010 優という少女
給食を食べ終えた雪野たちはその後、優に会う前に教室を出た花子先生を捕まえ彼女の事を伺った。
「あのー。すみません、先生」
「なに? 雪野くん」
「さっき保健室にいった優という女の子の事を聞かせてほしいんですけど、いいですか?」
「いいけど、彼女がどうかしたの?」
「今回の事件は彼女と、彼女の友達であった安奈という女の子が関係している可能性があるんです」
「ちょっと待って、雪野くん……ここでは生徒たちがいるから場所を移動させますしょう」
「はい」
雪野たちはその場から移動し、一階、職員室横にある会談室まで向かった。
そこにある椅子に雪野たちを座らせて、自らも腰かけた後、花子先生は話し出した。
「優ちゃんと安奈ちゃんはとても仲が良かったの。いつも一緒にいてね、優ちゃんは、気が弱くて少し変わっていた安奈ちゃんの良き理解者であったと思うのよ。彼女に変な噂が立った時も決して彼女をみすてたりしなかったわ」
「安奈ちゃんは、変わった女の子だったんですか?」
「ええ、そういえば、あなた達と似ているところはあったわね。あの子、幻覚が見えているのか……今思えば、【化け物】が見えていたのか何かによく怯えていたのよ。私にはどうする事も出来なかったわ。そんな時、力になっていたのは優ちゃんだった」
二人の関係性は大体見えてきた。
「彼女は亡くなったんですよね。死因は何だったんですか? どこで亡くなったんですか?」
「彼女は突然の心不全で亡くなった。倒れていた場所はその頃には既に切られてしまっていた〈桜〉の木の場所だった。その前に彼女が一生懸命、何かから逃げている姿が目撃されている」
雪野たちは顔を見合わせ、彼はそれからこう推測した。
〈桜〉は【変物】などを遠ざけるバリアみたいなもの。
それを知っていた安奈は【変物】から逃げる時そこに寄っていた。
しかしその〈桜〉が切られ、バリアの効力も無くなった時、彼女は自身を守りきれなくなった。そして……亡くなったのだ。
「その後はどうでしたか? 優ちゃんの様子は」
花子先生は続けた。
「彼女の死、以来、優ちゃんは体調を崩すようになったわ。その頃から学校中で奇妙な出来事が起きて体調を崩す子供たちも出てきた。私が知っている事はそれくらいかしら。確かに優ちゃんは何か秘密を抱えていそうね」
「先生、ここまでの話、ありがとうございます。おかげでだいぶ状況は把握できました」
「うん。それならよかった。雪野くん、皆さん。優ちゃんにもし何かあったら何とかしてあげてね。担任としてお願いします」
頭を下げる花子先生に蓮は言葉をかけた。
「先生、任せてください。俺たちは元、〈怪奇団〉だよ。どんな事件だって必ず解決して見せますよ」
「私たちはそのために来たんです」
「頑張ります、先生」
紀菜と雪野も続けて伝えた。
「うん。がんばってね。そして気を付けてください」
三人は頷きそれを見て、花子先生はそこで立ち上がる。
「それでは、そろそろ次の授業の準備がありますので、私は退出させてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。お時間を取らせていただき、ありがとうございます。では、私たちも優という女の子の所へ向かいましょうか? 皆さん」
季流の一声で雪野たちは保健室へと向かった。
「育美先生きましたー」
「おお、きたね。優ちゃんとお話ししたいなら、隣のカウンセリング室が空いているから、使うといいよ」
「はい。では優ちゃんを連れて行きます」
「ああ、彼女には私から君たちの事は言っておいたから。そこの一番左端のベッドにいるはずだよ」
そう言って、育美先生は窓側のベッドを指さす。
シーツがかけられているため中にいる人の顔は分からない。
「分かりました」
雪野はそのシーツをそっとめくる。
すると、
「あれ……いない……」
「おかしいな。さっきまではここにいたはずなのに」
「もしかして、逃げられた……?」
「私もずっと保健室にいたわけじゃないから、途中で教室に戻ったとかかな?」
「それだといいんですが……」
「とりあえず、教室の方にいってみましょう」
季流がいったとおり雪野たちは教室へと戻ってみたが、優の姿は見受けられない。
「お兄さん、いないようですね」
「そうですね」
「雪野くんたち、どうしたんですか?」
花子先生は雪野たちに気づき、授業中にもかかわらず声をかけた。
――またさっきの不審者だ。
――授業妨害だね。
――何してるんだ?
