009 転校生の蓮
僕は一人。
家でも一人。
学校でも一人。
これからも一人。
そう思うと寂しくなる。
でも、それはほんの少しだけ……
雪野は人形を気だるげな表情で眺めながら呟いた。
「まあ、その方がみんなにはいいのかもしれない」
いつしかそう思うようになっていった――
そんな諦めたような日々の中、雪野はつまらなさそうに右前の席に見える転校生の姿を見つめた。
昨日からやけに人の声が耳に触り、自分の噂話よりも騒がしかった。
「蓮くんはどこから来たの?」
「好きなものは何?」
「一緒に遊ぼうよ!」
みんなは蓮という新しくこの六年一組に転校してきた子に話しかけていた。
ちょっと前まで同じ光景を見た事があるなぁと思いながら雪野はその後もぼけーっと、彼の方を見つめていた。
そして――数日がたち分かったのだが蓮は印象通り明るくて優しい。
おまけに気が利くのだ。クラスの全員が感心するくらいに……
ある日の事、クラスの女の子が日直で先生に頼まれ、ノートを職員室まで届ける事になっていたのだが、
「重たいでしょ。よかったら半分持つよ。なんだったら全部持ってあげる」
「でも、これは日直の仕事だしわるいよ」
「なに、心配はいらないよ。俺が今日、持っていってあげるから、その代り……俺が日直の時は君が手伝ってくれればいいからね」
そんな言葉を平然とかけている蓮がいて雪野はすぐにそこに目がいってしまった。
女の子はその言葉に戸惑いながらも嬉しそうにしていた。
「う、うん! 蓮くん、ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って、蓮と女の子は教室から出て行く。
その様子を見ていたクラスの子たちのざわめきがその後に聞こえる。
「蓮くんって、優しいね」
「そうだね」
蓮に対する好感度は上がる。
特に女の子たちに人気だったが、男子もすごいと新しい仲間にはりあっているような雰囲気だった。
自分にはそんな態度にはならないだろう、一生……
「大丈夫? これ持っていくよ」
蓮のそうした行動はその日だけに収まらなかった。
次の日もその次の日も、彼は頼まれていないのにクラスの子が頼まれたノートやプリントを半分だけ持ってあげている。
女の子だけかと思いきや男の子にも変わらず続けている。
「蓮くんって、本当に優しいね」
「うん、うん。そうだよね」
「昨日は僕の仕事も手伝ってくれたんだよ」
「俺たちも見習わないとな」
一週間ほどたつと男の子たちの心も掴んでしまっていり蓮であった。
なぜ、そういう行動ができるのだろう?
自分には自発的な行動なんてできなかった。
それだけに蓮はすごい奴だなと雪野も他の子と同じように関心していた。
みんなにモテたいからああいう事をするのかな?
いろいろ理由を考えたすえ、雪野はそんな蓮のイメージらしくない考えに至っていた。
休み時間、蓮の所に駆け寄ろうとするクラスの子たちがいて、それよりも先に蓮は動き出していた。
「ねぇ、あれ見て。まただよ」
教室の後ろ、棚の上に飾られている花。
彼はその花がしおれているのを見て花瓶の中の水がなくなっているのだと判断したのか、花瓶をも手に持ってその場から動き出した。
教室を出て行った後、その時にはクラスの子たちの興味が蓮に向いていた事もあり、そっと彼の事についていつもの様に話し始めるのだ。
「気が利くねー」
「さすが蓮くんだね」
しばらくしても帰ってこなかった蓮は、授業が始まるチャイムと共に先生と一緒に新しい花が入っている花瓶をもってやってきた。
そして後ろの棚にそれを置き、何気ない顔で自分の席に着く。
それだけの事で既に、クラスの人気者の蓮には自然と視線が集まる。
「今日も蓮くん。良い事してたんだよ」
「そうなの? どんな事?」
「あたし見ていたんだけど、ほら後ろにあるお花あったでしょ。枯れていたから蓮くんが職員室までもっていってたの」
「そうなんだ!」
がやがやと蓮の行為について、噂が広がる教室。
花子先生は困った様にそれを止めた。
「さあ、授業するからお話はやめようね」
こうして最近いつもの様に先生の掛け声でやっと静まる教室。
花子先生は少し困ったなという表情をしていた。
「最近、とても楽しそうにしているけど、授業の時にも気が抜けてお話とかしない様にね。みんな……」
彼女は生徒たちの頷く様子を見てから授業を始めた。
