003 屋敷の前で
洋風な大きな屋敷。
その古い屋敷には美しい物がたくさん集められていた。
そこには身寄りがない一人の老人が住んでいたそうだが、先月亡くなり彼が趣味で集めていた骨董品、宝石などの財宝が今も手の出しようがなく家に残っているようだ。
そしてひとたびその広い敷地に入るようなら誰であろうと容赦はしないとでもいうように事故が多発して起こった。
そう、ポルターガイストが起こるそうで、近所にも有名になっていた。
すでに怪我人も出ている。
「だ、そうだよ。雪野」
蓮は一枚の任務表を読みあげて、そう言ってくる。
「そうなの? へー、そうなんだ。へー……」
「雪野、聞いてる?」
「聞きたくない聞きたくない。そして行きたくない行きたくない!」
雪野は耳を押えながら喚く。
雪野たち四人は蓮が今、口頭で喋った屋敷の前に立っていた。
柵や塀のついた外観に人の手が付けられていなかったせいか草木が伸び放題の荒れ地になっていた。
そんな場所に任務にやってきた雪野は気乗りしない様子で自分の身を案ずるのであった。
「こんな場所、絶対出るって感じじゃんかよ。てか、でるんだよね?」
「うん、でるよ。絶対この内容だと何らかの【変物】の仕業だって。もしかしたら【幽霊】かもしれないね」
蓮はあっさりとそう言う。
「俺、【霊】とかダメなんだよ。それなのに……こんな場所絶対やだ!」
「あなたはまたそうやって、まるで子供じゃない。みっともない」
「ほら、紀菜ちゃんにもああ言われちゃっているよ」
「雪野さん、がんばりましょう。私もついていますから!」
花月は雪野を守ろうと、やる気満々の様子で立っていた。
「お前は自分で自分の事、守れるだろう。俺にはそれができないから怖いんだよ」
「大丈夫です。私がこの前のように雪野さんを守ります! 任せておいてください!」
この前とは旅館へ行った時のことだ。
花月は雪野を抱きしめながらギリギリ入るくらいのバリアを張り、彼を守った。
「それも嫌なんですよ。花月さん。あれはやめろ! まじで……」
「えー」
「雪野、いいじゃん。なんか面白そうだし。それだけ花月ちゃんが雪野の事を大切に思っている証なんだし。もうちょっと彼女にゆだねてみたら? あはは~」
「なんか面白そうってお前……」
雪野は半眼で蓮を睨む。
「私はあまりああいうのはよくないと思うわ」
「それはなんでかなー、紀菜ちゃん?」
紀菜は蓮に言われ顔を赤らめながら答えた。
「あんなこと……人前でなんてハレンチな。それに雪野くんがつけあがるわ。あれじゃあ、ますます彼が間抜けに見えるわよ」
つけあがる?
その言葉がよけいな気がするがそれは今はスルーして、雪野は紀菜に返す。
「それは俺も同意見だよ。紀菜ちゃん。だからやめてほしいんだ! ああいうの!」
すると、
「あなたがいつまでも、一歩もここから動こうとせず、ぎゃあぎゃあ騒ぐのもやめてほしいんだけど」
そう言われてしまう。
それに雪野は眉をよせながら答えた。
「それはごめん、紀菜ちゃん。でも本当にどうしようもないんだよ。だって今日はお兄さん、いないじゃないかぁー」
雪野は今朝の出来事を思い出す……
いつもの様に花月や今日はなぜか木崎家に乗り込んでくる蓮や紀菜の面々に起こされた。
雪野はそこに季流の姿がある事に気づき、お互いに視線が合うなり彼はこう言ってくる。
「雪野くん。あなたに伝えておく事があります。これからの任務はしばらく蓮くんと紀菜さんと花月の三人で協力してやってください」
「へ……」
雪野はポカーンと季流をしばらく見ていた。
「ちゃんと聞いていますか? もう一度言いますが、しばらくの任務では私はいませんのでそのつもりで蓮くんや紀菜さんと一緒に任務に出かけてください」
「え……どうしてですか? いきなり」
寝起きの雪野は季流が言っている事をやっと理解し、そう聞いた。
「これは雪野くんに、蓮くんたちと共に任務をさせた時から決めていました。あなた方ももう大人の仲間いりする時期にはいってきています。ですから、やがてのことも考えて私はあなた方にあるプランをあたえることにしました。まずは今から十七日間私が任務から帰るまでの間、実践してみてください」
「え、お兄さんしばらく帰らないんですか?」
「はい、皆さんが頑張っている間、私も各地への任務を[JHSA]の方で頼まれまして」
「そうなんですか。でもお兄さん、自分達だけで任務とかちょっと不安なんですけど。というか、任務自体行きたくないんですけど」
「雪野くん、私は雪野くんたちが無事に任務を遂行できると信じて任せました。ですから、私の期待を裏切らないでください。なに、任務は全部あなた方にもできる簡単なものばかりです。ですから安心して、怪奇任務に行ってきてくださいね」
と季流はめんどくさいというか、淡々ととんでもない事を口走り部屋から出て行った。
そして……季流の発言を思い出して雪野は思うのだ。
「いざという時の助けがないと思うと、何か不安じゃん。もし何かあったらどうするんだよ」
「そうだね。初めての事で怖いよね、雪野。分かるよその気持ち。すっごい分かる」
「蓮……」
蓮は雪野の肩に手をやって、なだめる。
彼の、すっごい分かると言った部分が嘘っぽく感じるのは俺の気のせいだろうか?
