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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第六章 花月と月花
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002 調理場の花月、現れる【月花】

そこは調理場。

 ゴリッ、ズギュッ、ズガン!

 生ものを骨ごと切る、いかにも生々しい光景があり、そこには一人の女性の姿がある。

 彼女の後ろ姿は清楚的だった。

そして同時に不気味さをあわせ持つ。

 なぜなら、その顔には血が飛び散っており、落ち着いた表情でそのまま慎重に手を動かしていく姿があったからだ。

 そのひと動かしでズギィッ!

 と、まな板が食い込んだ。

 彼女の手はひどく震えていた。

 震えながら、その横たわる死体に向けて刃を突き付けていく。

「もう少し……あともう少し……」

 そう言いながら、彼女は大きく腕を振り上げ、思いっきり死体に向けて包丁を叩きつけようとした。

 と、その時、勢いよくドアは開かれ彼が現れる。

「待て! 花月ストップ!」

 そう言われ、

「え?」

 花月は手を止めた。

「お前何してるの! こらぁ!」

 雪野は花月へと近づくと、ぐうで彼女の頭をぐりぐりとした。

「痛いです、雪野さん。やめてください!」

「お前、自分が何していたか分かっているのか?」

「料理です。今日は雪野さんの代わりに私が料理を作ろうと思って、魚を切っていました」

「料理って、お前何も作れないだろう」

「そんなことありません。私にだって、料理くらい作れますよ」

 そこで雪野の手は、花月に払われるようにして彼女の頭からおろされた。

 彼女の目の前には、魚の切り刻まれた歪な残骸があった。

 そして、彼女が持っている包丁の刃は欠け気味で、まな板はボロボロにひびが入っていた。

「そういうこと言っているんじゃありません。お前刃物持つと手が震えるだろう。そして怪力のせいでいろんな破壊が行われるんだからしなくていい。料理自体そんなに進まないうえに下手過ぎだろ! それに指も切ったら危ないでしょうが!」

雪野の心配は花月が料理をするとこ自体だった。

うまい下手、関わらず、花月の料理は物を壊しながら行くため一向に進まないのだ。

「雪野さんは心配し過ぎです」

「それは心配にもなるだろうが……俺は季流お兄さんからお前の事を任されているんだからな。もし万が一のことがあったら、俺の身が危ない。あの人、花月の事になると何しでかすか分からないから」

