017 それぞれの行動
特に何も命じられたわけではなくそれぞれ自由行動していく雪野達を見て二匹は倉庫の奥の林に座り込みこれからどうするか考え込んでいた。そして猫である彼らが求めるものは……
「ンニャー、どうして魚の店だけどこにもないニャー」
「そうですニャン。この空き地にはなさそうですニャン!」
「シロ、手分けして探すニャ。クロたちも自由行動ニャン。きっとどこかにあるはずニャ!」
「では、クロは左の道を探していくニャン、シロは右を探しますニャン」
「ニャー、それでいくニャ!」
こうして移動しだしたクロはその後、魚を求めて所々いろんな場所を巡り回り、その途中ある光景を一部始終見てしまう。虫籠。その中にいるムカデや蜂などの害虫。
山ではどこにでもいる害虫をなぜか持ち歩いている見覚えのある女性の姿。
(何しているニャー?)
その虫籠を開け、覚悟を決めた様に小羽の姉の裕子は手を伸ばしていた。
「いっ、た……」
苦悶の声を押し殺し耐える彼女の形相は本当に痛々しい物だった。
(何だかよく分からない現場に居合わせた様だニャ……一応、皆に知らせておくかニャ?)
立ち去ろうとした時、足元の小枝を踏んでしまい僅かだが枝が折れた音が、ピキッとその場に響いてしまう。それに注意を巡らせていた裕子はその音に反応する。
「だれ、誰かいるの?」
(ク、クロがいるニャ~)
クロは猫らしく猫の鳴き声を鳴らし裕子の前へと出た。
「ニャ、ニャ~オ。ニャ~オ~」
「なんだ猫か……脅かさないでよね」
虫を掴んでいた手は離されその害虫は地面へと落ちる。
「あ~これ、あの変な奴らのね。名前は何て言うのー?」
「ニャァア~」
少し微笑んだ裕子は不意に移動し、クロがついて行こうとすると困った様な顔をする。
「ほら、ここには何もないからあっちに行きな。シッシ! あそこに田山さんが魚の店だしているから、もしかしたら分けてくれるかもね」
辺りを見渡しながら木々から見える遠くの低地の方を指さした。
(ほんとかニャー)
「ニャー」
クロは目を丸くしてその位置を確認した。
「って、猫に言ったって通じないか……」
と裕子が言い終えた時には、クロはシロが向かった田んぼが多い遠くの平野へと動き出していて、つい先程目撃した裕子の異様な行動など一瞬にして忘れているのだった。
(魚どこニャ! お前はクロが食べてやるニャァ~)
「あ、いっちゃった……」
裕子は少し悲しそうに完全に消えていく黒猫の姿を見守っていた。それから神妙な顔つきに戻り彼女はじくじくと痛む左手を見つめた。
ふと聞こえてくる子供の騒ぎ声、楽しそうな笑い声……
――あはは、裕子姉さん! いつか私が前の巫女に選ばれた時には、ちゃんと……
――あ、でも小羽、私もその時は一緒に出るんだから無理よ。だって……
――あ、そっかぁ……
――二人とも! それなら代わりに俺が二人の巫女姿みてやるから、小羽もそれで……
一瞬だけ記憶の中のキラキラとした思い出が巡り、次第に遠ざかっていく子供達の声はまるで……あの日には戻れないともう届かないと告げている様だった。
もうこんな村にはいたくはなかった。小羽や篤志、家族も村人達も全て……彼らとの関わりを経ちたかった。小羽を傷つけたあの日から裕子はずっとこの罪悪感の様な、憎しみの様な虚しさの悔しさ絶望、自分の中から消せない小羽への愛情、そんな複雑な気持ちから解放されたかった。ただ戻りたいと思う。できる事なら……
森の中、三人で他愛無い会話をしたあの日々が裕子がずっと望んでいる形だった。だが……
「もう、戻れないんだ……」
人や鳥の声すらなく辺りを静寂が包んだ時、裕子はそう呟いた。
昼頃になるとすっかり人だかりは増え、早起きの子供や老人達に続いて、まだまだ動ける大人達も出てきている様だった。そんな中……
「お願いします。小羽ちゃんを受け入れてくれませんか?〈異端者〉とかも言わないでください。彼女は悪い子ではありません。どうかお願いします、お願いします!」
雪野は必死で小羽の為に祭りの中、村人達に訴えている。
いま自分にできる事を……そう言葉の通り彼は行動に移したのだろう。
「まあ、それくらいしかないですよね。しかしあれはあれで彼にしかできない事なのかも……」
人の為にあんなに必死になれる事が珍しいと彼は気づいていないのでしょうね。それなら言わないでおきましょう。彼にとってのあの生き方は長所でもあるのですから。
「あんなに必死にがんばる雪野くんを見たら助言した自分が怠けてばかりではいけませんね。私も少し気になる人物にあたりに行きますか」
先ほど家に寄ってみると小羽の父親は祭りの装飾や置物、そして儀式を執り行う時間帯の調整を電話で打ち合わせていた。その時は忙しそうで話しかける事はできなかった。
「あー、忙しそうですし、見回りにでも行きましょうか」
外に出て途中、花月と小羽が茂みに入っていく姿や希望通り魚にありつけた二匹の姿を見た季流は宮前まで引き返して人が多い倉庫付近で雪野を見かけたのだ。
邪魔をしては悪いと彼を避け進んでいくと……
「今日は無事、夜ノ月儀祭を行えそうだなぁ」
「琥珀石も見つかり村人達の病も収まってよかったわい」
「よかったぁ、よかったわい」
