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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第三章 再会の春、告げる桜
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003 【精霊樹】とささやき

「聞いた話だと、半年前ぐらいにここの桜の木を切ったそうですね」

「はい、今が四月なのでだいたい十一月頃でしょうか、冬も近くなり腐った木が雪の重さに耐えられるかという議論がありまして、そのくらいの時期に切ったはずです」

「そうですか。怪奇現象が起こる様になったのは、その時からですか? それとも何か月か時間は空いていましたか?」

「時間は少しだけ開いていたと思います。といっても、一週間か二週間ほど。それから奇妙な現象が起こる様になりました」

「なるほど、校長先生から聞いた話と大差ないですね」

「あの、校長先生からすでに話を聞いていたんですか?」

「すみません。念のため確実な情報を知る為に、先生にも協力させてもらいました」

「いえ、そうだったんですね」

「とりあえず、見たところ切り株には【変物】などは見受けられませんね」

 季流は切り株の周りを見てこう述べた。

「他に原因があるのか……?」

 そこで紀菜が言う。

「そこに【変物】なんているはずがないわよ」

「紀菜さん、それはどういうことですか?」

「切られてしまったから、もう効力はないと思っていたわ。でもまだ、桜の力は残っているみたいね」

 そこで雪野も蓮も気づいた。

「あー」

「あれだね」

 季流は訳が分からない様子で言ってくる。

「いったいなんなんですか……教えてくださいよ」

「まあ、よーく見てみればわかりますよ。季流さん」

「あなた、プロの祓い屋なんだからそれくらい自分で気づいたら」

 紀菜の毒舌が季流に向けられた。

「……」

 季流は眉をよせながら、紀菜を見た後、考え出した。

「見ていれば分かるんですよね……」

「はい」

 蓮が返す。

 切り株の方にばかり集中している季流に雪野はヒントをやる。

「あのー、お兄さん。もっと周りを見てみてください」

「周りですか?」

「【残像】とか近くにいますよね」

【残像】とは、人の記憶の欠片である。

 黒い人型をしており、それ自体に意思はなく人に害をなす事はない。

「いますね」

「それはどんな感じに動いていますか?」

「普通にうねうねと、不規則な感じで……こちらに向かってきてますね」

「え、そんなはずは……」

 雪野が見たところ、【残像】は桜の幹を踏み越え、雪野たちの横をするりと通って言った。

「ええ! ここまで来たんだけど……」

「やっぱり、効力は消えてしまっていたみたいね……」

「たまたま、さっきまで【変物】はいなかっただけかぁー」

 三人は口々にそうもらし、そして雪野は季流に伝えた。

「季流お兄さん、もう問題とかは関係ないんですが、答え言いましょうか?」

「あーいえ。何となくなんですが、あなた方の反応でもう答えが分かりました。なるほど、この桜の木は【霊樹】ですね。別名【精霊樹】とも言います。大変珍しく国内では百件ほどしか確認されていないとか、探せばもっとあるだとか……書かれていますね」

と、季流はカバンに忍ばせてあった教科書サイズの本を片手に読んでいた。

表紙には〈変物図鑑、解説本〉と書かれてある。

「また、お兄さん、そんな本とか読んで……」

「桜と言えば、で出てきました。どうやら昔はこの木も【変物】を祓う力があったのでしょうね」

「はい、はぐらかさないで下さい、お兄さん。プロなんだからそんな本に頼らなくても知識持っていてくださいよ。任務を行うにいたってこっちが不安になるじゃないですか!」

「仕方ないでしょ。私の頭で覚えられる事にも限度がありますし。いちいち覚えるのも、めんどくさい」

「でた、まためんどくさい。お兄さんはいつもそれですね」

「あはは、まあいいじゃないですか。ちゃんと基本的な事は覚えていますし」

「本当ですか?」

 疑わしかった。

「いや、覚えてませんよね……絶対……」

「とりあえず、この話は置いておいて、先生ここまでの案内ありがとうございます」

 季流は後ろの方から、ずっと雪野達の様子を伺っていた花子先生の方へと目を向けた。

「いえ、いいんですよ。他に何か必要な事があれば言ってください」

「そろそろ、休み時間が終わる頃だと思うのですが……」

「はい。私はそろそろ教室の方に戻ろうともいます」

「そうですか。確かこの後でしたよね。奇妙な現象が起こるのは」

「はい。そうです」

「この後、何かが起こった時には教室をうかがってもよろしいでしょうか」

「はい。それはかまいませんが、子供たちが騒いでしまうかもしれないけれども気にしないでください」

「はい。分かりました」

「それでは」

 去り際、花子先生は雪野たちに手を振って校舎へと向かって走っていった。

 次の授業の準備とかがあったのかもしれない。

 その後に、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「それでは、この場所には何もない様なのでとりあえずおいといて、私たちも教室の方をまわって授業風景など変わった様子はないか確かめていきましょう」

『はい』

 季流が先に玄関へと向って歩き始める。

 それに蓮たちもついていく。

〈桜〉の場所から踵反す雪野はそのまま歩き出そうとした。

 だが、その時……

 ――助けて。

 ふと誰かに呼ばれた気がして、雪野はさっと振り返った。

 そこには切り株となった桜と【残像】しかなく人らしきものは誰もいなかった。

 足を止め一人遅れる雪野に、蓮は声をかけてきた。

「雪野、どうかした?」

「ううん、何でもない」

 雪野はその場から動き出した。

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