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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第三章 再会の春、告げる桜
53/141

013 葉月と出会った冬の日に

 凍える様な寒さの中、歩いた冬の季節。

雪が降り積もる日本の土地を父と共に季流は訪れた。

「父さん、ここがお父さんの育った国なんだね」

「ああ。そうだよ。今は雪がふる季節らしいね。あの国と同じように寒いなぁ~」

「うん。寒いね」

 一面に広がる雪景色の上に立ち、会話した。

そして、父の後についていき、遠くに見える葉のない木々の道を進んでいく。

「少し、歩くけど頑張ってついてきてね。どうしても歩けなくなったらおぶってあげるから」

「大丈夫だよ、父さん。僕、ちゃんとついていけるよ」

「そうか。いい子だね。季流」

 そう言って、父は僕の頭を撫でた。

「あははは、父さん。それよりも今、向かっている所って?」

 そう問いかける季流に、草路は少しだけ頼りなさげな、面持ちをみせて伝えた。

「今から行くところは、僕の実家だよ。きっと、僕たちの事は助けてくれるはずだよ」

「父さん、そこはいいところ? それとも悪いところ?」

「季流……きっと大丈夫だよ。何とかなる。季流は僕が守るからね。だから何も心配する事はないよ」

 返ってきた言葉はあいまいなもので、そして父の深刻な顔を見てしまうと、どうもあまりいい所ではないのだと分かってしまう。不安でたまらなかった。

「うん……」

 季流はそれでもそこへ向かう事を止めはしなかった。

 今の自分には父しかいない。

 今から向かう所がどんな場所であっても、自分はただ父について行けばいいのだ。

 そう、そこがどんなに嫌な場所であったとしても。

 子供の自分には一人で生きていけるすべなどないのだから。


 夏川家に来て思ったこと。

それは……

周りの大人たちは冷たかった。

自分の姿を見るなり、まず自身の金髪を見てそれから瞳を見て、珍しがる。

それは使用人という人たちの声。

「あれが、そうなんだね」

「そう、そう」

「あの髪、あの目、ここでは特に目立つわよね」

「異質だわ」

 何となく、悪口を言われていることは分かる。

 それを聞き、季流は廊下を歩く父の横顔を覗く。

 父は眉をよせながら、こちらの視線に気づくとこう言った。

「大丈夫、みんな季流が気になっているようだね。人気者だよ」

「そうなの……?」

「ああ」

 そう言ってはいるが、それは違う事は分かっている。

 僕が何かを言われるのはよかった。

 でも周りは父に対して特に冷たい。

 今、季流たちは夏川家の本家、菊ノ亭という所から分家の紅葉亭に向かう途中だった。

 季流は先ほどまで行われていた、夏川家の一族の話し合いの後のことを思い出した。

 それは自分のこと、父の事について、そして今までとこれからについての話であった。

父は、この夏川家という所で非難の声を皆から受けた。

 話し合いの後、背の高い男の人が父をバカにして言い放った。

「お前、これから夏川家から出られないな。まあ、当然か。勝手に夏川家から飛び出して、それはまだよいとして、そんな外国人との子供作ってきたんだ。こんだけの罪ですむなんて、軽いものだ。普通だったら、お前は監禁だな。アハハハハ!」

 そして、髪の短い女の人が憐みの表情で言葉を返した。

「まあ、こいつのいう事はともかく、当然の結果だな。このおろかな弟よ。まったく困ったものだ。昔からお前は……」

 その言葉の後、背の高い男は季流の方を指さして言った。

「お前は愚かだ。馬鹿だ。その子供がその証だ」

 父を見下しているこの男に季流は不快感に襲われていた。

 それでも父は、へらへらと自嘲気味に笑った。

「何を言われてもいいよ。僕はそれだけの事をしたからね。でも、それに関しては何も後悔はしていない。夏川家を出たこともこの子を生んだことも、全て僕の、僕たちの決断だった。この子は愚かな証なんかじゃない。この子は僕たちの幸せの証なんだ。そのことだけは理解してくれますか?」

「ふん。何にせよ、お前のこれからの人生は終わりだな。永遠に夏川家に中で見張られていろ!」

「お前がこんな結果で満足いくのなら、私はもう何も言わないよ。またな草路」

 そう告げて二人はその場から去った。

 そんな事があった……

「父さん……」

 心配げに季流は父の方を見上げた。

「季流、お前は何も心配する必要はないよ。今からお前の新しい家族の元へと帰ろう」

「うん……」

 なんだか悲しかった。

 自分に向けられる周りの視線。

 そして父に向けられる侮蔑の目。

 自分達は何もしていないのに、何故こんな風に見られたり言葉を吐かれたりするんだろう? なんで?

