008 【化け物】たちと対峙して
一方その頃、季流と花月は花子先生がいる六年生の教室にいた。
そこでも【変物】大量発生が見られた。
「いったい、これは……花月、あなたは自分の身を守りなさい。私は《破気》を試してみます」
「はい、お兄さま」
季流は目をつぶり、力を一点に集めるイメージをする。
呼吸の整いを確認して、一気に力を放出する。
「はっ!!」
その圧力は凄まじく、一教室分の広さにいた【変物】をなぎ払ってしまった。
それでも、あと、残り五クラス分の【変物】もやっつけなければいけなかった。
「このままだと、もちますかね……」
季流のその力は彼自身の消耗も激しい。
そう何回も《破気》を放つことはできないのだ。
「はっ!!」
季流はその後、何度も力を【変物】へと放った。
そして、また、
「ふうー、はっ!!」
廊下の中心に立ち、季流は七回目の《破気》を放った。
そして、息が上がった彼の姿があった。
それに見ている事しかできない花月は兄に向かってこう言った。
「お兄さま、がんばってください。えっと、頑張った先に天国が待ってますよ」
「花月それじゃあ私、死んじゃってますよー。でも、ありがとう」
彼女なりの励ましだと季流は思い、嬉しかった。
元気が出た彼は一息すって⦅破気》を放つ。
「はあ‼」
先ほどよりもすごい威力の力が出た。
教室二個分の【変物】が圧倒的な力で祓われていった。
それに季流の息はさらに、苦し気に息を吐いた。
「お兄さま……」
花月は兄を心配する。
子供たちは廊下で声をあげている季流に注目し、口々に騒いでいた。
「変な人が廊下にいるよ」
「何してんだろう?」
「なんか祓っているのかな?」
「こら、気にしない気にしない! 席を立たないで。授業に集中するわよ」
花子先生は教室の入り口から身をだしている生徒に注意した。
だけど、授業は怪奇現象が起きている間は続けられそうに見えなかった。
「あれ……?」
その時、ふとある少女へと目を向けた。
その少女は季流を見ていた。
いや……【化け物】たちを見ていた。
そしてその後、花月を見て……
「えっ?」
少女はびくっとなり、花月から目をそらした。
なんなのだろう?
花月は少女のその表情に不和を感じずにはいられなかった。
雪野は急なだるさに襲われ、しゃがみこんだ。
「ぐわっ……」
「どうしたのよ、いったい」
「今来たよね、明らかにきたよね。お兄さんの《破気》が!」
「確かに圧迫感があったね」
「けど、そうなる程ではないでしょ」
「いや、俺、実はお兄さんに毎回かくかくしかじかで能力使われているから……何ていえばいいんだろ? 恐怖植え付けられている感じで、力を使われると俺も【変物】と同じで、力が抜けちゃうんだよ……うんそれでいいやぁ!」
雪野はやっとのこと喋る。
「かくかくしかじかはよく分からないけど、言いたい事は分かったよ」
「ほんと情けないわね、雪野くんは。どうせ任務放棄し様としてその時に使われたんでしょう」
「なんで、分かるの。エスパー?」
「何バカなこと言ってるの。さあ立ちなさい。さっさと、【変物】退治しちゃうんだからね」
「そんなこと言ったって、本当にダル重で動けない」
――人間がいる。おいしそうな人間だぁ~
――本当だな。これは我の獲物だぁー。ヒヒヒ……
「って、襲ってきそうだし、人形頼んだ。少しの間だけ……もって、お願い!」
「本当にひどそうだね。でも人形が雪野を助けているみたいだから、俺らの助けは必要ないみたいだね」
「そうね……蓮くん、前方から右左両方に打ちまくって、あと後ろにもいるから気を付けて」
「こりゃ休む暇もない、容赦ないねー」
しばらくして雪野は動き出した。
そろそろ人形の効力も【変物】を消すのに、追いつかなくなっていた。
「うわっ、もうだめだ!」
雪野はそこでその場から逃げる様に走り出した。
「蓮くん、雪野くんが走り出したわ」
「よし、追いかけよう!」
蓮と紀菜は雪野を追いかけた。
雪野は一回の廊下をまっすぐ奥の方へ向かって走っていく。
――あれは、おいしそうな人間だ。
――みな、あれは霊力の強い人間だ。
