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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第二章 呪いの人形
33/141

011 話があるのに逃げられる

 こういう時に限ってだ……

 雪野は、蓮から話を聞こうと今日ずっとその機会をうかがっていた。

 だが、蓮はその機会をなかなか与えてくれない。

「蓮くん、お話があるんだけど……」

 なぜか雪野が彼に聞こうとすると、

「ごめん。このあと移動教室だから、また後でね」

 と、言われたり……

「誰か今日集めたノートとプリント、ワークを職員室まで運ぶの手伝ってくれませんか? 日直さんだけだと多いので手伝ってあげてー」

「はい、僕が手伝います」

英語の授業だけ担当の石川京子先生の手伝いを自ら引き受けて、

「ということで、先生に頼まれたノートをもって行かないといけないから、ごめん」

 と言われ次こそは聞けると思ったら、三時間目の終わりにはいつの間にか蓮の姿は無かった。

 隣の六年二組にもいなかった。

 一限目は体育で仕方がなかったし、二限目の英語の授業も蓮は前からよく先生の頼みを引き受けていたし、これも仕方がないだろう。

きっと三限もトイレやら保健室に行ったりしたんだろう。

 そう思おうとしていた雪野であったが、四限目が終わって給食の準備が始まろうという時、やはり蓮はすぐ教室から出て行こうとしていた。

 どこへ向かおうとしているんだろう? 給食の準備だろうか?

 いや、でも蓮は当番じゃないはずだ。

 すると、どこへ行こうとしているんだろうか?

 雪野は蓮を追いかけようと教室を出て、見失わないように人ごみの中をかける。

 一斉に給食の準備をするものだから廊下はそれなりに込んでいた。

 速足でかけても蓮は余計足を緩めず走り出すものだから雪野はふと思ってしまう。

 もしかして……もしかしてだが、わざとか!

