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底辺騎士と神奏歌姫の交響曲  作者: 蒼凍 柊一
第一章 共に輪唱曲を
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魔法というモノ


 ぎゃーぎゃーと騒ぐカイトとユキ。

 その夫婦としか思えない様子を見ながらセツナは少し笑ってしまった。

 だが、先のことを考えると笑ってもいられない。この後に待っているリアナとの手合せに勝たなければ、カノンはあの家を追い出されてしまうかもしれないからだ。


「なぁカイト…ちょっと聞きたいんだけど…」

「こらっ、ユキ…!!って、どうしたんだい?セツナ」


 ユキの蹴りを交わしながらカイトはセツナの方を向く。


「実は…リアナと戦うことになったんだよ」

「えっ!?」


 セツナの一言に動きが止まるカイトとユキ。

 無理もないだろうな…などとセツナは思う。

 リアナはなんというか、特別な神姫使いと学院生から思われているからだ。

 それは至極単純な理由。

 騎士学院に編入してきた当初から実力はトップクラス。学院に数人しかいないSクラスの生徒と手合せして一歩も引けを取らない戦闘センスに加え、誰もが振り返るその美貌…セツナ自身はあまり意識はしていないが、周りから言わせれば美人らしい。まさに才色兼備と言ったところで、憧れを抱く生徒も多くいる。中には宗教じみてる団体もいるとかいないとか…そんな噂が飛び交っている。

 しかし火のないところに煙はたたず、ともいうのであながち間違いはないのだろう。

 そんな完璧な人間に、セツナは闘わなければならない。【底辺騎士】のセツナと、才色兼備のリアナ。どんなに無謀な挑戦かは火を見るより明らかだ。

 ついでに言えば、セツナの主観ではあるが、リアナは兄であっても容赦はしないだろう。


「リアナさんとなんでまた戦うことになったんだい?」

「ちょっとまずいところをリアナにみられてね…それで喧嘩になっちゃって。リアナと手合せして勝たないと…カノンの寝る場所がなくなる」

「…それは厳しいねー…」

「一体セツナは何をしでかしたのか気になるところだけれど……どうせカノンさんといちゃこらしてたところをリアナさんに見られたんだろ…?そりゃあリアナさん怒るよ」

「カイトはなんでもお見通しなのかっ!?」

「え?半分冗談だったんだけど…?」

「カノンちゃんにもう手を出したんだ…セツナ君って見かけによらず手が早いんだね?」

「まて!誤解だと…いや、誤解でもないんだが………あーもう!それはどうでもいいだろ!?」

「……セツナ……どうしようもないね…君は」

「俺がどうしようもないのは今に始まったことじゃない…!それより今はどうやったらリアナに勝てるかを聞きたいんだよ」

「開き直ったな…」


 カイトがやれやれ、と首を振る。

 セツナはその様子を見てちょっと苛立つが、いちいち反応していたら話が進まないので耐えることにした。


「セツナ君はリアナちゃんを倒すの?……カイトと一緒にリアナちゃんの戦い見たことあるけど…神姫使っても厳しいのに、覚醒してない今のセツナ君じゃあ絶対無理だよっ?」

「一応…剣技には自信があるんだけど…」


 リアナの神姫は【魔法強化】タイプの能力で、文字通り、魔法を強化する能力…という噂だ。

 近づいて、接近戦に持ち込めば勝てるのではないだろうか?というのがセツナの見立てだ。


「セツナ…もしかして、リアナさんの戦い見たことないの?」

「なんだよ藪から棒に…見たことないよ。リアナは俺に観戦されるのすごく嫌がるんだ。神姫と一緒にいるのも見たことないし」


 セツナの言葉を聞いて、そりゃあんなことしてればねぇ…という小さな言葉がユキの口から洩れる。


「あんなこと?あんなこと…ってなんだ?」

「リアナちゃん、かなりの魔法の使い手だよ?接近戦、遠距離戦…どちらも学院生のレベルを遥かに超える強さをもってて…セツナ君みたいに接近戦超得意なペアがリアナちゃんと戦闘したんだけど一瞬で終わっちゃった」

「へ?一瞬?一瞬ってどういう…」

「アレは悪夢みたいな光景だったから…なにせ相手が接近しに行く前に、【フレイムボム】の嵐を相手にお見舞いしてたからね…しかも無詠唱で。あんな残酷な光景、兄であるセツナ君には見せたくない、っていう心理もわかるくらいだだよ」

「無詠唱で、フレイムボムの嵐だって…?」


 戦闘中に魔法を使うには基本的には魔法名の詠唱が必要なはずなのだ。

 魔法というモノはイメージなしには使えない。だが、戦闘中ではそのイメージする時間がないため【魔法名】というものができた。魔法にはいわゆる外殻と中身があり、その外殻が【魔法名】に凝縮させられている。中身は使用者の魔力で、魔法名があればそれを詠唱するだけで外殻はできるので、あとは魔力を使うだけ。つまり【魔法名】とは魔法を一からイメージし、魔力を練る手間を短縮したモノなのだ。

