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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第四章 闇からの手招き
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004 雪野の秘密

そこは湯いのが寝かされている部屋とよく似ている、花月、紀菜、そして春夢が宿泊する部屋だった。

 そこで雪野以外のメンバーが集まり並べた机の元につき食事をとっていた。

「クロに魚をくれニャ! その大きな刺身がいいニャ」

「いいよ。はいクロ。俺の分あげる」

「蓮、ありがとニャ」

「シロは何でもいいですニャン」

「シロにも刺身あげるわよ。はい」

「ありがとうございますニャン、紀菜さん」

「はいはいはい! 春夢もあげるよ。刺身」

「やったニャ」

「感謝しますニャン」

「春夢、好き嫌いはダメですよ」

「えー、苦手だよ、刺身は」

「じゃあ、一口でいいから食べなさい」

「はーい。それくらいなら我慢して食べられるよ」

 春夢ははしを止めながらもぱくりと刺身を食べた。

「春夢、食べたよ。刺身。えらい、えらい?」

「よしよし、春夢は偉いですね。よく食べられました。ご褒美として春夢にエビフライをあげましょう」

「わーい。季流お兄ちゃん、ありがとう」

 そんな声が部屋中に響いてきて皆が食事を楽しむ中、花月は雪野の事が心配で仕方がなかった。それと同時に、それだけ食事が黙々と無意識に進んでいく。

「お、花月ちゃん、意外と豪快に食べるね……」

「というか、この量……何人前あるのかしら……?」

 二人の疑問に季流が答える。

「花月の分は三人前用意しておきました。実は花月はとっても大食いなんですよ」

「そうなんですか?」

「意外だわ。そんな華奢な体格をしているのに……よく太らないわね」

 紀菜は花月をまじまじと見つめていた。

「うちの祖父も大食いなんですが、彼も花月と同じ能力の持ち主で怪力な分エネルギーが必要になるためいっぱい食べるんじゃないかと私は考えています」

「そうなんですか。そういえば花月ちゃんの能力って《怪力》と《治癒》と《結界》でしたよね?」

「はい。そうです。正確には二つの力を持っていることになりますが……うち家系では、《強身治癒》と《超結界》という名前で力の区分がされています」

「へー」

「たくさんの能力があっていいわね。花月ちゃん」

 紀菜に話しかけられた事により、花月は一端手を止めた。

「いえ、力があってもどれも私にはまだ使えこなせなくて、いざというときに自分の身しか守れません。本当は雪野さんを守るだけの力がほしいのに私は役立たずです。力になってあげられません」

「花月ちゃん、そんな事ないよ。今は力を使う事が不慣れでもやがて使える様になるかもしれないよ」

「そうよ。花月ちゃんは役立たずなんかではないわ。雪野くんの事を大切に思っている。それだけで、雪野くんは幸せなはずだから。そんなこと気にしないでいいわよ」

「二人の言う通りです。花月は女の子なんですから、雪野くんを守ったりなんかしなくていいんですよ。むしろ守られるべきです」

「いいえ、お兄さま。これだけは譲れません。雪野さんは私が守ってあげるんです! それが婚約者である私の役目です!」

 何のためらいもなくそう言いきれてしまう花月に周りは茫然とした。

「そうですか」

「はい、そうです!」

食事のさなか雪野の事を思っていた花月は、季流にこう聞いた。

「そういえばお兄さま、雪野さんを一人にして大丈夫なんでしょうか? 先ほどの白い腕の事もあるし、また襲ってくるのでは? それに……」

 また悪夢を見るのでは……

「結界石をおいている以上、【変物】が入ってくることはよっぽどでない限りないと思いますが……」

「花月ちゃんは、本当に雪野の事よく心配しているよね」

「はい。雪野さんは私の婚約者なので当然です」

 いつものように花月は当たり前だと言うようにそう言った。

「へ~婚約者か……雪野もそんな花月ちゃんがいて幸せ者だなぁ」

「その本人は婚約の事はあまり乗り気じゃないみたいだけどね。本当に雪野くんはダメね」

 紀菜の言葉の後、季流はこう不満げに口を開いた。

「私だって、二人の婚約は認めていませんよ。ただ花月と共に夏川家を出る口実に仕方なく、雪野くんを婚約者にしたてたんですよね。それがあの時、仕方なかったんですけど……」

