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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第五章 血染めの華
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011 任務十七日間の一日目

 雪野たちは閉まっている玄関先の扉を開け、外へと出た。

「先にどうぞ! 雪野さん、蓮さん、紀菜さん」

「あー、あのまま出られないと思った」

「まさか戸が開かないなんてね」

「花月ちゃんがいてよかったね」

「まあな……こういう時には何気に役立つんだよなこいつ」

「私、雪野さんに褒められました! 嬉しいです!」

「いや、これほめているっていうか……まあ、いいよ」

「んん?」

 雪野たちが屋敷の門を抜け前方を見渡すと、昔、栄えていたというあの街の景色が映り込んでいた。

「いい眺めですねー」

「そうだな」

 足を止めて少しの間、見渡した後、雪野は言葉を漏らした。

「さあ、帰りますかー。俺、早く帰って一休みしたい」

「そうだね。帰ろうかー」

「お兄さんいないから、これから[JHSA] に連絡して車呼べばいいのか?」

「たぶん、こういう場所だとそうなるんじゃないかな? 何も聞いてなくて、よく分からないけど連絡してみるねー」

「お兄さん、絶対、そういう細かい事、言わないから気を付けた方がいいよ、これから」

「だろうね」

「分かっているわよ」

「あー、そうなんだ……」

 その後、蓮は上着のポケットから携帯を取り出して画面を眺めて、それから困ったように呟いた。

「あー、みんな……今、スマホみたら丁度、充電きれたみたいなんだけど……」

「じゃあ、紀菜ちゃんのは?」

「私のも丁度、エミリーさんが成仏出来た後なくなったわ。だから蓮くんの後について歩いていたのだけど……このままじゃ、私たち帰れないわね」

「そうだね。ヤバイね」

「まあ、とりあえず森を向けて街まで向かうか、この屋敷でしばらく待つかだけど……」

 蓮がその言葉を発した時だった。

 まるで街の方に行けと言わんばかりに、木々に囲まれ森の中に立つ古い屋敷はギシッという音の後、一瞬のうちに崩れていった。

 砂埃がまい、目を細めながら雪野は瓦礫の山と化したその屋敷の最期をみとった。

「ええ、なにこれ……」

その今日一番の死の危険を感じた雪野は思わずそんな言葉を発し、花月や蓮、紀菜たちも眉を寄せて一点に目を向けていた。

「屋敷が崩れてしまいまた! 雪野さん!」

「ああ、見ればわかる!」

「いやー、すごいね……」

「危うく私たち、あれのまき沿いになっていたところよね……」

 呆然としている彼らの言葉の後、雪野はそっと屋敷から目をはなしこう呟いた。

「でも、これって街まで歩いて行けって事だよね」

「はい、もう屋敷は無くなってしまったのでその選択しかありませんね、雪野さん」

「長い道のりだけど夜までには街につくように、急がないといけないわね。これは……」

「まあ、こういう時もあるよ。それじゃあ、みんな行こうかー」

 蓮の掛け声と共に頷き、雪野達は森を下って行った。

数分後、曲がり角で一代の見慣れた車とすれ違い彼らは足を止めた。

その灰色のワゴン車も雪野たちの横で止まり、助手席の窓を開けられそこに映る金髪の彼の姿を雪野は捉えた。

「やあ雪野くん、花月、蓮くん、紀菜さん、無事任務は終わりましたか? さあ乗ってください。家まで送りますよ」

顔を見せるようにして話しかけてくる季流の姿があった。

「お兄さん! 何でいるんですか? まさか心配になって、見にきたとか?」

「いえ、違うんですが」

「違うのかい!」

 雪野たちはそこで車に乗り込み、その時にこぼれていた季流の話を聞いた。

「今日は、力有り余る人とペアを組んでしまって、思った以上に早く終わったんですよ。明日からはそうではないと思いますので、迎えには来られないのでそのつもりで」

「はい、そうですね。分かっていますよ、それくらい。お兄さんは一度決めたことは途中でやめないですもんね」

「そうですか。分かっているんですか、雪野くん。まさにその通りです。では蓮くん、聞きたいのですが雪野くんの今日の様子はどうでしたか?」

「え……」

 雪野は若干不安になる……

 蓮お前は何を言うつもりなんだ? 

余計な事は言わないだろうな?