宮の階段下の隅で村人数人と挨拶を交わす、変わらず大変そうな小羽の父親を見つけた。
白髪の年寄、厳つい中年のおっさん数人に囲まれている彼は少々引き気味に答えていた。
「はい、本当にそうですね」
「今年も先頭巫女に立つのは幸恵ちゃんかい、妹さん達かい?」
「一応、幸恵に任せよかと……」
「そうか、そうか」
父親は言葉を渋る様に目線を落とし口を開いた。
「少し迷っているんですよね。今年は小羽にもやらせてあげようかと考えていまして……」
「あの娘にだと!」
「何を考えとる!」
「あんた前にも言ったがね、あの子はだめだ。汚らわしい。これは神聖な儀式なんだから、あんな(異端者)になんて、とんでもない」
「ましてや今回の様な事件が起きた後だぞ! ふざけているのかぁ?」
「はあ……そうですよね」
「そうだ!」
困り果てた様な父親の姿が映りそこで季流は話しかけた。
「丁度よかったです。お忙しいところ悪いんですがちょっといいですか?」
「あ、季流さん。先程は忙しくてすみません。もう少しだけ待っていてくれますか?」
「あ、いい、いい。とにかくあの娘だけには先頭巫女はやらせてはいかん。いいな」
村人達はこちらと関わりたくないのか嫌そうな顔を見せた後、念を押すように言葉を吐き捨て去っていってしまった。そんな事はどうでもよく……
「何やら、小羽さんの事で揉めていた様ですが何かあったんですか?」
「いや、今年の儀祭についてちょっと……」
「儀祭……そういえば、まだ聞いていなかったんですがそれは儀式的な物なんですか?」
「見れば分かりますよ。別に人が血を流すとかそういうのではないです。儀祭は〈虫使いの少女〉の呪いを抑える為に行われてきたものですが、それはとても神秘的なものです」
「儀祭の内容は具体的にどんな感じなんですか? 外から観光に来る程、凄い物なんですか?」
「それはもう……巫女達の行列が歌いながら階段を降りていく姿は、それはもう神秘的ですよ。今夜あなた達のおかげで無事行う事になりました。ぜひ見ていってください」
「はい、そうします」
季流はふと先程の会話を思い出し聞いてみた。
「するとさっき揉めていたのは儀祭で小羽を巫女に出すか、出さないかについてですか?」
「はい。ただの巫女だったのなら出させてくれたのでしょうか? もしそれが叶っても、それでも……小羽こそが先頭巫女に相応しいと、私は思う」
「先頭巫女? それは普通の巫女とは違うのですね?」
「特別と言われればそれほど大した役わりではないかもしれません、代々うちの家系の中で一人だけ選ばれた少女が一番前に立ち後ろの巫女達を引き連れる役なんですが……小羽がだめなら今年も裕子にその役をやってもらう事になります」
「裕子さんがですか? 小羽さんの三番目のお姉さんの事ですよね……」
「村人達に断られますかね。まあ無理だったらその時は美代か幸恵にでもやらせましょう」
「そうですか」
あははと薄く笑う父親は次に思い返す様にこう漏らした。
「裕子は今あんな感じだが……あれでも昔は小羽とよく遊んでいて仲が良かったんです」
「それは意外ですね……」
「小羽の力が皆に知られなければ今頃、仲がいい姉妹だったんじゃないかと思います。よくこの時期が近づくと巫女の踊りや歌を一緒に練習して、いつか自分に見せるからと二人そろって言ってくれました」
「そうですか……その言葉が現実になる様、小羽さんの現状をどうにかしたいものですね」
「はい。そうですね。できる事なら……」
その事に関する問いに弱弱しい返答をする父親に季流は聞いた。
「いつから小羽さんは【虫】と一緒にいる様になったんですか?」
「小羽は、私にとってかわいい娘でした。周りが女ばかりで上の娘達は母親にばかり寄っていくもんですから、小羽だけがいつも自分を励ましたりしてくれていましたよ」
あの頃が一番幸せだったと懐かしむ彼は、深刻そうな表情を見せ言葉を続けた。
「五歳くらいの頃です。小羽が虫の心が分かると言ってきたのは。【虫】に反応して、一人不思議な行動をとる事が多くなっていました」
「五歳の頃……一般的な能力の発現期ですね……」
「その頃から母親は情けない事に小羽を気味悪がってしまって、家族以外に【虫】の事を明かしてはいけないと強く言い聞かせました。そして小羽は母親のいう事を聞き森に行き、人間の友達を作らず、裕子を連れて【虫】の友達とよく遊んでいました。小羽が一人でも大丈夫そうだったので私も最初の内はあまり気にしなかったんですが……」
「その後、何かがあったんですね」
「はい。小羽の力が村人達にばれてしまって、大騒ぎになったんですよ……当時、小羽は篤志と仲が良く裕子と三人一緒に遊ぶ事が多かった。小羽の力にも怖がらずに唯一できた友達でしたが、彼が皆に小羽の秘密をばらしてしまったんです」
「篤志というと、琥珀石を盗んだあの少年の事ですよね」
「はい。それからというもの元々、母親は今まで以上に小羽にきつくあたり避けようとしました。それを見た姉妹達も小羽を嫌うようになって、小羽は増して森へ逃げる様になっていった」
「あなたはそれでよかったんですか? 彼女を放っておいたんですか?」
