004 暗闇の中で迫る恐怖
「わあ、中もすごいね」
そう言って蓮は近くにあったボタンを押し、電気をつけた。
「本当ね」
中に入るとまず目に付くのは広い広場の真正面にそびえたつ二階へと上がる階段だった。
そして、複雑な絵柄が書かれている天井には高級なシャンデリアが付けられており、この家がとてもお金持ちであることが分かる雪野たちであった。
「というか、もっと明るくならないのか? なんだかとっても薄暗い……」
雪野がそう言いかけた時、彼の後ろにある大きな扉がなんの前触れもなくひとりでにしまった。
バン! という大きな音が屋敷中に広がる。
「うわあ、閉まった! なんで、なんで、なんで? 何かいるのかよ! もう!」
「うるさい。落ち着きなさい、雪野くん」
「雪野さん、私がついています!」
「もっと暗くなったね、雪野」
蓮はその場から踵反し、雪野の後ろまで行くと扉を開けよう引っ張ったり、とんとんと叩いたりした。
しかし、扉は開かない。
「どうやら、俺たち、閉じ込められちゃったみたいだね」
「えー!」
雪野は呻く。
「どうするんだよ。それじゃあ!」
「どうするって、このまま進むしかないでしょ」
「進むってどこに?」
「決まっているだろう俺たちは【変物】を退治しに来たんだから、元凶であるそれを見つけるため各部屋をまわっていくんだよ」
「えー」
「えーじゃないよ。さあ行くよ、雪野」
蓮は臆した様子なく、そのまままっすぐ進んでいく。
「ちょっと蓮くん、私から離れないようにね」
「はいはい、分かっているよ。紀菜ちゃん」
紀菜は急いで蓮に駆け寄る。
それに続いて、花月と雪野も蓮たちを追うのだがその時、ギギギギィという音が突如鳴り響き、雪野はその音のが聞こえてくる方向へ顔を向ける。
上を向くと――シャンデリアがぐらつき、そのまま走りかけていた雪野に向かって落下する。
「あ、うわっ!」
何だよ、これ……
その時、
「雪野さん、危ない!」
花月は雪野をふっ飛ばした。
その一瞬、雪野たちは光を失ったと同時に物凄い落下音が屋敷内に響きわたった。
外からの光があまり入ってこないこの部屋は今、真っ暗となり、花月は無事なのか雪野は心配になった。
「花月! 花月、大丈夫か?」
「雪野さん……はい。何とか……」
声がすぐ近くから聞こえてきてひとまず彼は安心した。
「よかった。それでどんな状態なんだ? 蓮、紀菜ちゃんも大丈夫?」
「ああ、俺は大丈夫だよ」
「私も無事よ、雪野くん」
「そうか……」
あと少し間違っていたら命が失われていたかもしれないこの状況に雪野は恐怖を感じた。
そんな彼にさらなる恐怖が襲い掛かる。
今さっき、すぐ近くの地面の方で花月の声は聞こえた。
「うう……」
「雪野さん、どうかしたんですか?」
だから、今、彼の足を掴むひんやりとした手も花月の者だとそう思いたかった。
「花月、今、俺の足に触れているのって花月の手だよね? そうだよね? そうだよって言ってよね。そうじゃないと、とても怖いんだけど……」
「え、違いますよ? 私は今、立ち上がったところですよ」
「それじゃあ、誰? 何? これぇえええええ!」
「雪野、落ち着いて!」
「どうしたのよ。いったい」
「雪野さん、今近くに寄りますから待っていてください!」
花月がそう言ったその時に、雪野は物凄い力で足を引っ張られて、バランスを崩す。
「え、うわ! 引っ張られる!」
倒れる瞬間、雪野は何かにぶつかるようにして倒れた。
「きゃあ!」
それはこちらに駆け寄ってきた花月だと分かり、雪野は安堵と驚きを感じながら転倒した。
「二人とも大丈夫、今、携帯出すからちょっと待ってて……」
蓮はその後、携帯を取り出しその明かりで雪野たちを照らす。
すると雪野は気づく。
視線に映る自分の下敷きになっている花月。
そして、そんな自分が花月の胸を手で触っている事実。
「あ、アア……」
またかよ。こんな展開……
雪野は心の中でそう思いながら、顔を青ざめた。
「ゆ、雪野さん……蓮さんたちが見ています……」
「分かっているよ! 見るな! 照らすな! 蓮!」
雪野は慌て起き上がる。
蓮はにやにやしながら、携帯の光を照らし続けている。
そして、そんな状況の中紀菜は言う。
「雪野くん、暗闇をいいことに花月ちゃんを襲うなんてなんて非道なの。この女の敵!」
そして、蓮もニコニコしたまま言った。
「いやー、雪野にそんな勇気があるとは思えなかったよ。すごいすご~い。暗闇でのあまりの怖さのゆえについに色情狂の本性を現したんだね」
「紀菜ちゃんは何か勘違いしているからやめてほしくて、蓮は絶対わざとあおっているのが、まる分かりでイラつくからもうやめろ!」
「雪野さん、そのー私は気にしていませんから大丈夫ですよ」
「そうか、花月。お前俺の下敷きになって大丈夫だったか……?」
「例え、雪野さん色情狂であったとしても、私はどんな雪野さんでも受け入れます。私は雪野さんの婚約者ですから!」