 蓮はずっと自分を避けている気がする。

 そう思った一瞬、曲がり角でちらっと蓮の瞳が雪野の方を見た気がした。

 その先には階段が備わっている。

「待って、蓮くん!」

 雪野は廊下を出て階段の方まで着いた。

 その時には既に蓮の姿は無く、雪野は周りで食器や鍋を運んでいる人たちとぶつからないように急いで下へとおりた。

 すると蓮の姿を再びとらえる。

 蓮の向かった先は一階の一年生から三年生の教室が並んでいるところで、雪野はその長く続く廊下を走った。

 人ごみの中でとらえた少し遠くにいる蓮も走っているように見えた。

 いや完全に走っていた。

 絶対わざとだ、これは……雪野はそう確定しながらも人ごみをかき分けながら蓮を追う。

 蓮は廊下をいき渡るとまた角を曲がった。

 そこまで行くと特別教室や職員室、保健室などの部屋があるところで人気は無くなる。

雪野もすぐその角を曲がろうとしたのだが、そこで、

「うわっ!」

「きゃ!」

目の前には人がいた様で雪野は誰かと同時に悲鳴をあげた。

 ぶつかった拍子に相手の手に持たれていた荷物がばらまかれる。

 それは、プリントのようで雪野は顔を上げその人物を見る。

 そこには雪野のよく知っている顔があり、落ちたプリントを拾い始めると彼に言った。

「もう、雪野くんかぁ……」

「先生、すみません。大丈夫ですか?」

 担任の小林花子先生だった。

雪野も急いでプリントを拾う。

「大丈夫だけど……なんでこんなところにいるの? 給食の準備はどうしたの?」

「あ、えっと……その、ちょっと具合が悪くて……」

 慌てて雪野はそう言い訳し、お腹に手をやってごまかそうとする。

「お腹が痛いの? 一緒に保健室まで行ってあげようか?」

「あ、いえ、一人で行けるので大丈夫ですよ」

「そう?」

「あはは……」

 そこで雪野はプリントをすべて拾い終わり花子先生にそれを渡す。

「はい、先生」

「ありがとう、雪野くん」

「それでは、失礼します!」

 雪野はその後すぐ蓮の後を追おうとその場で走り出そうとする。

 しかし、

「あ、ちょっと、雪野くん!」

雪野の後ろでそれを眺めていた花子先生は、即座に注意する。

「廊下は走っちゃだめだからね。さっき蓮くんも走っていっちゃったけど、どうしたのだろう?」

 その言葉で雪野はいったん足を止めた。

「先生、蓮くんはどこへ行ったか分かりますか?」

「う~ん、奥の方を曲がって言ったのは分かるけど、その後の事は分からないなぁ」

「そうですか……」

 とりあえず、その奥に行かなければ……まだ間に合うかもしれない……

「でも、なんでそんなこと聞くの……」

「先生、ありがとうございました。それでは!」

 雪野は花子先生の言葉をさえぎって再び走り出した。

「え、雪野くん? あ、だから走っちゃダメって言ったでしょう!」

 そんな声がかかる中、雪野は全く具合が悪いそぶりもなく全力で角まで走り抜けた。

 だが、そこにはもう蓮の姿は見受けられなかった。

「そうなるよね。やっぱり……」

 蓮どころか誰もいない廊下を眺めて雪野はため息をついた。

「なにしてるんだろう、自分……」

 どちらにせよ、最初から運動神経抜群な蓮に運動全くダメダメな自分が追いつけるはずがなかった。

 いいわけをするようだが、自分は長年の闘病生活で体を動かす機会など全くなかった。

 もう、階段を上り下りするだけで息が上がっていたぐらいだ。

 雪野は保健室の前まで歩いて来ていた。

 その横には二階へと上がる階段があるのだが、おそらく蓮はそこを上っていったのだろう。

 そして今頃給食の準備は大体完了している頃になるから蓮はそのまま教室に入るに違いない。

 自分はすでに、先生に具合が悪いと言ってしまっているので、今さら教室に戻れないし。それに……

「うう……ああ、なんか……本当に具合が……」

 二階にある六年生の教室からここまで走ってきて本当に少し、いや、だいぶ気持ちが悪くなってきた。

 そういうわけで保健室に入る事を決める。

「失礼します。先生、ちょっと体の調子が悪いので休んで……」

 入った先には……蓮がいた。

『あ……』

 蓮は保健室の先生にどこが具合が悪いの? 

と、質問されている最中だった。

 蓮は雪野の姿をとらえて白々しくこんな事を言ってきた。 

「あれ、雪野くん……どうしたの保健室になんかきて、どこか具合でも悪いの?」

 明らかに蓮は具合など悪くない様子だったので、雪野はイラッとしながら、

「お前のせいだよ!」

 と弱弱しくそう答えた。

 すると、吐き気がぐんと上がってきて、

「うっ……」

 雪野は口に手をあてる。彼は本気で具合が悪かった。

 それをやっと蓮が察してくれた様で……

「え、雪野くん? もしかして本当に具合悪いの?」

 雪野は今それに答える余裕もなかった。

「ちょっと大丈夫? 吐きそうなの?」

 雪野はうんうんと言葉の代わりに首を前に振った。

「先生、とりあえず洗面器、洗面器!」

「はいはい」

 こうして、しばらくして少し楽になった後、ベッドで休んでいるよう保健室の先生に言われたため雪野はそれに従いベッドに横になった。

 そして、横のベッドにはなぜか蓮がいる。

「なんで、元気なはずの蓮くんが僕と一緒に寝てるんだよ」

 蓮はカーテンからこちらを覗き込みながら申しわけなさそうな顔をしてくる。

「ごめん、雪野くん。そういえば君、もともと体が弱かったんだよね。それなのに走らせてしまってごめん」

 僕は体が弱かったためいままで学校に通えていなかったとされている。

 もちろんそれは本当の事であり、隠すような事ではない。

 しかし学校に通えるまで色々な準備と親の説得が必要であったのだ。

「やっぱり気づいていたんじゃないか」

 雪野は蓮を睨む。

「あはは、雪野くん。そんな酷そうにしながら怖い顔で睨まないでよ」

「誰のせいだよ!」

「俺もついさぁ、雪野くんが俺の話に食いついてきてくれたもんだからちょっとね」

「あっ?」

 ムスッとしている雪野に、次に蓮は落ち込んだ様子でこう言った。

「友達になってよと誘っても断られたり、無視されたり、無視されたりしたから、少しだけからかってあげようかなって思っただけなんだから……」

「お前なぁ……」

 それを言われると言葉もない。

 確かに自分は友達になってくれようとしてくれようとしている、こいつをそっけなく断ったり、話しかけてきているのに無視しまくったりしていた。

 だが、それにはちゃんと理由があったのだ。

 しかし、どんな理由があろうと無視されたりしたら相手は嫌な気分になるだろう。

 家で自分が家族から、まるでいない者の様に扱われる事を思い出して、雪野は反省した。

「はあ……ごめん。無視したりした事は謝るよ。蓮くんの事は別に嫌いとかじゃないから。ただ、こっちの事情で……」

 雪野はそこまで言うと押し黙る。

「ふーん、それってその人形と関係している?」

 蓮は人形という単語を口に出す。

「……」

 雪野はそこで当初の目的を思い出した。

 なぜ、こんな目にあって蓮を追いかけていたのかというと、彼からいろいろ聞きたい事があったからだった。

 朝、蓮は自分が他の人とは違うと漏らしていた。

 そりゃあ自分は男のくせに髪が長かったり、不気味な人形を常に持ち歩いていたりといろいろ悪目立ちしているだろうが、そのことは一旦、置いておいて蓮は告げたのだ。

 僕は他人とは違う特別な存在なのだと。

 それと、僕が蓮と似ているみたいな事を言っていた。

 そして蓮は、まだ誰にも知られていない人形について何かを知っている様なそぶりを見せる。いや、全部分かっているのだろうか?

