016 お兄さんの言葉
夜ノ月村での任務三日目の朝、雪野の寝部屋を訪れた花月は彼の異変に気づき駆け寄る。
「雪野さん! 大丈夫ですか……」
手を握り呼び掛けた時、彼の手は冷たく震えている事が分かった。
「うう……」
昨日の彼はどこか様子がおかしかった。
それは家に戻ってからで、父親との会話で顔を合わせた時もさらに……
食事にあまり手を付けていなかった彼はどこかぼんやりして縁側から外を見ていた。
「雪野さん……」
夜、自分の部屋で何もせず考え込んでいた雪野に「おやすみ」だけじゃなく何か話しを聞いていればと、花月は布団を跳ね上げて悶え苦しむ雪野の姿を見て後悔していた。
「雪野さん、しっかりしてください! 朝です、目を開けてください!」
「あ、あああぁ……あぁああアアア!! あぁ、うわあ、アア!」
その時、小羽が襖から顔を覗かせていて、遅れて季流がやってきた。
「なに? どうかしたんですか? 雪野さん……?」
「また、ですか……」
一瞬、眉を寄せる季流は雪野の元へと近づいていく。
「また……?」
「まあ、こうすれば簡単に片付きますよ」
その時花月は見ていた。首を傾げる小羽は呻き続けている雪野へと顔を向け、その横で彼へと手を振り上げようとしている季流の姿に呆気にとられていた。
「あ、お兄さま……」
「あ……!?」
「うあああああぁ、ぐぶ!」
その時、雪野の叫びが途切れ間抜けな声が漏れてしまう。
目を開けた彼に季流は清々しい笑みを浮かべこう言った。
「目覚めましたか、雪野くん。今日は昨日の雨が嘘の様にいい天気ですねぇー」
「あぁ……はい、そうですねー、おはようございます。お兄さん……」
目を細めて少しの間考え込んでいた雪野は頬に違和感があったのか手を当て、何かがあったと悟った様子で季流へと不愉快そうな疑問のような曖昧な顔を向けていた。
寝ぼけ眼に座り込む花月と、入口近くで立っている小羽の姿を確認する。
「あ、花月、小羽ちゃんも、おはよう」
「あ、はい。おはようございます」
小羽は少し戸惑った様子で……雪野は落ち着いて自分の容体について確かめた。
「お兄さん。また夢にうなされていましたか、俺……」
「ええ」
「そうですか。小羽ちゃん驚かせてごめんね。この通り頬以外は何ともないから安心して」
「はい……もしかしてですが昨日の夜、花月さんが今夜は闇が強いと言っていましたけど、それに関係があるのですか?」
小羽は少し考え込む様に下を向いた後、顔をあげ聞いてくる。その時……
「え……私、そんな事いいましたっけ……?」
不可解そうな声音を漏らす花月の様子を見て、季流はとっさに声をかけた。
「ああ! それは私が言った言葉ですね。確か昨日、廊下ですれ違った時に雨の日は、闇が強いと軽く会話しましたよね?」
「え?」
「関係ないとは言い切れませんが彼のこれはいつもの事なので気にしなくていいですよ」
「いつもの事って……」
「人形の呪いです……雪野くんは夢を見ているんです」
「夢?」
「夜は闇が広がる時間……闇は人の恐怖をあおり、人の感情から生まれる【変物】が動きを活発にする時間帯なんです。人形が見せる悪夢、雪野くんはそれを恐れているんですよ」
そこで先程から雪野の腕を支える様に掴んだままの花月が言った。
「だから雪野さんは夜はなるべく眠らない様にしているんです」
雪野はそこで花月の腕を引きはがす。
「花月、もういいよ」
「あ、はい」
その一瞬の間に小羽は怪訝な表情でちらっと花月を見つめていた。
「あの、花月さん……確かに昨日の夜は……」
その時、季流が彼女の言葉を遮って話しだす。
「あ、それはですね。小羽さんちょっといいですか?」
「あ、はい……」
小羽を誘い、その場から移動し始める彼に花月は不思議そうに言葉をかけた。
「お兄さま?」
「花月は、来ないで」
「え……?」
「雪野くんの傍にいてあげなさい」
「あ、分かりました……」
去っていく季流をどこか不可解そうに見つめていた花月を雪野は捉えていた。
「いきなりすみません。驚かせてしまいましたね」
一階の縁側が見える廊下まで移動し季流はそこで足を止めた。
