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人形怪奇  作者: 詞記ノ鬼士
第一章 夜ノ月琥珀のその虫は
19/141

019 儀祭前の会話

 昼過ぎ、皆に心配をかける訳にはいかないという事で小羽と篤志は秘密の場所から移動し、皆からの反発を覚悟して先ほどの祭り通りまで戻ってきていた。

「祖父ちゃんはいねぇか……?」

警戒しながら人の通りを進んでいると黒いタオルを頭に巻いた男が声をかけてきた。

「おお、帰って来たか! 篤志!」

 その後、ちらちらと周りの人々の視線、ざわめきが広まった。

「あー篤志、やっぱりお前は男の中の男だな! 見直したぜ!」

「あの頑固爺さんの孫とは思えないぜ! お前は正しい俺はそう思うぞ、だから堂々とな」

「俺達は彼女の事は何も反対しねぇ。もし他の者に何か言われてもお前が守ってやりな!」

 そんな温かい言葉に小羽は不思議な感覚で頬を緩め、横で篤志もニッと歯を見せていた。

「おう! そのつもりだよ、おっちゃん達! 小羽を守るのがずっと俺の願いだったからな。もう手放さねぇよ。必要ならこの村だって変えてやる! そんな覚悟だ!」

「篤志くん」

 頷き合うそんな二人の様子を黒タオルのおじさん達は、微笑ましそうに眺めていた。

「そうかそうか! まあ頑張れ、期待してるぞ! 未来の村長!」

「あはは、ああ!」

やがて雪野達も小羽の元へ駆けつけ自分達が宮の前から去った後の様子などを聞いた。彼らの笑顔から人々の言葉や表情から、いい方へと進んだ事が分かり小羽はほっとした。だが……

「それより祖父ちゃんは? 今どこにいるんだ、宮の方にいるのか?」

「さあ、村中をうろうろ歩き回っていた所を俺は見たぞ。だが、それから見かけねえなぁ」

「あー居場所までは分かんねぇが、公民館のすぐ横の森の中へ入っていく姿までは何人かが確認しているらしいぜ。もう三時間以上たつんじゃないか?」

「それは心配だな。あんな見た目でも年寄だしな。お前達は出会わなかったのか?」

篤志と小羽は顔を見合わせ首を振った。

「いや、会ってねぇ。俺達はその場所にはいなかったから……」

「お爺さん大丈夫でしょうか?」

「祖父ちゃんも山に慣れていないわけでもないけど昨日の雨が心配だ。雨が降ると一時的に地面がぬかるんで足場がとれなくなるんだ。俺達は行慣れた道を通ってきたから大丈夫だったけど、祖父ちゃんがむやみに森の奥へと進んでいったんなら、やばいぞ」

