013 始めて見えた不思議な物たち
一年のほとんどが雪に覆われるある国で僕は生まれた。
その場所がどこなのかはもう分からない。
でも、僕は愛されて生まれてきたこと、それだけ分かれば何も心配ない。
そう思った。
生まれた僕を両親はかわりばんこに抱き上げ、僕の名前を呼んだそうだ。
「季流、ママよー」
「季流、お父さんですよ~」
当時ロシア語や英語などいろんな言語で話しかけてくる母と日本語で語り掛けてくる父。
それに答えるように僕は生まれたばかりのしゅわくちゃな顔でにこりと笑ったそうだ。
母のサリア、父の草路。
二人の髪の色は金髪と黒髪、そして高い背と低い背、青い瞳と黒い瞳。
その他にも二人には、大きな違いはあった。
それを季流は不思議だなと幼心に思っていた。
そして僕は……
「季流はお母さんに似たんだね」
母親似なんだと自身の金色の髪と青い瞳を見て納得していた。
「まだ、分からないわよ。性格とかはあなたに似るんじゃない?」
「そうかな~?」
でも、背が母さんより低いのはお父さんにだぁとも思っていた。
「あなたのへらへらしたところとか、バカなところとか?」
「なに、それ。ひどいよ、サリア」
「アハハ、冗談よ」
そんな二人を見て、季流は……
「あ、季流が笑ったわ」
「ほんとだ」
彼らのもとで愛情をたくさんそそがれてすくすく育った。
五歳の時、僕は【不思議な物】たちを見ていた。
「あっ……」
最初はぼうっと眺めていて、それが普通ではありえない物なのだと頭が理解したところで、季流は母と父に英語で言った!
「ママ、パパ、あれは何? あれは何? あれは何!」
興奮して家の中の窓から外を眺めてそこに指さす季流に母と父は駆け寄る。
「どうしたの? 季流!」
と、この国の言語であるロシア語でそう言う母。
一方、
「どうかしたのかい?」
日本語でそう話す父。
それに僕がどう答えるかというと、
「外にね。【変な物】いるよ」
その二つとは違う言語の英語で言った。
こうすれば、ロシア語をあまり理解していない父にも伝わる。
僕は五歳の年にロシア語と英語、それから日本語の三つの言語を使えた。
「え、どれどれ?」
「それって、あの煙突の煙の事かい?」
そして今度は、日本語を使った。
「違うよ、父さん。ほらあそこ、動いているのだよ」
でも父がいつもしゃべっている日本語は一番難しくてあの不思議な物を表現する単語が出てこなかった。
そこで母が、今度は日本語で言う。
「もしかして、あの【化け物】が見えているの?」
「え、【化け物】って、あの空を飛んでいる【黒くて長い塊】かい?」
「うん、それだよ!」
と、日本語で返す。
それを聞いた二人はとても驚いた顔つきをして、お互いに顔を見合わせていた。
季流はその様子に少し心配になってこう聞いた。
「父さん、母さん、あれはなんなの? もしかして見えちゃいけないものなの?」
「そんなことないよ。季流」
「そうねぇ~、なんていえばいいのかしら」
サリアは言葉を探すように腕を組んだ。
そして、英語で言った。
「季流は大人に一歩近づいたのよ。これはいい事ね」
「だね。てことはお祝いしなくちゃ行けないか~」
「お祝い?」
「うん。今日は赤飯……と言いたいところだけど、この国にはないのでお母さんのおいしいご飯と行きましょうか」
「それはいいけど。あなた季流に大事なことをまず伝えないといけないと思うわよ」
「えっと、それはなんだい?」
「あなたは当たり前のように【化け物】に慣れているけど、季流はまだあれの危険性を知らないでしょ」
「ああ、そうだったね。季流に言っておかなきゃね」
「え、なになに?」
僕が日本語で母に問いかけると、横にいた父が代わりに応えてきた。
「季流、あの【変な黒長い物】とかはね。とっても危険な物なんだ。だからもし外に出るときは近づかないでね。僕たちがいる時も気を抜かずに。分かった?」
「うん。分かった! あれは危険なんだね。近づいたらいけないんだね」
「そうそう。季流は物分かりがいいなぁ」
「さすがこの年で三ヶ国語を話せる季流だわ。あなたすごいわよね~」
「それはサリアが教育熱心な母親だからだと思うよ」
「それは褒められているのかしら?」
「うん……一応ね」
「ふふふ、よかったわ。なるべく早いうちに必要最低限の言語は話せるようになれば、この子も不自由なくいろんな国でもやってけると思うわ。季流のためになるのなら、私が話せる五ヶ国語を全部教えてもいいとも思っているけど……」
「いやそれはさすがに……僕が追いついていけなくなるよ」
「でしょうね。だからやめておくわ。今はこの国の言語ロシア語と世界の共通言語である英語、そしてあなたの国の言葉である日本語だけ季流に覚えさせましょう。もし私に何かあった時のためにもね」
「うん。でも、そうならないようにね。季流のためにも」
「ええ。分かっているわよ」
「僕たちはこれからもいろんな場所を転々として生きていこう。そうすれば、きっと……君を狙う人たちから逃げられるよ」
「そうだといいわね……」
そんな会話を深刻そうにしている父と母に、季流はよく分からない顔をして次にこう言った。
「父さん、母さん、頭なでて。ハグ~」
「ん、季流は甘えん坊だなぁ~」
「かわいいわね~。季流~」
そう言われ、笑顔に戻る二人を見つめ、季流はほっとした。
彼はそんな二人を見るのが幸せだった。




