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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第六章 花月と月花
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007 なぜか心苦しくて

 そして、夕食時、

「いやー、雪野くんと花月の仲をもっと良好にしたいと思って、やったことなんだよ。二人ともなんかあったなぁと思ったから」

そこには、先ほどよりもさらに傷ついた草路の姿があった。

その髪は食事中ということもあって縛られている。

雪野は内心で呟いていた。

 おじさんそれは逆効果ですよ。

 むしろ花月に対する距離をとりたくなった。

「お前、何考えているんだ? この子たちがまだ子供同士だからいいものの、あんなこと花月にさせてお前バカじゃねぇのか、ああ?」

 紫は春夢を抱えながら、草路に今も怒っていた。

「紫、春夢ちゃんの前だから落ち着いて、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかい」

 紫は手で草路の頭をはたいた。

「いぎゃんっ!」

 草路はそれをさけようと腕を前にかかげていた。

 そんな彼らの様子に春夢は、

「うー、あー、あいぃ!」

 何やら、楽しそうに声をあげていた。

「これこれ、夫婦ケンかなら後でしてくれ」

「今は食事の時間だよ」

 修平と喜江は言い争いをしている二人にそう言った。

 そして、花月も止めに入る。

「お母さま、落ち着いてください。私ももうお父さまのいう事は聞きませんから」

「えー、そんなー。そこまでしなくていいんだよ、花月」

「お前は黙らっしゃい!」

 鋭く睨みつける紫に草路は怖気づいた。

「はいぃ!」

すぐに紫は続けて言った。

「花月、お父さんのいう事は聞かない。それは本当に守っておくれ」

「はい、お母さま」

「それと、雪野くんにも迷惑かけたんだからね。それは分かるかい?」

「……はい」

 花月は不思議そうな顔をした後、下を向いて答えた。

「よし。じゃあ、ちゃんと雪野くんに謝っておきなさい」

「はい」

 花月はしゅんとした様子で雪野の方を向いた。

「雪野さん、お風呂でお背中を流そうとしてすみません」

「え、いや……」

「雪野さんは一人で風呂に入りたかったんですよね。それを邪魔してしまって、すみません」

 ちょっと、一番伝えたいことが伝わっていないんだけど……まあ、いいのか?

 紫や周りの人たちは花月のその言葉に、やっぱり分かっていないなと、でもいうように首を傾けていた。

 いや、よくないか……全く分かってもらえてないもん。

 しかし雪野はこう言ってしまう。

「いいよ……もう……」

 素直に謝る花月にこれ以上何かを言うのも何だか嫌だった。

 雪野がそう言ったのを聞いて周りも、まあいいかという表情を見せる。

 そして紫はため息をついていてからこう漏らす。

「それじゃあ、ごたごたはもう置いておいて、今はご飯を食べましょうか」

 こうして夕食が進み、花月の食欲はさらに増したように思える雪野であった。

 あれが落ち込んでいる目印なのか。

 雪野は自分の部屋の中で思った。

 別に自分のせいではないはずだ。

 彼女が勝手に自分に付きまとい、僕はそれが迷惑だと思ったから彼女にもう付きまとうなと言った。

 自分に関わるなと言った。ただそれだけ。

 彼女も面倒なことに巻き込まれなくて済むのだからいいことだろう。

 自分なんかのそばにいる事が間違っている。

 みんな優しいけど、僕にとってはそれは困るんだ。苦しい……

嬉しいけど……幸せだと感じるけど……それだと罰にはならない。

 なんだか、こう思ってしまう。

 人と関わらずにすむならどんなに楽か、人と関わらずにいることがどんなに寂しいか、虚しいか……そんな気持ちが矛盾して生まれてくる。

 それで自分はどうしたいのか?

 望めるものならば、幸せがいいに決まっている。

 でも、自分はそれを手にすることは望んではいけないのかもしれない。

 それは誰に決められたものではなく、自分で勝手に決めたことだ。

 誰かがそれを否定してくれるまでは、自分は救われてはいけないんだ。

 いや、誰かが否定してくれても、自分は一生救われてなんかいけないんじゃないかとそう思ってしまう。

「ああ……もう何度同じ事で悩んでいるのだろ」

 繰り返し、繰り返しだ。

 疲れてしまう。

 答えなんてどこにもない。

 すべて自分が決めること。

 そう、自分で……

 ふと、花月の言葉を思い出す。

 自分が笑ってもいいかと投げかけた時に彼女は、言った。

 自分の次第だと。

 笑いたい時に笑えばいい、泣きたい時に泣けばいい。

「……」

 花月なら何ていうのだろうか?

 今のこんな自分になんて言葉をかけるだろうか?

 きっと、前向きな答えを示すんだろう。

 自分の全てを肯定するような答えをくれるんだ。

 それだとだめだ。

 それだと……また、同じことを思う。

「はぁ……」

 一人だと、いろいろ考えてしまう。

 ぐるぐると、ぐるぐると繰り返される。

 一人になったのは自分からなのに、それを少しだけ寂しいと感じる自分がいる。

 でもそれはやはり仕方ないことで、自分はそれに耐えないといけないのだと思った。

 そんなことを今日一日中、雪野は考え込んでいた。

 そしてその夜、花月は来なかった……

「さすがにもう来ないか。これでいいんだ……」

 次第に時間は過ぎ雪野は朝頃。眠り、昼前に起きた。

「雪野さん、やっと起きましたか?」

 花月は雪野のすぐ目の前に体育座りして、こちらを覗き込んでいた。

「お前またか……」

 雪野は頭を抱えた。

 やっぱり花月は現れるのだと……

 花月は自分に関わることをやめてくれない。

「で、今日は何で僕の部屋にいるの?」

「雪野さんが起きるのを待っていました」

「それはなぜ?」

「雪野さんと朝ごはんを一緒に食べるためです」

「そう……」

「そうです……」

 不穏な空気を感じたのか花月の表情は伏し目がちに下を向いていた。

「じゃあ、今日は着替えてから行くから、お前も着替えて先に台所にいっていなよ」

 あえて少しだけ冷たく接する。

「はい。雪野さんがそう言うなら、そうします」

 どうせ、彼女は周りに従っているだけだ。

 自分の意思はあまりないのだろう。

 なんだか、それを思うと雪野はよく分からない胸のつっかえに襲われる。

 なんなんだ、いったい……

 なんで自分はこんなにも彼女の事を気にしているんだ。

「ああ、もう!」

 雪野は髪をかき上げた。

 そして、人形をがばっと手に取り、食事場へと向かった。

 雪野は朝食を花月と共に食べた。

 花月の暴食は昨日と変わらない。

「……」

 静けさが増す。

 その後、まだ食事をしている花月を置いて雪野は部屋へと戻った。

「それじゃあ、ごちそうさまでした」

 雪野はまた部屋に閉じこもる。

 そして昨日のように考え込む。

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