009 〈桜〉が見せた光景
雪野はある夢を見た。夢だと分かる景色を見た。
その夢は三つ編みの女の子が何かに追われて逃げているというもの……
「やだ、追いかけてこないで!」
その女の子は〈桜〉の木の根元まで逃げ込んだ。
ホッと胸をなでおろす彼女の姿が映った時、画面転換するように周りの景色はぼやけていき、再び同じ桜の景色が映された。
だが少し最初と違うのは、その場に一つ縛りの女の子がいる事だった。
三つ編みの女の子に付き添うように彼女はいる、そんな光景。
「怖くない怖くないよ。きっと大丈夫だよ、安奈」
この後、流れる映像は女の子が死んでしまう夢へと続いていく。
「いやぁあああああ! やだ死なないで! 死んじゃやだよ!」
最後に友達が桜に向かって願う夢へと変わっていく。
「お願いです。【精霊】さま、【精霊】さま、安奈を生き返らせて。安奈を私の友達を元に戻してください!」
そこで夢の中の映像はより明確な物へとなっていき、雪野はその少女の顔を見た。
「泣いている……この少女はさっきの……」
――助けて……助けて!
この後、映像は消え声だけが響く。
誰かの声が……聞こえた……
「これは、女の子の声なのか……いや、これは……」
雪野はその今にも途切れてしまいそうな声に耳を傾けようとした。
――どうか助けて、あげ……て……
だが、そこでキーンコーンカーンコーンと音がこの夢の中に響いてきた。
ん?
キーンコーンカーンコーン?
聞こえてくる音、雪野はその音に引っ張られるようにして現実に意識を戻された。
現実の世界はやけに静まり返っていた。
雪野が目を開くとそこは保健室で、雪野は驚いた。
起き上がって、歩き出すと。
保健室には懐かしい顔があった。
「やあ、起きたかね。雪野くん」
「育美先生!」
「シー、今、先客がいるからなるべく小声でね」
「はい……」
「そういば、蓮くんたちから聞いたけど今は祓い屋やっているんだってね。正直驚いたよ。小学生だった雪野くん達が〈怪奇団〉やっている時みたいに、今も仲良く交流があるなんて……祓い屋やっているなんて」
「あはは、そうですか。出会ったのは最近というか、今朝なんですけどね……」
「それは、それは、感動の再会だね。今から、また祓いに行くのかい?」
「ええ、まあ。蓮たちの所に向かいます」
「そうかー。気を付けていてらっしゃい」
「行ってきまーす。あ、先生! ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいですか?」
「ん? 何だい?」
雪野はふと、夢の事を思い出して聞いた。
「先生は安奈っていう高学年くらいの子を知っていますか?」
「雪野くん、なんでその子の事を知っているんだい?」
「夢で見て……その子が亡くなる光景を見ました」
「そうか。それを知っているのか。ほんとに君はすごいね」
「って事は、夢で見た光景は本当にあったことって事ですね」
「ああ」
「彼女には友達がいたはずですがご存知ですか? 一つ縛りをした子です」
「知ってるよ。いつも一緒にいたからね。保健室にも安奈ちゃんがここに訪れるたび見舞いに来ていたよ」
「その子の名前は何て言うんですか?」
「優というよ。実はその子はもうここにいるんだ」
「え、」
「そこのベッドで寝ている子よ。安奈ちゃんが亡くなってから、優ちゃんはここで休む事が多くなってね」
「そうなんですか」
「話しなら、後にしてあげて」
「はい、分かりました」
雪野はそのまま保健室を後にする。
そして雪野はある違和感に気づく。
辺りにただよってくるいい匂い。
「給食か……って、あれ?」
今、何時なんだろう?