「私も小羽には何もしてやれなかった。村人達、妻、娘達の前では仕方がなかった。この村で暮らす上では村の総意は絶対だったんだ。それに今さらいい父親面は出来ないでしょ? もう何度もあの子を傷つけた。仕方がないと無視し続けたんです」
申し訳なさそうに顔を歪める父親は続けて話した。
「あの時、あの子との関係はもう終わったと思いました。小羽を村人に突き出してなんの抵抗もできず、そのまま……もうずっと父親失格なんです」
「あなたは、つまりそれを後悔しているわけですね。現状に不満があるという事ですね?」
「は、い……」
「それなら話しは早いですよ。そんな気持ちがあるならば謝ればいいじゃないですか? 後悔しているなら娘の事を大事だと思っているなら、彼女にちゃんと伝えるべきです」
「そうですね……できたらいいんですけどね……」
消極的な言葉が返ってきて季流は若干、苛立ちながら声のトーンを低くして切り出した。
「我々が帰る期限が近づいています。琥珀石が見つかった時点で、我々の役目はほぼ終わりました。後は小羽さん次第なんです。彼女がもし村人達と共存したいと和解したいと最後の日に望むのなら環境を変えないといけない。彼らの心を変えないといけない」
季流は睨むように父親に視線を向けた。
「そして、ここからが本当に聞いてほしい話しなんですが、それで彼女が最終的に村人達から受け入れられないのだとしたら、これまでよりも生きずらい日々が待っているのだとしたら我々は放ってはおけません。まだ言わないつもりでしたが他の保護環境に移るしかないんです」
「保護環境って、そんな所があるんですか?」
「はい。不思議な力を持つ未成年者が周りから疎外されず、自由に生きて行ける様にと作られた[JHSA]の学園です。そこでは彼らが生きていく上で必要となる【化け物】や怪奇などに関しての知識を学ぶ事ができます。小羽さんの進路やこれからの生き方を考えると、どちらが彼女の為にいいとあなたは思いますか?」
雪野くんや花月の様に私には決められなかった……
このまま村人達と和解し小羽がこの村で過ごしていくという道も、別の環境で障害なく暮らす事もどちらがいいか。だから基本的には……
「彼女はこの村で耐えていくと言っていましたが、もし本当にどうしようもない事態にあった時、彼女に先程の話をしてみてください。我々はいつでも彼女を引き取る事はできます」
「分かりました……少し、考えてみます……」
彼らが選択する為の情報を与える事、逃げ道を指定する事しかできない。そして今は家族やここに住む村人達、全体が本気で彼女の事について考える時間が重要なのだ。その為の期限だ。
昨日も小羽を探しに訪れた草村、周りの木々が遠くにいる人々から自分達の姿を隠していた。
「あのね、決心はついたんだ。だけど……」
ぽつりと漏らした小羽のその言葉、それは何に対する決心なのだろう? このまま諦めてしまう事? それとも祭りが終わり雪野達が帰る時まで諦めない覚悟なのか?
「う~ん、えっと……」
なかなか言い出せないでいる小羽は息を深く吐いた後、顔を上げた。
「花月さん、あの……あなたと雪野さんはどういう関係? 付き合っているの?」
「えっ……い、いきなり何ですか!?」
「あ、えっとね、いきなりごめんね……一度でいいから女の子同士の会話ってものをしたかったの。こんな感じかなぁ? 花月さんが何だか、私が雪野さんを好きになったんじゃないのか気にしているぽかったから……」
「そ、そんな事はありませんよ!」
腕を振り回し否定した後、小羽は少し思案する様に首を傾げていた。
少し違うのだが……
確かに思い当たる場面はいくらでもあった。小羽さんが雪野に森で出会った時からそうだ。彼女が雪野さんに助けを求めた時、手を引いた瞬間に少し胸のつっかえを覚えた。他にも彼が彼女の力になりたいと必死になる姿を見て心が揺らいだ。いつも自分の中には雪野さんへの感情が溢れかえっている。ただそれだけなのだ……
「花月さんは分かりやすいよ」
ふと彼女からもれた言葉に疑問を持った。だっていつも私は……
「え、私、普段から何考えているのか分からないと雪野さんに言われているんですが? あ、いえ、雪野さんだけはでなくて家族みんなにも……分かりやすいですか?」
「ほら、また雪野さんって彼の事ばかり」
「あ……」
そんなに私は分かりやすいのでしょうか……それだと雪野さんにも私の気持ちがばれてしまっているのでしょうか……と、そんな事を考え花月はうろたえる。
「確かに何考えているんだろうなぁって感情は読み取りにくいんだけど、私が雪野さんと喋っている時、花月さんとても気にしているのが分かるの。それだけ雪野さんの事が好きなのね」
「はい、それはもう!」
「そこははっきり言うんだね、花月ちゃん。それで彼とは付き合っているの?」
「雪野さんとはまだ付き合ってはいません。お互いに愛し合う恋人同士ではないんです」
「そうなのか。色々と複雑なんだね。でも好きな人と近くに入れてちゃんと関わり合っていられる事はいいよね。羨ましい」
「そういう小羽さんはどうなんですか? 好きな人とか……あ、すみません!」
小羽は皆から疎まれる小羽。そんな日々の中、好意を寄せる相手などできただろうか?
