007 学校に出現した【化け物】たち
雪野たちは季流の後についていく。
最初は玄関を出てからすぐの一年の教室から回った。
入学式までまだ日数があり、一年生の教室には誰もいなかった。
「一年生の教室だ。机こんなに小さかったんだね」
蓮が紀菜に向けて言った。
「そうね。懐かしいわ。このミニチュアの【化け物】も」
紀菜はそう言いながら、雪野にも見える棚の上に乗っかっている手のひらサイズの【化け物】を眺めていた。
白くてジャガイモのような歪な丸い顔があり、笑っている顔や悲しんでいる顔などいろいろあった。
「これ、どの教室にもいるのよね」
「そうなんだ。知らなかったよ」
「なになに? また二人だけが分かーる、秘密の話? ヒューヒュー」
「その言い方だと語弊を生むわよ、蓮くん」
「えーじゃあ、何ていえばいいのさ~」
「知らないわよ。自分で考えなさい!」
「昔にもあったね。こういう言葉の返しが……」
雪野たちとは距離をおいて、その光景を眺めていた季流は横にいる花月に話しかけた。
「三人とも思い出に浸っているようですね」
「そうですね、お兄さま」
「このままあの三人の邪魔をしないように、別行動を取りましょうか、花月」
「はい。それがいいと思います。私も本当は雪野さんの傍にいたいですが、今日は我慢します!」
「はい、お願いします。花月……」
そこで季流が雪野たちに言葉をかけた。
「さて、ここにはいない様ですので……雪野くん、蓮くん、紀菜さん、あなたたちは一階をまわってください。今から別行動です」
「え、お兄さんたちは?」
「私と花月は、上の階を見てきます」
「そうですか。じゃあ、いってらっしゃーい」
「はい。行ってきます」
「雪野さん、気を付けて」
「はいはい、分かっているよー」
こうして、雪野たち〈怪奇団〉メンバーは季流と花月と別行動を取る事になった。
二年の教室へと向かい、先生の授業をする声が聞こえており、雪野たちを窓越しから見て、頭を下げて挨拶をされる。
それに雪野たちも軽くお辞儀を返したのだった。
見たところ、それほど凶悪な【変物】は確認されなかった。
「あの白いのしかいないみたいだね」
「そうね」
雪野と紀菜に続いて、蓮は言う。
「次の教室、行ってみようか」
何事もないように思われた。
だが、雪野たちが隣のクラスへと向かおうとしている時だった。
教室や校内に突如として黒い霧が発生しだした。
瞬く間にそれは広がっていく。
「なんだ、これは……」
雪野は声を漏らす中、二人は警戒して周りの状況を伺っていた。
教室の方を見てみると、ガタガタガタガタと、棚が揺れ、他にもガラスが振動していて今にも割れそうな勢いだった。
「なに?」
「まただ」
「先生、これなに?」
それに子供たちは騒ぎ出し、それを先生がなだめる。
「皆さん、落ち着いてください。すぐ収まりますからね」
一部の子は具合が悪いのか、だるそうに頭を伏せていた。
「先生、気分が悪いです。保健室に行ってもいいですか」
「先生私も」
「僕も」
次々に生徒はそう申しでる。
紀菜はちらりと外の方を見た。
すると、
「【変物】が外から押し寄せてきているわ」
紀菜が言うように外には点々として地面を這う【変物】、空に浮き飛んでくる【変物】たちが迫ってきていた。
その見た目はとても歪なもので、それぞれに形は異なっている。
中にはうまく形をなしていない黒い霧のようなものや、沢山の腕や目玉がついた【化け物】もいた。
「ほんとだ。どうすればいいんだ。お兄さんたちは今二階だし。そこまで行く?」
「ゆーきの、季流さんがいなくたって、俺らで何とかしようよ。俺らは〈怪奇団〉だろ。昔のようにやろ?」
