001 [JHSA]の偉い人
[JHSA]中部支部でのこと。
季流はある一室で、モニター上で明慎と話していた。
「で、あれからどうよ。雪野くんたちの様子は?」
「腹立たしいですが、あなたのおかげと言ったらいいんでしょうか。いい感じですね。雪野くんも過去の事を明かして以来、落ち着いて彼らと向き合えているようですし」
彼は今、任務前という事で和服を着こんでいた。
「それで、お前は今回これを頼んだわけか?」
「はい。彼らももう大人みたいなものですから大丈夫でしょう」
「そうだが、普通はそんな早くに……」
「明慎、私はもう決めました。例え困難が待ちかまえようともあの子たちはきっと助け合って、解決できますよ。私はそう信じています」
「そうか。一番近くであの子らを見てきたお前が言うんだったら信用するが、あの子たちはお前とは違う事だけは頭に入れておけよ」
「はいはい、分かっていますよ。彼らもそれなりに強いですよ。だから大丈夫。あとはチームワークですかね。これからあの四人が共に任務をするにあたってそれは絶対に不可欠です。私は今回のプランであの子たちに経験値を上げてほしいんです」
「そうか。お前も相変わらずの一人任務がんばれよ」
「はい。言われなくても頑張りますよ」
「お前の任務表は俺が考えたが、あの子たちのは、そっちの支部長さんに頼んでおいたから、この後、彼の元に行って取りに行くように」
「はい、それでは、行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
季流は自分用の任務表を手に持ち部屋を後にして、その後廊下をわたる。
向かう場所はこの[JHSA]中部支部の一番偉い人、椿清繁のところだ。
その時、織色舞にばたりと会う。
彼女はいつものようにさわやかな笑顔で話しかけてくる。
「あ、季流さん、明慎さんとの話は終わったんですか?」
「はい。今から任務表を取りにこちらの上司に会いに行くんですよ」
「そうなんですか」
「花里さんは仕事中ですか?」
「はい。今この書類を会議室まで届けにいくところなんですよ」
「そうなんですね。途中まで一緒に行きますか?」
「え、いいんですか?」
驚いた様子でそう慌てふためく、舞。
季流はそれに気づいてはいるがあえて聞かずそのまま言った。
「はい。いいですよ」
「そうですか……では行きましょうか」
「はい」
この後、二人は話すことはなく、会議室まで来た――
その間、舞は顔を赤らめながら、季流と二人きりの状況に嬉しく思っていた。
「では、これで失礼しますね」
「はい。お疲れ様です」
季流が去っていく姿を見届けていた舞は、心の中でこう思っていた。
もう少しだけ二人きりになっていたかったな~。
あーだめよ、自分。
仕事に支障を来たしちゃ。
今は仕事中。
今は季流さんと二人きりになれたことは家に帰ったら思いっきり喜ぼう。
よし!
「失礼します」
舞は気を取り直して会議室へと入っていった。
舞と別れた後、季流は最上階までエレベーターで上がり一番奥の部屋へと来た。
そして、ドアを二回たたく。
「すみません、夏川季流です。入ってもよろしいですか」
すると、声がドアの向こう側から聞こえてくる。
「ああ、入りたまえ。季流くん」
「失礼します」
季流が中に入るとそこには、ハートが入った柄の変なTシャツをきた、まるで国民的アニメサザエさんの波平のような頭をしたメガネをかけたおっさんが立っていた。
だが、その波平は決してアニメのように怖くもないし威厳もない。
だから、その姿を見て季流は、季流は……
「う……あはははははははは!」
つい笑ってしまう。
笑いを抑える事ができなかった。
それに、目の前の波平は言った。
「ちょっと、季流くん。人の顔見て毎回、笑うのはやめてくれないかねぇ。これでも一応、君の上司なんだからね」
「仕方がないですよ。ツバキヨさん。そんな格好でそんな顔しているんだから……あ、直視できませんね。また笑ってしまいそうです」
「そのツバキヨっていうのもどうなのかね。みんな呼んでくるけど……」
「それだけ気安く接しやすいんでしょう、あなたは。そのかっこうからして……全く信頼されないよりはいい事ですよ」
また笑いそうになるのをこらえて季流は言った。
「そうなのかもしれないけど、でもね……」
季流は椿清繁の言葉をさえぎって言った。
「あ、そんな事より、未成年四人の任務表はできているでしょうか。本部の明慎があなたに頼んだと言っていたんですが」
「あ、それですが、ちゃんと用意しておきました」
椿清繁は机の上の紙束を取り上げると、季流へと渡した。
「はい。それだよ」
「わざわざ、準備ありがとうございます」
椿清繁は髪の薄い髪ポリポリかきながら次ぐにこう言った
「季流くん、君の事は明慎さんに頼まれてはいるんだが」
「え、どんな風に?」
季流はその瞬間とても嫌そうな顔で眉を寄せた。
「その君はあまりにも任務に出過ぎで多忙だ。そんな中で未成年の子たちを教育しているそうじゃないか」
「教育と言えば教育なんですかね。自分的にはただ、彼らの力をより引き出そうと、自分の身ぐらい自分で守れるようにしているだけに過ぎないんですが」
「君は本当に自分でも知らないうちに、人の役に立とうとしているみたいだ」
そんなことを言うツバキヨに季流は、慌ててこう言葉をかける。
「いやいや、そんなんじゃありませんよ」
「じゃあ君はなぜそこまで、任務にこだわり続けているんですか? あなたはこれまで任務に積極的に取り組んできた。[JHSA]一番の祓い屋の一人と呼ばれるまでに」
「私はただ自分のためですよ。いつだってそうです。自分のためだけに私は動いてきました。今回のこのプランだって彼らのためだと言って、結局は自分のためなんですから」
「そうですか。何か事情でもあるんですか?」
「その事情は、誰にも話せませんね」
季流はにこっと、笑って返した。
そして、
「では、これで失礼します」
踵反し、窓の戸を開けようとする。
「ああ、行ってらっしゃい。季流くん。君の無事を祈るよ。それから君の教え子にも」
「はい、では行ってきますね。ツバキヨさん」
こうして、季流は[JHSA]を後にした。