「違う、違うぞ! 変な勘違いしたまま、婚約者とかも言うな!」
「雪野、潔く認めちゃいなよ。花月ちゃんのあまりの美しさに目がくらんでつい襲ってしまったと」
「なんでそうなる! なにがくらんだって、暗闇で何も見えなかっただろ! 俺はただ転んだだけだ!」
「ほうほう、あくまでそう言い張るわけか。雪野、往生際が悪いぞ」
「ほんと最低!」
「雪野さん……」
そんなことを言う蓮たちに雪野は声を荒げた。
「そもそも、俺は何かに足を引っ張られて倒れたんだけど! そこを勘違いして変な方向に話を進めるな、みんな!」
「それほんと? 雪野?」
「本当だよ。このままこんな場所にいたら命が危ないだろ絶対。どうにかして出られないのかよ、蓮。俺もうこんな場所やだよ! あー早く出たい早く出たい早く出たい早く出たい……」
おどろおどろしく雪野は言葉を連ねる。
「雪野さん大丈夫です。私が今のように守ってあげます。だから……」
「今のようにって、今危うくお前までこれの下敷きになるところだっただろ。守ってくれるのはうれしいけど、そんなんじゃありがた迷惑だ。お前は自分のことだけ考えて行動しよ」
雪野はシャンデリアを指さしながら、花月に言った。
「でも、私がいなければ雪野さんは下敷きになって死んでいたかもしれないんですよ」
「俺はどうせ死なないんだからいいんだよ」
今、そっぽを向いている雪野が発した言葉に、花月は怒って言った。
「いいわけないじゃないですか!」
「あー、うるさい。俺がいいって言ってんだからいいんだよ」
「雪野さん!」
二人の雰囲気は次第に悪くなっていく。
それを見かねた紀菜は声をかける。
「ちょっと、二人とも落ち着いて!」
雪野はそんなことはかまわず続けた。
「あー、だから、分かっているよ。お前が言いたいことも……だから、俺が言いたいことは……」
次に彼は考えるようにしてこうはなった。
「俺のために、そんなことして死なれてしまったら俺が苦しくなるだろうが! だからやめろ!」
「雪野さん……そう思ってくれていたんですね。私、気がつかなくてごめんなさい」
「べ、別に謝ることないだろ。俺も言い過ぎた! 悪かった!」
喧嘩になりかけた二人はあっさりとすぐに仲直りする。
そこで蓮は言った。
「雪野、今回の任務は危険かもしれない。視界も悪いし、頼りになる季流さんもいない。でも、雪野それでも俺たちはいかなきゃいけないよ。それが祓い屋である俺たちの今回の任務だから。季流さんの期待を裏切らないためにも頑張ろう」
「そうね。どんな任務でも引き受けた以上はやりとげるわ」
「それに俺たちなら、このメンバーなら、俺は何でもできてしまうと思うんだ。雪野、それには君の力も必要不可欠だ。そのことを踏まえて君にはもう少し頑張ってほしい」
「蓮……」
「いろんな意味で怖いと思うけど、我慢してね。花月ちゃんだけじゃなく、俺たちも雪野を全力で守るから、大丈夫だからね」
「分かったよ。そこまでいうんだったら、身を預ける。それと俺にできることがあったらやるよ」
「雪野……ありがとう。そう言ってくれてうれしいよ」
「ああ」
こうして、雪野たちは蓮と紀菜が持つ携帯電話で当たりを照らし視界に【変物】はいないか確かめながら、一階の部屋をまわって言った。
今回はお互いに離れられないため、雪野は走り回ったりはしなかった。
その代り人形を取り出して、その人形につけられている小刀を手に持った。
その二つのもので雪野は【変物】と対峙した。
蓮と紀菜はお互いに携帯の光を反対に持ちながら、全体を見えるようにして、いつものように戦っていく。
「蓮くん、下の方に一体いるわ。それと上の方にも」
「はい、今攻撃するよ。それ、それ!」
蓮が放った《破力》によって、黒い塊のような【化け物】は消えた。
その後も、蓮たちの活躍により次々に【変物】たちは撃退されていく。
一方の花月は、バリアを張って自分の身を守って、雪野たちの事を静かに見守っていた。
こうして、一階の部屋をすべて回った後、蓮は言った。
「いたって普通の【変物】だらけだったね。一階は」
「そうね。このまま二階もザコばかりがいいのだけれど」
蓮を先頭に中央にある二階へと続く階段を上がっていく雪野たち。
その時、雪野はすっかり油断していた。
階段をのぼる途中、一瞬寒気がした雪野は下の階を見下ろすように振り返った。
そこには何もなく、進もうとした雪野であったがその瞬間、誰かに押されたような圧迫が背中に伝う。
「え……」
バランスを崩した雪野はそのまま一階へと転がり落ちる。
「うわぁああああああああ!」
彼の悲鳴を聞いてすぐ花月たちは振り返った。
「雪野さん!」
「雪野!」
「雪野くん!」
彼らのそんな声をききつつ、雪野は気を失った。
下の方で力なく雪野は倒れている。
「いやぁああああああ! 雪野さん! 雪野さん!」
花月は雪野が階段から落ちたというそんな光景に悲鳴をあげた。