 恐怖にひきつる雪野の姿に花月は、

「むむむ……余計です、言葉が……」

 ぶつぶつと呟いた。

「あ? 何か言ったか?」

「なんでもありませんよーだ」

「なんだよ。その態度!」

「私だって女性なんですから、料理ぐらいできなくてはダメだと思います」

「お前壊しがたなんだから、もう俺に料理は任せていればいいんだよ! ほらかせ!」

 雪野は花月から包丁を取り上げると、

「まず、内臓とってないし、ウロコとってないし、まるでなっていません!」

「……」

 花月はしゅんとしながら、雪野の魚裁きを見ていた。

 とても、上手に皮をむいたり、均等に魚の身を切っていく姿にすごいと思うと同時に花月は彼をうらやましく思ったのであった。

「ムムム……」

「大体お前は何でできないくせにやろうとするのかなぁ? もしかしてやれると思ってやっているの? ねえ、どうなの?」

「……」

 そう思っていた。

 でも結局、うまくできなくて雪野に怒られてしまっている。

その現状に花月は何も言えなくなった。

 そして同時に料理ができないからといって、いろいろ言ってくる雪野に苛立ちを覚えた。

 二人の様子をこっそりと見ていた蓮と紀菜は、雪野をなだめるようにこう言った。

 彼らの足元には、クロとシロの姿も見られる。

「そのくらいにしてやってよ、雪野。これも俺たちのためにやったことなんだから、怒らないでやって」

「そもそも、雪野くんが起きるのが遅いから花月ちゃんは私たちのために料理作っているんだからね」

「そもそもなんで任務もないのに蓮たちがいるっていう話なんだけど……」

「用事はないけど、遊びに来たっていいじゃないか」

「えー」

「そんないやそうな顔して、ひどいな。て、雪野、本当に料理できたんだ。うまい切れ味だね~」

「今日は仕方がない。ブリ大根にしようかな?」

「いいねーブリ大根」

「期待して待っているわね」

「はいはい。待っていてくださいな」

「今日の昼ご飯はブリ大根、ブリ大根!」

クロはそう言って、はしゃぎ、シロは目をキラキラさせて雪野を見ていた。

「シロたちも食べていいですかニャン?」

 それに、雪野は言う。

「お前たちは、いつも通りあまり物な。それと煮干し」

「なんですニャーン!」

 二匹はがっかりそうな顔を見せる。

 それに雪野は、言い改めて言った。

「なら、身が付いたブリ大根の食べ残しの骨をあげるから、がまんしろ」

「やったニャー!」

「嬉しいですニャン!」

 クロとシロは喜んで雪野の足元でゴロゴロとしだしたのであった。

「おいお前ら、ほんと猫だな……」

 そう言って二匹の顎下に手を置き、さすったりして和んでいる雪野の姿があった。

「ニャ~」

「ニャ~ン」

 二匹は今もゴロゴロ言いながら、気持ちよさそうにしていた。


 事は昼過ぎ、蓮と紀菜は木崎家に訪れた。

「蓮さん紀菜さん。二人とも今日は、任務はないはずじゃ……雪野さんを起こしてきましょうか?」

「あー違う、違う。今日はただ遊びに来ただけだから、気にしないで」

「そうでしたか。二人は、昼ご飯はもう食べましたか?」

「いやー、まだだけど。それがどうかしたかな?」

「私もまだなので……その~雪野さんがいつも食事を作ってくれるんですが、今日は昼を過ぎてもまだ起きて来なくて……」

「あー、十七日間たて続けに任務していたから、さすがに睡眠が間に合っていないのかもね。でも意外だね。雪野料理できたんだ」

「あれでも雪野さんは、とても上手なんですよ。特に和食が」

 花月は続けて言った。

「それで、よかったらなんですが今日は私が料理をご馳走したいと思います」

「へ、花月ちゃん料理できるの?」

「いえ、料理は昔、包丁が怖くて出来なかったんですが、今ならできる気がします!」

「え……」

「雪野さんの作っているところを見てきてはいますので、たぶん大丈夫ですよ!」

 この後、花月の破壊的な料理が始まったのだが、雪野はズガンッ、ガツンッ、という破壊の音に目が覚めてしまった。

「な、なんだ……」

 雪野は起き上がり、調理場に向かう途中、雪野の所に向かっていた蓮たちと遭遇した。

「雪野!」

「雪野くん!」

「なんで、連たちが家にいるの?」

「その話はあと、今は花月ちゃんが大変なんだ」

「雪野くん、急いで! そして彼女を止めて!」

「一体、どうなってるんだ!」

 という事でその後、雪野と同じく寝ていたクロとシロは、花月の物音で起き出して雪野たちと合流した。

そして蓮たちの話をあらかた聞き、雪野は状況を飲み込むと花月の料理作業を止めた。

危うく、大惨事になるところだったな、これは……

と、雪野は調理器具の破損を見て内心思っていた。

雪野がいる台所を見てみると、そこにはもうクロとシロの姿は無い。

雪野が顎下をなでていた時、クロは肉球を雪野の手に押し当てるようにして言ってきた。

「う~ん、もういいニャ。雪野。なんだか、飽きたニャ」

「私もですニャン。そろそろやめどきですニャン」

 シロももうやめろというように雪野の手に両手を押し当てた。

「そうか……」

猫は気まぐれだ……

「それじゃあ、クロはブリ大根ができるまで、もう一眠りしてきますニャ」

「シロは外へ散歩に出かけてきますニャン」

「うん、二匹とも二時ごろにご飯できると思うから、それぐらいの時間にちゃんと食事場に来るように」

「分かったニャ!」

「分かりましたニャン!」

「それじゃあ、行ってらっしゃい、シロ。寝てらっしゃい、クロ」

 そう言って雪野は二匹が出て行くのを見送った。

 こうして雪野は料理に向き直った。

 大根を冷蔵庫から取り出し切っていく。

 その最中、蓮は聞いた。

「そういえば、雪野。春夢ちゃんは学校? もう始まったの?」

「ああ、そうだよ。ちょうど一昨日から」

「そうか、寂しくなるね」

「別に、大丈夫だよ。今まで花月と二人っきりで過ごすことだって多かったからな」

 蓮はその言葉にニコニコとしだす。

「そういえばそうだったね~」

「二人きり……」

 紀菜はその単語に反応し、怪訝な表情を見せる。

「男女が同じ屋根の下、二人きりなんて……」

 なんだか責められそうな気がして、雪野は一応言っておいた。

「言っておくけど紀菜ちゃん、俺たちは何もないからな。変なことは考えないでね」

「分かっているわよ。何かあったら問題だわ!」

「うん、そうだね。分かっているならそれでいいんだけど……」

その後、雪野は鍋を取り出し切った魚と大根をその鍋へと入れる。

そして煮詰めている途中、それを見ていた花月は、

「雪野さん、私に何か手伝えることはありませんか?」

 と、静かにそう聞いてくる。

 それに雪野はきっぱり答えた。

「花月には絶対料理は任せられないから。ムリ!」

「そんな……じゃあ、他に何かないんですか? 皿洗いしますよ!」

「花月、残念だけどそれもムリ! もっと、言うと花月に家事全般はムリだからな!」

「何でですか?」

「なんででって、やっぱり力のコントロールができていないからだよ」

「私だって練習すれば、力のコントロールくらいできますよ、きっと」

「危険で見てられないんだよ。だからこれ以上こっちの片づけを増やすぐらいならお前は何もしなくていい。練習もしなくていい。お前は今のお前のままでいいから俺の邪魔だけはするな、分かったか!」