もし好きになった人がいたとしても相手もやはり周りと同じよう彼女を嫌ってしまうかもしれない。彼女にこの質問はするべきではなかった。
「謝らなくていいのよ。でもそう、私にも好な人はいたよ。幼い頃だけど」
「そうなんですか……?」
「うん。昔ね、一人だけ私と遊んでくれる二つ年上男の子がいたの。よそからこの村に移って来た子で、私の力を怖がらずに一緒にいてくれた。ある噂が広がるまでは……」
「えっ……」
「結局、彼も最後は私から離れて行ったわ。それで決めたの、どうせ傷つくなら何も期待しないって。この力がある限り私は村人達から嫌われ……いえ人間から嫌われる〈異端者〉なんだってね。この世界のどこにも私の居場所はないのだとずっと思い続けていた……」
一瞬、言い換えた言葉はまるで自分が人ではないと言っている様に思えた。
「あの聞いてもいいですか? 今でもその男の子の事は……」
「嫌いよ、もう大嫌い! でも好きだった!」
「小羽さん……?」
「ごめんね、こんな話をするつもりはなかったんだけど……何だか……」
その時、彼女の目から雫が零れていた。
「本当にごめんね。話せた事……安心したら、勝手に……」
それは彼女が長年ため込んでいた様々な想いなのだろう。
「いえ、泣いてもいいですよ。小羽さんの気持ちを私に打ち明けて見てください。今はそういう時です。ここには村人達はいません……そして一人でもありません。私がいます!」
「うぅ、うん……」
「私の経験上、一つ言ってもいいですか? 小羽さんはもっと自分に素直になるべきです。ちゃんと辛いなら辛いと悲しいなら悲しいと、自分の気持ちを誰かに打ち明けてください。見ている方も辛くなりますから。言ってくれないと周りはただ見守る事しか出来ません」
いつも彼に何かしてあげたいと思う気持ちはあっても何もできない。そんな傍にいる人の気持ちが私にはよく分かります。
「その誰かが見つかるまで私が小羽さんの気持ちを聞きます。私達はもう友達ですから」
小羽は静かに頷き、言葉を吐き出していった。
「悲しい、寂しい辛い、何で……何で私はこんな風に生まれて……違う、力は関係ない。虫達は好きだよ。私の友達だよ。ただ悔しい。どうして人は……理解されないのが悔しい。この現状が悔しい。私は〈異端者〉だからいけないの? 嫌われるの、愛されないの?」
ポロポロと零れ落ちる涙を手で、腕で拭う小羽に、花月はそっと彼女の背をさする事しかできなかった。
「何で、なんでなんでなんでなんで! 何で私を嫌うの? どうして私を裏切ったの、遠ざけるの? 裕子姉さん、篤志くん。ううん、分かっている。仕方ない事も分かっている……でも嫌だよ! 無視しないで、よ……」
「あの二人は小羽さんにとって、大切な存在だったんですね……」
今のその二人は彼女を気に掛けたりはしていない。だけど彼女を心から救えるのは、小羽が口に出した彼らなのだろう。やがてこの村を去る自分がどんな励ましの言葉をかけても彼女には響かないと思う。彼女が本当の意味で心を許せる為の言葉や時間が自分には全く足りていないのだ。できる事は相手の願いに沿って行動し改善し彼女の不安を和らげる事で、それでもダメな場合は小羽さんが少しでも生きやすくなる為、逃げ道となるある提案を出す事になっていた。しかしそれは彼女が思っている〈仕方がない、どうせ無理〉という諦めの言葉を肯定してしまう様で……そんな結末にはしたくなかった。
「これから私はどうしたいのだろう……どうすればいい? やっぱり迷ってしまう」
そんな小羽の言葉を聞いた直後、ガサガサと背後に迫る足音に小羽と同時に振り返った。
「おい、泣いているのか!」
荒々しくそう声をかけてきたのはあの篤志で花月は彼女の前に立ち、両手を広げた。
「また小羽さんに何かするつもりですか? そんなの私が許しませんよ。ガキ大将さん」
「どけ、怪力女」
睨むように一歩前に踏み込んでくる彼に花月は思いっきり腕を回した。
「や、やめてください。小羽さんに近づかないでください!」
「あ、おい! やめろ、ただ俺は……」
「待って、花月さん。篤志くんは何もしないわ」
「でも小羽さんこの人は……」
大丈夫だと目で示す小羽がいて花月は落ち着き、緊張だけは解かず腕を下した。