 蓮には何か不思議な物たちの姿が見えたりして、それで僕に近づいた。

 そこに何の企みがあるのか分からないが、僕が抱く彼の完璧転校生像がそんな想像をさせた。 

「雪野くん、何を考えているの?」

 蓮は雪野の顔を覗き込む様にして話しかけてきた。

「……」

「ねえってばぁ」

 雪野は思い切って聞いてみた。

「あ、あのさ、蓮くんはどこまで知ってるの?」

「ん? どこまでって?」

 蓮は白々しく、微笑を浮かべる。

 それに雪野は、言うか言わないか迷ったが、もっと詳しく蓮から彼が持ちうる情報を得たかったため自分の事情の一部を話す事にした。

場合によってはおかしな事を言っていると思われて、変人扱いされるかもしれない。

だけど、それは周りkら思われている事だろうから、言う事にした。

「ほら……何か見えているんだろ? この人形の事について何か気づいていたみたいだし。僕の事についても【化け物】についても何か知ったような感じで、一体お前は何者なんだ!」

 その瞬間、蓮は驚きも困惑もせずただ嬉しそうな顔を向ける。

 そしてあっさりと言った。

「ん~とね。実は俺、雪野くんが言っている【化け物】とかは、全然見えていないんだよね」

少なくともこいつは【化け物】の存在を認知しているという事か。

それが分かったうえで雪野は冷静に聞いた。

「うそ。それならなぜ人形の事とかいろいろ知ったような感じなの?」

「見えていないけど感じる、そんなもんかな?」

「見えないけど感じる?」

「そう。例えば寒いとか熱いとか人が体で感じる感覚と同じで、そばによるとある違和感がある。それはとても温かい気持ちの物でもあれば、思わず遠ざけなくてはいけないような嫌な感覚の物もある。俺はそれを感じ取って、うまく雪野くんが言った【化け物】とかの危険から逃げているんだ」

「……」

「あ、雪野くん自体は前者の方なんだよ。普通に周りにいる人たちと同じ。でも、その人形はかなり危険な感じがするね」

「蓮くんがいろいろ化け物に対して苦労してきたのは分かった。でも、僕が……人形が危険だと分かっているなら何で僕に近づいてきたの? ただの興味本位?」

「う~ん、それもあるんだけど、もう一方の理由は……これ言ったら雪野くんを怒らせてしまうかもしれないんだけど……」

 興味本位っていうだけでイラッときているよ、と思うが言わない。

 蓮は聞くか聞かないかを確かめるように雪野を見る。

 それに僕はもちろん、

「いいよ。話して。怒っても殴りはしないから」

 冗談交じりに聞く事を選択する。

「え~、言うけどほんと怒らないでよね」

「いや、だから、怒るか怒らないかは内容しだいだって」

「ん~、なら言うけど、実は俺……」

 蓮はためらいがちに、次にこう告げた。

「雪野くんを利用するつもりなんだー」

「はあっ!?」

 そういう言葉しか出なかった。

 雪野の呆気にとられた顔を見て、蓮はもう一度言い直す。

「いや、これ真剣だから。俺は雪野くんを利用しようとしているんだよ」

「それで?」

「え、それでって……何? 怒らないの?」

「怒るっていっても、それだけじゃよく分からないから、もっと詳しく教えてよ」

「それは、なんで俺が雪野くんを利用しようとしているかって事?」

「そう」

 雪野が頷くと蓮はう~んと、困った様に頭をかいた。

「それは、まだ秘密って事でいい?」

「なんで?」

「理由はそのうち絶対話すから。とりあえず雪野くんは俺の友達になってくれればいいからさ、よろしく」

「それはムリ!」

 雪野は即答した。

「あの、なんでかなぁ~。雪野くんそれくらいはいいんじゃ……」

 蓮は困った様にそう答えた。

「何ででも!」

 雪野はその途端、布団をバサッと全身に被る。

「え……もしもーし。雪野くん勝手に話を打ち切らないでほしいなぁ~」

「……」

 雪野は布団をかぶりながら思っていた。

 人形がある限りどっちにしろ、僕には近づかない方がいい。危険だし……

「お~い、雪野く~ん?」

 他にも僕が近づく事によって蓮が他の子たちと仲良くできなくなるのは、ダメだ。

 本人が別にいいのだとしてもだ。

 僕がなんだか申し訳ない気分になるのだ。

「……」

 雪野が黙ったままでいると蓮はそっと、言ってきた。

「もしかして雪野くんは、俺が、体調が悪くなるんじゃないかとか、いろいろ心配してくれてるの?」

「だとしたら、何!」

 布団をかぶりながらそう答えると、自分の声がこもって聞こえた。

「ありがとう。でも心配いらないよ。俺はさっきも言った様に他の人とは違うからね。雪野くんと似ているって言ったのはそういう意味でもあるし。それに俺はたぶんだけど、人形の呪いにはかからない。だから大丈夫だよ」