「実は最初は雪野、あの屋敷の中に入るの怖がって、一歩も動こうとしなかったんですよ」

「そうなんですか? 雪野くん?」

「えっと……はい、そうなんですが、あの……」

 にこっと笑いをかけてくる季流に雪野はたじろぐ。

「雪野くんがあの屋敷から出てきたところを見ると、中にはちゃんと入れたみたいですね」

 季流は蓮の方向を向く。

「はい、季流さんに電話を掛けようとしたら、いく気になったようです。それで聞いてくださいよ。雪野、今回は大活躍だったんですよ。ね、雪野」

「あ、うん。最後小刀とか人形でやっつけたけど……」

「それはそれは、ちゃんとやれるではありませんか」

 季流は続けて聞いた。

「それで、それでもっと詳しく教えてくれませんか? 雪野くんが活躍したなんて珍しい事です。もっと聞きたくなりましたよ」

「聞きたいですか? 最初、扉が突然と閉まって、外に出られなくなって雪野ったら、取り乱して……」

「おいー、余計なことは言わなくていいからな、蓮」

「はいはい、その後、シャンデリアが雪野めがけて落ちてきたんだけど、花月ちゃんが雪野を助けたんだよ」

「そうそう、はねのけてな」

「あの時は雪野さんを守ろうと必死でした」

 花月は思い出したように安どの表情を見せて言う。

「そうなんですか。なんだか状況がうかんできますね」

 蓮は相づちをうちつつ続けて言った。

「そして、その後すぐなんだけど暗闇のなか、雪野が花月ちゃんを押し倒しちゃって、大変だったんだよ」

「え……?」

 ちょ、ちょっとぉおおおおお! 蓮!

「バカ、蓮! 何言っているんだよ! その言い方だとお兄さんが勘違いするだろう! そういうこと言うのやめろ!」

「勘違い? 雪野くんどういう事ですか?」

「えっと、それは……」

 ちゃんと誤解されないよう説明しようとした時、蓮が言葉を挟んでいってきた。

「雪野の色情狂の本性がついに現れたんだよね」

 雪野はとっさに蓮の肩を掴む。

「なんで、お前はそういうこと言うの? 俺をおとしめたいの? 絶対わざとだろ!」

 そう言った矢先、季流はすでに雪野に向けて手を振り上げていた。

 それを見て、雪野は慌てる。

「って、違うから蓮が言った事は違うから、お兄さんその今振り上げた手を俺に向けないでください!」

 と、そこで……

「雪野さんがたとえ色情狂というと言う何かわけのわからない者だとしても、私は気にしませんよ。どんな雪野さんでも私は受け入れます。だって私は雪野さんの婚約者ですから」

 花月は表情ほがらかにそう言ってきて、雪野は呆れながら聞いた。

「お前言葉の意味分からなかったの?」

「はい……」 

「まあ、それはいいとして、話がややこしくなるからこれ以上何も言うな、花月。それから蓮も!」

「はいはい、分かってるよ」

「むむむ? 分かりました。雪野さんがそういうのなら」

 二人が黙るのを確認して雪野は季流に説明する。

「お兄さん、実はエミリーという【幽霊】に足を引っ張られて、こけたんですよ。それで近くにいた花月が巻き添えになってしまいそういう風に……」

 あの時、花月の胸を触ってしまったことはお兄さんには言えない。

「だから、あれは不可抗力で決して花月を襲ったわけではありませんよ」

「そうでしたか。それは仕方がない事ですね」

「お兄さん、言葉と行動が一致していませんよ」

 お兄さんは今も笑っていて、その手は振りあがられたままの状態で止まっていた。

「あはは、すみません。つい。例え転んで仕方なくだったとしても、そんな状況になった雪野くんのことが少し許しがたいですね」

「季流さーん、落ち着いてー」

 蓮が軽くそう言ったところで、季流の腕は降ろされる。

 それに胸をなでおろした雪野は次に言う。

「お兄さん、蓮に話を任せるといろいろ脱線しそうなので、ここから俺が話していきますね」

 雪野はエミリーのことを話していった。

 階段から突き落とされた事、夢での事、目覚めてからの事、各部屋をまわったこと、そして元凶である【悪霊】をやっつけた事。

 一通り今日の出来事を話終わって、季流は言った。

「そうですか。今日はうまいこと協力してやれたみたいですね」

「はい」

「これで安心しました。この調子で明日も頑張ってくださいね、雪野くん」

「はい……」

 一瞬、返事ができない雪野は季流の威圧ある視線に気づきしぶしぶそう頷くのだった。

「雪野、分かりやすいね」

「ほんと、情けないんだから」

「あはは、仕方ないだろ……」

 それに花月は雪野の方を向いてお決まりの言葉を彼にかけた。

「でも、そんな雪野さんでも私はかまいませんよ」

「ねぇ、まだそれ続けるの……?」

 発進された車の中で、雪野たちはこの後も口々に言い合う。

「お兄さんちゃんと必要最低限の事は言ってくださいよ。ほんとに頼みましたよ」

「はいはい」

「それと……そういえばお兄さん。帰りに任務先の屋敷が壊れたんですけど、あれって報告した方がいいですよね?」

「え、そうなんですか? それは、それは……よく生きていましたね」

「はい……」

任務を行う上で命の危険は常にある。

今回も雪野は予想以上の危機に直面したりしたのだが……何はともあれ今日の任務も無事終わった。

とりあえずめでたし、めでたし……なのか?

「本当に明日も生きて帰るか不安だ……ハア……」

雪野は嘆息し、明日の心配をしながら季流と共に帰宅したのだった――

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