その後、治まってしまった頬に残る水滴を彼から顔を背けて拭い、小羽は口を開いた。
「どうして篤志くんがここに? まずそれに答えて」
「それは……偶然お前がここに行く所を見たから、昨日の事があって心配してえっと……」
「それって、つけてきたって事……?」
「あ、ああ!」
するとあの言葉も全て聞かれていたのだろうか……
「で、お前は何していたんだ?」
覗き込んでくる彼の表情は強張っていてまるで自分を心配している様で……だが、これ以上は彼に対する期待も持ちたくはなく自分の感情も知られたくなく小羽は目を逸らした。
「篤志くん、これは……何でもないの」
「泣いているのにか?」
「これはちょっと、すっきりしたかっただけなの、だから……」
放っておいて、そう言おうとした。しかし……
「俺がお前から離れたのは、お前を守る為だった!」
一瞬の間ができ、先に表情を崩したのは彼の方だった。
「あ、えっと……」
照れた様に頭をかく彼の姿を見て一瞬にして緊張が解けてしまった状況の中、小羽は戸惑いつつも少し心が揺れ動いてしまう。がっかりするかもしれないけど聞いてしまう。
「篤志くん、それは一体……」
真実を知りたかった。どうして私を避ける事が私を守る事になるのか。その答えはすぐには返ってこない。彼は躊躇いながら黙り込んで先ほどの自分の様に顔を背けてしまう。
「篤志くん……」
数秒して彼は覚悟を決めた様な目を向け、それから自分の肩に両手を置いてきた。
「強くなったのもお前を守れる様になりたいと思ったのが最初だった!」
思考が遅れる。まるで頭の中が空っぽの様な真っ白になった様な感覚になっていた。
「え……」
最初……最初から彼は私を守ろうとしていた? ずっと……それじゃあ私は……
「けど……お前は次第に人を近づけなくなっただろ? 人を信用してなかっただろ?」
そう問われ、小羽は静かに顔を沈めた。
確かに、あの頃の自分は皆から嫌われる事もだけど姉や篤志くん、親しい人とまで一緒にいられない事が寂しかった、辛かった。どうせ嫌われてしまうなら自分から愛する者も全てを遠ざけてしまおうと思っていた。自分が傷つかない為、できるだけ悲しまずにすむ為に……それは今までと変わらないじゃないかと言い聞かせながら、一人である事実を受け流していたのだ。
「だから俺がガキ大将なんて呼ばれる様になっても、お前の悪口言う奴を黙らせるほど強くなっても意味がなくなっちまった。もうお前と関われないのかとずっと諦めていた」
それはつまり私は避けられていなかった? 彼はずっと私の事を思ってくれていた?
「それでも……話しかけてくれればよかったのに……」
思わずそんな言葉が口から漏れ、それに篤志は困り顔になってしまう。
「下手に近づくと祖父ちゃんも周りも何か言うだろうし、そしたらお前はもっと傷つくだろうなって思って、今まで近づけなかった。だけどそんな事関係なくもっと踏み込んでいればお前に関われたはずだ。救えたかもしれないんだ。こんな事態にもならなかったかもしれない。やっぱり俺がダメだったんだ」
「ごめんなさい、篤志くんは悪くないよ! 本当にごめんね。私、何も知らなかった。一人でいれば誰にも迷惑をかけないって思っていた……知らず巻き込んでいた……」
「お前は仕方ないだろう? 俺もあの時、何も言えなかった。他人と同じような乾いた表情を俺にも向けるお前にもう嫌われてしまったと思って、そんなちっぽけな事でずっとお前を守れなかったとか情けない……ああっ、なに言ってるんだろうなぁ。はは……」
「篤志くん……」
自嘲気味に笑った彼を見て小羽は自分の方が情けないと感じた。そして同時に自分達がすれ違っていただけだったと知り何だか嬉しくも感じてしまう。そんな自分の中の溢れる温かな気持ちは嫌なこと全てをどうでもよくしてしまう様で……
「つまりだ、俺はずっと言いたかった。俺はお前の味方だってこと」
小羽は感動を抑えきれず口に手を当てしばらく声を発する事ができなかった。
「篤志くん……私、今まで勘違いしていた。裕子姉さんが私を遠ざける様になって、そして篤志くんも私の事を嫌って、そうじゃなかったんだよね。夢じゃないよね?」
聞きたい、本当の事を聞きたい。篤志君は味方だ、私の味方。それは私の勝手な希望じゃないんだろうか? こんな嬉しい夢を見てもいいのだろうか?
