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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第一章 夜ノ月琥珀のその虫は
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021 お別れの時

翌朝、玄関先では小羽や父親が見えていた。

「皆さんとは、これでお別れですね」

「そうだね」

「小羽さん、元気で!」

 勢いよく小羽の手を掴み取る花月に一瞬、小羽が怪我しないかヒヤヒヤしたが……何ともなさそうで雪野は安堵する。その横で父親はこう言葉をかけてきていた。

「あなた方には色々と後押ししてもらいました。皆さんのおかげで娘は助かりました。人々に受け入れられる事ができました。これ以上嬉しい事が、あるでしょうか……」

「お父さん……」

「いえいえ、我々は自分達の仕事をしただけですよ」

「それでもです。皆さんは私達が不可能だと思ってきた事をしてくださいました。この村を変えた気がします。人々の心を変えた気がします。本当にありがとうございます」

「これも小羽さんが勇気を出したからこそ叶えられた事ですね」

 深々と礼をする父親、続いて小羽もこういって頭を下げた。

「皆さん、この四日間ありがとうございます。皆さんと過ごした日々は楽しかったです。本当にありがとう。季流さん、雪野さん、花月さん。それにクロとシロも」

「ニャ!」

「ニャン!」

 二匹は顔を向ける小羽に向け、招き猫のように左手を上げ返事していた。

「よかった……」

ありがとう、という言葉の余韻が頭の中で今も残る。もう何度も任務に出向いていつも終わった後はこんな風に心がむず痒くなる。一方で何かをやり遂げた間で胸がいっぱいになる。

前を向いた彼女の表情は出会った頃とは違い、晴れやかなものになっていた。どんな時もうまくいくとは限らない中、今回の結果を確認して雪野は満足したのだ。 

「ではそろそろ行きましょうか」

 季流に続き雪野も続いて後ろの席に乗り込む。二匹がひょいと飛び込んだ後、花月も乗り込もうとする。だがその時……

「あ、花月さん!」

「え?」

 小羽はそっと花月の耳元で小さく呟いた。

「雪野さんと、うまくいくといいですね」

「はい。小羽さんも篤志さんとこれからも仲良く、お元気で」

「うん、ありがとう」

 声は聞こえないが二人の微笑ましい光景がガラス越しから覗えていた。

「お兄さん、二人は何の話をしているんでしょうか?」

「さあ、女同士の秘密の話でしょう」

「はあ……花月があんなに自分達意外と喋るなんて珍しいですね」

「そうですね、仕方なく受け持った任務ですがいい経験になったようです」

 話し終えたのか花月はさっと車に乗り込みこう告げた。

「お待たせしました二人とも。それでは出発しましょうか」

「花月お前、小羽ちゃんと何の話してたんだ?」

「それは……秘密です。雪野さんには絶対、話せません!」

「えぇっ!?」

「だから言ったじゃないですか。女同士の秘密の話ですよ、雪野くん」

「そうみたいですね、俺への不満じゃなければいいけど……」

「何の話ですか?」

「あー何でもない、気にするな。こっちの話……」

「むむむ……気になります」

 頬を膨らませる花月だがその後、季流によって車が動きだし彼女は外へと顔を向けた。

「小羽さん、さようなら。またいつか会えたらいいですね」

「はい。その時はいっぱいお話ししようね」

 窓から外に腕をだして手を振る花月。次第に離れていく小羽の姿も同様こちらに手を振り返していた。雪野はもうお別れなんだとしみじみと感じつつやがて視線を前へと戻した。だがその瞬間、ギギギギギィと音をたて車は百メートル行く寸前に減速していく。

「あれ、ちょっとこれ……壊れて……」

「な、なんか危ない音がしています!」

「そうですね。少しやばい気が……」

「ニャニャニャッ!」

「ウニャン?」

 思ってもいなかった事態に困惑する声が車内に響き、その直後ドッバァアアアンと爆発のような音がエンジン内で起こった。

「うわあ!」

その衝撃で尻尾を逆立てて固まっている二匹の猫の姿が入り込んできた。

「あれ……?」

「止まりました……」

「あー壊れてしまいましたか……」

その時エンジンを〈切る〉〈かける〉を繰り返す季流がいて、車眼前に動かない事が分かるとうんざりして言った。

「はぁ、これでは家に帰れませんね。[JHSA]に迎えをよこさなければいけません」

 その時、遠くから駆け寄ってくる小羽がいて花月は少し嬉しそうに言葉をかけた。

「どうやら、お別れまでにはもう少し時間がありそうです」

「そうみたいだね」

 こうして小羽とのお別れは二時間ほど先延ばしになり別れを惜しみながら、雪野達はやがて到着した迎えの車へと乗り込んだのだ。

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