「うん、それでは、教科書、○○ページを開いてください。今日は昨日の続きをしますよー」
昼休みでなくとも授業中も蓮はひときわ目立つ存在で、雪野も周りもやはり花子先生が言う通りに今始まった算数に集中する事はできてないだろう。おそらく……
蓮は優しいとか気が利くだけじゃなく、さらに運動も勉強もできてみんなから信頼される存在だった――
数学の授業が今行われているが、六年生ともなると計算が難しくなる。
花子先生が黒板に文章問題を提示した時だった。
「みんなこの問題は解けるかな?」
そう聞かれ、クラスの子たちは悩ましげに頭を抱えていた。
雪野ももちろん、解けなかった。みんなが解けないものを自分が解けるはずもなかった。
自分は長年の闘病生活で授業を受けた事がなかったし、何とか五年生までの勉強内容に頭が追いついたところだったのだから……
基礎が曖昧のままの自分は六年の勉強についていくのは精一杯だった。
それでも何とか理解使用はするのだが……
「では、しばらく考える時間をあげるので頑張って解いてみてね」
しばらく周りの皆も机に向かい考え込み、静けさが教室に漂った。
その間、花子先生が教室の中を見て回っていたのだが……集中し過ぎていた彼は迫りくる彼女の気配に気づかなかった。
「う~ん、分からない……」
心の中でそう呟いたつもりだったが、外にその言葉は漏れ出していたようで雪野は、その後に続いた声を聞きはっと意識教室や目の前の花子先生へと広げた。
「分からないかぁ、雪野くん」
「あ……」
「ここはね。この三つのうちのどれかの公式を使ってみてね。そうすると解けやすくなるから」
花子先生は丁寧にヒントを教えてくれるのだが、その瞬間ざわめきが広がる。
何を言っているのか分からなかったが、こちらに向けられる痛い視線。
もれた声でこんな言葉が聞こえた。
「大丈夫かな?」
それは花子先生を心配する声だった。
ふと、雪野はこちらを見ていた蓮と目があってしまう。
蓮はこちらと目があった時、すぐに前を向きノートに向かう。
その時、花子先生はよそ見をしている自分に注意した。
「雪野くん、聞いているの?」
「えっ、あの……すみません。聞いていませんでした」
「もう、だめでしょう」
「すみません……」
雪野が謝った時だった。
「花子先生、俺もう解けました!」
教室の中からそんな蓮の声が響く。
「これであっていると思うんですが、確かめてくれませんか? 花子先生」
「あ、今行くね」
花子先生はそう返すと雪野の方に顔をむけてこう伝えた。
「雪野くん、この後、答え合わせするからちゃんと聞いて覚えるのよ」
「はい……」
雪野はそう答え、去っていく花子先生を見て、それから蓮の方を見た。
すると蓮も自分の方を見ていて、笑いながら軽く手を振った。
まさかとは思うけど自分をかばってくれたのだろうか?
そんな事を思った。
そして時間は過ぎ数学の授業の後、体育の授業の時だった。
今日は前回と同じで持久走をする事になっていたのだが、もちろんその時も人形その場に持ってきていて雪野が見える範囲内の隅に置いてある。
男女混合ではなくまずは男子からの走りで、雪野は人形を気にしながらも必死に走った。
その中でも蓮は一番に躍り出ていいるのだ。
自分はというと……最後から二番目だ。
ゲべじゃない事だけが唯一の救いだったのだが足はよれよれで、ゲべの子から逃げ続けるので精いっぱいだった。
一周したあたりでふと待っている女子たちが騒いでいる声を聞いた。
その内容は、こんなものだった。
「もうすぐ、蓮くんが来るわ」
「そうだね。蓮くんがんばれー」
『蓮くん、がんばれー』
多くの女子の声援。
それを聞き、雪野は蓮がどれくらいの距離まで近づいたのか気になって後ろをちょいと見てしまった。それがいけなかったのだろう。
「あ、おわっ!」
この時点で息をあげているような虚弱な雪野は手をかかげる事すらできずにこけてしまう。
「お、お先に……ハァ、ハァ、ハァ――」
そこでげべだった少し太っている男の子に追い越されてしまい、雪野は呻いた。
あ……ああ……
雪野はそうぜんとして地に手を付けていたが、ハッとしてすぐに走り出した。
起き上がる瞬間に見えたが、足から血が出ていた。
「いっ……」
それが痛み、気分は最悪だった。
今、蓮の前を走っている自分は次の瞬間あっさりと向かされてしまう。
その時、蓮はこちらをチラッと振り返っていた。
え、なに?