「ああ、夢じゃない。俺はお前を嫌ってはいない。ずっと……」
「ずっと……?」
「いや……これはいい。とにかく俺はお前の味方だ。今はそのことを理解しろ」
やっと答えた言葉は酷くぶっきらぼうで、それが可笑しくて懐かしくて、小羽は少しだけ昔に戻った様に無邪気に微笑んだ。
「うん」
ずっと……の先が気になるけど、今は彼が味方である事実が知れてよかった。とてもうれしかった。だからまた後で聞く事にしよう。後でまたこうして話せる様に……
「そんな事よりもだが……俺が思うに裕子を何とかできるのはお前だけだと思うんだ。あいつはお前にもっと恨んでほしいと、憎んでほしいと思っている」
「え……何でそんな事を?」
「俺もそれが何となく分かる気がするんだ。あいつも俺もお前を守れなかった事、周りと同じようにひどい事をしてしまったと後悔していた」
「嘘……そうだったの? 篤志くん、裕子姉さんはあの日からどうしていたの? 何を想っていたの? 私は何も、見ていなかった……」
「周りを気遣ってよく笑い、人との関係は大切にしていたあいつは妹を裏切ってしまったあの日から変わった。あの頃のあいつはお前よりも人を嫌い拒み恨み孤立する様になった。この村の閉鎖的な考えや人々の関係性も全て毛嫌いしているんだろうな。俺もこの村に引っ越してくる前は少し都会の方に住んでいたから、この村の生きにくさは理解できる」
「うん……」
「俺がずっとお前に嫌われたと思っていた様に、裕子もそんな気持ちだったんじゃないか? お前は何も言わないから……」
「え……?」
「いや……今思えばそれは裕子が気にしていたお前の困った性格だった。母親から言われた通り迷惑にならない様に、波風たてずひたすら我慢して平然と自分の世界で生きている。そんな事も俺は忘れていた。でもそれはお前の優しさでもある。強さでもあって凄いと思っていた。あの時からお前は何にも変わっていない。変わったのは周りと俺達だった」
「変わっていない……」
「悪い意味じゃないぞ!」
「ううん。篤志くんに変わっていないって言われていま気づいた。私はあの時から何もしていなかったんだって。変化は怖い物だって、私はずっとこのままでいいと思っていた。虫達といれば何も問題も起きないって誰も傷つかないって思ってた。でも今回の事が起きてしまった。これだけではダメだった。彼らに私の事をただ受け入れてもらうだけではだめだったのよ」
そこで隣についてくれている花月へと顔を合わせ唇をかみしめた。
「小羽さん……?」
決めた。私は今のままではいられない、変わらなくては。篤志くんや裕子姉さんとの歪んだ思考を取っ払いたい、私は真実を知りたい。このままなんて嫌だ、それができるのは今しかない。味方がいる事を知った今、彼らが後押ししてくれている今この時しか!
「花月さん、私やってみますね」
「はい!」
安堵した様な花月の笑顔を見て心から自分の事を想ってくれているのだと気づき小羽は、彼女も雪野達も私を支えようとしてくれる仲間だと、一人じゃなんだと、今まで膜が張られていた濁った世界が一瞬にして温かな光の世界へと変わった気がした。見えていなかったものが今はしっかり見る事ができる気がした。
『やってみないと、分からない』
本当にその通りだ……
目を閉じた時、忘れ様とした記憶が浮かんでくる。その言葉は人の表情は、感情は――
「何て事なの。あれ程……あれほど村の人達には知られてはいけないって言ったでしょ!」
「お母さん……?」
数人の村人が突然、父が留守の家に押し寄せてきて話し合いが玄関前で行われた。小羽は廊下から家族と村人達の会話を聞いていて彼らから漏れる虫、虫使い、伝説、危険という単語をから自分の事を言っているのだと気付いた。
「これはこの村の一大事じゃ。何で今まであの子供の事を隠してた!」
「何であんな不吉な娘を生んだんだ! もっと早くに気づいていれば……」
「この村に何かあったらどうするんだ! 責任はとれるのか?」
彼らの責める様な言葉は母を不快にさせ苛立たせ、やがて彼女の大声が響き渡った。
「知らないわよ! あんな子、私には関係ない。迷惑なのよ。好きであんな子、生んだわけじゃねぇんだよ! もう目障りだからでてけぇ!」
何かを壁にでもぶつけた様なガツンという大きな音が聞こえ、村人達は直後、慌てた様子で帰っていった。髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回す母の手には血が滲んでいた。
「お母さん……」
心配して申し訳ない気持ちで大丈夫とかごめんなさいと声をかけたかった。でもこちらの姿を捉えた母は、怒りや失望に満ちた顔をして震えていたのだ。そして……
「あんたみたいな厄介者、いなければよかった!」
唐突に母から告げられた言葉に体が固まる様な、心が凍える様な感覚に襲われた。