「そうなんですか。何だかいろいろありそうですねー」

「その時も、雪野くんは嫌がったんですけどね。無理やり……」

 そんなかい足掻繰り広げられる中、花月は食事さえ止め雪野の事を考えていた。

 お兄さまは気づいていないのでしょうか、外はもう日が落ちていているのに……

いつも雪野さんの悪夢はこんな暗闇の中で起こるというのに……

季流の話の途中であったが、花月はそれをさえぎるようにその場で立ち上がった。

「お兄さま! 私、ちょっとだけ雪野さんの様子を見に行ってきます」

「そうですか。廊下に出た時は気を付けてくださいね。まだ、【変物】がいるかもしれないから」

「はい。それでは行ってきます」

 花月は動き出し、季流たちがいる部屋を後にする。

 そして廊下をほんの少し警戒しながら通り、すぐ隣の雪野の部屋へと入った。

「雪野さん……」

 まだ眠っていると思い小声で声をかけてみたもだが……花月は雪野の姿をみて顔をひきつらせた。

「ああ……雪野さん!」

「うう、うわあああ、ああああああああ!」

近くに寄らなくても分かる程に雪野は苦しげにうなされていて、花月は戸惑いながらも傍により言葉をかけた。

「雪野さん!? 大丈夫ですか、雪野さん、雪野さん!」

 やはり、また悪夢を見てしまったのだろうか?

 かわいそう……いつも、どうして雪野さんだけが……

 花月は雪野を想い抱きしめる。

「やだ、やだやだやだやだ!」

 それは子供のような彼の癖でもある悲痛。

 それを聞きながら花月は、自身も心を痛める。

 雪野の様々な過去や苦しみを知っている彼女は、彼を強く思いながら抱きしめる。

 そういう事しかできなかった。いつも……

後は、苦しむ彼が安らぐような言葉をかけたりしかできなかった。

「大丈夫、大丈夫ですよ。雪野さん。私がここにいます。どうか目覚めてください。現実に戻ってきてください。そこにはきっとほっとするあなたの居場所がありますから」

「うう、うわぁああぁ! やぁあ! あぁあああああ!」

 そんな花月の想いと裏腹に雪野の夢はより深みへと落ちていくようで……

 それでも花月は、雪野を強く抱きしめすぎないように、傷つけてしまわないようにそっと抱きしめ続けていた。彼の走る鼓動が緩まるようにと祈って抱きしめていた。


「花月ちゃん、遅いですね。もう最後の一品のおやつがきちゃいましたよ」

「少し様子を見に行きましょうか」

 蓮の言葉に少し気にかかり季流は立ち上がった。

 すると、蓮と紀菜も腰を上げてこう言ってくる。

「俺たちも行きますよ」

「もし、何かがあったんなら、私たちもいた方がいいでしょ」

 何かある……

 雪野くんが絡むと必ず何かが起こる節はある。

 それは彼が人形に選ばれたせいでもあり、彼が木崎家に生まれてしまった事がそもそもの始まりかもしれない……

 波乱万丈ともいえる彼の今までは辛い事の方がよっぽど多いのだろう。

それ故に、この状況から逃れることができないために彼は人と距離を置きたがり、一人で苦しみ続けようとするのだ。

それを見ている花月はも自分も、そして二人も、決して雪野の事を拒む事も放っておくことはできない。でもその周りの想いが彼の恐怖心を掻き立てているという事も知っている。

