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底辺騎士と神奏歌姫の交響曲  作者: 蒼凍 柊一
第一章 共に輪唱曲を
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最悪の事態

時間はリアナとの約束の時間の少し前。セツナとカノン、カイトとユキは四人そろって学院に続く坂を上っていた。

 結局解決策は見つかっていない。だがセツナは逃げ出さずリアナと対峙することを選択したのだ。


「…仕方がない…真っ向勝負で挑むしかないか」

「やっと覚悟が決まったんだねセツナ」

「大丈夫…私もいるから……!」

「ありがとうカノン…!一緒にリアナを倒そう!」


 ――ヒーローになりたい。


 セツナが想う唯一の成りたい自分の理想像が、逃げ出すという選択肢をふさいだのだ。

 ここで引いたらカノンが路頭に迷ってしまう上に、リアナとも喧嘩をしたままになってしまう。

 それだけはセツナは避けたかった。


「勝てる相手じゃないと思うんだけどな~…」


 ユキがセツナとカノンの後ろを歩きながらそう独り言を呟いていた。


「やってみないとわからないぞ?ユキ。なんたってセツナは二重人格だからな…あのセツナが現れれば勝てる確率もあがるかもしれないだろう?」

「えぇ……正直、私あのセツナ好きじゃないんだよね……なんか、カノンちゃんの事しか考えてなかったらしいし…」


 そう言われてカイトはリリアと戦っていたもう一人のセツナの映像を思い出す。

 圧倒的な力でリリアを制したあのセツナは…リリアをもう少しで殺しかねない勢いだった。

 簡単に教官である人を殺せるようなそんな精神を…前を歩いているセツナが持っているだろうか?

 答えは否だ。

 カイトはよくセツナと言う人間を知っている。

 彼の根幹にあるものも知っているのだ。その気高き理想と、実力の差が生み出す葛藤も…カイトは理解している。

 だがもう一人の彼の事は全くと言っていいほど見抜けなかった。

 せいぜいわかるところでカノンが大切…それだけだ。本当にそれだけなのかもしれないが。

 そう考えると、もう一人のセツナの危険性にカイトは気付いた。


 ――リアナさんを殺してしまうかもしれないな…。


 そうなればきっと元のセツナは後悔する。涙する。

 その惨劇を避けるには、今ここでセツナに釘を打っておく必要があるとカイトは判断した。


「セツナ…絶対にもう一人の君を頼っちゃいけないよ?」


 カイトはセツナの左後ろからそっと耳打ちをすると、セツナは振り返らず神妙な顔をしながら頷いた。


「…わかってるよ」


 そう、セツナも理解しているのだ。

 もう一人の自分の危険性を。

 守りたい…その一心で顕現するもう一人の自分。

 その本質をセツナ自身は理解していた。

 昨晩カノンを寝室に案内したあと、すぐにセツナは自分の部屋に籠り思いに耽った。


 ――どうして、もう一人の【俺】がいるのだろう?