「え、でも……」
雪野は青い顔をして、蓮を見る。
昔のようにと言われると……
「雪野が囮、紀菜ちゃんが見て、俺がやっつける! な、やろう?」
蓮は雪野の肩を掴み、説得しようとする。
「いやいやいや、あれには無理があったって。今さらだけどさ、あれはやめない。囮なんてほんと勘弁してほしいです」
「なに今さら、怖気づいているのよ」
「雪野はほんとに弱虫だな~」
「じゃあ、蓮くんが代わりに囮やってみなよ」
「俺には無理だよ、二人と違って見えないから不意を突かれて死んじゃうかも。あ、その時は雪野のせいだからね」
「なんでだよ!」
「と言っている間に、【変物】が来たわよ!」
【変物】たちは校舎をすり抜けて入ってきた。
そして子供たちがいる教室に向かって来ていた。
「仕方ないから、俺が一つずつ祓っちゃうよ」
「蓮くん、そこよ、あとすぐ左、右!」
紀菜ちゃんは一生懸命、押し寄せる沢山の【変物】の存在を言葉で伝え、指をさしながら対応する。
そんな中、雪野はというと、
――なんだ、おいしそうな人間がいるぞ。
――本当だ、おいしそうな人間だ。
――不思議な人間だ……おいしそう。
おいしいと食べる前提の声が聞こえてきて、雪野は自分が食べられる光景を想像して、身を強振で震わせた。
「うぅ……」
【変物】は彼の方に近づいてくる。
そのため雪野はそれをよけようとするが、離れてくれず、袋にしまっていた人形を出し、その帯目に差し込んであった小刀を取り出す。
それを【変物】へと振り下ろす。
すると小刀が【変物】の体に突き刺さり、その瞬間、その【変物】は跡形もなく消滅する。
それの繰り返しで雪野は【変物】に向かっていった。ただがむしゃらに……
「おりゃ! そりゃ! や! おっと……」
しかし、無数の【変物】を前に雪野はきりがなく、危うく横から来た【変物】に接触するところだった。
「やっぱり、これだけではヤバいな……」
だから雪野は小刀を持ちながら人形を前にかかげた。
「人形よ。【変物】を退治せよ!」
すると、そこに吸い込まれるように【変物】の姿は次第に小さくなり、最後には跡形もなくなった。
「あー、助かった」
一部始終を見ていた二人は驚いたような顔で雪野の方を向く。
「なんだ、一人で何とかできるんじゃない」
「そうか、雪野は昔と違って見える様になったから、そういうやり方もできるようになったんだね。人形とか操れるの?」
「いや、振り回されている気がしてならない。今も昔も……」
「そうか、それは大変だね」
「まあね。あと、この人形使っても結構時間かかって、逃げながらじゃないとさすがにこの量はヤバいよ! という事で俺も十分、危険で余裕がないからね。言っとくけど」
「何言っているの、あなた【変物】が見え人形があるうえに、妖刀とか持っているなんて私たちより余裕ありそうじゃない。私も出来る事なら護身用に持っておきたいところよ。うらやましいわ」
「という事で、やっぱり余裕ある雪野が今……囮やりますかぁ~」
「いや、やらない! 絶対やらない! 今思うとよく昔の俺死ななかったなって思うよ。てか、この量、異常だろ! 考えろよ! 俺が死んでもいいのかよ!」
「あはは、確かにこれだけの【変物】どこから来ているんだろうね……」
蓮がそう言葉を漏らしたところで、先に顔を前を向き直した紀菜は言った。
「蓮くん、すぐ右危ない! 次は左ね」
「うん! それ! は!」
その後、二人の掛け合いは集中して行われた。
「本当に異常だわ。気持ち悪い……」
雪野たちはこの後も【変物】退治をしていった。
雪野が人形と小刀、紀菜が《霊視》、蓮が《破力》の力で【変物】をやっつけていくのであった。