 それを聞いた雪野は顔を少しだけ出して蓮に説明した。

「それは蓮くんが人形に触った事がないからだよ。本当に危険だから。人形に触った人のほとんど全員が今休んでいるんだよ」

「あ、じゃあ、その言い方からするとそうじゃなかった人もいたわけだ。その人は誰?」

 そう聞かれて、雪野は一人の人物を思い出す。

 人形に触れても呪いは発動しなかったその人物は……

「花子先生だけど……」

「花子先生かぁ、担任の。それだと俺も大丈夫だよ。花子先生が触れたんだから、多少の霊力があって特殊な人はその人形に触っても害はほとんどないはず。その証拠に雪野くん自体が触れているでしょ」

「それじゃあ、花子先生も僕たちと同じってこと?」

 蓮に聞くと、少し違うなあという表情をした。

「同じというか、先生の方は自分が霊力があるとは気づいていないのかなぁ? 人はそれなりに皆、霊力を持ち合わせている。そして霊力が高くても見えも感じもしない人はいるからね」

「そうなの?」

「うん。その人は無意識に自分の力で身を守っているものなんだよ。霊力を持つ人は基本、【化け物】に襲われやすいからね」

「へ~」

「今回、人形を触っても雪野くんが言う呪いがかからなかったのはそのためだね。先生は常にバリア的なものを身の回りに這っているのかなぁ~」

「そ、そうなんだ」

 蓮から出てくるよく分からない言葉。

 霊力……それは自分にもあるものなのか?

 蓮は僕より【化け物】などの、そういう不思議な世界の事について詳しいように思える。

 今の僕には【化け物】の姿を捉えたり、蓮みたいに感じたりすることはできない。

 この呪いの人形を持っている以外では普通の人、同然だと言ってもいい。

 しかし、昔は確かにぼやけながらだったが、【変】な【化け物】の姿が見えていた気がする。

 だが、姉が死んだ時から、そう言ったものが見えなくなってしまっていた。

時間が経つにつれ、いつの間にか気にしなくなっていたのだが、僕には霊力があるとして、

「僕は、花子先生と同じなのか……?」

 雪野がぼそっと呟くと、横で聞きもらさなかった蓮が言ってきた。

「え、違うでしょ。雪野くんには【化け物】の姿が見えているんだから。どっちかというとその人形に取り憑かれていると言った方が当たっているかも」

「えっ……」

 何か勘違いされている。

 僕は【化け物】の姿など今は見えていないのに……

「人形に呪いを受けないだけの霊力が雪野くんには備わっているのだと俺は予想しているよ」

「ああ! ちょっと待って蓮くん!」

「なに? 雪野くん」

「勘違いしているみたいだけど僕、【化け物】の姿なんてちっとも見えていないよ。むしろ蓮くんよりも【化け物】に関する知識とかも疎いと、さっきから話を聞いていて思ったよ」

「え、ええ!? そうなの? じゃあなんで【化け物】のとかの存在を認識しているの? 俺はてっきり雪野くんにはそういったものが見える体質だと思ったんだけど……」

「え、なんで?」

「なんでって、それはやっぱり雪野くんが人形の影響を受けていないから?」

「何で疑問形?」

「そもそも人形の呪いが皆にかかる理由は、その人形が雪野くん意外を近づかせないからだと思うんだ」

「なぜ、そんな事が分かるの?」

「俺は特殊らしい。【化け物】の姿は見えないけど、実は他の人には見えないものが見る目を持っているんだ。例えば、人のオーラだったりね。人形の周りから黒いもやの様なものが吸収されている様に。今も微弱だけど雪野くんや俺から吸い取っているよ」

「そうなの!?」

 それはやばいんじゃないの? 

「それじゃあ、どっちにしろ蓮くんも危険なんじゃ……」

「それでも俺は大丈夫だって」

 蓮はこの後、ぼそりと呟いた。

「俺は皆とは違うし……」

「全然、大丈夫ではないじゃん!」

「それじゃあ、俺がその人形に触って何ともなければ、雪野くんも安心できるよね?」

「そういう問題じゃ……うわっ!」

 蓮はいきなり、雪野を覆う布団を掴み取り上げた。

 雪野は上体を起こし蓮に言う。

「おい、蓮くんいきなり何……って!」

 すると蓮は前のめりに雪野の上に乗っかり、人形を掴み取った。

 胴体部分を雪野はまだ掴んでいる。

 そして蓮は人形の顔を罰当たりにもまる掴みにして、対局に引っ張られる状態になった。

「ちょっと蓮くん……」

 何しているんだ、こいつは! 

「ほら、俺はもう人形に触ってしまいました。この後がどうなるかはお楽しみって事で」

 涼しげな顔でそう言う蓮に対して気が気でない雪野であった。

「分かったから、とにかく離してくれない」

「う~ん、どうしようかな~。雪野くんが友達になってくれるって言うんだったら、離してあげるけど」

 いたずらな笑みを浮かべて蓮はいっこうに人形を手離そうとはしてくれない。

 そんな蓮に雪野は若干呆れ気味に強く言い放った。

「だから、それはムリだって言っているだろう!」

「雪野くん、そんな強情だと友達一人も出来ないよ」

「だから、いらないって言ってるんだよ!」

 それに、余計なお世話だ!

