表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女が死ぬ3日前  作者: leemero
第①章「六月の雨」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/26

第五話「雨の予報」

六月五日。

蒼井萌が死ぬ二日前。

朝から空は重たい雲に覆われていた。

天気予報では午後から雨になるらしい。

教室の窓から見える空は灰色で、まるで今にも泣き出しそうな顔をしている。

あなたは席に座ったまま、その空を見上げていた。

昨夜はほとんど眠れなかった。

蒼井萌の言葉が頭から離れなかったからだ。

――もし私が急にいなくなったらさ。

――誰か悲しんでくれるのかな。

冗談だったのかもしれない。

何気ない会話だったのかもしれない。

それでも。

今のあなたには聞き流せる言葉ではなかった。

萌はまだ来ていない。

時計を見る。

始業まであと五分。

教室には徐々に生徒が集まり始めていた。

そんな中、教室の扉が開く。

萌だった。

いつも通りの制服。

いつも通りの表情。

それだけで胸の奥が少し軽くなる。

萌は席へ向かう途中であなたに気付いた。

「おはよう」

「おはよう」

「今日はちゃんと起きてるね」

「昨日まで寝てたみたいな言い方するな」

萌が小さく笑う。

その笑顔を見ていると、本当に普通の高校生にしか見えない。

だから余計に分からない。

死の気配なんてどこにもない。

授業が始まる。

数学。

国語。

英語。

時間はいつも通り流れていく。

だが、あなたにとっては違った。

時計の針が進むたび、六月七日が近付いてくる。

焦りだけが募っていく。

昼休み。

あなたは思い切って萌に尋ねた。

「今日、部活ないのか?」

萌は購買のパンを開けながら首を傾げる。

「帰宅部だけど」

「あ、そうだったな」

「忘れてたの?」

少し呆れた顔をされる。

実際、知らなかった。

クラスメイトとして認識していたつもりでも、萌について知らないことばかりだ。

好きなもの。

嫌いなもの。

休日の過ごし方。

家族のこと。

何も知らない。

それなのに助けようとしている。

考えてみれば妙な話だった。

「蒼井ってさ」

「うん?」

「学校終わったら何してるんだ?」

萌は少し考える。

「本読んだり」

「他は?」

「散歩」

「毎日?」

「結構」

意外だった。

インドアな印象があったからだ。

萌は窓の外を眺める。

「家にいるの、あんまり好きじゃないから」

その言葉が引っかかった。

「そうなのか?」

「うん」

だが、それ以上は語らなかった。

まるで話題を終わらせるように、パンを一口かじる。

あなたも深追いはしなかった。

できなかった。

どこか踏み込んではいけない空気があったからだ。

放課後。

予報通り雨が降り始めていた。

校舎の窓を細かな雨粒が叩いている。

萌は帰り支度を終えると、自分の席でぼんやり外を眺めていた。

あの日と同じだ。

初めて話した放課後。

そして死ぬ三日前。

「帰らないのか?」

あなたが声を掛ける。

萌は少し笑った。

「また同じこと聞いてる」

言われて気付く。

確かに同じだった。

状況も。

言葉も。

何もかも。

けれど今は少し違う。

あなたは窓際の席へ近付いた。

萌の隣。

雨音が聞こえる。

二人とも黙ったまま窓の外を見る。

校庭には誰もいない。

ただ雨だけが降っている。

しばらくして萌が口を開いた。

「ねぇ」

「ん?」

「雨の日ってさ」

彼女は窓に流れる雨粒を指で追う。

「世界から人がいなくなったみたいな気分にならない?」

あなたは少し考える。

「分かる気はする」

萌は嬉しそうに笑った。

「だよね」

その横顔はどこか安心したようだった。

誰かに共感してもらえたことが嬉しかったのかもしれない。

その時だった。

萌のスマートフォンが震える。

通知音。

彼女は画面を見る。

そして。

ほんの一瞬だけ表情が曇った。

本当に一瞬だった。

見間違いかもしれないほど短い時間。

だが。

あなたは確かに見た。

萌はすぐにスマートフォンをしまう。

いつもの笑顔に戻る。

「帰ろうかな」

そう言って立ち上がる。

しかしあなたの視線は彼女のポケットへ向いていた。

誰からの連絡だったのか。

なぜあんな顔をしたのか。

初めて見た表情だった。

もしかすると。

蒼井萌が死ぬ理由に繋がる何か。

初めて見つけた手掛かりかもしれない。

雨音は少しずつ強くなっていた。

まるで六月七日が近付いていることを知らせるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