今の状況では、自分もどうしたらいいのかは分からないのだ。それはたぶん一生……

「そうですね。それじゃあ、春夢は……ちょっとの間、クロとシロと一緒に食べていてくださいね」

 春夢はまだ子供のためか次々に運ばれてくる料理にはしが追いつけておらず、まだ半分の食事も食べきれていなかった。

「うん。その間に食べ終えて見せるからね」

「頑張れ~、春夢ちゃん」

「うん。蓮お兄ちゃん、がんばるよー」

 春夢はむしゃむしゃと料理を食べていく。

「春夢、そんなにいそがなくていいですから、せっかくなので味わって食べなさい」

「はーい、季流お兄ちゃん」

 春夢を一人にするのは雪野を一人にするよりも気が引けたが、結界石をこの部屋にも置いておいたため、心配ないだろうと季流は思った。

「では、いきますね」

 そう言って、季流たちは廊下を出て、雪野たちがいる部屋へと入った。

 入った瞬間、花月が雪野を抱きしめているという光景が目に入ってきて、蓮と紀菜はあわあわと戸惑いを見せていた。

「えっと、ごめんね。なんか雪野とそういうことしているとは思わなくて、俺ら気が利かなかったね~」

「花月ちゃん、あなた何しているの? あれほど雪野くんに近づいたらいけないっていって……」

 季流は紀菜の言葉をさえぎって言った。

「違いますよ、二人とも……」

 やはり、いつもの様にこの状況は起きてしまう。

 どの道、隠そうとしたって二人には知られてしまいますよ、雪野くん……

 それならいっそ全て話してしまった方が辛くはないんじゃないんですか……

「花月は、雪野くんを癒しているんです」

『え……』

 その途端、花月の腕の中にいた雪野は声をあげて呻きだす。

「うう、いやだぁああああああ! こんなのもういやだぁああああああああ!」

「雪野……?」

「雪野くん……?」

蓮と紀菜は呟いた。

「季流さん、これはどうなっているんですか? 雪野はいったい……」

「雪野くんは、悪夢を見ているんです」

「悪夢、それは白い腕のせいですか?」

「いえ、おそらくいつもの様に人形のせいでしょうね」

「人形は雪野に悪夢を見せるんですか?」

「はい。ここ数年、彼を悩ませている呪いでもあります」

「雪野は一言もそんなこと……」

 蓮は紀菜と顔を見合わせた。

「雪野くんは言えなかったんでしょうね。家での自分の扱われ方も、人形の事も、過去にあったいくつもの悲劇も。なんせ強がりで小心者ですから。そして人に嫌われる事を人一倍恐れている子です」

 季流は今も悲鳴や嘆き声をあげている雪野を見て、ためらいつつもそう伝えた。

「それは分かります。雪野は友達がいらないって最初は言っていて、一人で人形の呪いに対して抱え込んでいました。でも本当はそんなこと望んでいなかった。だから彼は俺たちの仲間になることを選んだ」

「はいそれは知っています。あの頃の雪野くんは、あなたたち二人に支えられていた事でしょうね。あの時すでに彼にとってすべての過去の出来事は、心の傷に触れる物ばかりのはずですから……」