「ちょっと蓮くん、そうやって雪野くんを甘やかさない」
蓮は紀菜ちゃんの言葉を聞きつつその後、続ける。
「でも雪野、季流さんは言っていたよね。もし雪野が任務を放棄するようなそぶりを見せるなら……季流さんが帰った後、今まで経験したことのないお仕置きが待っています、って」
一瞬、季流がそう言っている光景が頭に浮かぶ。
その瞬間、雪野の体は凍りつくように、恐ろしすぎて身震いした。
「ちょっと、怖いこと言うなよな! まさか蓮は俺が少しでも怠けたら季流お兄さんにそのこと言うんじゃないだろうな?」
「ん? 仕方がないよね。だって雪野の事は俺と紀菜ちゃんで頼まれているんだもん。だからね、雪野。雪野の気持ちは分かってあげることはできても、このまま雪野が動こうとしなければ、俺はこのことを季流さんに電話して、彼に来てもらわなくてはいけなくなるんだよね~」
蓮は携帯を取り出すと、雪野に見せながら季流へと繋がる電話のボタンを押そうとする。
それに、雪野は慌てる。
「分かった。ちょっと待って! 今は心の準備してるというか、行く気はあるから! だからお兄さんに電話するのだけはやめて、お願いします! 蓮さま」
「そうなの、雪野? いく気はあるんだ」
「ああ、ありますとも!」
「じゃあ、あと十秒数える間に動き出してよね。任務の予定もつまっているんだから、こんな所でいつまでじっとしている訳にもいかないんだ」
「そ、そんな。ムリ! ムリだって!」
「いーち!」
雪野は目の前に見える屋敷の中へと繋がる正面の大きな扉を見やる。
「って、蓮、本当に行かないとだめ?」
「にーい。さーん」
「本気でお兄さんに言うつもりじゃないよね、ねー」
「しー、ごー、ろーく、しーち」
「分かった、分かった。行くから!」
「はーち、きゅーう」
「でも先頭は嫌だから蓮たちが先に入ってよね。俺は後についていくから!」
「じゅーう」
雪野が言い終わるのとほぼ同時に蓮の言葉は十に達した。
「ほんと、雪野? それならいけるんだね。よかった」
「蓮くん、容赦ないわね」
「何、紀菜ちゃん。なにか言った?」
「なんでもないわ」
そんな彼らのやり取りを花月は静かに見守っている。
そして蓮は言った。
「では行こうか? 俺が先頭でいくから、みんな安心してね」
「はい。蓮さん。ありがとうございます」
花月はそう言った後、蓮は動き出した。
それに紀菜も動き出す。
「雪野さん、さあ行きましょう。安心してください。雪野さんは私が守りますよ」
「だからって、また抱きしめるのはなしね。お前は自分の身だけ守っておけ」
「はい、雪野さん。雪野さんが私の心配をしてくれてうれしいです」
「あ、ああ……」
どんどん遠ざかる蓮たち、雪野はそこで覚悟を決める。
そして動き出した。
「待って! ここに一人にされるのもなんか、やだ!」
こうして雪野たちは屋敷の中へ入った。




