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彼女が死ぬ3日前  作者: leemero
第①章「六月の雨」

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第十一話 「メッセージ」

スマートフォンが床に落ちる音は、思ったよりも大きかった。

乾いた音が教室に響き、雨音さえ一瞬遠く感じる。

蒼井萌は動かなかった。

ただ画面を見つめたまま立ち尽くしている。

あなたは席を立った。

「蒼井?」

返事はない。

窓の外では雨が強くなっていた。

ガラスを叩く雨粒が白く流れている。

「大丈夫か」

もう一度声を掛ける。

萌はゆっくり顔を上げた。

その表情を見た瞬間、胸が締め付けられる。

顔色が悪い。

唇も少し震えている。

今まで見たことがない顔だった。

「……平気」

かすれた声だった。

平気じゃない。

そんなことは一目で分かる。

あなたは床に落ちたスマートフォンへ視線を向ける。

画面はまだ消えていなかった。

通知が並んでいる。

未読三十二件。

そして。

差出人は数字だけのアカウント。

その瞬間だった。

萌が慌ててスマートフォンを掴み取る。

「見ないで!」

教室が静まり返った。

萌自身も驚いているようだった。

肩が小さく震えている。

あなたは何も言えなかった。

初めてだった。

彼女がこんな声を出したのは。

数秒の沈黙。

やがて萌は目を伏せる。

「……ごめん」

弱々しい声だった。

怒っているわけじゃない。

ただ怯えているように見えた。

「蒼井」

「大丈夫だから」

即座に返ってくる。

まるでその言葉を何度も使ってきたみたいに。

「本当に?」

萌は答えない。

スマートフォンを胸の前で握りしめている。

まるで誰かから取り上げられるのを恐れているようだった。

あなたは拳を握る。

何か言わなければ。

何か聞かなければ。

そう思うのに言葉が見つからない。

死ぬことを知っているなんて言えない。

ループしているなんて言えない。

結局、口から出たのは別の言葉だった。

「一人で帰るな」

萌が顔を上げる。

少しだけ目を見開いた。

「え?」

「今日は送る」

「なんで」

「心配だから」

萌はしばらく黙っていた。

窓を叩く雨音だけが響く。

やがて彼女は小さく笑った。

いつもの笑顔ではなかった。

少しだけ寂しい笑顔。

「優しいね」

その言葉が妙に引っかかった。

まるで最後に言う言葉みたいだったから。

あなたは嫌な予感を振り払う。

「蒼井」

萌は窓の外を見たまま呟く。

「でもね」

雨が降っている。

灰色の空。

暗くなり始めた校庭。

「もう遅いんだよ」

背筋が凍る。

「何が?」

萌は答えない。

ただ窓の外を見つめている。

あなたは初めて感じた。

蒼井萌は何かを諦めている。

何かから逃げることを。

何かに抗うことを。

「蒼井!」

思わず声が大きくなる。

その瞬間だった。

萌は突然駆け出した。

教室の扉を開き、廊下へ飛び出す。

「待て!」

あなたも走る。

机の間を抜ける。

廊下へ出る。

だが萌は速かった。

階段を駆け下りていく。

長い黒髪が揺れる。

雨の日の教室で静かに笑う少女とは思えないほど必死だった。

昇降口へ辿り着く。

外は土砂降りだった。

そして。

校門の向こう側。

雨の中に立つ一人の人影が見えた。

黒いパーカー。

深く被ったフード。

顔は見えない。

だが。

その人物を見た瞬間。

萌の足が止まった。

あなたの心臓が大きく脈打つ。

あれは誰だ。

そして。

なぜ萌はあんな顔をしているんだ。

雨はさらに激しく降り続いていた。

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