「あの、さっきのは……」
「あの様子だと花月は知らないはず。昨日あなたが見た花月はおそらく【月花】です」
「【月花】?」
「あれは花月ではありません。花月の体を借りて現れた他の人格です」
「え? あの……花月さんは、二重人格なんですか?」
「はい、と言ってもあれは花月の姉です」
「姉ってあの双子の……」
「花月から聞いていましたか……彼女が亡くなった後、その事実を受け入れられず悲しむ花月に【月花】はとりついた。いや花月自身が【月花】の魂を繋ぎ止めてしまっているのです」
「花月さんは、その事に気づいていないんですか?」
「はい。ですので、この事は黙っていてほしいんです。花月には秘密でお願いします」
「分かりました……花月さんからお姉さんの話をしてくれた時に、倒れそうになっている彼女を見ました。それほど本人にとって衝撃な出来事だったんだと思います、お姉さんの死は。それが分かっていて私の為に話してくれたんだと思います」
「はい……」
「雪野さんもそうでしたけど、二人とも自分も何か抱えているのに私の為に無理して話してくれたりして優しい方達です」
「二人には一人がいるから……お互いに救い救われ支え合っているんですよ。家族なんです。私もずっとあの二人を見てきましたが、笑えずにいた花月も雪野くんに出会い表情が豊かになりました。雪野くんも花月と一緒にいる中で今、少しずつ自分の意思で生き様としています。彼は小羽さんを救いたいと心の底から思い本気で悩んでいます。その結果が今さっき見た光景だと思うとえらく情けないですが」
「そんな……あの、もう私は……」
「あなたを救う事が彼にとっての救いにもなる筈です。花月にとっての喜びでもあります。二人はきっとあなたが幸せになる事を願っています。それが叶わなければ落ち込むでしょう。悲しむでしょう。雪野くんに至っては罪悪感でしばらく思い悩むかもしれませんね」
「あの、でも……」
「さて、どうします? あなたが望めば彼らは喜んであなたの為に、そしてあなたを助けたいという自分の気持ちの為にやれる事は全力でやろうとします。後はあなたがもう一歩踏み込めるかどうかです。彼らの優しさを受け入れる事ができるかです」
「私は……」
しばらく困った様に考え込んでいた小羽に季流はこう言葉をかける。
「まあ、そんな二人の気持ちは置いといてさっさと諦めて、この村からあなたの様な者達が集まる特殊な学園に移るという逃げ道もありますが小羽さんはどうしたいですか?」
その言葉を聞いた小羽は顔を上げ、季流の方に眉を寄せながらその目を強く開けていた。
「私には、小羽さんがそれを聞いてそのまま諦めてしまう潔い良い方には思えませんが」
季流の言葉に小羽の力のこもった表情が次第に緩やかにやがて落ち着いた様子で俯く。
「あなたは、きっと自分の思う以上に図太い人間です。ずっとこの村で苦しんで我慢して、耐えてきたんでしょう? 逃げること自体は別にダメな事ではないんですよ。ただ、それで後悔しないかどうなんです。あなたはもっと自身の可能性を信じてください。そして我々の事も信じてくれませんか? うまくいくと、この現状を変えたいと最後に本気で期待しませんか? 願ってくれませんか?」
そっと顔を上げた小羽は間をおいて答える。
「その通りですね。私は雪野さんや花月さんを裏切る事はできません。逃げたくもありません。この村を離れるのも諦めるのも嫌です。でもやるだけやって期待して期待させて結局、二人をがっかりさせる事になるくらいなら今までと変わらぬ日常に戻っただけで満足だと、季流さんが言葉通り私の図太さを信じて我慢します。これからも耐えます」
そんな小羽の返答に季流は落ち着いて受け止める。
「そうですか。あなたがそう決めたのなら私は止めませんよ。ただ二人はそれで納得しますかね? 我々がこの村で滞在するのは明日の朝までとなります。その間にもし考えが変わったのなら私も奥の手を使ってでも何とかして見せますのでいつでも言ってください」
「はい、すみません……」
「いえいえ、気にせずに。では、そろそろ二人の元に戻りましょう」