雪野は言葉と同時に、人形を思いっきり引き戻そうとした。

 だが蓮も離さなかったので、その瞬間、お互いの引っ張る力が加わって人形の首がぎゅいっと音を立てて二つに分かれてしまった。

『あっ……』

 雪野と蓮は同時にそう言葉を吐いた時、人形が外れた瞬間にお互いに手を放してしまい、雪野が持っている胴体は彼が寝ているベッドの上に落ちて蓮が丸掴みしていた顔の部分は見事に手を離れころころと転がり、地べたからこちらを見つめる状態で動きを止めた。

その、まるで生首のような様子を見て蓮は呟く。

「なんか、違う意味で呪われそうだなぁ」

「誰のせいだよ!」

「よいしょ」

 蓮はベッドを降り、人形を拾うとさっきまでの困った顔に戻った。

「でも、これどうしようか。本当にごめん……」

 それに雪野はもう呆れた様子で、一間おいてから口を開いた。

「まあ、たぶん大丈夫だよ。心配しなくて。そのうち治っていると思うから……たぶん」

「そのうち直るって……?」

 蓮はいぶかし気に、。じ~っと雪野を見つめ返していた。

 雪野はその視線を受け止めて話した。

「なんか前、花子先生に人形没収されたんだけど、花子先生その時に人形を汚してしまったらしいんだけど、戻って来た人形はいつもと何も変わりなかったんだよね」

「ふ~ん、そうか。それはよかった、よかったぁ~」

 なるほどという様子で蓮は相づち、蓮はほっとした表情を見せた。

そして何食わぬ顔をして突然とこんな事を言ってくる。

「雪野くんって、何気に優しいよね」

 それに雪野は、動揺を隠せない。

「え、な、なんだよ、いきなり!」

 自分は彼に対して優しい事をした覚えはないのだけど……

「はは、思った事いっただけだよ。そんな照れなくてもいいのに。はい人形」

 そう言われながら渡された人形を雪野は受け取った。

 そして、人形の胴体に頭の部分をつける。

 無事に元通りになったところで雪野はちょっと前の蓮の言葉に返した。

「別に僕は普通。優しくはない!」

「そうなの?」

「うん。それに僕は蓮くんの事、意外に嫌な奴だと思ったよ。正直……」

 思った事を素直に吐いた。

 それには少しだけためらいがあったけど、次の蓮の言葉や様子を見て別にいいやと思った雪野だった。

蓮はまるで楽しそうして笑った。

「あはは、そう?」

「そう……」

そこまで会話が進んだところで、突然と思わぬところから声がかかった。

「あなたたち、さっきから何の話をしているの?」

『えっ』

 それは雪野の一番左側のベッドからの様で、雪野と蓮が入って来る前にすでに先客がいたようだ。

 カーテンが閉まっているせいで、本人の顔は見えないが女の子の声や口調だとは分かった。

 しかしどうしよう……

 さっきまでの会話を全部聞かれてしまったかもしれないので、それは何かとまずかった。

 何がまずいかというと、人形の呪いの事とか霊力とかを持っている事とか知られてしまい、噂になって学校に広まってしまうんじゃないか……と、そんな事を考えた。

 いや、これは考えし過ぎかもしれないが、上手くごまかせたとしても頭の変な人だと思われるんじゃないのかこれ!

 どっちにしろ、いい事がない。

 でも、とりあえず何とかごまかさないと。

「あ……えっと、それは……」

 しかし雪野は何のごまかす言葉も浮かばない。

 そして、そのあとはただ無言が流れるはずだった。

 次の瞬間、その女の子が雪野の言葉をさえぎってしまわなければ……

「キモイんだけど。男同士で何言い合っているの? うるさくて眠れないから静かにしてよね。というか、人形とか霊力とか言って子供……そんなに元気ならもう教室に戻ったらいいと思うのだけど」

 容赦なくそんな放たれるそんな言葉、とげとげしいその口調に一瞬心が凹みそうになる。

「……」

 辺りは静まり返っていた。

 横にいる女の子はひどく機嫌が悪いようだ。

 そうでなければ全く接点のないはずの自分達に対して、騒がしいだけでそこまできついことは言わないだろう。たぶん……

彼女の言葉からして自分たちの会話はただのおふざけ、おバカな戯言としてしか思われていないようで安心した。

だが、事態は思わぬ方向に傾いていた。

女の子はしばらく続いた沈黙を破って、こんな質問をしてきた。

「あなたたち、どんな関係なの? ……あーやっぱりいい。私はもういくわ。他人がお邪魔して悪かったわね」

 カーテン越しの陰からは、女の子がそっと雪野たちとは反対側の所から立って出ていく姿を捉える事ができた。

 そんな彼女の言葉と行動に、雪野と蓮はお互いに言葉をはもらせていた。

『ちょっと、待って!』

 その言葉と同時に、すでに二人の体は彼女に向かって動き出している。

 すると女の子は……

「仲がよろしいようで」

 そう言って女の子は足を止める。

 様子は一切なく、むしろ足早に保健室から廊下へと出るドアの方へと一直線に向かっていた。

 どうやら、何かあらぬ勘違いをされている様で、雪野と蓮は誤解を解かなくてはという勢いでカーテンをバサッとあけ放ち女の子を追う。

『だから違うから!』

 そう二人で言った時には、すでにその女の子は出入り口に立ち戸を開け様としていた。

 彼女は冷めた目をしてこちらを振り返った。赤ともいえる珍しい鮮やかな茶髪を肩にかかるくらい伸ばして、左耳上のクロスされたシンプルな黒いピン止めとその鋭い顔つきが印象だった。年は自分たちと同じぐらい。