 花月へとそう言い放った雪野に蓮たちはこう言葉を漏らした。

「雪野それはちょっと言い過ぎじゃない?」

「もっと花月ちゃんの気持ちを考えなさいよ。大丈夫、花月ちゃん?」

 紀菜が花月の顔を覗いたその時……

「ムムム……雪野さんのバカ!」

 花月は声を荒げて、近くにあったフライパンを振り上げた。

「花月……それは、それはダメぇえええええええ!」

 雪野の震える声がその場に響きわたる。

 そして、フライパンは雪野の後頭部へと一直線に向かっていく。

「ぎゃああああああ!」

 雪野の痛々しい叫び声。

 彼のその頭にはたんこぶができた。

「い、痛い痛い痛い――」

 頭を抱えて倒れ込む雪野に紀菜が声をかけた。

「雪野くん、大丈夫?」

「まあ、自業自得だよね。雪野……」

 雪野はその後、すぐ花月の方に向き直ると、涙目で言った。

「花月! お、お前何するんだ! 今思いっ切り叩きやがっただろ! お前怪力なのに何考えてくれちゃってるの! 頭われたらどうするの!」

「……」

「おい、聞いているのか?」

 黙り込む花月に雪野は声をかけ、そっと近づいた時だった。

「ゆ、き、のーん!」

 花月はそう言葉を口にする。

「え……」

 雪野は一瞬黙り込みそして考える。

 そこには脱力したような花月の姿があった。

 それは次第に起き上がり、ニヤッと笑う。

 そう、自分を雪のんと呼ぶ人物は……【月花】しかいない!

「久しぶりだね。一か月ぶりかな~? 元気にしていた?」

「お、おう……」

 蓮と紀菜の様子を伺うと二人とも訳が分からないという表情を今していた。

「あれ、花月ちゃんどうしちゃったの?」

「まるで違う人格が乗り移ったみたいに……」

 その通りです紀菜ちゃん。今の花月は【月花】です。

「やあ、二人とも初めましてだねー。私は【月花】って言うんだけど、雪のんからは、話は聞いている?」

 花月は、いや花月の体を借りて現れた【月花】は蓮たちの方を向いて声高らかに言った。

「え、なんの事かな? さっぱり分からないやー」

 蓮はその場の空気にのり【月花】に返した。

 紀菜はというと……

「なに、花月ちゃんどうしちゃったの? ねえ、雪野くんどうゆう事?」 

「あー、えっとね。彼女は【月花】って言って、花月の双子の姉なんだ」

「え、それはどういう事?」

「【月花】はもう亡くなっていて、花月の体を借りてたまに現れるんだ」

「そうなの……?」

 紀菜はまじまじと疑わしげに花月を見る。

「そんなこともあるんだね」

蓮は言う。

「それでなんだけど、そのことは、花月は知らないからくれぐれも、【月花】の事は花月には内緒でお願いします。本当にこれだけは季流お兄さんも頭を下げてお願いするほど重要な事だから、お願いだからね」

 雪野が一通り説明したところで花月の体をかりた【月花】は言う。

「そういう事でよろしくね~」

「うん、よろしく【月花】ちゃん」

「なんで蓮くんはすんなり受け入れているの? この子【変物】の部類に入るでしょ」

「だって、【幽霊】だとしても、季流さんが何もしていないところを見ると放っておいても大丈夫なんじゃないかな?」

「そうそう。私は花月の強い思いから今のような感じになっているから、花月次第でしかこの状況は変えられない。もし変えられたとしても花月の傷はそのままだよ」

【月花】は続けて言う。

「もし、私が完全に消えた時は花月が私の存在に気づき、心の傷も癒えた時になるだろうと私は思っている。最後の一回ぐらいは私、花月に会いたいよ。こんな形でなく、ちゃんと向き会いたい……な~」

 真剣な様子で話していた【月花】は、話の終わりで調子を変えて周りに笑いかけた。

 雪野はそれに続く。

「と、いうわけだから紀菜ちゃん、【月花】の事は風習的にあまり関わらなくてもいいから、気にしないで」

 雪野は【月花】の事は嫌いではないのだが、正直苦手ではあった。

 だから極力関わり合いたくなかった。

「それって、死んだ者は死の世界に返す。つまり成仏させよう作戦のこと?」

「うん。それだよ。それをお前に今までのようにするつもりだ」

「そう言いながら、私と話しているじゃん。雪野はほんとお人よしだね」

「はいはい……」

そこで蓮は聞いてくる。

「雪野、【月花】ちゃんに直接聞けないんなら、雪野に聞きたいことがあるんだけど」

「ん? なになに?」

「彼女はいつからこうなの?」

「えっと、少なくとも俺が夏川家に行った時からこうだったよ」

 雪野は回想した。

 花月との出会いをさかのぼってみた――

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