その際、子供たちがざわざわとおしゃべりし出し、それを耳に入れながら雪野は聞いた。
「実は優ちゃんが消えてしまって、帰ってはいないですよね」
「そうね。カバンはあるみたいだから帰ってはいないはずよ」
「そうですか、授業を中断させてしまってすみません」
雪野は頭を下げて踵反し皆を見て、それから口を開いた季流へと目を向けた。
「とりあえず手分けして探しましょう。彼女は何かしら今回の事件に関係がありそうです。一人だけにしておくのも危険です」
「そうですね……では俺はここら辺を回ります」
「それなら私も雪野さんと一緒に探します!」
「花月……お前、お兄さんといれば、俺といたらいざという時に守れないぞ……」
「いえ、いいんです。私はひ弱な雪野さんを守るために一緒にいたいのですから。任せてください。雪野さんの命は私が守ります!」
「いや、いいから。俺そんなひ弱じゃないから!」
「まあまあ、雪野。花月ちゃんが心配してくれているんだから、大人しく守られていなよ。雪野は本当に今も変わらず明らかに気弱なんだから。花月ちゃんみたいな度胸のある女の子が近くにいると、きっと力が湧いてくるよ。彼女をいざという時、守らないといけないってね」
「俺は、ひ弱なうえに気弱なの?」
「当たり前じゃない、そんな事。わざわざ聞かないでよね。それより花月ちゃんが危険な時はちゃんと守ってあげなさいよ。さっきの様に一人だけ逃げないようにね!」
「いやいや、それは無理があると思うんだけど……蓮と紀菜ちゃんは知らないと思うけど、こいつ見た目と違ってだいぶ強いから、大丈夫だって」
「雪野くん、それでも男なの。こんなヘタレだとは思わなかったわ」
「そりゃあ……雪野よりは心構えからして 違うと思うけど、雪野ここは一応、無理そうでも……〈彼女はこの俺が命にかけても守ってやる〉と、言っとくべきだよ」
「いやだから、そう言う意味じゃなくて……」
「雪野さん……」
「「いやだから、二人とも……そう言う意味じゃなくて……」
二人に花月の正体が〈怪力おバカちゃん〉だと口にしようと迷っていたところ、花月は蓮の言葉に反応して途端、声を上げてこう言ってきた。
「雪野さん! 私の事は心配しないでください。私は自分の身くらい自分で守れます。もし雪野さんの身が危ない時も必ず私が体を張って【化け物】を倒しますよ」
「なんで、そこでお前がその言葉を……あー、もういいや……花月は俺が責任もって守ります。守らせていただきますいただきまーす! できる限り!」
「雪野さん……はい、!」
腕を閉め、握りこぶしを胸の前に出した花月ははきはきと嬉しそうに返事していた。
そこでシスコン気味の季流は、少々顔を引きつらせながら雪野にこう告げた。
「最後の言葉は余計ですが、そのつもりで私の大事な妹を頼みましたよ。雪野くん」
「はい、分かっていますよ……」
「それでは……蓮くんと紀菜さんは、二階を回ってくれますか。私は外の方を見て回ろうと思います」
「もしかしてですけど、……なるべく、子供たちと接触したくないんですね、お兄さんは」
「……まあ、いいじゃないですか。そこは……とにかく急ぎましょう」
こうして雪野は花月と共に一階を、蓮は紀菜と共に二階を、そして季流は一人で外を周り優を探し始めた。
「優ちゃん。優ちゃん、どこですか?」
「花月、授業中だから声は上げずに、それに彼女がわざわざ話を聞いて逃げたのなら、声をあげるとこちらの様子を知らせる事になるからだめだって。たぶん彼女は逃げると思う」
「はい。雪野さん。気を付けます」
「うん。よろしい。さあ、次はトイレ見てみるか」
「はい」
「花月頼んだぞ。俺は女子トイレには入れないから」
「はい、お任せください。雪野さん」
女子トイレへと入って行った花月はそのうち出てき手首を振った。
「ここにはいないようです」
「隠れているとなると、ここだと思ったんだけどなぁ……他の所も見て見るか?」
「ん? なんでここだと思ったんですか? 雪野さん」