 そんな彼女は蓮とそれから雪野の方を見て、

「あっ……」

 と、何かに気づいたかの様に、薄く驚く。

「えっ……?」

 どうしたのだろうと雪野が思っていると、女の子は雪野の方をじっと眺めながらこう言ってきた。

「ごめんなさい。間違えたわ。あなた……女の子だったのね」

 はっ?

「その……口調が男っぽいから、男だと勘違いしてしまったわ」

「いや、ち、ちが……」

 髪が長いせいと中性的な幼い顔つきのせいで女の子に思われてしまったのだろうか?

 雪野が訂正しようとした矢先、蓮が遮って笑いを必死で抑えるようにしながらこう言う。

「そう、そう思うよね。俺も最初は……あはは、勘違いしたんだ。でも今は受け入れつつあるんだよね。ねぇ、雪野くん」

おいおいおい、その言い方だとどっちにもとれるだろ!

言っている事は本当でも言い方が……

「バ、バカ! なに言ってるんだよ、お前!」

 そこでふと、こいつの嫌な性格を思い出した。

 わざとか! と、確信する。

 ほんとなに言ってくれるんだ、こいつ!

「照れなくてもいいよ。も~君は恥ずかしがりやすぁんなんだから」

「とにかく、黙れ」

「でもそんな君も僕はとても気に入っているんだけどね」

 蓮はさらりと女の子を口説くような言葉を吐いた。

 雪野は蓮を睨みながら怒鳴る。

「おい、もうやめろって!」

 その後、赤毛の少女に目をやると若干引いている様に見えた。

「あ、あの君、勘違いしないでね。僕は……」

 目の前の女の子に弁解しようとすると、彼女は分かった、分かったと、手を前にだしてこれ以上の言葉を雪野から封じた。

「あー皆まで言わなくていいわよ。つまり二人はそういう関係ってわけね。それじゃあ、私はこれで」

 言い終わるとすぐ去っていこうとする彼女に雪野は思い切って告げた。。

「ちがーう! 僕は男だ!」

「え……」

「ああ、そういう子なんだよ。どうか気にしないでやって……俺たち転校生同士なんだけど、こんなんだからこの子クラスで友達一人もできずいつも一人なんだ」

 蓮はずうずうしく雪野に肩をかけながらそう言う。

 それを乱暴に払いのけて雪野は言い返す。

「いつまで続けるんだ! これ!」

「俺が転校してこなかったら、今もクラスから孤立してこの子一人だったと思うんだよね」

「あなたたちが噂の人形の転校生とモテモテイケメン転校生だったのね」

「お、うれしいね。そうそうそれで……」

 そこで雪野は蓮の言葉をさえぎって言った。

「話しを聞けって! はあ……気持ち悪く……」

「あ、ごめんごめん。雪野、大丈夫……?」

 彼女は真剣に蓮の言葉に耳を傾け始めていてだんだんと自分が男だという事実を説明する事ができなくなってしまう。

 最初に彼女から発せられた言葉、それを思い出すと後々とても恐ろしい状況が待っているような気がするからだ。

 あの鋭い口調……特に自分に対する非難が想像できる。

 だから雪野は迷った。

 ちゃんと自分は男だという事を訴え続けるか……

それとも、このまま蓮のおふざけにのって女のふりをしていればいいのか?

「雪野はこんな感じに体が弱いみたいんだけど、それで会話が苦手なのかまだ女の子の友達とかいないんだよー」

 彼女とはもう会う機会がないかもしれない。

 これが一度きりの会話だというのならそれでもいいかもしれない。

 よし、ここはうまく乗り切ろう!

 そう思った時、蓮は……こいつは言った。

「俺もね。友達まだ雪野くんしかいなくて……もしよかったら君も俺たちの友達になってくれないかな?」

「なっ!」

 雪野から思わずそんな声が漏れる。

 女の子はというと、困り顔になって言葉を濁していた。

「えっと、それは……」

「あ、男の俺がいやだったら別に俺とは友達になってくれなくていいから。その代り雪野くんとは友達になってはくれないかな?」

 僕も男なんですけどー!

 というか、それよりも、なに友達増やそうとしてるんだよ!