「あ……お母さん……」
いつも自分を見て機嫌を悪くする母はたぶん自分の事をとても嫌いなのだろう。しかしどんなに嫌いでも言葉には出さず、顔や態度に出るだけだった。そこまで言う事はなかったのだ。きっといつか姉達の様に普通に仲良くなれる日が来ると思っていた。
「近づかないで!」
それは否定の言葉。私は受け入れられない。むしろ私は……彼らにとって邪魔な存在だ。
「ずっと気味悪かったのよ。もうあっちに行って……邪魔なのよ!」
歪む顔を見ているのが辛くてそれを避ける様に小羽は母親の言葉に従った。
気がたっていたから母はそんな事を言ったのか、今となっては分からない。ただあの時から小羽は母親に近づく事ができなかった。近づくなと言われたから、あるいは怖かったから。母の言う事は絶対に聞かないといけない。守らなければ自分を種によくない事が起こるのだから。
それは学校で自分を避ける様になり数日、森で篤志と三人で集まった夜の事、謝ってもさらに不機嫌になる姉の言葉から……
「もう、私に近づかないで!」
今まで自分の味方でいてくれた姉の明らかな拒絶。ずっと変わらないと思っていたのに、友達なんていなくても姉が傍にいてくれれば一人でも平気だってそう思っていたのに……何があっても自分を理解してくれると思っていた彼女が離れていった時、本当に一人になるって事は辛いんだと気付いた。
「裕子姉さん……」
ああ……もうお終いだ……
これは取り返しのつかない事だと自覚したのはその時だった。
皆がバラバラになった日、玄関から廊下へと渡る際、姉が呟いた言葉を思い出す。
「小羽……もう、どうしようもない事なのよ……」
それは自分の中にあった言葉と同じで小羽は思ったのだ。
「そうだ。逆らってはダメなんだ。もう何もしてはいけないんだ。この力は誰にも見せてはいけないんだ。もうどうしようもないんだ……」
私は人とは違うからこそ知らせてはいけないんだ……
「無駄だからだ。そう全て無駄な事……」
分かりあえないんだ、絶対に……ではこの思いはどうしろと? どこにも行き場のないこの寂しさや不安や苦しさは? どうすればいいのだろうか?
「こんな現実は嫌だ……」
でもそれでも……私は一人だから……何もできない。
「捨てられない……」
私にはあなた達しかいないから……きっと、やがて慣れるはず……
そんな風に虫達を見ては自問自答した。この現実を受け入れ様とした。
一体、どうすればいいのだろう、どうしろというのだろう……
言葉は答えに辿り着く事はなく何度も悩んだ据え疲れ果てた。その考えは仕方ないと心の奥底に丸め込まれて無となった。いや、もうどうしようもない、仕方がないと諦めたふりをして、心の底で諦められないと叫ぶ自分がいたのだ。あの時からずっと閉じ込めていた気持ちは今ここで解き放つ。今なら今なら、今なら!
小羽はそこで目を開いた――
「篤志くん、私少しだけほんの少しだけ勇気だしてみる。言葉を伝える努力をしてみるわ」
「ああ、がんばれ」
「うん」
これほど自信に満ちている時はないだろう。そんな気持ちのまま小羽は篤志と共に人々が集まる祭り場へと向かった。それは最初で最後になるかもしれない彼女の足掻きだった。
花月と小羽と分かれてから一時間ほど、二人が何をしているのか気にしながら雪野は、まばらにある屋台通りの端で行き来する人々に話しかけていた。
「お願いです。小羽ちゃんの事を受け入れてください!」
「そんな事いったって、みんな……」
言いよどむ女性の姿にこれ以上の言葉は続かないと雪野は見た。
「分かりました。でも考えてみてください。本当にこれでいいのか。このままでいいのか」
「はあ……分かりました。それでは……」
女性は眉を寄せ逃げる様に足早にその場から去っていった。
村人から返ってくる言葉はどれも自分の考えというよりも、『他の人達が』やら『上の者達が』など、どこか周りの顔を伺っている様な物ばかりだ。それは田舎独特の共同意識や集合心理などの共通点。まだこの村はいい方だと他の村々を訪れた雪野は思う。
「はあ……」
しかしそれでも今だに手応えがない。返って来る言葉は否定または曖昧な物で、それだけに自信もなくなる。焦りも生まれる。
村中を歩き回って疲れた雪野は、一息つこうと近くにある公民館前の広場に立ち寄った。ベンチに腰掛けようと思っていたのだが既にその場には先客がいた様だ。
「あ、この前の……」
一それは昨日の夕方にあった女の子と三人の男の子達だった。手に持っている食べかけの焼き鳥、綿菓子、水風船などを見て、どうやら祭りの店をある程度回ったのだと分かる。そんな彼らは雪野を見て警戒した面持ちになり、自分が泣かせた男の子は睨んできた。
「んん……?」