「はい……」
季流はそれ以上の説得は止め、あっさりここで引き上げる事にした。
季流が小羽を連れ部屋から離れた後、俯く花月はなんだか不安そうにしていた。
「雪野さん……また、私の気づかないうちに何かあったんですか?」
「いや、まあ……そうなのかな?」
内容は知らないが何かあった事は確かだろう。
例えば花月が覚えていないとなると【月花】が現れてしまったとか……。
「まあ、あんまり気にするなよ」
俯く彼女は間をおいてこう呟いた。
「私、小羽さんに月花との事を話したんです。雪野さん」
「うん、そうか……」
「でも月花の事を考えると何故か頭の中がボヤッと何かに引っ張られる様にして回らなくなったんです。立っていられなくなって……まるで何かが私から月花を引き離そうとしている様で不安です……このまま月花との日々が思い出せなくならないかって、心配です」
なんて言葉をかければいいのだろう……
「花月……」
皮肉な事な事だ……【月花】は、自分の事で妹がとらわれてしまっている事を悔やんでいるのだろう。そして悲しんでいるだろう。だが今はまだこの問題について誰も解決に導く事は出来ない。それは花月の問題だからだ。彼女自身がその過去を吹っ切らない限りこの問題は消えてくれない。だからこれからもこの状況は続く。
しかし、それは悪い事だけとは一概に言えない。
「花月が思っている最悪な事にはならないと俺は思うぞ」
「どうしてですか?」
主に花月のマイナスの気持ちを感じ取って現れる【月花】は彼女を守っていた。
自身の能力であった《超結界》という力も花月に与えていた。
「えーそれはだな……俺もそんな結果は望まないから、かな?」
【月花】は大事な妹を望んで悲しませたりはしない。
「だから大丈夫だ。きっと何とかなる。みんなで花月を守るから」
「雪野さん……そうですね。私も自分や月花を失くしたくはありません。だから雪野さんがそう言うなら信じます。そうならないと信じます」
「うん」
「雪野さんが悲しまない様に私はずっと私のままでいますからね。安心してください!」
「え、なんで励ましていた俺が励まされているの? まあ、いいんだけど……」
言葉の途中、自然と出る彼女の笑みにほっとした時、足音と共に二人が戻って来た。
「お兄さま、小羽さんとの話はもう終わったんですか?」
「はい。どうすれば小羽さんは村人達に受け入れられるか。その為に我々や小羽さんには何ができるかなど色々話しあっていました」
「そうなんですね」
「それで小羽ちゃん、今日が最後だけど俺達にしてほしい事は何かない?」
「えっと……」
彼女はどこか言いにくそうに俯いていて……
「小羽ちゃん、もっと望んでもいい。我慢しないでほしいんだ」
「そうです。もし村人達の態度を変えたいのなら時間はかかるかもしれませんが、きっと私達が説得して見せます」
彼女はなぜか黙ったままでそれを見て季流がそこで声をかけた。
「小羽さん、先ほど決めた事をそのまま話せばいいんです」
「あの、私は……えっと……」
季流に目を向けていた小羽はやがて雪野達に顔を向けて言葉を紡いだ。
「私はこのままでもいいのかなと思っています。琥珀石は戻り村人から捕らえられたり、閉じ込められたりはもうしないでしょう。だから皆さんにお願いしたい事はありません」
「小羽さん……でもそれでは現状は何も変わらないと思うのですが……」
「それでいいんです。変わらないのならいいんです。変化があってあんな恐ろしい事になるのなら何も変わらない方が……」
「本当にいいんですか? それで……」
「はい。これでいいんです」
彼女の真剣な目を見て、自分達はこれ以上何もできないのだと雪野は悟った。
「そんな……」
花月も納得しきれない様でそんな中、季流はこんな状況でさえも冷静なのだ。
「まあ、小羽さんがそう言うのだったらそれでもいいですかね~」
いや違う。彼は冷静という以前にただこの結果を予想していたのかもしれない。
任務の期限を定めたのも最初から期待せずこの問題から早めに手を引きたいと思っていたから……だとしたらいくらお兄さんが適当人間でも許せない!