 チラッと女の子の方に目を向けると、彼女は戸惑いながらこう言った。

「それは気にしないのだけど……」

「それじゃあ、雪野くんとは友達になってくれるんだね。俺も混ざっていいの?」

 蓮の物言いは図々しというか、押しが強い。

 彼女の表情はその言葉でひどく困惑していた。

 本気でこいつは彼女を友達にするつもりの様なので、雪野は止めようと思った。

 このままいくと、自分の正体も時期に明かされる事になりかねない!

「おい、蓮くん! 僕は友達なんて……」

 いなくていい! 

と、そういうつもりだった。だが先に……

「私、友達作る気なんてないから」

 彼女に先にそう言われてしまう。

 そして次に申し訳なさそうにこう付け加えた。

「ごめんなさいね……」

雪野は驚いて彼女を見る。

 蓮も同じようで一瞬横目で雪野を見た後、彼女を見てこう言った。

「えっ、なんで? もしかして、雪野くんの一人なりたがりが移った?」

「そんなわけないだろう! 何? 一人なりたがりって。失礼だな」

「だって、俺と友達になるの、最初嫌がっていたじゃん」

「今も友達になった覚えはないんだけど!」

 一瞬、言葉を止めていた蓮は次に、こんな感じに驚いていた。

「もう、雪野くんは照れ屋なんだから……」

 それを遮って、決してそうではないからといいたい彼は、うっとしいぞと蓮に表情からも訴えた。

「もう、それはいいから!」

 そこで眉を寄せた彼女は踵返して、そのまま去ろうとする。

「そういうわけで私はもう行くから。じゃあ」

「あっ、ちょっと……」

 蓮が彼女を引き留めようと足を前に踏み込むと、

「私の事は放っておいてくれる。転校してきたばかりだから知らないと思うけど私と関わるとあなた達まで周りから……いえ、とにかく私には近づかないで。私は一人がいいから!」

 彼女はそう声をあげると、足早にドアの向こう側へと去っていった。

 閉まるドアの音が二人だけとなった静かな保健室に響きわたる。

 去り際の彼女の顔はとても冷たく、そしてどこか寂しそうにも思えた。

 彼女にどんな事情があるかは知らないが、少し自分と似ていると雪野は思ったのだった。

「あー、行っちゃった」

「追いかけないの?」

「女の子を追いかけたら、俺はストーカーになっちゃうよー」

「僕に付きまとう事もストーカーになると思うんだけど」

「雪野くんも俺を追いかけてきたじゃん。お互い様だよ」

「なに、その理屈。ああ、もういいよ。これであの子が友達になるのとか、蓮くんの勝手極まりない無理な提案、止められたし」

 雪野が安堵の表情を見せると蓮は付け加えてこう言い放った。

「いや、あの子とはこれからも友達になってくれる様に、お願いするつもりだから。そのつもりでいてくれないと困るよ、雪野くん」

「え、なんでだよ! 僕、関係ないよね。なりたいなら自分ひとりで勝手にどうぞ」

「それはムリ」

 蓮は雪野を見て、すがすがしいほどの笑顔でそう言い放った。

「……」

 それに雪野はもう呆れ気味というか、もう若干、蓮という奴の色んな言動に自分が振り回される事を諦めていた。

 その後、蓮は一段落すんだというように、話題を変えて雪野ン背を向けた。

「それじゃあ、俺も教室に戻って昼ごはんでも食べてこようかな。早くしないと時間が終わっちゃうし」

 保健室を出ようとする彼の姿を見て、雪野はとっさに声をかけた。

「ちょっと待って!」

 なんだろう? 自分だけ取り残されるのもなんか嫌な気がした。

何だか、ひどく蓮の事が憎たらしい……

「あ、雪野くんは本当に具合悪いからまだ保健室でゆっくりしていないとだめだよ」

「ずるいぞ、一人だけ!」

 そう睨み返す雪野に蓮はなだめる様にこう告げた。

「まあまあ、君の分の給食は保健室まで持ってきてあげるから、そんな怒らないでね」

「もう、さっきから怒っているよ! ムカつきすぎてこれ以上怒る気にも慣れないほど、呆れているんだけど……」

 雪野は一端ため息をつき、次にこう呟いた。

「早くどっかいってほしい……」

 それに蓮はさわやかな笑顔のまま、雪野をふざけた様に言葉を返してくる。

「ああ、そんなこと言って~。本当は一人でいるのは嫌なくせに~」

 それにそれがよけい頭にきて、思わずよけいな声を張り上げてしまう。

「いいから、もういけって!」

 雪野がそう強く押し切ると、蓮は……

「ほんっと雪野くんは……強情だね」

「ああ!?」

 最後はドアの方から顔をのぞかせた彼は、彼がそう言葉を吐いた時にはすでにドアを閉めて部屋をでていった後だった。

 雪野は一人呆然と突っ立っていた。

 何なんだあいつは……本当によくわからない奴!