 魔法名を詠唱し、その魔法の【名】に従って体内の魔力を発露させ魔法を完成させる。それが一般的な戦闘中の魔法の使用方法だ。

 だが、リアナはその魔法名を詠唱せずに、無詠唱で連続で魔法を使用したという。

 なんという集中力と魔力量か。


「リアナさんはとんでもない魔力量に加え、魔法を一からイメージして発動させることを瞬時にできる……いわば反則級の騎士だよ…。神姫使いでもあんな芸当、魔法特化の神姫と契約しなきゃできるわけがない……にも関わらず、それを生身でやってのけてるリアナさんは本当にすごいと思うんだ」

「生身で?…だってリアナの神姫は魔法強化だろ?それくらいできるんじゃないか?」

「リアナちゃんの神姫の能力は、魔法の【威力】を強化できるだけだよ?発動には補助はかかってないって本人が…」


 セツナは思う。自分の妹はかなりのやり手だったと。

 【底辺騎士】である自分とは大違いだと劣等感を否めないが、そんなことを今考えていてもしょうがないと思い直す。


「……で、でもリアナさんが【火】属性の魔法を使うっていう情報だけでも有益じゃない?セツナが【水】に適性があれば魔法を封じることも…」


 人によって使える魔法の属性は限られている。魔法適正というモノがあり、これは五属性【火】、【水】、【風】、【光】、【闇】どれかに適性があればその魔法が使えるというモノだ。……たとえば【火】の魔法に適性があれば火を使えるが、【水】の魔法や他の魔法は使えないと言ったように。

 二属性以上の適性を持っている人はめったにいないので、リアナは火属性しか使えないとみて間違いないだろうとセツナは思う。

 だが…セツナは魔法を使えないのだ。


「おいカイト…俺が魔法使えないの知ってるだろ?」

「そうだった……」

「セツナ君って魔力は規格外にいっぱいあるのに、それを使う方法がないんだよね?不思議だよねー…最初聞いたときはどうして?って思ったけど実際そういう体質?なんだもんね」


 魔法適正が無ければ、魔法は使えない。

 セツナにはその魔法適正がないのだ。

 五属性のどれも適性がないという検査結果と共に、異常な量の魔力量の検出結果を教官から手渡されたときは酷く憐みの眼で見られた。

 魔力があっても、適性がなければ意味がないからだ。


「……あれ?どうやって勝てばいいんだ?」

「リアナちゃん強すぎだからねー…もう土下座するしかないんじゃないかな?」

「土下座するんだセツナ。少しは許してくれるかもよ」

「はぁ……。そういえばカノンは魔法はどれくらい使えるんだ?」


 隣でいつの間にか顔程もある大きさの棒付きの飴をなめていたカノンに、セツナは話を振る。

 カノンが水魔法が使えればリアナの魔法を封じることができるかもしれない、と思ったからだ。


「私…魔法は全部使える…」

「え!?五属性全部ってことかっ!?」


 その言葉にコクリ、と静かにカノンは頷く。

 五属性全てを扱えるという神姫というのは珍しいどころの話ではない。世界に一人いるかいないか位の話なのだ。

 カノンの言葉にカイト、セツナ、ユキ全員が固まる。


「でも…攻撃魔法は各属性の【魔弾(マナ・バレット)】くらいしか使えないし……威力も弱いし……魔力量も無くて…三発撃ったら多分倒れちゃう……」

「あはは…なんかセツナ君と真逆だね~」


 ユキは変な汗をかきながら思う。

 これで魔力量まであったらどんな化け物になってたんだろう…と。


「おいカイト…どうすんだ。【魔弾(マナ・バレット)】ってたしか初級も初級…属性を帯びた魔力の弾丸を撃ち込むっていう魔法だっただろ?…全属性使えても魔力がなきゃ…」

「魔法を使えない君がそれを言う資格はないんじゃないか…?というかもう土下座してリアナさんに謝ればいいじゃないか…?」


 セツナとカイトがひそひそと話をしているのを、カノンが見る。


「セツナ…私…使えなくてごめん……」


 しゅん、と落ち込むカノンを見て、セツナは焦る。


「いやいや!!別にカノンが使えないとか使えるとかそういう話じゃなくて!!それを言ったら俺も剣を振るうしかない【底辺騎士(できそこない)】だし…!」

「セツナそれは慰めになってないよ?」

「あ~あ…セツナ君がカノンちゃん泣かせた~」

「どう見ても泣いてないんだけど……ごめんカノン。腹斬るからっ!!許してっ!!」


 セツナが錯乱して腰のナイフを引出して自分の腹に向ける。


「うわああああああああああ!!」

「セツナ死んじゃ…やだ」


 カノンが素早い動きでナイフを叩き落とし、抱き着く。


「捨てないで…」


 と一言。


「まるで離婚寸前の夫婦みたいですねぇカイトさん」

「そうですねぇユキさんや」


 解決策は午後になっても見つからなかったとか。

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