 想えば答えは自ずと出てきた。

 カノンが襲われそうになったとき。

 カノンが危険な目に合いそうになったとき。

 彼女を守れるほど…単純に【強く】なりたいと心の底から想ったとき…もう一人の自分は現れる。

 危険なほど強いソレが顔を覗かせるのだ。

 セツナ自身、分かっている。


 ――アイツは、カノンが無事ならそれでいいんだ。それ以外は眼中にない。カノンを敵視する奴すべてを殺す…殺戮機械みたいなものだ…。


 そこまで思い至った。

 自分はそこまで危険な人物だったのだ。


「わかってる…。アイツが危険なのは…わかってるんだ」

「セツナ…いや、分かってるなら大丈夫だね?…リアナさんは決してカノンさんを殺そうとしてる訳じゃないから…」

「ああ…アイツは…本当にヤバイ時にしか呼ばないって決めたから…大丈夫だ」


 セツナは鼻歌を歌っているカノンを見やる。


「~~♪……どうしたの?セツナ」


 こちらを見ていることに気付いたカノンはにこっ、と天使のような笑顔で微笑み返した。


「いや…頑張ろうな?カノン」

「うん…セツナと一緒にいる為に……頑張る」


―――――


 学院へと続く坂を上り切ると、見慣れた広場へとたどり着いた。

 毎朝ここでリアナが所属する生徒会は挨拶をしている。だが普段と違い今は休息日。生徒の姿は見えず、周りは静寂に満ちていた。

 小鳥一匹も見当たらないし、虫たちの鳴き声もしない。

 まったくの…無音。

 学院内に入ってもそんな様子が続いたので、ようやく四人は今の学院が普通の状態ではないことに気付いた。


「なんだかいつもと違うな?」

「そうだね…休息日ってこともあるだろうけど、いくらなんでもこれは…静かすぎる…」

「……不気味…」


 門をくぐってすぐの学院内。

 中に入ると大広間になっており、他の廊下に続く道が十二本ある。

 どの廊下の先も転移魔法陣が置いてあり、それぞれの建物へ移動するのだ。

 なのでここが静かというのは基本的にありえないはず。


「ンン!やぁ…!キミたちがカノンの知り合いか!?」

「誰だっ!?」


 突如として掛けられた声にとっさに振り向く四人。

 そこには…巨人と呼ぶにふさわしい体躯をして、その体格に似合わぬニヒルな笑顔を浮かべる青年がいた。

 その顔をセツナは知っていたがあまりの驚きに動けなかった。


「…【白の騎士団(ホワイトナイツ)】…ウィゼル・ブレイブ騎士団長!?」

「……」


 一瞬の間を置いてセツナはすぐさまカノンの前に立つ。

 そう、この男こそカノンを追い回していた張本人…ウィゼル・ブレイブ。

 数多の戦場に立ち、無傷。

 幾多の戦に置いて、無敗。

 正真正銘、最強の神姫使いと称えられ、この国全ての神姫使いが一度は目指す人物である。

 そんな大物を目の前にしてカイトとユキは呆然と立ちすくむ。

 体格はセツナの1,5倍くらいの巨体。背丈はゆうに3メートルはあるだろう。その武骨な身体はもはや規格外の存在感を放っていた。


「は、はは?一体騎士団長様がなんの御用でございませうか!?」


 いきなりの邂逅にセツナは驚きを隠せない。

 一番見つかってはいけない人物に見つかってしまったのだ。


「ンン?なンでそんなに怯えてるンだ?おいおいどうしたンだよカノンまで…?久しぶりの再会だってのに!」


 終始笑顔で独特の発音をするウィゼル。だがセツナはその笑顔の裏側に潜むものになぜか既視感を覚えた。


 ――こいつ…!カノンを見る目がヤバイ!!


 後ろでカノンが震えているのがよくわかる。

 ここは自分がしっかりしなければ、とセツナは奮い立った。


「彼女…今は調子が悪いんで…要件があれば私が代わりに聞きますよ?ウィゼル騎士団長」

「ンン?……キミがうわさに聞くセツナ君か…!?リアナが興味深いって言ってたのも分かるなぁ!」

「ちょっ!?」


 ひょい、とウィゼルにつままれ持ち上げられるセツナ。

 抵抗するもまったく歯が立たない。ばたつかせる手と足が空を切るだけだ。


「下ろしてください!」

「ンン…?こいつはまだ覚醒してないのか…?なンでカノンがこンな貧弱な男に惹かれてるンだ…?」

「……セツナを、おろして!!」

「カノン…!」


 珍しくカノンが怒っていた。

 いや、怒りというのも温い。

 昔の知り合い…拾ってくれた温情…そういうモノすべてを否定するかのような凶暴さで、彼女は目の前の巨体の男に対して憤怒をぶちまけていた。


「ンン…そんなに怒るなよ…カノン!」

「………気安く名前を呼ばないでっ!!」

「ンン……それなら仕方ない」


 ウィゼルは空中で手を開いた。

 軽い衝撃と共にセツナは地上に下ろされた。


「こっちの坊やは…おぉ!神姫もちかぁ!ンン!いいねぇ!」

「へ!?は、はい!!」

「……」


 憧れの騎士を前にして、カイトは返事をするだけで精いっぱいだった。

 ユキの顔はなぜか曇っている。


「私たちはこれから約束があるので、失礼します!行こう、カノンちゃん、セツナ君、カイト!!」


 そう荒くウィゼルに言い捨てセツナとカノンの手を取り、ユキは訓練場の方向へ行こうとした。

 彼女は不愉快だった。なんの自己紹介もなしに現れたこの男。

 実は礼儀に厳しいユキは、これだけでも最悪な気分にさせられた。

 その上、セツナをおもちゃのように扱い、カノンをおびえさせ、カイトの視線をユキの胸の谷間ではなくウィゼルのおっさんの顔にくぎ付けにさせた。

 耐えられなかったのだ。恋人の視線を独占されることが。


 だが、その勢いは次に放ったウィゼルの言葉で無くなってしまった。


「ンン?お前たちが行こうとしてる訓練場にいた嬢ちゃンなら…騎士団の要人を攫った罪で地下牢にぶちこンだぞ?……カノンを渡すというのなら…君たちは地下牢には送らないが…どうするンだ?」

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