今、見られたけど、どう思われたのだろうか?
あまりに自分がダメすぎて心の中で笑われたりしていないだろうか?
今の自分はとても惨めな気持ちだった。
すると走る気力も落ちて、雪野は今までになく蓮以外の子たちにも追い越され、最低の過去最低のタイムを出したのであった。
最悪だ、最悪だ、最悪だ! 傷も痛い……
その後、女子が走る姿を体育座りで一人ぽつんと空を見ていたのだが、視線の先に移り込み雪野は彼女に視界を合わせた。
「雪野くん、足怪我しているみたいね」
「え、あー、はい……」
「蓮くんが教えてくれたんだけど、今彼が救急箱持ってきてくれるから少し待っていてね」
え、蓮くんが……
「はい……」
女子たちが大体、三周を走り終えた頃、蓮は駆け足でこちらへと向かってくる。
「あ、来たみたいだね」
そして、花子先生へと持っている救急箱を渡した。
「はい。先生」
「ありがとう蓮くん」
「いえ、当たり前の事をしただけですよ」
「そう? 蓮くんはさすが気が利くわね」
そう、蓮をほめながら、花子先生は雪野の足に消毒液をたらす。
「いたたたた……」
「ちょっとしみるけど、我慢ねー」
ガーゼでふき、バンソコウを張っていく。
その時、蓮はこちらに視線を向けて心配してくれている様子で話しかけてきた。
「走っている時、君が転んでいるのを見ていて、ちょっと怪我をしているみたいだったから気になったんだけど……大丈夫?」
「えっと、大丈夫……」
「そう。よかったよ」
その後、蓮はちょうど片づけ終わった救急箱を見て言葉をかけた。
「あ、先生、救急箱持っていきますよ」
「え、あら。悪いわね。行ったり来たりで」
「いえ、大丈夫ですよ。なんでも俺に任せてくださいね」
「なら、お言葉に甘えて。これ保健室までお願いね」
「はい!」
蓮は去っていく!
それを見送って、先ほどの良くない考えとは違い蓮は自分の心配していたのだと思い雪野は安堵した。
周りの人達の様にバカにされてはいなかった。
やっぱり嫌な奴ではないんだな……
その時には、女子たちの中にはゴールまで走り切った者も出てきており、蓮と雪野が近づいていたのを見てか、クラスメイトたちは口々にこう漏らしていた。
「あれ、やばいよね……?」
「うん……」
「蓮くん、大丈夫かな?」
「呪われたりしないよね……」
しまいに、横を通りざまには、
「蓮くんに近づくなよ。この危険人物……」
と、ある短髪の女の子にそう囁かれた。
「え……」
その時、目を見開く雪野は胸を抑えた。
持久走での荒くなった息はもうおさまったはずなのに、今はまた自分の鼓動が早くなり苦しくなった。
そんな出来事があったが雪野はよくある事だと、仕方ないとこの日の事はもう思い出さないようにしようと流した。
それはさておき蓮が転校してきて一週間たつ頃には……みんなこうなっていた。
「蓮くんって、本当に何でもできて素敵ね」
「ああ、あたし、蓮くんの事好きかも」
「きゃあ、言っちゃったよこの子。実は私もだったりして」
「そうなの?」
「実は私もだよ」
「はい、はい! うちもうちも!」
などという女の子たちの会話。
「今度、サッカーに蓮くん誘わない?」
「それいいな」
「絶対、上手そうだよな」
「うん。蓮くん運動できそうだしね」
と、別のグループでの男の子たちの会話。
蓮は雪野とは大違いなのはもう十分知っているが、彼と自分をじたいおこがましい気持ちではあるのだけれど……ついこう比較して悲観してしまう。
彼はというとみんなから嫌われ者で運動も勉強も苦手で何もできなくて……
まあそれはやはり長い間、家で寝たきりだったせいもあるのだが……こう言うと負け惜しみになるので、もうやめておこう。
とにかく蓮という人物はすごかった。
思わず完璧人間なんじゃないのかとバカな事も考えてしまう。
雪野はダメな自分にがっかりしながら、周りの様子を机に突っ伏して今日も蓮をつまらなさそうに見ていた。
そう同じ転校生なのにこうも皆の態度が違う事に対して不満を持っていたり、蓮に対して羨ましい嫉妬もしていた。
それと同時にそれこそバカな考えも持ってしまう。
蓮という男の子は誰にでも優しいが、自分が呪われていると知ったらどうするのだろうか?