 その後、父と共に紅葉亭という所に来た。

「これから、ここがお前の住む家だよ。しばらくは何も分からないと思うけど、僕がいるから心配しないでね。季流」

 そう言われるが不安でしかなかった。

「それに、僕の家族はきっと季流の味方になってくれるから」

「うん……」

 畳の広い部屋に季流たちは来て、そこには父の家族らしき人たちが集まっていた。

 そこには、自分と同じ年ぐらいの女の子もいて、その子は自分に手を振って笑いかけた。

「あ……」

 季流は、そっと手を振り返す。

 その時には、父は話し出していた。

「これから、またここに住む事になったんだけど……僕と季流、二人お邪魔しても大丈夫かい?」

 その言葉に答えたのは、滑らかな長い髪を後ろに縛った女性だった。

「私はかまわないわよ。草路。よく帰ってきてくれたわね。歓迎するよ」

 そう言った後、彼女は横を向き、顔の怖い男の人に話しかける。

「ね、あなた」

「ああ……」

 二人は夫婦のようだ。

「花香姉ちゃん、ありがとう! 蒼さんも。じゃあ、歓迎されているついでに今日の夕飯は赤飯だったりする?」

 父のその言葉を聞いて、父と似た様なたれ目のおじいさんが怒った様に言葉を吐く。

「何を言っているんだ! バカ息子! お前の分の飯なんかあるか!」

「えー、そう言わないでよ、父ちゃん。俺、腹減ってんだけど」

 父が僕から俺という口調を使った。

 その理由は、目の前の茶色の髪のおじいさんが彼の父親だからだろう。

 すると、おじいさんは季流の祖父にあたる。

「知るか!」

「アハハ~」

 親しい人には、父はこんな口調でこんなチャラけた態度になるのだと、季流は分かった。

 同時にその光景に違和感を持つ。

 んん?

「母ちゃん、母ちゃんからも何か言ってくれよ。久しぶりの息子の再開にこの扱いはひどくない?」

「はあ……久しぶりだねぇ。こんな会話も。懐かしい。なあ、草路」

「あ、ああ……そうだねぇ~」

 そう父が返すと、彼の母親らしき人はその瞬間、言葉を一気に吐いた。

「と、和やかに挨拶を済ませると思ったか! この家で息子が!」

 そして続ける。

「この親不孝者。紙切れ一つ置いてどこほっつき歩いているかと思えば、子供作って帰ってくるとはこの根性なし。ほんと情けないたらありゃしない!」

「あ~、母ちゃんの説教もひさしぶりだなぁ~。昔よく怒られていたよね。僕、だんだんこの感じ思い出してきたよ」

 その時、季流は祖父と祖母の後ろで花香という女性と女の子がこそこそと話しているところを目にした。

 そして、その後、女の子が僕の方に手招きしてきた。

「何が、僕だ。お前はまだ子供のつもりか?」

 女の子は部屋の端へと移動すると、戸を開けて季流に向けてもう一度手招きをする。

「いや、もう僕大人だから。季流の前だといつも僕なのよ。実は」

 季流は話し合いをしている父からそっと離れ、その女の子と共に部屋から抜け出した。

「知るか!」

 廊下に出たところで、そんな祖母の声が聞こえてきた。

女の子は廊下を出た時から季流の手を掴み取っていた。

「うふふ、何だかおばあちゃんたち騒がしかったね」

「うん……」

 家の中を回る時、人のざわつきが気になった。

「ほら出てきたわよ」

「本当に髪があれね。外人の子だわ」

 僕の髪はそんなに変なのだろうか?

 確かに僕はお父さんと、ここにいる人たちと違う。

 どうして僕だけ違うのだろう?

 どうしてこの国の人たちの顔は、あの国の人たちと違うのだろう。

 そう考えて、季流は不思議に思う。

 そして他の人とは違うという事に寂しくも思う。

父さんの所に戻りたくなってきた……

 なんだか、怖い。不安だ……

 そんな思考を巡らせていると、女の子はこう言葉をかけてきた。

「周りの人たちのこと気になるよね。でも大丈夫だよ。今日から私はあなたの味方だよ」

「えっ……うん……」

 突然、話しかけられ季流は戸惑う。

「それから、あなたの髪、まるで光のように温かい色合いをしていてとてもきれいだね。うらやましい」

「あ、えっと、ありがとう? 君も……かわいいよ」

 自分と同じようなふにゃふにゃくるりんと曲がる、亜麻色の髪を三つ編みにしている彼女はかけた言葉通りかわいいと思った。

 こちらに向ける優しい微笑みがいいなと思った。

 だからそれを伝える言葉は……

これでいいんだよね?

