デートの約束
王城から帰った三日後。
ルフト様とバリオンが近衛たちと共に、昼の食堂に現れた。
精鋭たちが働いてくれるから、私も二人の席に呼ばれた通り座ったけれど……バリオンが前のめりになって、私に笑顔を見せている。
「レフとのデートはどうだった、ディアちゃん。いきなり王城でお茶会なんて言われて困らなかった?」
「最初は困りました。でもルフト様にお気遣いいただけたおかげで楽しかったです」
ルフト様に目を向けると、自信満々で嬉しそうに唇が笑っている。
反対にバリオンは頬杖をついて悔しそうだ。紺色の瞳が拗ねっぽく細められている。
「フィオリ様に呼ばれて出張に出たのも、全部レフの仕業だったなんてね。ディアちゃんのことになると遠慮しないから困っちゃうよ。
でも今度は正式に俺の番だね。デートでは一緒に歌劇を見に行きたいんだけど、どうかな」
「歌劇、ですか……私、見たことがありません」
着飾った男女が歌劇場に入っていくのを見たことはあっても、私が中に入ったことはない。
舞台に出演する人たちが食堂で成功祝いにフォッパーを飲む姿は知っているけれど、未知の世界だから想像すらできなかった。
バリオンは私の答えを聞いて、紺色の目を昼の光にキラキラ輝かせている。
「なら体験してみようよ、俺が案内してあげる。
ドレスコードがあるから、当日はまず服を買いに行こうか。
歌劇をじっくり楽しんだ後は知り合いのカフェで軽食を楽しもう。種類が多いことで有名なクラブハウスサンドがあるから、味の研究にもなると思うよ」
「すみません、服はあまり買えなくて。歌劇に行けるような立派そうなものなんて、買えそうもないです……」
「大丈夫、女の子に贈り物をするのもデートの楽しみ方の一つだからね。俺がプレゼントするよ。
ディアちゃんは純粋にデートを楽しんで。俺は君が見せてくれる笑顔だけで満足だから。ね」
デートはお試しの状態だし、奢ってもらうのは申し訳ないのに断りづらい。
でも……行き先も決めてくれているみたいだし、相手を知るためのデートだから、素直に受け入れた方が良いのかな。
困ってルフト様に目を向けたけれど、彼の赤い髪は縦に揺れた。
「バリオンなら存分に財布にしてやるといい。貴族のボンボンだから金は有り余っている」
「そうそう、実はレフより動かせるお金は多いかもしれないね。
初めての体験に戸惑ってるかもしれないけど、実際に行けば楽しいし、君の知見も広げられる。
知らない料理を学ぶことも、君のお母さんの手助けになるんじゃないかな」
期待して微笑んでいるバリオンは自分のためだけじゃなく、私のためにも考えてくれたみたいだ。
……私では決して考えつかない彼の『楽しいこと』がある。
バリオンが本物の婚約者なら、今後も必ず通る道だし……体験してみようと決めたから、頷いた。
「では、四日後ですね。よろしくお願いします」
「任せて。今からディアちゃんとデート出来る日が楽しみだよ」
ルフト様は納得していても複雑らしく、固まっていく話を聞きながら眉間に皺を寄せている。
反対に嬉しそうなバリオンを見て、リボンを渡したかもしれない人との初デートだと、私も緊張する胸を押さえた。
そうして、デート当日。
「大変申し訳ございません、坊っちゃまはお風邪を召された様子で。
とてもではございませんが外に出せる容態ではないため、急な話ではございますがお断りの申し入れにまいりました……」
バリオンは風邪を引いたらしく、食堂に使いの人が現れた。
どうやら出張先で風邪をもらってきてしまったらしく、高熱が出ているそうだ。
「外に出ようとしても出来ないとご自身で悟られるくらいには、足元もおぼつかず……今もご自分のベッドで眠っておいでです。
せっかくの機会ではございましたが、また坊っちゃまよりご連絡を差し上げたいと仰せでしたので、ご容赦いただきたく……」
「それは心配ですね……わかりました、バリオンにも安心して休んでほしいとお伝えください」
残念だけれどこうして、バリオンとのデートはなくなってしまった。




