第二十話 「同じ記憶」
眠れなかった。
時計の針が午前二時を過ぎても、あなたはベッドの上で天井を見つめていた。
スマートフォンの画面には、あのメッセージが残っている。
『君と同じだよ』
『六月七日のことも』
『蒼井萌が死ぬところを』
『次は失敗しないでね』
次は。
その言葉が頭から離れない。
まるで。
今回も蒼井萌が死ぬことを前提にしているようだった。
六月七日は終わったはずなのに。
萌は生きているのに。
なぜそんなことを言う。
翌朝。
六月九日。
教室へ向かう足取りは重かった。
窓際を見る。
蒼井萌は今日もいた。
本を読んでいる。
生きている。
その姿を見て少しだけ安心する。
だが。
今は別の恐怖があった。
もし本当に。
六月七日は終わりじゃなかったら。
授業中。
あなたは何度も萌を見てしまう。
その度に萌は不思議そうな顔をする。
そして。
四時間目の終わり。
小さくメモが飛んできた。
紙切れだった。
あなたは広げる。
そこには短く書かれている。
『見すぎ』
思わず吹き出しそうになる。
顔を上げる。
萌がこちらを見ていた。
少しだけ笑っている。
あなたは慌てて紙を隠した。
萌は肩を震わせながら笑っている。
久しぶりだった。
こんな表情を見るのは。
昼休み。
屋上。
いつもの場所。
フェンスの近く。
空は晴れていた。
萌は自販機で買ったミルクティーを飲んでいる。
あなたは昨日のことを考えていた。
知らない番号。
ループを知る人物。
倉庫街。
考えるほど分からなくなる。
すると。
萌が突然言った。
「最近、少し元気ないね」
「そうか?」
「うん」
ミルクティーを持ったままこちらを見る。
「何かあった?」
言えるわけがない。
ループしていることも。
知らない相手から連絡が来ることも。
全部。
「別に」
萌が苦笑する。
「またそれ」
「便利だからな」
「逃げてるだけじゃん」
図星だった。
あなたは何も言えない。
その時。
萌のスマートフォンが鳴った。
通知音。
萌の表情が固まる。
あなたも反応する。
最近はその音だけで緊張するようになっていた。
萌は画面を見る。
数秒。
そして。
少しだけ眉をひそめた。
だが。
以前のような怯えた顔ではない。
「どうした?」
萌は画面を消した。
「なんでもない」
そう言ったが。
今度は本当に大丈夫そうだった。
むしろ。
何かを決意したような顔だった。
放課後。
帰宅途中。
スマートフォンが震える。
知らない番号。
あの相手だった。
あなたは立ち止まる。
画面を開く。
メッセージは一件。
『今日、楽しそうだったね』
心臓が止まりそうになる。
屋上だ。
見られていた。
また。
どこかで。
誰かに。
すぐに返信する。
『どこにいる』
既読。
数秒。
返信。
『近く』
『ずっと近く』
背筋が冷える。
周囲を見回す。
駅前。
通行人。
学生。
会社員。
誰も普通に見える。
誰が送っているのか分からない。
そして。
最後のメッセージが届いた。
『蒼井萌に近付きすぎない方がいい』
『前回みたいになるよ』
前回。
その一言で。
あなたの思考は止まった。
前回。
それは。
自分が経験した六月七日のことか。
それとも。
相手も別の六月七日を経験しているのか。
もしそうなら。
ループしているのは自分だけじゃない。
そして。
もしかすると。
もっと恐ろしい事実が隠されている。
夜。
あなたはスマートフォンを握り締める。
画面には最後のメッセージ。
『前回みたいになるよ』
その言葉だけが、不気味に光っていた。




