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底辺騎士と神奏歌姫の交響曲  作者: 蒼凍 柊一
第一章 共に輪唱曲を
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参考に……ならない

 朝食を食べ終わったセツナは今日の予定についてカノンに話をすることにした。


「それで…二時まであと八時間はある訳なんだけど…カノン。俺はちょっと一人で散歩しながら考えたいことがあるんだ…」

契約の言葉(ラストリア)…のこと?」

「…あぁ。早く見つけないと、今日のリアナとの手合せであっさり負けちゃうかもしれないからね…」

「なら、私も一緒に行く」

「え…?」


 予想外なカノンのことばにセツナは面食らってしまった。

 きっと家で待っていると思っていたからだ。


「……一人で考えるより、二人で考えたほうが……良いと思うの。…それに、私はセツナと一緒にいるって……決めたから」


 その断言するかのような言い方にまたしてもセツナは驚いてしまう。

 それならば、とセツナは別の提案をすることにする。

 一人の女性が…自分と一緒に居たいと言っているのだ。無下にする理由がない。


「じゃあ、市場の散策でもしようか?」


 これはいい案だとセツナは思う。契約の言葉(ラストリア)について思考しながらにして、カノンも楽しめる。

 この街の市場には様々なものがある。武器や防具はもちろん、屋台だって服屋だってある。退屈しないのだ。


「……!行く…!」


 期待に満ちた目をしながらカノンは大きく頷いた。

 その仕草を見ながら、セツナは満足そうな笑顔を浮かべる。


「よし、じゃあ行こうか」


―――――


「セツナ……変じゃない?」


 家から出た所でセツナが待っていると、服を着替え終えたカノンが出てきてくるりと回った。

 帽子は大きめの白いものをしている。顔があまり見えないのが残念だが、カノンという歌姫が町中を歩くと思えば当然のものだった。

 服は…リアナに借りたのだろうか?余所行きのゴスロリちっくな黒と白のものを着ていた。ふりふりだ。


 ――着る人によって、こんなに変わるもんなのか…!?


