012 謎の男
「いい、いい……うまく進んでいる。あと少し、もう少しだ……」
木々の奥、そっと呟く影があった。
帽子をかぶり跳ね上がる長い髪で目を覆い、よれよれのコートを着込んだその男は、一人嬉しそうに語った。
「雪野……君は特別だ。でも、まだまだだね。あれじゃあ、まだ弱い。弱すぎる……たりないね。まだまだ呪いが足りない。闇が足りない。もっと与えなければね……親を奪うだけでは、姉を亡くすだけでは、家族を殺しただけでは足りない。君が得た今の幸福もやがてこわさなくちゃね。そうじゃなければ、叶わない。僕の望みを叶えるため君を利用させてもらう。いつかくる終わりの日まで……」
彼はにこりと唇の端をあげてこんな言葉を次に漏らす。
「私が君を殺すまでは、しっかり生きてくれよ。木崎家の生贄としてね……」
フフフと気味の悪い笑みを浮かべて彼は、次に全壊した屋敷に顔を向け、それから自分の手の内にある青いガラスの欠片を見つめて呟いた。
「それにしても……エミリーに聖十郎か……彼らにもやっと終わりが来た。六十年以上もの間、彼らの孤独は私を楽しませてくれた。願いを叶えるためにはその代償が必要だけど……彼の様にそれが最終的に自分の望みを壊してしまう物では意味がない。やっぱりこれは、失敗作だね。見た目は綺麗にできたんだけどな……」
一時、言葉を止めていた彼はその後、欠片を不意に握りしめた。
すると一瞬にしてその欠片は霧のように粉々に散り、ぱっと、手を外に振り払った彼は、そのまま踵返し闇へと消えていったのだった。




