せめて勉強ぐらいできたら? ああ、そうかそれも力のせいでとか言いわけする気かな?」

「……」

 なんで彼女はそんなことが言えるのだろう。

 私に何か恨みでもあるのだろうか?

「あなたって臆病よね。姉にいつも引っ付いていて、そして守られて、まるで寄生虫。月花ちゃんの足手まといだわ」

「そんな……」

 言われていることは、どれもその通りだった。

 だから何も言い返せない。

 なんだか、悲しくもなってきた。

「そこで言い返さないから、嫌いなのよ。もっと言うことはないの?」

「……分かりま、せん」

「分かりません? なにそれ。だからみんなから嫌われているのよ、あなたは」

「え……?」

「あら、知らなかったのかしら。みんな言わないだけであなたの事、私と同じように嫌いなの。あなたは煙たいと思われているの」

 そこで、周りで二人のやり取りを聞いていた巧が彼女に向かって言った。

「おい、それはお前の方だろう。みんなから嫌われているのは」

「うるさい! チビは引っ込んでいなさい」

「は、はい……」

 なすすべなく彼は華憐を怖がって引っ込んだ。

 彼だけじゃない、みんな彼女を一目引いてみている。

 花月も気にしていない様にしていたが、彼女の事は苦手であった。

「まあ、今日の所はいいわ。手を止めていないでちゃんと動かして」

「はい……」

 その後、華憐は花月から踵返し、自身の担当である黒板の掃除をしだした。

 花月は思う。

 みんなに嫌われているの? こんな私だから……?

 言われてみれば月花がすぐ友達を作れるのに対して、自分は友達は一人も出来ていなかった。みんな月花がいるから私と遊んでくれているのかもしれない……

 周りから嫌われていると思うと、何だか怖くなってきて花月はついに感情を爆発させた。

「うぅ……」

 流れ出る涙。それを抑えようとしても止まらなかった。

 それよりも抑えれば抑えるほど出てきてしまって、そのうちに泣き声まで出してしまいそうだった。

 みんなに見られたくないよ……。

 我慢しなきゃ、なるべく下を向いて我慢しなきゃ。

 花月は顔を下に向けながら、やっと一つの机を定位置まで戻したその時だった。

「花月を泣かせるのは誰だー」

 月花が教室の入り口に立っていた。

「月花……うっ……」

 花月は月花の方へと振り向きざまに、呟いた。

 その時の花月は涙を見せないように腕でぬぐいあげることで精一杯だった。

 その瞬間、花月と月花の両方にみんなの目線がきょろきょろと見渡され、ザワザワとしだす。

 もちろんその時に、花月が泣いている事が伝わってしまっている。

 そして皆、その原因を探して、華憐の方にちらちらと向くのだ。

「げ、月花……」

 華蓮は周りの不穏な雰囲気を察し、ぼそっと呟いた。

 その後のことだった。

「月花ちゃん、だよね。花月ちゃんを泣かせたのはあの子だよ」

 そう花月に知らせたのは、先ほどの巧だった。

「あんたか。間守華憐! 私と突っかかるだけじゃなく花月にまで敵意を見せるとは、あんた、よっぽど今週にあったテストで私に負けたことが悔しいのかしら」

「そ、そんなんじゃないわよ!」

「負け惜しみもいいところだな。あんたなんで花月を泣かせたんだ? いったい花月になんて言ったんだよ!」

 月花は華憐の胸元を掴んだ。

「うッ……まるでどっちもどっちだな。月花ちゃんがそんなんだから花月ちゃんはそんなダメなんだよ」

「それはどういう意味だ?」

「月花ちゃんが花月ちゃんを甘やかすから、花月ちゃんはいつまでも自立できないんじゃん。私はこれからの花月ちゃんの心配をしてあげただけなんだからね」

「そんなこと言って、どうせ意地悪しただけだろ。お前はいつもそうだ。周りの者たちを見下してみる。だからお前には友達が一人もできないんだ」

「黙りなさよ!」

 華憐は顔を真っ赤にしながら怒鳴った。

 華憐ちゃん泣きそうだ……

 花月は彼女の目の奥のしずくを捉えた。

 だからこれ以上はダメだと思った。

「月花、言い過ぎだよ。もういいよ」

 花月は月花がこれ以上華憐に何かを言うのを止めた。

「花月……花月はいいの? いろいろ言われたんでしょ。華憐のこと嫌いじゃないの?」

「そのー、相手が自分の事が嫌いだからと言って、自分まで相手を嫌いになる必要はないかと……思うんですが」

「そう、そうだよね。花月はそういう子だった。分かったよ。華憐のことはもういいよ」

「月花……ありがとうね」

「うん。いいよ。だって、私は花月のお姉ちゃんだからね」

 月花はまるで口癖のように、私が助けを求める時、困っている時にそう言ってくれる。

 自分はずっとその言葉に甘えていたんだ。

 その後、華憐ちゃんは教室から逃げるように去っていった。

 そんなことがあってから華憐は花月に関わってくることはなかった。

 それは月花が厳重に華憐から私に近づかないように、目を配っているせいでもあった。

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