表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女が死ぬ3日前  作者: leemero
第①章「六月の雨」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/26

第六話 「雨の帰り道」

その日の雨は、昨日までとは少し違っていた。

傘を叩く音が大きい。

空を見上げれば、雲は空一面を覆い尽くしている。

まるで世界そのものが重たい何かを抱え込んでいるようだった。

校門を出たあとも、あなたの頭から離れないものがあった。

放課後。

萌のスマートフォンに届いた通知。

そして、一瞬だけ曇った表情。

あれは気のせいではない。

今まで見たことのない顔だった。

誰からの連絡だったのか。

何が書かれていたのか。

考えれば考えるほど気になった。

しかし聞けるはずもない。

まだそこまで踏み込める関係ではなかった。

雨の中を歩きながら、あなたは隣の萌を見る。

彼女は透明なビニール傘を差しながら、いつも通りの表情をしていた。

まるで数分前の出来事などなかったかのように。

「見すぎ」

突然言われた。

「え?」

「さっきから」

萌が苦笑する。

「何か言いたいことある?」

図星だった。

あなたは視線を逸らす。

「別に」

「嘘」

即答だった。

萌は少しだけ楽しそうに笑う。

「顔に出てるよ」

昔からそうだった。

隠し事が苦手な性格。

もっとも、萌がそれを知っている理由は分からない。

クラスメイトとして、そこまで深い関係ではなかったはずだ。

「そんなに分かりやすいか?」

「うん」

「最悪だな」

「ちょっとだけね」

萌はそう言いながら前を向く。

雨粒が傘を叩き続ける。

しばらく沈黙が続いた。

だが不思議と気まずくはない。

むしろ心地よかった。

そんな空気の中で、萌がぽつりと呟く。

「ねえ」

「ん?」

「人ってさ」

まただ。

最近の萌は時々こういう話をする。

まるで何かを確かめるように。

「急にいなくなったら、どうなるんだろうね」

あなたの足が止まりそうになる。

だが、なんとか平静を装った。

「またその話か」

「気になるんだよ」

萌は雨空を見上げる。

「学校は普通に続くし、みんな普通に生活するし」

その声は静かだった。

「最初は悲しくても、きっと忘れちゃうんだろうなって」

忘れる。

その言葉が胸に刺さる。

あなたは交差点の光景を思い出す。

もしループしなかったら。

自分もいずれ忘れていただろうか。

蒼井萌という少女がいたことを。

放課後に雨を眺めていたことを。

少し寂しそうに笑う癖があったことを。

「忘れないだろ」

思ったより強い口調になった。

萌が驚いたようにこちらを見る。

「そうかな」

「少なくとも俺は忘れない」

言った瞬間、自分でも驚いた。

なぜそんなことを言ったのか。

萌はしばらく黙っていた。

そして。

ほんの少しだけ目を細める。

「そっか」

その表情は、どこか嬉しそうだった。

駅前へ着く頃には雨がさらに強くなっていた。

二人はアーケードの下へ避難する。

雨宿りをする人が何人もいる。

その中で萌はスマートフォンを取り出した。

画面が光る。

あなたは無意識に視線を向けてしまう。

しかし。

萌はすぐに画面を伏せた。

ほんの一瞬だけ見えた文字。

差出人の名前までは読めない。

ただ。

メッセージアプリの通知が何十件も並んでいるのだけは見えた。

萌は気付いていない。

けれどあなたは違和感を覚える。

友達が多いタイプには見えない。

少なくとも大量のメッセージが届くような印象はなかった。

「どうした?」

萌が首を傾げる。

「いや」

誤魔化す。

まだ分からない。

だが確実に何かがある。

家庭か。

学校か。

友人関係か。

死へ繋がる何か。

その断片が少しずつ見え始めている気がした。

やがて電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。

萌は顔を上げた。

「じゃあ、また明日」

いつものように言う。

いつものような笑顔。

だが。

あなたはその言葉に小さな恐怖を感じていた。

また明日。

その明日が、あと何回残されているのだろう。

六月五日。

蒼井萌が死ぬ二日前。

時間は確実に終わりへ近付いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