「昔、一人になれる所を探しててさ、蓮たちが来ても個室に閉じこもる事ができて捕まえられないなって思って、隠れた事があったんだ。あと鬼ごっことかも顔も分からないから勝つ事ができるなぁって……バカな想像した事があったんだよ。あくまで想像なんだけどね」
「鬼ごっこでそれしたら反則ですよ。雪野さん」
「そうだよね、あはは……かくれんぼは、ギリギリオッケ~?」
「いえ、きっとだめですよー」
「やっぱり、そうだよね。うん……よし、次行こうか!」
「はい、行きましょう。でも、雪野さんがいうように誰に開けられないので、隠れるには良さそうですねー。反対側のトイレも見て行きましょうか」
「うん、そうしよう」
結局この後、トイレの個室は全部開いていたようで、花月はトイレに住まう【化け物】に直声を漏らしていた。
「雪野さん! なんか変なおっさんが女子トイレに居ました!」
「ええ!? それって、【幽霊】的なもの、それとも不審者が本当に……」
「恐らく【幽霊】的なものです! あれはおっさんに見えておっさんじゃないのかも……いえ、やはりあれは……雪野さん、三番目のトイレの個室に赤いスカートをはいたはげた中年男性みたいな人がいたんです」
「それは、なんか気持ち悪いな!」
「はい、気持ち悪かったです……」
「とにかく、もう関わらない方がいいぞ! さっさと移動しよう!」
雪野たちはその後、教室から外れた特別教室の方へと向かい途中、職員室と会談室を通る。
すると、最初に図工室、家庭科室、図書室、保健室の順に見えてくる。
「優ちゃんは、ここにいますかね?」
「図書室なんて怪しいよね。棚とか視界がいっぱいあって見えないし、俺たちが探そうとしてもその視界をうまく利用して逃げ隠れる事ができるかもしれないから」
「それも鬼ごっこの時を想定した雪野さんの想像ですか?」
「まあね。家庭科室も図工室も机の下にもぐるとかできそうだけど……それだとすぐ捕まってしまいそうだから」
「そうですね。でもそこも探してみましょう」
雪野と花月は順番に図工室から図書室まで見ていった。
本棚が重なり合った間を歩きながら確かめていったのだが、しかし優の姿はそこにはなかった。代わりにいた物はというと……
「うわぁぁぁ! 雪野さん! あれがいます! トイレで見かけたあのハゲ散らかしている不審者がいます!」
「ええ!? あれが……」
一番奥の暗い所に花月が言った通りのオッサンがこちらを、じーっと目だけを向けて、紅の付く唇をポカーンと開けていた。
赤いスカート、赤いランドセル……とは言っていたが、それは……
「ちょっと、花月もう行くぞ……」
花月の手を引いてすぐその場を離れた雪野は今、とても慌てていた。
見たところただの変人で済ませられるほど、あのオッサンの容姿は笑う事も、どうでもいいと放っておく事も出来なかったのだ。
赤い、全身赤い……白いシャツもその皮膚も、手も……全身に血を浴びた様な、人を殺してしまいそうな見た目の明らかに危険な【化け物】がいた。
「雪野さん?」
「お、お前、そんな何で落ち着いて……あれのどこに注目してああいったの? 完全にいろんな意味でヤバいじゃないか!」
「はい……でも……」
「でも、じゃない! 言い訳はいいからとにかく走って! 俺、弱いから、もしもの時、お前の事さっそく守れなかったって事になると、お兄さん達にいろいろ言われるだろう!」
「雪野さん、それは喜んだ方がいいのですか!? なんだかあまり……」
「いや、喜ぶな! 今、緊急事態だから! あの【幽霊】に殺されたらどうする! あの血、絶対、人を殺してるって! とにかく危険だって!」
「雪野さん、雪野さん、あの、あの、あの人は……えっと……一旦、足を止めてください!」
「だめだ! 今止まったら、殺されるぞ!」
「雪野さん……雪野さん、止まってください!」
そう言った花月は足を止めた。一瞬、腕が引っ張られ痛み、さらにその反動で花月へと体や顔が傾きかけた。
「うわぁおっ!」