「あの辺は億に進むほど崖が連なって危険なんです。そこへ行ってしまったのなら……」

 言葉を止めたのは一瞬、最悪な結果を想定してしまいその時、胸の内の熱く騒いでいるかの様な圧迫感が襲ったから。流れ込む〈彼女〉の意思が何かを伝えようとしていた。

「小羽さん、どうかしたんですか?」

 気づくと胸に手を当てていた自分を心配してこちらを覗き込んでくる花月が映る。

「あ、ああ……ええと……何だろう? とても悪い予感がします。私の中の〈虫使いの少女〉が何か訴えています。そう、これは……お爺さんが危ないという事かと……」

「え、どういう事なんだ? もっと詳しく教えてくれ。祖父ちゃんはどこで、どう危ないんだ!」

「分からない。ただ感じる……森の中で今危険な状況だって、篤志くん助けに行かないと!」

「ああ!」

「小羽さん、ガキ大将さん、私達も一緒に行きます!」

 花月の言葉の後、雪野と季流も頷いた。

「聞いたかのぉおおおう、皆の衆! あのどうしようもない頑固爺さんが危険な状態だと小羽は言った! 若いもんは助けにいけぇい、儀祭はその後じゃ!」

「ヒィッ!」

 背後にいる田藤のお婆さんに短い悲鳴をあげる雪野がいて構わず彼女はこう漏らす。

「もしかするとあの男は熊にでも襲われたのかもしれんな。はっはっはー」

「今はまだ熊は冬眠しているのでは……?」

「どうかの? そろそろ出てくる頃じゃないかのう。確かだいぶ前に早朝に山菜を取りに出た者が熊に襲われ亡くなる事件があった。実際、わしも畑で熊を見た事があるぞ!」

 彼女の言葉にその場にいた全員が青ざめる。

「小羽ちゃんは森へ入っていたそうだけど……よく熊に会わなかったね」

「はい、今思うととても危険と隣り合わせの行動でした。今までは【虫】達が……」

 何度も森へ入ったがそんな事は気にも留めていなかった。何故なら……

「あれ……皆さん。もしかすると篤志くんのお祖父さんを探せるかもしれません!」

 この後、小羽は雪野達と十人程の村人を連れて一匹の虫の案内の元、森の中へと入った。


「お爺さん、熊に襲われたとかだと怖いな……」

「そうですね。この後もし熊が現れても私が雪野さんを守りますから、安心してください」

「情けないですね、熊なんて睨むだけで勝手に逃げていくじゃないですか。【変物】よりましでしょ? もう任務で結構、顔を合わせていますが全然襲ってきませんでしたよ?」

「そりゃあ、あなた様はね……」

 雪野達の会話に小羽は声をかけてきた。

「あはは、大丈夫ですよ。【虫】達は、どうやら私に危険がない様にいつも道を選んでくれていたらしいんです。だからこの道は安全な道です」

「そうなんだ、よかった……」

 しばらくすると細くて足場の悪い道へと入り、お爺さんはそんな奥の険しい道を進んでいったのか、そのぬかるみが激しい道へ行く事を余儀なくされた。

「皆さんここから気を付けてください。きっともうすぐお爺さんがいる場所に着くと思います。地面に人の足跡がついていたのでそれを辿ればお爺さんは見つかります」

小羽の声かけに頷き、皆、そっと足を進めた先で土砂が崩れた後の光景が広がっていた。

「昨日の雨のせいで地盤が緩んでいたんじゃな。まさかお爺さんは下の方に……」

 村人の一人が呟いた時、小羽の【虫】達はその場で止まった。

「ここでお爺さんの匂いが途切れていると、この子達は言っています……」

 その時、【虫】は崩れた地の底へと向かっていく。五mはありそうなその地面に降り立った時、じっとその場で羽を止めるとその【虫】は途端、ブン……ブンブン、ブンブンブンと小羽の元へと戻って来た。小羽は聞きとってすぐ皆に伝えた。