彼も自分を避けようとするのだろうか?
また、助けてはくれないのだろうか?
もしかしたら……こんな自分を受け入れてくれるかもしれない。
そこで雪野は首を思いっきり振り、そんな弱音のような思いを打ち消した。
自分はもう決めたはずだ!
一人でいるんだと!
こんなところであんな何でもできる自分とは全く状況が違い過ぎる幸せ者の蓮なんかに、自分の意思を引っ張られるなんてごめんだ!
と、再度決心を強めた雪野に蓮は近づいてきた。
今日は体育で転んでしまった次の日の朝だったのだが、蓮はきっとまだ自分の噂に気づいていないのかなんの事情も知らないで爽やかな様子で話しかけてくる。
「雪野くん? だよね。髪が長くて最初、女の子かと思ったんだけど違ったみたいだー」
そう言って蓮は、あははと笑いながら頭に手を回した。
「え……」
蓮が漏らした意外な言葉に雪野は一瞬呆気にとられた。
だが、周りからはザワザワとみんなの声が鳴り響き、雪野はそんな事よりも何の様だろうかと蓮の次に言葉を待った。
蓮は周りの様子に気づいているのか、いないのかさらにこんなことを聞いてくる。
「あの、雪野くん。雪野くんはいつも一人みたいだけどさ。友達とか、いないの?」
いきなり何を言い出すんだこいつはと、思いながらも雪野はしぶしぶ蓮に言葉を返した。
「まあ、いないけど……それがなに?」
「よかったら俺の友達になってくれない? 俺、まだ友達つくれていないんだ」
笑顔でそんなことを言ってくる。
もし、自分が普通だったのなら雪野も笑顔でいいよと答えただろう。
だが、今の雪野は普通じゃなかった。
まったくもって蓮からの言葉は笑えない。
だから、そんなはずがないだろうと訴えたくなった。
君みたいな人気者周りからぜひ友達になってくださいと言われるほど友達になってくれそうな人がいっぱいいるじゃないか。僕と違って……
それを考えると雪野は惨めな気分になった。
なぜ蓮という奴は周りのみんなではなく、自分なんかを最初の友達として選ぼうとしているのかが分からない。
わざとか? わざとなのか?
もしかして僕のことをかわいそうだとか思われて、あわれがられているのか?
そう考えると腹立たしい。
今までの優しさも、全てそんな感情からなのか?
「へ~、そうなんだ」
雪野はとりあえず、興味なさげに言葉を返した。
「聞くと、雪野くんも俺と同じく最近この学校に来たばかりなんだって?」
「そうだけど……」
「俺たち、仲良くなれると思うんだよね。雪野くんさえよかったらさっき言った通り、俺の友達になってくれない?」
よく人前でそんな事が言える……
友達とか、友達とか、友達とか……
『人形は僕の友達なんです』
まあ、人の事はいえないのだが……それとこれとはまた別なのだ!
この前、花子先生を説得するため雪野は人が行き通う廊下で人形大好きっ子を演じた。
あれはよく考えるとだいぶ恥ずかしい。
雪野はそんな事を考えながら蓮からの友達になろう宣言をあっさり断った。
「それは……い、いいです!」
それに蓮はどこか言葉を探すそぶりを見せた後、こう答えた。
「え、いいの。ほんとにいいの、友達になってくれても」
「はい?」
何だか言葉がかみ合っていない。
「雪野くんが俺の最初の友達だ。雪野くんも俺が初めての友達だったりする?」
「……」
明らかにおかしい彼の態度から何か勘違いされているようだと雪野は察した。
さっきの『いいです』は『いいえ』という意味なのに蓮はどういうわけか『はい』のほうにとらえたらしい。
めんどうくさい事になった……
もしかしてだが、わざとなのか?