「お兄さん!」
「小羽さんがそう決めた事です、雪野くん。これは彼女の問題であってあなたにできる事は依頼主である彼女が望まない限り何もないんです」
そうかも知れない……だけど……。
「そういうわけにもいかないでしょ。全然いいわけがない!」
「そうですか?」
雪野は黙り込むしばらく季流を睨んでいると彼はため息をついてこう発した。
「雪野くんがそういうのなら、期限とか任務とか関係なく後は自由にやってみなさい」
「え?」
「どうぞ、納得いくように」
「あの、お兄さん……」
振り向きもせず、そのまま階段を下り一階へと向かった季流。足音すらやがて消こえなくなりそれでもまだ茫然と立ち尽くす雪野がそこにいた。
「雪野さん、お兄さまはそういう人です。本当は小羽さんがこの村でちゃんと暮らしていける事を望んでいるんですよ」
花月の視線が小羽へと移った事で雪野も彼女の方を向きそしておかしくなって笑う。
「まあ、あの人はそうですよね。そうでした。とても回りくどい事をする人でした」
「そうですね」
「つまりこういう事だな。俺がどうしたいかという事で、俺は小羽ちゃんをこのままにしておきたくない。救いたいんだ」
「私もです、小羽さん!」
「二人とも……」
雪野は小羽の表情を見て期待してこう言葉をかけた。
「何かを切り出せば何かが変わるかもしれないし変わらないかもしれない。ただ、やってみなければ分からない事で何も始まらない事で、あなたが本当の意味で現状を変えたいと思うのなら俺達に意思を示してください。今の時点であなたはまだ何もしてはいない!」
「あ……はい……」
突然の言葉に小羽のきょとんとしていて不意に照れ臭くなって雪野は慌てて述べる。
「と、これはいつもは傍若無人な誰かさんの受け売りの言葉で、言っている事はとてもいいんですがねー。アハハ……」
「季流さんですか?」
「うん。お兄さんはあれでも……俺にとって見本の様な人です」
雪野はそこでふと思い返していた――
「また、一人で塞ぎ込んでいるんですか?」
いつもの様に縁側に腰かけていた時、鋭い視線が自分へと注がれた。
「あなたは一体いつまでもそうしているつもりなんでしょうか?」
「……」
彼は自分に対して呆れうんざりしている事だろう。自分はただ生きる事しかできないのだから。息をして適度な食事や睡眠を取り、何もせずぼーっと悲しみに暮れるだけ。
何度も何度も悪夢と共に心がすさんでいく。そんな自分に誰が手を差し伸べてくれるのだろう? 自分に生きるように言った彼もそうだ。きっともう……
「このまま現状が変わらないのだと、そう思っていますか?」
見下ろされていた視線は、彼が雪野の横に座った事で一直線になった。
変わらない……?
彼の言葉の意味をよく働かない頭で考えていった。そして変わらないのだとそう思った。今の状況を変えられるのだろうか、そう疑問に思ってしまう。
「それは違いますよ。時が進むたびに常に周りは変化しています。ただあなたが変わらないままなんです。変わろうとしないだけなんです」
何も答えないでいると彼はゆっくりと言葉をかけてきた。
「これまでと同じように周りに流されるまま、ただのその場をしのぐだけの生き方をしますか? そんな事していたってあなたが辛いだけなんです。どうせダメなんだと、仕方がない事だと……勝手に諦めているんじゃありません。まず自ら行動してみなさい。そうすれば何かが変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれません」
その言葉や彼の青い瞳は、自分の気持ち全て見透している様に錯覚させる。
「しかし、それでもやってみないと分からないんです。それをまずやってみてください。自分の意思で気持ちを伝えてみてください。あなたが今、思っている事を私にぶつけて見せなさい。今の時点であなたはまだ何もしていない!」
「それじゃあ……僕はどうすればいいの? 分からない、分からないよ!」
「簡単な事です。今は……私の言う通りにしていればいいです」
「お兄さんの言う通りに?」
「はい。私の言う通りに。まずは笑いなさい。笑える様になりなさい。そんな顔では、あなたを想う人達を悲しませてしまいますよ」
自分を想う人間なんていない、そう思った。
だが次の瞬間、彼は柱の角の方に向かって声をかけた。
「ほら花月、そんな所にいないで来なさい」
「え……?」