雪野が思った。
六年生の教室に向かうと季流や蓮たちがいた。
「雪野さん! 大丈夫でしたか?」
花月が先に心配した様子で言ってくる。
「ああ……」
周りではすでに給食の準備が始まっていた。
「俺、どれぐらい眠ってたんだ……?」
雪野は五分ほどしかたっていないと思っていたのだが、季流は言う。
「一時間ほどですかね。ちょうど」
「え、そんなに眠っていた感じはしなかったんですがね」
「で、何か手掛かりは掴めそうですか?」
「お兄さん、実は夢を見たんです」
「その夢はどんな夢だったんですか?」
「どこか……寂しい感じでした……実は――」
雪野は話の内容と保健室の優という女の子の事を話していった――
「今回の事件は優っていう女の子が関係している気がします、お兄さん」
「そうですね。その子は今保健室にいるそうですね?」
「はい」
「少しでも、話を聞けないでしょうか?」
「育美先生から話は後にしてほしいと言われていまして、昼休みが終わってからはどうでしょう?」
「では、そうしますかぁ」
「決まりですね」
その後、次の蓮の発言から雪野の話題へと移る。
「しかし、なんで雪野だけこんな現象が起きたんだ? 〈桜〉の仕業なんだろうか?」
「夢を見て誰かの記憶の断片を見る事は、これまでも何度かあったよ」
「そうなの?」
「この前の任務でいった夜ノ月村でもそうでしたよね、雪野さん」
「ああ。俺の予想だとこの人形がそうさせる原因になっているのかも、知れないよね……」
「はい、私もそう思います」
「へー、そうなんだ」
「つくづく、人形に振り回されっぱなしだわね。あなた」
「あはは……」
「あの、その事に関してですが……一概に人形のせいとは言い切れないと思いますよ」
「それはどういうことですか、お兄さん」
「私はずっと、雪野くん自体の能力かとも思っていましたけど……」
「能力ってこの俺が? 何も持っていないんじゃ……」
「木崎家と夏川家には遺伝的に七つの力が発現すると言われ、〈七恵天授〉と呼び名がついています。大体、一人に付き持ち得る能力は一つが多いのですが、まれに私や花月のように二つ持ち合わせる事も在ります。三つの人もまれにいるでしょう」
いきなり、季流による木崎家と夏川家の能力解説講座が始まった。
雪野たちは、真剣に耳を傾けた。
「《霊視》、いわゆる【変物】を見る事ができる目の事ですが、それも七つの力の中に入っているとされますが、うちの家系では能力とはみなされません。それ以外の能力自体は六つあるとされます」
「ちょっとややこしくなってきた……」
「大丈夫ですよ、雪野くん。要するに六つの能力のうち雪野くんには、一つの能力が発現しているんですよ」
「いったい、その六つ能力とは何なんですか? お兄さん」
「それはですね。雪野くんの能力は……何だと思いますか?」
「って、もったいぶらないで教えてくださいよ!」
「俺も気になるなぁー」
「早く言いなさいよ」
「はいはい、じゃあ言いますが、私が持っている《霊繰畏》の能力とは別の能力、《霊憑依》と同じです」
「《霊憑依》?」
「はい。《霊憑依》です。または《霊媒力》と一般に言いますが、うちの家系では《霊憑依》と名がついています。この力はいわゆる乗っ取り、乗っ取られたりする能力ですね」
「つまり、俺は何らかの【変物】に乗っ取られた状態で夢を見たと、そういう事?」
「はい。そのようですね」
「雪野はいったい何に乗っ取られたの?」
「それはやはり〈桜〉でしょうね」
「はい。おそらくは……〈桜〉は助けを求めていました。優という女の子には何かあるんですよ。きっと」
「それを突き止めるためにも後で彼女に話を伺いましょう」
「はい」
雪野が想返事したところで、六年一組の教室の方から花子先生がやってきた。
「あ、皆さん。午前中はお疲れ様です。といっても、何と戦っていたのか私には分からなかったですけど、皆さんが頑張ってくれていた事は分かりました。ありがとうございます」
「いえ、いいんですよ」
「それより、皆さんお腹が減っていませんか。よかったら給食を一緒にどうぞ」
「いいんですか?」
「はい、皆の席はこちらです」
後ろの方に並べられた五人分の席、かなり子供たちはぎゅうぎゅうに席をつめて座っていた。
「なんか悪いですね……」
「給食、久しぶりだな~」
「そうね」
「おー。今日はハンバーグの日だ」
「おいしそうですね。雪野さん」
五人は口々に言葉をかけあった。
席に着くと雪野たちはある事に気づいた。
「お兄さん、あそこの席ですかね。安奈ちゃんが座っていたのは」
「そうじゃないでしょうか」
教室の左前方には、花が飾られている机があった。
そして、右側の中間の席には誰もいなくぽつんと空いた席があった。
「あそこはおそらく、優という女の子の席でしょうね」
他にもあいている席はあった。
しかし、給食の準備がされてそこにだけにだけされているため、欠席者ではないと考えた。
雪野たちはそこへ目を向けていると、その席にある少女がやってきた。
一つ縛りをした女の子であることを確認し優だと分かる。
「あら、優ちゃん。体調の方はどう?」
花子先生は彼女に容体を聞いていた。
「まだ少し、具合が悪いので保健室で給食を食べます」
「そうですか。気を付けて持っていくんですよ」
「はい」
優はそう返して、食膳をもってまた保健室の方へと戻ってく。
雪野たち全員は、優の顔を見た事になる。