思わず自分も身構えお互いに緊張が張り巡らせた後、男の子は突如、強気な態度で身を引きながらこちらに指をさしてきた。
「この前のカッコ悪い奴!」
「なっ!? え~と……」
広場の端にはさびれたブランコやドカン、鉄棒など細々とした遊具があり、ブランコには女の子、男の子達はそのすぐ横にあるドカンの方に身を固めていた。ベンチまで行くには子供達を横切らないといけず雪野は引き返そうかと迷っていた。
「ナナコちゃん、大丈夫だよ。こんな奴、俺が倒すから。守ってやるからな!」
「カンタくん……えっと……」
ナナコちゃんと呼ばれた女の子はそっと困惑した様子でこちらを見てきた。
「母ちゃんが言っていたぞ。お前らよそもんで、危ない奴らだから近づいちゃダメだって」
「そうだそうだ! よそもんは帰れ、だ!」
「帰れ、帰れ、帰れ!」
それに雪野は軽く受け流す。
「あー、そんなこと言われたのか……」
「こんな弱いやつ俺が倒してやる」
「俺だって弱い奴なんか一撃でたおしてみせるさ」
「いや弱い奴は僕が倒す!」
「いや、こんなへなちょこ俺だけでいいんだよ! みんなは黙って見てろよ!」
カンタという男の子が声を上げた後、雪野は子供達に指をさしこう告げた。
「いや、そこ! 弱い弱い言うなよ! 弱くても弱いなりに強いからな!」
なに言っているんだろう、子供相手に……
「つまり、少なくともお前達よりは強いって事だ。うん、それでいいや」
雪野が言葉をかけた後、ポカーンとする黙り込む彼らの姿があった。やがて女の子はクスクス笑いだし、雪野も少しぎこちなく笑い返した。
「あはは、えっと……この前はごめんな、みんな。驚かせちゃって」
「うん、いいよ。髪の長いお兄ちゃん」
彼女の言葉に続き男の子達もそっと頷いてくれた。
「ありがとう。その呼び名一番マシだ。ありがとう!」
「そうなの? よかった」
そこでドカンの上に座っていたカンタは立ち上がり、雪野へと近づいてきた。
「おい、髪長のお兄ちゃん一緒に遊ばないか? 暇だからお前と遊んでやってもいいぞ!」
彼なりの仲直りの意思の様な気がして、雪野は迷いつつもこう返していた。
「え、まあ、少しぐらいならいいけど……」
「やった。何して遊ぶ? 鬼ごっこ、かくれんぼ? それとも……人形探し?」
「あ、これは、ダメだぞ? 絶対に触ったらダメ!」
「分かった……それじゃあ、俺達がその人形を捕まえるから、お前は逃げる役だな」
「それ鬼役、多すぎない?」
一休みしたくてこの場所にきたのだが、無邪気に笑う子供達の表情を見て……雪野はまあいいかと、持ち前の諦め根性を生かしてその後、少しの間だけ子供達と戯れる事にした。
全力で隠れ逃げを繰り返し無事、彼らに人形はとられずに事をやり過ごした雪野は、ドカンの上にみんなで休憩した際にふと聞いてみた。
「みんな、ちょっといいかな?」
「何、お兄ちゃん?」
「どうした?」
「えっと、小羽ちゃんの事って、みんなも知っているのかな?」
「私、知っているよ。喋った事はないけど」
「はいはい! 俺だって知ってるぞ!」
「俺だって知っているよ!」
「この村では有名だから僕だって、みんなだって知っているよ!」
ななこちゃんに続いて、三人の男の子達も競って答えていた。
「そうか。今、その子が村人達から誤解を受けて苦しんでいるんだけど、小羽ちゃんを知っている君達も彼女の事は嫌いなのかなって?」
「私はよく分からないけど悪い人には思えないよ」
「俺もよく分からないけどおとなしい人だよね」
「僕もそう思うよ。いつも一人でさみしそう」
「別に悪い人じゃないんじゃないか? 大人達はうるさいけど……」
最後のカンタやみんなの言葉からも大人達よりも彼らの方が小羽を見ている事に気づく。
「そうか、君達がそういってくれるとありがたいよ。さて……」
「お兄ちゃん、どっかいくの?」
「帰っちゃうのかよ!」
立ち上がる雪野を見て女の子や男の子が慌てて声をかけてきて彼はそっと微笑んで伝えた。
「うん、みんなのおかげでもう一踏ん張り頑張れそうな気がしたからな。お兄さんは今から人々に小羽ちゃんを理解してほしいってお願いしにいくから、君達も応援してくれたら嬉しいな」
「うん、分かったよ。お兄ちゃん」
「俺達はお前の味方だぞ。頑張れ!」
「そうだ、味方だ!」
「僕だって!」
そんな素直な子供達に雪野は何だかんだで励まされてしまい、やる気が出てくる。
「そうか、ありがとな」
こうして子供達と別れた後、雪野は宮前の祭り通りへと戻った。すると……
「あぁああああああああああ――――」
「何だ?」
響いてきた叫び声に雪野は先に見える人だかりへと足を速めた。すると宮へと続く階段の中間に立つ小羽や、その横に花月と篤志の姿があった。ふと辺りを見渡すと上の方には小羽の父親が立ち尽くしており、人ごみに紛れて階段前にいる季流も見つけた。