――ほう、霊力が高い者はうまいのう。
――食ってしまおう。うまそうなにおいがする人間だ。
――食ってしまおう。食ってしまおう。
――食ってしまおう。食ってしまおう。食ってしまおう。
『食ってしまおう。食ってしまおう! あの人間を食ってしまおう。食おう!』
バラバラだった【変物】はやがて一つの巨体となした。
「なんで、俺にばっかり【変物】が寄って来るんだよ! このままだと俺食われちまう!」
彼は息を切らしながらそう言葉を投げかけながら、二階へと向かう階段を駆け上がった。
すると見えた先には季流と花月の姿がある。
季流はだいぶ息を切らしているようで、そんな彼を花月は心配そうに自身のバリアを張って見守っていた。
「お兄さん、花月、大丈夫ですかぁー」
「雪野くん。あなたこそ大丈……って、なに連れてきているんですかー」
「見ればわかるでしょう、【変物】! うわっ!」
その一瞬、雪野は転びかけて態勢をなんとか戻しヒヤヒヤしながら走り続けていた。
「とにかく花月、雪野くんの邪魔にならないよう一旦、教室に入りましょう。急いで!」
「はい!」
季流と花月はすぐ花子先生のクラスに乗り込んだ。
「えー、何とかしてくれないんですか? この状況! 俺どうすればいいの!」
雪野はどうすることも出来ずそのまま奥の方にあるもう階段に向かって走っていく。
丁度、その目線の先に、自分の後についてきていたはずの蓮と紀菜の姿があった。
どうやら方向転換して昔のようにこの状況を対処するようだ。
「雪野!」
「蓮くん、雪野くんの後ろ、でかいわよ!」
「分かった、はっ‼」
今の雪野には蓮が何をしたのか分かった。
蓮が放った《破力》によって、いろんな【変物】が合わさった巨大な【化け物】は跡形もなく消え去った。
「やったのか……」
雪野はその場に倒れ込んだ。
「あー、疲れたぁー」
そこへ花月が彼を見下ろす。
「雪野さん、お疲れさまです。ケガはありませんか?」
「あー、うん」
雪野はだるそうな面持ちで言葉をかけた。
花月は雪んから視線を外すと、隣にいる二人にも少しためらいがち声をかけていた。
「蓮さん、紀菜さんも……お疲れさまです」
「うん、ありがとう。花月ちゃん」
「お疲れさま」
蓮と紀菜はそう返した。
「花月ちゃんも大丈夫だった?」
「はい、紀菜さんたちと違って私は結界の中で見ているだけで、何もしていないのでこの通りです。心配してくださり、ありがとうございます」
「そうなのね。なら、良かったわ」
「紀菜ちゃん、花月ちゃんとなら仲良くなれそうだねー。よかった、よかったー」
「どういう意味よ、蓮くん」
「あはは、何でもないよー」
蓮の言葉の後、離れた所からよれっとしてこちらまで歩いてくる季流の声がかかった。
「皆さん、やりましたね。思った以上に私も疲れました。これがもう一回来るとなると対処のしようが無くなります」
「お兄さん、息が上がっていますね。もしかして、《破気》使い過ぎて体がだるかったりしてますか? 俺と同じように」
「はい。雪野くんの所にも《破気》が届いたんですね」
「はい……」
二人はだるそうに言葉を交わした。
「ゆーきの」
「なに? 蓮くん?」
蓮は雪野の前にきて言った。
「今回は雪野のおかげで【変物】を退治する事ができたんだよ。やっぱり、雪野は囮じゃなきゃね!」
蓮は雪野に手を指し伸ばす。
「バカ、もうやんないよ」
雪野は指し伸ばされた手を掴み、起き上がった。
そして持っている小刀を人形の帯にさし、その人形を袋の中にしまう。
辺りを見渡すと、今も黒い霧などが残留している中、【変物】などは出てこなくなった。
教室にいる子供たちは季流や花月が入ってきた事で、何事だとこちらを見ている。
「ねえ、先生、あの人たちは誰?」
「誰なの?」
「新しい先生、お客さん?」
「もしかして不審者か?」
「ねえ、先生?」
花子先生は、仕方ないとばかりに生徒たちにこう伝えた。
「あの人たちは、最近教室で起こる奇妙な現象を解決しに来てくれた人なのよ」
「へー、そうなの?」
花子先生は雪野たちの方へ目配りしてからそっと漏らした。
「つまりお祓い屋さんよ」