一応、足で踏ん張ろうとするが、花月はその状況でさらに雪野を自分の胸へと引き寄せて、こう言ってくるのだ。
「大丈夫です! 雪野さん!」
「何が大丈夫だよ! 全く大丈夫じゃないから……というかこの状況! 手をはなせ!」
「一旦、落ち着いてください! あれはそんなに怖い物ではないのかもしれません。簡単に倒せると思いますし……あの血まみれ状態はたぶん、私のせいです!」
「えっ、それって……」
雪野は花月のせいであの状況だという事を考えてあり得ると、一瞬の間に納得してしまい力を抜いた。すると花も腕をはなし雪野を開放した。
「実は、女子トイレに入った時、あのオッサンがその……便器の中から這い出てきて私の着物の裾に触れようとしてきたので、思わずその顔をけってしまったんです。だから……ああなってしまったんですね。あれはただの鼻血です!」
「なんだそれは! そんなオチなの!? 慌てて損したぁー、もう、早く言えよ! というか、何でもかんでも勢い任せで力を発揮するなよ! あれが普通の人間だったらどうするんだー」
「すみません。でも……雪野さん、考えてみてください。あれに触られたらきっと、とても汚いですよ! あれがもし人間だったとしても、トイレの神様だったとしても、私、あれは受け付けられません!」
「それりゃそうだろう! 俺もあれは……あっ……」
図書室の入り口の前で足を止めていた雪野たちだが、その横窓際の方からじーっとこちらを見ているあの赤いオッサンを発見し、雪野は固まった。
その鼻からは確かに血が流れ出ており、その血の行き先は口の中で今、不気味に微笑みながらその含んだ赤い物を吹きだしていた。見るからにおぞましい、そして気持ち悪い……
「雪野さん、あの汚いおっさんが現れました! 早くここから去りましょう!」
「ああ! そうだな!」
雪野と花月は、図書室から駆け出しその後、玄関近くの保健室前に戻ってきて足を止めた。
「これで教室類は全部見たけど、保健室も一応見ていく?」
「それがいいと思います。もしかしたら入れ違いで戻ってきていたって事があるかもしれません」
「そうだな……
「しかし、その前に確認しますが、また、あの赤いオッサンがいたりしませんよね……?」
「まあ、それは大丈夫なんじゃないか? 保健室は基本、育美先生がいるから【変物】とかは入って来れないんだよ」
「そうなんですね。では、安心です!」
「それじゃあ、そっと入るぞ。静かにな……」
「はい……」
雪野たち二人は、忍ぶように保健室へと入ろうと扉へと手をかけた。
彼は期待はしていなかったのだが、そこから聞こえてくる声に気づき一旦、動きを止めた。
「いやだよ。育美先生。あの人たちに会いたくない」
「どうして? 彼らは、この学校で今起こっている怪奇現象の原因を突きとめに来た者で、あなたに害をなす人たちではないわよ?」
育美先生とある女の子の会話……
「雪野さん……」
雪野と花月は顔を見合わせてから保健室の中へと入った。
「そんな事ない。だって、私には安奈の幽霊が見えているから!」
彼女は今なんて言った?
「君、それは本当?」
「い、いや! 来ないで! あなたたち祓い屋でしょ。安奈の事も祓ってしまうんでしょ」
「一体、何の事だか分からないんだけど……」
「とぼけないでよ、安奈が言っているの! あなた達は安奈を消しに来た人たちだって!」
「とにかく話し合おう、優ちゃん」
雪野が前に足を踏み入れると彼女は、左側ベッドの方に向かい、
「やだ!」
そこの窓から外へ出て行こうとしていた。
窓と地面との高さは二メートル以上あって、そこから降りるのは危険であった。
「危ない!」
優は手でぶら下がるように地面へと落ちようとする。
しかしそこで、
「この子ですね」
外をいた季流が彼女を抱きかかえる。
「季流お兄さん」
「お兄さま」
二人は同時にそう言った。
「離して、離してよ!」
こうして彼女は捕まり、保健室の隣のカウンセリング室で話し合う事になった。