 日本語で感謝を伝えたい時は、ありがとうでいいんだよね。

「どういたしまして。日本語うまいね。お父さんから教わったのかな?」

「うん。お母さんも一応、話せたよ」

「そうなんだ」

「うん」

「ちゃんと言葉はあっているよ。その調子だよ。間違ってもいいから、何でも話してみて、季流」

 自分の名前を呼ばれて思う。この女の子はいったい誰?

 父との関係、僕との関係はどんな位置にあたるのだろう?

「あ、まだ、私の名前はなしていなかったね。私の名前は葉月っていうの。何か困った時は何でも私に聞いていいからね」

「うん。葉月……ちゃん」

 日本語だと、さん、ちゃん、くん、さま、をつけなくてはいけないらしいけど、この場合はこれでいいんだよね? 女の子だから……

「葉月だけでいいよ。その方が季流には呼びやすいでしょ。私も季流って呼ぶから、それでいいよね?」

「あ、うん……いいよ」

 と、そこで庭の景色が見える通りに来たようで、葉月は足を止めた。

「ここは縁側って言って、私のお気に入りの場所なの。一人になりたい時は、いつもここに来るんだ。景色もいいでしょ?」

 外を眺めてみると、ここへ来た時と同じような景色が広がている。

「うん。雪景色だ……」

 まるで一年中、雪で覆われている僕が育った国と同じだ。

 この国もずっと雪が降り続けるのだろうか?

「この日本は、四季がある国なんだよ」

「四季?」

 それは、どこかで聞いた事がある。確かお父さんが話していた。

 自分の名前はそれからとっているのだと聞いていた。

「えっとね。春、夏、秋、冬と四つの季節が順番に訪れるの」

「うん」

「それでね。今が冬だから、次は春の季節だよ」

「そうなんだ!」

 葉月は庭の奥の一本の木を指して説明してくれた。

「あそこに大きな木が一本だけあるでしょ? あれは桜の木で春にはピンク色のきれいな花を咲かせるんだよ」

「そうなの? 見てみたいなぁー」

「見られるよ。きっと。これから見ていこう一緒に」

「うん!」

 一緒にと、言われた事がうれしかった。

 この女の子は僕に話しかけてくれる。

今まで仲良くなった友達はいなかったから嬉しかった。

「その次が一番暑い夏で、次が夏よりも涼しくて過ごしやすい秋」

 葉月は再び外に指をさし、次に桜の木以外の木々たちの方をまんべんなく示した。

「外にある殆どの木々は紅葉の木で秋には一面、赤い景色が広がってきれいなんだよ。まさに、この紅葉亭にぴったりなんだ」

「そうなんだね!」

「そして、最後に戻ってまた冬になる」

 葉月の言葉は自分がちょうど聞きやすい速さで、その声は温かかった。

「季流、分かったかな?」

「うん!」

 今、自分の気持ちはとても心地よかった。

 まるで自分の心が分かっているかの様に言葉を紡いでいく葉月。

「うふふ」

 その瞬間、にこっと微笑みかけてくる葉月の顔を見て心が安らぐ。

 ここに来てから、自分はずっと緊張を張り巡らせていた。

 でも、それがとけた瞬間……

「葉月、ありがとう」

 季流は今、

「大好きだよ!」

 葉月の頬にキスをした。

 挨拶と、優しい人に出会えた喜びと、いろいろ教えてくれた感謝と、そしてその言葉のままの気持ちを伝えるためのキスだった。

 その好きは恋の好き。

季流は葉月に恋をした。

 それを自覚した時、季流は思わず行動していた。

「季流、あなた……」

 呆気にとられた様に口をぽかんと開けている葉月の姿があった。

 その頬は若干、赤みを帯びているように思えた。

 大好き!

 葉月大好き!

 自分の心の中では今、葉月という女の子の事でいっぱいだった。

 これが人を好きになるという事なんだ。

 何だか、お母さんとお父さんが言っていた特別の好きの意味が理解できた気がした。

「もう季流は不意打ち過ぎ。私のこと季流は大好きなんだね」

「うん。大好き! 葉月大好き!」

 そう笑顔で言った時、葉月は言葉を返してくれた。

「季流、ありがとう。その気持ち受け取っておくね。私はこれから季流の友達だよ」

「うん!」

 友達……今はそれでもいい。

 友達なんてできなかったからうれしい。

 でもいつか必ず、葉月に僕の事好きになってもらうんだ。

「あはは、季流は前向きだね。そして素直な子」

「ん?」

 ほめられている? それもうれしい!

 ほんわかな笑顔になる季流を見つめる葉月もお互いに、にっこりと微笑んだ。

「季流といると、なんだか楽しいよ」

 それは、僕の方もだよ。

「葉月もだよ」

「そう。ありがとうね。季流」

 えっと、そういう時は……

 少し考えてから、その言葉を葉月がさっき自分に言ってくれた事を思い出して……

「どういたしまして!」

 季流は、笑顔でそう返したのであった――

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