雪野は彼の視線につられ振り返った。
「は、はい、お兄さま」
慌てて姿を現したのは、気づけばいつも自分の周りをうろちょろしている少し変わった女の子だった。それは変化が多かった時期の良くも悪くはない夏川家での記憶――
人形の悪夢を見た時、そんな懐かしい思い出も一緒によみがえってきていた。
お兄さんが自分に言葉を投げかけなければ自分はどうなっていただろう。また花月がいなかったらと雪野は考える。少なくとも今ここに立ってはいないだろう。
雪野は人形の呪いを受け入れさせ立ち上がらせたのはまぎれもない彼らだった。
「いろんな意味であの人は無敵ではないでしょうか?」
「それは能力が強いという意味でですか?」
「まあ、それもだけど……」
あの後、季流は何食わぬ顔でさらっと言ったのだ。
『あとは……もし笑えたのなら、自由気ままに生きればいいですよ。ただ生きるのではなく私のように自由気ままに生きなさい。以上』
「アハハ……」
お兄さんは誰よりも自由人だ。
「まあそれはともかく、あの人どこ行ったんだ。ほんと自由人だなー」
「自由人で悪かったですね」
その時、季流が部屋に入ってきた。
「わぁ! いらっしゃったんですか……?」
「少し、小羽さんのお父さんに彼女を連れて外へ出ていいか伺っていただけなので、あなた達を置いてどっかいったりはしませんよ」
「はあ……」
「という事で皆さん外に出ましょうか。いい光景ですよ」
時刻は八時頃、雪野達は言われるがまままあ寝ていたクロとシロも連れ外へと出た。
「わあ、すごいですね」
「そうですね、雪野さん」
昨日とは違う、すぐ目の前の宮の階段や左右の道の景色を雪野達は見渡した。
宮内から階段前に長く伸びる道路の脇に、屋台の列が点々と立っている。和楽器を使った祭りらしい音楽もそこら中から流れてきていた。左の道を歩き進めて、村の大部分に何かしらの店が開かれている様子が高台に位置する小羽の家近くから見えたのだった。
「へー、意外にたくさん店があるんだね」
「ここは毎年こんな感じで子供が楽しめる様にと村長のはからいで、儀祭の日だけはこんなに賑わうんです」
「そうなんだー」
「本当ですね。ここから見ると食べ物の店より子供たちが遊ぶ様な店が多いです」
「ヨーヨー釣りとか、金魚釣りとかあるな……」
金魚釣りの言葉を聞いて、近くにいたクロとシロの特にクロは大きく反応を示す。
「ニャン……!?」
「魚!」
「あれ、今……?」
小羽は後ろを振り返る。だがそこに季流しか人は見当たらない事を確認して、それから彼の下にいる猫たちをじーっと見つめていた。
「えーと……」
その時、季流が話題を変えるように告げた。
「あ、雪野くん。私はここから別行動をとりますので花月や小羽さんの事を頼みました」
「え、どこに行くんですか?」
「知らなくていいです。私は自由人だそうなので自由に行動するまでです」
「な……なんて屁理屈なんだ……」
「あはは、では、そういう事で、皆さんも各自楽しんでください」
自由人間な彼はその後、家の中へと戻っていく様で雪野は呆れてこう漏らした。
「まあいっかぁ。お兄さんがいない事だしちょっと気楽にそこらへん散歩してみるかー?」
「はい、楽しそうです!」
「二人とも。それならまずは左の道を行ってみませんか?」
ある倉庫の中に入ると子供達の折り紙や絵の具で描かれた絵、粘土の創作品。他にも老人の方が各自に編み物や生け花、俳句などの趣味や得意な物を持ち寄りしそれらが展示されている様だった。それを鑑賞しているのか人の出入りは多い。
雪野達は人の波を進んでいく。倉庫の外へと抜けた先の林に囲まれた広い空き地には、食べ物の店が円を描くように密集していた。人の流れはこの広場に向かっていた。
朝食もまだ摂っていないという事でその場所で飲み食いをして雪野達は、周りの視線を感じながらも祭り気分を堪能した。
「俺は、この後したい事があるんだけど二人だけにしていいかな?」
「雪野さんもお兄さまと同じく自由行動ですか?」
「まあ、そうなる。それでお前はどうする? この後」
「えーっと……」
考え込む花月を見て、小羽は少し強めに言った。
「あ、花月さん、少し話があるんだけどいい?」
「あー、では……私は小羽さんと」
こちらへと顔を向ける花月に、雪野は頷いた。
「ああ、分かった」
二人が去っていくのを見て雪野は動き出した。
「さて、俺にできる事をやりますか」