いや、こいつはただそういう奴なのかもしれない。考える事が全部幸せ前向きくん。
そして周りも世界事態、明るい物なのだ!
雪野はじっと彼を疑うように見つめるが、蓮のにこやかな顔には何も悪意は感じられなかった。
もうそんな裏があるとかそんな事はいいので、とにかく僕はその申し出を断らないといけない。こんな僕が友達に……なれるわけないだろう!
人形がある限り、僕の一人ライフを崩されるわけにはいかない。
それが例え僕が望んだ事じゃない事だったとしても、周りがどうこうなるよりはましなのだ。
そう思いながら、雪野は笑顔を作ってはっきりともう一度断った。
「あの、蓮くん」
「ん? なに、雪野くん?」
「僕は君と友達にはならないよ。だから、僕にかまわないで。他のみんなと友達になりなよ」
雪野はちらっと、蓮の後ろでこちらの様子を心配そうに伺っているクラスメイトたちの方を見やる。
すると目を背けられたり、困惑した表情を向けられたりと、明らかに雪野を避けようとする彼らの姿が見受けられた。
「あと、さっきのいいですはいいえって意味だから!」
言い終わりに蓮は不思議そうに眉を寄せた。
「え、なんで?」
「なんでって……僕が、困るからだよ……」
「何が困るの? 言ってみてよ」
しつこい。何が困るって、それを言う事すらできなくて困っているって!
もし、人形の事を包み隠さず話したところで、こいつもそのうち僕を怖がるだろう。
離れていくだろう。友達になんてなってくれないんだろう?
「ねえ、雪野くん」
蓮が雪野の腕に触れようとした時、周りの者たちがやっと彼の行動を止めに入る。
「蓮くん、もうやめときなよ。雪野くんにあまり近づかない方がいいよ」
「そうだよ」
「蓮くんまで呪われてしまうよ」
「そいつは危険なんだ」
口々に雪野の悪口が展開されたところで雪野は思い知る。
自分はみんなから嫌われている事を……
ああ、なんだか……疲れる。
その時の自分の顔はどんな表情をしていたんだろう。
ただ、周りから否定されている事実、心に突き刺さる言葉に雪野は平気なふりをする。
耐える。
そんな雪野の目の前で蓮は怒ったように突然周りのみんなを睨んでいた。
「呪われている? なんだよ、それ。みんなどうかしているんじゃないのか?」
それに周りの子たちは蓮の怒った顔に戸惑いながら、言い返した。
「ほ、本当だよ。私は蓮くんを思って言っているの。その子は本当にやばいから」
「そうだよ。雪野くんに近づくと本当に呪われるんだから。現に今休んでいる子数人は雪野くんに呪われた人たちなんだから」
「こんな人形持った気味悪い奴なんか放っておいて、僕たちと友達になりなよ、蓮くん」
本当に怖がっている周りの子たちの姿に蓮はぼそっとこう呟く。
「本当にそうなのか……」
それに雪野は立ち上がって言った。
「そうだよ! みんなが言っていることは全部本当! 分かったら、もう僕に関わらない方がいいよ。僕と話すだけでも呪いがかかるかもしれないから!」
その言葉で周りの子たちは恐怖にひきつった顔をしている。
そして、雪野はその暗く重くなった空気から逃げる様にその場を去った。
「あ、まって、雪野くん!」
後ろから、蓮がそう言ってくるがそれは無視だ。
雪野はそのまま廊下を進む。
蓮は追ってはこなかった。
これで終わっただろう。
すべてはいつも通りにまた……僕は一人。
あのままでは、自分のせいで余計な言い合いが始まり面倒な事には巻き込みたくも巻き込まれたくもない。だからこれでいいんだと、そう思った。
あと少しで授業が始まる。だが、どうも出る気になれない。
雪野は仮病を使って保健室で休む事にした。
今日は本当に疲れた……
彼はベッドに横になりながら、そう心の中で呟いた。