「あの中にお爺さんがいるそうです」

「そうか、やっぱり埋もれているのか。早く助けないと……」

 ある村人の言葉を拾い虫達の言葉を聞いていた小羽は、無茶して五m先の場所に降りかねない篤志に対して顔を合わせて……訴えた。

「虫達があそこまで安全に行ける道を示してくれるそうなので一旦、引き返しましょう」

 彼は少し間をあけて、下の方に向けていた視線を小羽へと戻して返事した。

「ああ……」

 歩きやすい道へと戻った後、再び虫達の案内のもと少し下った所から真っ直ぐ進んでいき、お爺さんが埋まっているかもしれない土砂を見つけ、篤志は先に飛び込んでいった。

「祖父ちゃん、大丈夫か! 祖父ちゃん!」

 手で土をかき分ける彼に続き、村人達は持ってきていたスコップやクワを掲げ、土や砂利を掘り起こす。また手で石ころを拾い分ける者もいて雪野達もそれに混じった。

草や落ち葉など通常の表面が見え始めていて汗をぬぐった村人の一人はこう漏らした。

「本当にここなのか? もうだいぶ地面も見えてきたが見つからないじゃないか……」

すると、そこで季流が一か所だけ手が付けられていない部分を示唆した。

「もしかするとこの岩の下にいるのかもしれませんよ」

 そこには木々を含みながら窪みに収まっている感じでその上に乗っかっている大きな岩があり、もしその下にお爺さんがいたとしてもその岩を動かす自信は人々にはなかった。

「こんな大きな岩をどうやって持ち上げるんだ。全員で持ち上げようとしても無理なんじゃないか? それにもしこの下敷きになっているとしたら、もう……」

「くそ……もう、祖父ちゃんは助からないのか……」

 沈黙が走った後、一斉に村人達はある考えの元ある人物の方へと顔を向けた。

「え……」

 向けられた本人はまだ状況が分かっていないらしく、きょとんとして返答を求めた。

「雪野さんなんか私、村の皆さんに見られている様ですけど、どうかしたんですか?」

「うん、それはだね。お前が役に立つ時が来たからだよ」

「ん?」

「お爺さんを下敷きにしてるかもしれないあの岩をお前が持ち上げるんだ、花月」

「あ、そう言う事ですね。はい、やってみます!」

 事を理解した様子の彼女はそこで岩の前に立ち手をかけた。

「よいっしょ!」

『おおぉ!』

「では、右の方におろしますね。皆さん下がってください」

 持ち手が薄いため花月は壁に押し込む様にして横に移動させた。地に下ろした後、細かい岩はみんなで避けていく。その下には木々が絡まる様にして人らしき者が見えていた。

「うぅ……」

「おい、まだ生きとるぞ。篤志、お前の祖父さんがいたぞ!」

「本当か! 祖父ちゃんいま助けるぞ、待っていろ!」

「どうやら木々の木片が彼を覆い、後に積み重なった大小の枝がクッションの様になって僅かに空間ができていたんでしょう。間に合ってよかったです」

こうしてお爺さんの救出は無事成功しその後、彼は公民館へと寝かされた。


やがて目覚めた彼は疲労した様子で近くにいた篤志へと言葉をかけた。

「んん……篤志、お前が助けてくれたのか?」

「いや違うよ、俺だけじゃない村のみんなだ。それと小羽も……」

「小羽だと……」

「【虫】達の案内がなければ今頃、祖父ちゃんは亡くなっていたよ」

「……」

「祖父ちゃんが、小羽の事をよく思っていないのは知っているけど、それと俺と小羽の関係には関係ない事だろ。俺が何を思おうとも俺の自由だ。俺は小羽を嫌いにはなれない」

「篤志……」

「俺は小羽の優しさを知っている。祖父ちゃんもその優しさに助けられたんだ。言いたい事はそれだけ……祖父ちゃんが何を思うのも自由だ」

 踵返した篤志に深く考え込んだお爺さんは俯きながら答えた。

「そうか、自由か。そうだな……なら篤志、一つだけ言ってもいいか?」

「なに祖父ちゃん?」

「すまねぇ篤志。おらの様な頑固者は皆、苦手に思うだろ? 小羽に対してもっと酷い態度をとった。そんなおらをあの娘は助けてくれた。そんな娘がこの村を襲うはずがない。おらはやっと理解した、目が覚めたぁ。だからおらは……お前達の仲も認める」

「ありがとう……ありがとう祖父ちゃん!」

 振り返る篤志は祖父へと笑顔を返していた。そんな様子を入り口付近で確認して雪野達は先に家族の元へと向かった小羽がいる宮まで向かう事にしたのだ。



夕暮れ時、宮の中では小羽や姉達、父親母親がいる。小羽は端っこで裕子と腕の傷について会話し今、炎症が消えているのは花月が《治癒》の力で裕子の傷を治したからだと聞かされた。 

後で花月にお礼を言おうと思ったその時、父から声がかかった。

「二人共ちょっといいか? こっちに来てくれ」

「うん、」

「なにお父さん?」

 小羽と裕子はどこか緊迫した様な父の言葉に不思議に思いながら父母、上の姉二人がいる中央に動く。その後、父は今から大事な話をする様な堅い顔で咳き込んだ。

「裕子、今年の先頭巫女の役割なんだが、お前はどうする?」

「あ、その話なら……私はやった事があるからいい。やらないよ」

「そうか……それじゃあ誰にやってもらおうか?」

 小羽を一瞬ちらちらと見た後、姉達の方を見渡す父親を見て、裕子は呆れ顔を見せた。

「もう! そんなの決まってるでしょう、お父さん!」

「そう、そうだな。決まっているな……」

 笑い返しその後しっかりとこちらを見る父や裕子達に、小羽は思わず目を丸くした。

「え……?」

「小羽、今年はあんたが主役よ」

「そうだ。やってくれないか小羽」

「裕子姉さん、お父さん。それは……」

 自分なんかがやってもいいのだろうか……?

こちらに目を向けようとしない母親を見て不安になった。

「何ためらっているの、もういいのよ、もうあんたは皆に認められた。それは元篤のお爺さんを連れて帰って来た時、皆の顔を見て分かっている。小羽もそうでしょ。今年の儀祭は今までにない特別な日になる。その舞台に一番ふさわしいのは小羽あんたなんだからね」

 裕子はその後、母親に向けて言った。

「そうよね、母さん?」

「し、知らないわよ。好きにすればいいでしょ!」

 返ってくる言葉に小羽は戸惑いながら、裕子を覗き込むと彼女は言った。

「つまりいいみたいだよ小羽。皆あんたを認めてんだ。今夜は堂々と前に立てばいい」

「裕子姉さん……分かったわ。私、先頭巫女に立つ」

 姉の温かな視線に安心して呟いた時、雪野達が入口から顔を覗かせているのに気づいた。

「小羽ちゃん、お爺さんが目を覚ましてもう心配なさそうだったよ」

「あの怖そうなお爺さん、ガキ大将さんの説得で小羽さんの事を受け入れた様子で、二人の関係を認めるとそう言っていました。本当によかったです」

「そうなんですか。何だか、うまくいき過ぎて……嬉しくて戸惑います」

 自然に出てしまう自分の笑みに小さく驚きながら小羽は伝えた。

「皆さん今夜、楽しみにしていてください。見せたい物があります」

「うん、分かったよ。でも、見せたい物ってなんだろう?」

「気になりますね、雪野さん」

 顔を見合わせる二人から、父に言葉を開く季流へと小羽は顔を向けた。

「どうやら決まった様ですね」

「はい。やっぱり諦めきれなくてやっとこの日が来ました」

 父は自分の事について彼に話していたのだろうか? 

これからまだ残っているかもしれない勘違いやわだかまりなどを少しずつ修正して、見えていなかった本当の景色を映していきたい。お母さんや姉さん達ともやがて……

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