 雪野が抱く彼の印象は今日、「どこまでも気に障る奴!」だと記憶された。

嘆息し、それから雪野は気づく。

「なんか……いつの間にか具合はだいぶよくなっているけど、その代り疲れがぐんっと上がった気がする……」

 そこで雪野は一瞬、脱力してからこう決めた。

「よし、いったんねるかぁー」

 ベッドの方に振り向こうとした瞬間、完全に警戒を解いていた雪野に、アレは見計らったように姿を現した。

「わぁあ!」

 近くにあるテーブルの上に乗っかっている和人形の姿を目にし、雪野は声が裏がえる程、に驚いていた。その拍子に後退しこけてしまいそうになった。

「びっくりした。心臓に悪すぎるだろ。ああ、今ので……さらに……」

 疲れた……

 雪野は人形を掴もうとテーブルの前にある長椅子の上をまたぎ、手を伸ばす。

 だがその時、ガシッ手が下から伸びてきて雪野の腕を掴んだのだ。

「ぎゃぁああああああ!」

 雪野はそんな状況こそ身の底から本気で震えあがるように叫んだ。

しかし……その手の伸び先をたどっていくと……

「あぁ……!?」

 ある姿を捉えた雪野は一気に冷静さを取り戻す。

「って、先生?」

 そこにいたのは保健医の山中育美先生だった。

 育美先生は長椅子の上に横になりながら雪野の腕を掴んでいて、彼はそこで考える。

 そういえばここは保健室で、保健室の先生がいないのはおかしいと。

 育美先生は雪野が保健室に来てから一度もこの部屋を出ていない事に彼はやっと気づいた。

 ただあまりにも物音がなくて、姿も椅子から見えなくていらっしゃったものだから、あの蓮も女の子も気づかなかったのだと思われる。

 というか何で先生椅子に横になっているの? 

という疑問は置いておいて雪野は聞いた。

「いつからそこに?」

 話はすべて聞かれたとなると、かなりやばい気がした。人形について知られてしまう!

 先生は「よいしょ」の掛け声と共に上半身を起こして、椅子に腰かける姿を見せる。

「もう、元気な子が保健室を利用してずる休みとかしちゃいけないのにねぇ。あの二人は本当に……まあ、私は別に構わないのだけどねぇ」

 二人というと、蓮は分かるがあの女の子も仮病という事なのか?

 育美先生は雪野から手を放し、そっと立ち上がる。

「あの先生、さっきの話とか、いろいろ騒いでいた内容とか聞いていました?」

 すると即座に、こう返って来る。

「その人形がそうなのかい?」

「……あーはい……」

 つまり、肯定という事だろうか……? いや……どっちだろう?

 育美先生は人形をじ~っと見つめて指をさしている。

 その表情はいたって普通で、彼女の容姿は半眼で脱力した感じがにじみ出ていた。

 そして次にふふっと、微笑んでこう聞いてくる。

「私、君たちの様に霊感とかないからそういうの、よく分からないけど興味は少しあるんだよね。本当に触ったら呪われてしまう人形なの? いきなり人形がテーブルの上に現れたりしたけど」

 やっぱり全部聞いていたようだが……なんだこの展開は!

 本気にしているかは、いまいち分からない。

 自分たちの遊びに大人が合わせて付き合ってくれているだけかもしれない……

 そんな事を思っていると、育美先生は人形を触ろうと手を伸ばしてくる。

「あ、ダメです!」

 雪野は慌ててテーブルに置いたままになっていた人形を掴み取る。

「本当に呪われますよ」

「そうなのか~。なら、触らないでおこっとー」

 そう言って育美先生は何ごともなかった様に椅子から雪野の横を通過し、ドア付近まで歩き出した。

「そういえば、雪野くんは昼食まだだったよね。もう具合はよくなった?」

「はい……」

「そう。食べれそうなら給食持ってきてもらうよ。さっきの友達に」

 さっきの友達とはおそらく蓮の事だろう。

 そういえば、持ってくると言っていたな……

「あ、ありがとうございます」

「うん、よし!」

 そう言って育美先生は保健室を出て行ってしまった。

「なんか、変わった先生だったなぁ~」

 本当に一人になってしまった雪野は、辺りを見渡してみてからそう呟いた。

 それから自分が今、持っている人形を見てつめて、条件的に嫌なことを思い出させられる。

冷めた気持ちになり、今日一日に起こった出来事を一気に思いだされてしまう。

「また、なんかややこしい事にならなければいいけど……」

 これからの事を心配し雪野はとりあえず今はこの重苦しい体を休める事にした。

 その体調の悪さはきっと精神的なものが原因だと思うのだけど……

「はぁ~、疲れた。とりあえず椅子に座って待っていよ」

 雪野はこの後、育美先生を待ちながらいろいろと考えた。

雪野の一人ライフを脅かす、実に悩ましい元凶の蓮について考えた。

「蓮くんは本当にあの女の子を友達にする気か? まあ、僕は蓮くんの友達じゃないし関係ないかぁ」

僕は蓮くんと友達になるつもりなんてない!

本当にこれっぽっちもそんな気はない!

 でも……しかし……

「あいつしつこそうだよなぁ……あぁああああ! 絶対に流されるものか! なれ合いはしないぞ、僕は!」

この時の自分はまだそんな抵抗をしていた。 

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