生徒たちは言う。
「お祓い屋さん。この学校呪われているの?」
「だから、寒気やだるさに襲われた人が出ているんじゃない?」
「他にも棚や窓が揺れたりしたのもそうなの?」
「なんか怖いよー」
「大丈夫よ。彼らがきっと除霊してくれますから。心配しないでください」
『はーい……』
『でも……』
子供たちのまちまちな返答の中、花子先生は困り顔で、この事態にどうすればいいのか分からない様子だった。
そこで授業が終わる合図のチャイムが鳴り、三時間目が終わる。
「それじゃあ、とりあえず挨拶をすませるわよー」
「きりつ、礼!」
『ありがとうごあいました』
子供たちが一斉にこちらに駆け寄ってきた。
「こんにちは……お兄さんたち、祓い屋なんですか?」
その質問に答えたのは蓮だった。
「うん、今日はここに現れる【化け物】などを退治しに来たんだ」
「そうなんだぁ」
その間、季流はというと……あからさまに苦い顔をしていた。
「……」
お兄さん、子供苦手だからな……
「金髪のお兄さんもそうなの?」
ある子どもが金髪の季流を物珍しそうに見ていた。
「ええ? まあ……」
それで終わる。
それに子供たちは話し出す。
「きっと日本語が苦手なんだよ」
「そうなのか」
「あの、ちゃんと喋れますよ、日本語は!」
季流はムキになって言った。
「あ、ほんとだ」
「じゃあ、さっきは何と戦っていたの?」
「さっきは……君たちに分かりやすく言うと【化け物】です」
「【霊】とかの仕業とかではなくて?」
「はい。【霊】の場合もありますが今回はどちらかというと【化け物】の仕業のようです」
「へー。やっぱり信じられないやー」
「そうですか。それは仕方ありませんね……」
季流と同様に眼鏡をした少年との会話に、あるヤンチャそうな男の子三人が割り込んできた。
「先生! この人たちやっぱり不審者じゃない? 先生、だまされないようにな!」
「え、そうなの? 僕もうこの人たちと話しちゃったよ」
「大丈夫、大丈夫! もし、そうなら俺らがみんなを守ってやるぜ!」
「そうだな。俺らに任せろよ!」
なんかめんどくさい事に巻き込まれているな、お兄さん……
「おい、金髪男! お前たち本当に祓い屋なのか! ここに何しに来たんだ!」
「金髪男……あー、私たちはちゃんと祓い屋ですよ。あなた達には見えない【化け物】を倒しにきたある組織から派遣されてきたんです」
「本当か? ただの変人チームにしか見えないぞ!」
「誰が変人……!?」
「金髪の外人さん以外みんな若そうなのによくこの年で祓い屋になったな。いろんな意味で……その格好、仮装でもしてるの? 絶対ごっこ遊びだろう。そうじゃなきゃ、なんか弱そう!」
「そうだな。この人叫んだり、走ったりしているだけで息あがってたもんな。俺らより弱そうじゃないか?」
お兄さんが、いつもと同じようなこと言われている……
でも、その弱いに俺も入っているな、これは……
「私、弱くありませんし、老けていて悪かったですね……それと、変人なのはあの人形の彼だけですから私や花月を変人にする事はこの私が許しませよ!」
「ちょちょちょ、お兄さん?」
「何言ってるんだこいつ……」
「変人だ……」
季流が名前をあげた事により、ちらっと雪野にも子供たちの目線はいった。
変人扱いされた……
「なんですって、聞き捨てなりませんね。さっきからなんですか。だから子供は……私たちは本当に祓い屋です。今この学校で起こっているポルターガイストの原因である【化け物】を倒しに来たんですって!」
「そんなのただ老朽化のせいだろ」
「この学校できてから二十年もたっていませんよ?」
「そうなのか!」
「気分が悪くなる症状も【化け物】の気に当てられるせいです」
「インフルか何かだろ」
「インフルとか何等かの病気なら今頃、学級閉鎖などの処置をしているでしょうね。【化け物】は普通の人には見えないので、それのせいだと証明できないんですよ。そのため学校は何の処置も出来ぬままという事です」
「く、やるな! このでっち上げ不審者め。最もなこと言いやがって! そんな話で俺たちが騙されると思ったら大違いだぞ!