 内心でセツナは焦っていた。

 予想以上の可愛さ…しかもリアナが着るよりも余程似合っている。

 しなやかな肢体に、儚げな雰囲気が漂うカノンにゴスロリ服はまさに凶器の如きかわいさを誇っていたのだ。


「……そんなに…みないで…」

「ご、ごめん!」


 少し顔を紅くしながらカノンは下を向く。

 それがまた男心をくすぐる仕草だったので、セツナは直視できなくなってしまった。


「い、行こうか!」

「……うん…」


 セツナが歩き出すと、カノンも後ろからトコトコとついてくる。

 そんな状態で十分ほど歩くと、目的の場所はすぐだった。

 学院へ続く大通り。そこから一本外れたもう一本の大通りに、市場はある。

 もともと学院の生徒たち向けに作られただけあってなかなか品揃えは豊富だ。

 筆記用具やノート、食材、武器防具など様々な店で溢れ返っている、というのがセツナの第一印象だった。


「やっぱり何回来てもここはにぎやかだな…」

「あ、あれ…」


 ちらほらと学院の生徒たちもいる。

 その中の一人を指さして、カノンはセツナの服の裾を引っ張った。

 指をさした方向をみると、そこには…


「やぁセツナ……身体の方は大丈夫かい?」

「セツナ君にカノンちゃんだっ!おはよう!」

「ふぇっ……!?ゆ、ユキちゃん……くるしぃ…」


 向こうもこちらに気付いたようで、手を振りながらこちらに近づき声を掛けてきた。

 カイトとユキだ。

 先日の一件の影響だろうか、カイトは自分が突き刺したセツナの腹の方を見て、顔をゆがめている。

 ユキはそんなことは露知らず、カノンに抱き着いている。


「ああ、大丈夫。なんだかあの後治ったみたいで…カイトも災難だったな?」

「リリア教官には逆らえないからね……仕方ないとはいえ、セツナを刺したことは謝る。ごめん」


 カイトは綺麗に腰を折り、謝罪してきたのでセツナはあわててカイトの方をつかみ、起こす。


「謝らないでくれ…!悪いのは全部俺と…あの教官なんだから…!」

「……でも、僕は……」

「刺された本人が良いって言ってるんだぞ?気にするなって」

「セツナ…」


 ずっと心に刺さっていたのだろうか、セツナのその言葉を聞いて、こわばっていたカイトの顔がだんだんと緩んでいく。


「…ありがとう」

「おい抱き着くなって……みんな見てるから…」

「あー!カイト!!浮気!?浮気なのっ!?」


 感極まってカイトはセツナに抱き着く。それを見たユキが涙目になりながらカイトの背中をたたいていた。


「いたいいたい!ユキ!僕は男色の趣味はないよっ」

「うるさいバカイト!抱き着くのは私だけの予定だったでしょ!」」

「ば、バカイト…ぷっ、ぷぷぷ……ほらカイト。嫁さんが怒るから、泣き虫なのもほどほどにしとけよ?」

「セ…セツナまでそんなことを言うのかい!?大体僕は泣いてないよっ!」

「るるーるー……」


―――――


「そういえばあの時…セツナ。キミ、君じゃなかっただろう?あれってどういうことなんだい?」


 ひとしきり騒いだ後、カイトが周りを気にしながらこそこそ話をしてきた。

 やっぱりか、とセツナは思うが、誤魔化さずに伝えることにした。

 二重人格のこと、もう一人のセツナはヤバイ神姫使いだということを。


「……え?…じゃあ今のセツナは……」

「そんなに警戒するなよ…?正真正銘、【底辺騎士(できそこない)】の方のセツナだ」

「冗談だって…そんなに自暴自棄にならないでよ?……とんでもない話で、ちょっと困っただけだから」

「困る…?」


 セツナはカイトの顔色をうかがいながら話をする。

 やはり引かれてしまっただろうか?…気持ちの悪い話かもしれない、と自分でも少し思うくらいなのだから。

 その考えは、次のカイトの一言で吹き飛んでしまう。


「ああ、困るね?…まさかあんな隠し玉があったなんて…セツナ、僕を【討伐作戦】のパーティーに誘ってよ」

「俺の…パーティーに!?」


 討伐作戦とは、学院の授業の一環である学生による魔物の集団討伐の授業のことだ。

 実戦形式で遭遇戦をするので、けが人が絶えない。実力が磨けるから最高、という学生と怖いから嫌だという学生まで感想は様々だが、まだセツナ達はやったことはないので、詳細は分からない。ただ、神姫を含めず、二人以上のパーティーで臨むこと、という規則が設けられている。

 学院の掲示板に今月末までに二人以上のパーティーを組んでおくこと、という張り紙がされていたのをセツナは思い出した。


「そういえば…討伐作戦って、俺参加するのかな…?」

「あれだけの力を持ってるなら…セツナ君は絶対参加するべきだとおもうけどなー。人格のアレは別にしてもいい経験になると思うよ?」

「幸い…というかなんというか…僕もユキもパーティーはまだ組んでないんだ。もしセツナがよければ…僕たちでパーティーを組もうよ。大丈夫。二重人格だからって僕たちは差別とかしない」

「あ、ああ…別に問題はないけど……まだこっちの俺じゃあカノンと契約すら交わしてなくて…」


 そこまで言って、セツナはカイトとユキを見る。


 ――そういえば、カイトはどうやってユキと契約したんだろう?


 疑問が浮かんだので、質問してみる。


「なあ…ところで、カイトとユキって、どうやって契約したんだ?」

「……」


 黙り込むカイト。

 赤くなるユキ。


「……え?なに?この空気?」

「聞きたい…?」

「いや、今後の参考にと思ったんだが…」

「そうか…それなら仕方ない…か」


 カイトはなぜか恥ずかしがるようにして話し始めた。


「…あれは13歳のころだったね…ユキが、神姫が僕に蹴りをかましてきたんだ」

「蹴り!?」

「思いっきりだよ?学内を歩いてた僕は、通りがかりのユキに思いっきり蹴られたんだ。いわゆるドロップキックってやつだね」

「あれは…若気の至りでした…」


 カイトの隣でユキは遠い目をしている。

 ユキからやっと解放されたカノンはセツナの隣で震えていた。

 よしよし、とカノンを撫でながらカイトの話に耳を傾ける。


「よくカイト無事だったな…」

「無事なもんか!頭からこけて、血だらけになったさ!それで覚醒したんだ」

「え!?それでかっ!?」

「いきなり、ね。で、頭にこんなフレーズがよぎった訳だよ【善行には報いを、悪行には罰を、大義あるものに力を】ってね」

「おいそれ完全にユキに報復するための言葉じゃないか!?」

「そしたら何を勘違いしたのか…ねぇユキ?」

「………勘弁してください」

「もしかして…ユキが勝手にそれをカイトの理想だと勘違いして、契約に応えた訳か?」

「そう。そのとおり……でもそれからいろいろあってね……今じゃ立派なパートナーだよ」


 カイトがユキの頭を撫でながら笑った。


「カイトってば、私がいなきゃ朝も起きられないんだよっ!?」

「ユキ!それは今関係ないでしょ!?」

「人の恥部をさらした罰だっ!思い知ったかぁ!」


 ユキはカイトの脇腹を小突き始める。

 余程恥ずかしかったのだろうか?顔が真っ赤だ。


「いて、いてて……」

「おりゃー!」


 騒ぎ始めたカイトたちを横目に、何気なくセツナはカノンを見る。


「参考に……なった?」


 セツナは空を見上げ、ため息を吐く。


「…いや、ただの夫婦漫才を見せられただけだったよ…」

「「誰が夫婦漫才だっ!!」」

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