「それはどういう事ですか? 俺たちが傍にいた時も雪野は何か辛い目にあっていたんですか?」

「おそらくそうでしょう。家での彼は……いえ、これは雪野くんが自分で話さなくてはいけない事ですね」

「季流さん、あなたなら雪野の過去を知っているんでしょ。〈あの日〉雪野の誕生日の日に何があったのか教えてくれませんか?」

「それは……」

季流はちらっと雪野の腕を見てそこでやっとあることに気づいた。

「二人とも雪野くんの腕を見てみてください」

「え、腕?」

 二人は雪野の腕を見て、先ほどよりも腕の痣が赤みを帯びていることに気づく。

「どういうこと? 腕の腫れが昼よりも増している」

 季流は紀菜の問いに答えた。

「どうやら、一種の呪いみたいなものでしょうか?」

「呪い? お兄さまそれはいったい……」

 雪野を抱えている花月がそう聞くと、季流はそっと答えた。

「このままだと雪野くんは、一度死にます」

「え……雪野さんが死ぬ? そんな……」

 花月は驚愕し、その顔は悲そうに満ちていた。

「腕を掴まれた時刻から半日、あと一時間ほどですかね」

「一時間それは……?」

 蓮が聞いた。

「雪野くんが亡くなるまでのタイムリミットです」

「そんな、雪野が死ぬ……」

「そんな事って……」

「……」

 花月は黙ったまま、雪野の胸に顔をうずめるようにして抱きしめた。

 そんな彼のうなされる声はその瞬間また一段と強く響いたのだった。

「わあああああぁあああああああ!」

 そんなうなりを聞いて、顔を歪める紀菜と蓮は聞き返してくる。

「何か、雪野くんを助ける方法はないの!」

「季流さん、雪野が助かるなら俺何でもしますよ。何かないんですか?」

「一つだけ手があります。元凶である白い腕を滅することができれば呪いを止められるかもしれません」

 季流は二人を安心するようにある言葉を発した。

それは彼の秘密の一部でもあるのだろう昔、、実際に見た現象についてだった。

「大丈夫ですよ。皆さん。雪野くんは決して死ぬことはありませんから」

「何言っているのよ。今死ぬって言ったじゃない」

「いえ、彼には人形の呪いを受け持つと同時に人形に命を守られています。彼は死ぬ事ができないんですよ」

「お兄さま!」

 花月は、それ以上は言ってはいけないという顔を季流に向けた。

「まるで、一度死んだみたいな口ぶりだけど……それって……」

「季流さん、それも雪野の秘密に関わって来る事ですか?」

 蓮の質問に季流はこう返す。

「あなた方には、話しておきましょうか。雪野くんにこれから関わるにあたって知っておかなくてはいけないことがあなた方二人にはあります。彼の事を大事に思うあなた方なら彼をきっと受け入れてくれると私は信じています。さあ前置きはしておきました。二人とも雪野くんの過去について話しを聞きますか? それとも聞かないでおきますか?」

 二人は黙り込み、また顔を見合わせた。

 そして……

「私は……聞きたい。雪野くんにどんな過去があろうと他人の事なんてどうでもいいと思うはずよ。それでもいいなら聞いてあげる。あなたの話を」

 紀菜は強気な態度でそう言った。

 そして、そんな彼女を見て蓮は決めたらしい。

「俺も、雪野の過去の話が聞きたい。このまま友達なのに何も知らないで、何も力になってあげられないなんて、そんなの友達としていやだよ。だから聞きたい。季流さん、話を聞かせてください。〈あの日〉雪野に、何があったんですか?」

「分かりました。話しましょう」

 蓮と紀菜は真剣な様子で季流へと耳を傾けた。

「雪野くんは、〈あの日〉……トラックにはねられたあの時に死んでいます」

 二人は突拍子もない事実を知り、黙り込んだ。

「そして、〈あの日〉は三度目でした。彼は今までに三度死んでいるんです。そして三度生き返っています……」

 立て続けに異様な真実を聞いた蓮は、雪野の家での事を思い出した様子でこうもらした。

「それで……雪野はすでにいない者か……」

「それって、雪野くんの家に行った時に彼のお母さんやお爺さんが言っていた……」

 蓮は静かに頷いき、そこで季流は二人へと続けた。

「古い風習のようなもので、彼は本来死んだ者、【変物】世界の者と判断され、周りから無視されるようになりました。彼とは決して関わりあってはいけない、そんなバカげた事をみんな守っていたんです」

 季流はその後、話の本題に入っていく。

 それは〈(あか)ノ(の)()ノ(の)悲劇(ひげき)〉と呼ばれた雪野の誕生日の日に起こった出来事だった。

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