「あなたたちは、いったい私たちの事を何者だだと思っているんですか!」
『だから不審者だろぉ!』
「違いますよ。バカですか? 私達が不審者ならここの先生がたは私たちを取り押さえるか、君たちを避難させるかしています。そもそも校舎に入れていませんよ!」
もう何も言えないのかお互いに顔を見あう三人の男たちの姿があった。
「ああ、めんどくさい……」
「季流お兄さん、大丈夫ですか? 思わず力使ったりしないでくださいね……」
小声でそう返すと、季流はイライラした様子のまま何も言わず黙り込んでいた。
雪野はそれに少しだけ……いや、本気で心配になった。
お兄さんなら、思わず手を出しかねない……
「はあ……」
やがて季流は大きく息を吸った後、やっと雪野へと視線を合わせてから皆に告げた。
「それでは、皆さん行きますよ!」
歩き出す季流を雪野たちは追った。
「へ、行くってどこにですか、お兄さん」
「おい……」
後ろから男の子一人の声がぼそっと聞こえるが季流は相手にせず歩き続けていた。
「決まっているじゃないですか? 外にですよ。ここにいては雪野くんが言った様に、私、どうなるか分からないので、重要な手掛かりがあるかもしれない切り株を見に行きます」
「あはは……それはそれは、いい判断だと思います。でも、そこはさっき見ても何ともなかったんじゃ……」
「いいから行きますよ! こういうのは、ことが起きた時に見るといいんです!」
「はいはい……」
雪野たちは再び、桜の切り株の所に行こうとした。
階段を渡るとき、ある少女とすれ違い雪野はぞっと寒気がこみあげてきた。
「な、なんだ?」
「あ、あの子はさっきの……」
花月が言葉をにごらせる。
「花月、あの子のこと知っているのか?」
「いえ、ちょっと……」
花月は言葉を止めたままその後、雪野の質問に答えようとはしなかった。
一体、どうしたのだろう……
【月花】の事も考え、少し花月の様子を心配しつつ雪野は、彼女の前を歩いていた。
〈桜〉の幹がある場所まで再び訪れた雪野達だったが、そこにはやはり何もないようで……
「季流さん、見たところ変わらないような気がしますね」
「何もないわね」
「そうですね……しかし、もう少しだけここにいませんか?」
「季流お兄さん、やっぱり子供たちが苦手なんですね……」
「別に、そんな事はないですよ。ただ……さっきの様に金髪やら外人さんやらいろいろ言われそうな予感がするので、あえて彼らと交流したくはありません」
「それが苦手という事では……」
「ああ、分かりますよー。子供って何でも軽く口にしますもんね。それが苦手なんですよね」
「そういう事です。ほんとムカつきますよねー」
蓮の言葉に季流はうんうんと頷く。
もう、自分で苦手って言ってるじゃん……
「季流さん、そろそろ行くわよ。いつまでも何もない場所で油を売っている暇なんてないわ」
「この時間だと玄関まで行く頃にはチャイムが鳴るからきっと子供たちにも会いませんよ」
蓮の言葉に季流は深呼吸するように一度息をはいた後、言った。
「それなら、行くとしましょうか」
雪野はみんなの後ろをついていく。
その時まで、桜には何もないそう思っていた。
しかし、いきなりくる眠気、無理やり意識を飛ばされる感覚に雪野は……
「こ、れは……」
その後、彼は地面に沈み込むようにして倒れ込んだ。
それを見た花月は駆け寄る。
「雪野さん!」
声をあげる花月に気づき、三人も雪野の元へと駆け寄った。
「雪野!」
「雪野くん!」
「どうしたのでしょう。いったい……桜にはやはり何かあるのでしょうか?」
季流は考え込んだ。




