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4.王女の望むもの

「私が王女様のお話役ですか?」

シモーネは夕食の時間に私にそのような話を始めた。


「殿下直々のお願いなのですがステラさんの気が進みませんでしたら断っていただいても大丈夫です。」

と続けて言う。そんな簡単なことではないだろう。


「いえ、そういうことでしたら謹んでお受け致します。」

そう答えると

「きっと喜ばれると思います。寛容な方ですので気を張ったり心配する必要はありませんから。」

と伝えてくる。側近であるということは聞いていたがどうやら実際近しい関係のようだ。


「殿下はそのようなことは気になされませんが、パーティに参加する機会も多くなると思います。」

彼はさらにこう言った。

「城内で気になることもあると思いますから、ドレスを新調する時は確認ではなく早急に注文してからこちらに報告していただければ。」

とも。


 まさか私が社交界の政治に関わることになってしまうとは思いもよらなかった。着飾ることは貴族女性の義務で、それについて深く考えたことはなかった。これからは流行を察知していく必要もありそうだ。


 夕食が終わると

「では、明日に備えてゆっくりとお休みください。」

彼は二人の寝室ではない部屋に向かう。


 こちらで考えをまとめ、話し合いを行った。その後、彼は取り決めをした日以外に私と寝屋を共にしなくなった。


 それは優しさ故なのか、冷ややかさ故なのか分からず居心地が悪い。まさか自分が想像していたように、こんなにもすぐに寝室が冷え切ってしまうことになるとは思わなかったのだ。


・・・


 次の日の朝――。


 同じ馬車で王城に向かう。

「私はまず職場に顔を出す必要がありますので先に王女宮に向かってください。終わり次第そちらに挨拶に向かいますので。」

と彼は言う。


 入城するのはデビュタント以来だった。あの時はとても緊張していて何を目にしても考えがまとまらないほどだった。


あれからそこまで時間が経っているわけではない。しかし、今の私は良くも悪くも緊張していなかった。こんな風に変わってしまったことに理由はあるのだろうか。


「では、後ほど会いましょう。」

そう言う彼に

「えぇ、行ってらっしゃいませ。」

私がそう返すと、案内の女性がやって来た。


「妻を王女宮に案内してください。」

とシモーネに依頼されると、彼女はちらりと私を見て

「はじめまして。」

そう挨拶する。


そして彼女は

「こちらの方に向かいますのでついて来ていただけますか。」

と歩き始めた。


 王城では使用人から高位貴族まで様々な人物が出入りをしている。毎日のようにここで過ごしている人たちは大抵の人々について知っているため、私を一目見るだけでいつもは見ない知らない顔だということに気付く。


 最初は優雅に挨拶をするが、後に品定めをするように上から下まで眺められる。実際こんなことはどのような貴族も経験があることだが、決して気分の良いことではない。

 

 ただ、私は今までこのような人たちの御眼鏡に適った試しはない。だから過剰に気にすることはないだろう。そう思っていたがどうやら様子が少しおかしい気がする。いつものようにつまらなさを感じられているのとは違うのだ。


 ただシモーネから伝えられたドレスや装飾品についての話は理解できた。できるだけ自分のセンスを磨いて強調することは、ここでは悪目立ちを防ぐことに繋がるに違いない。


 王女宮に辿り着くと案内係の女性は王女が座るであろう椅子の側に侍った。どうやら彼女専属の使用人であったのだ。


 そして入室してきたのは輝く黄金色の髪を豊かに揺らし、スタールビーのように艶やかに且つ星のように輝く瞳を持つ豪奢な女性だった。


彼女は

「貴方がシモーネの結婚相手ね。」

と確認する。


私が

「はい。」

そう答えると


「私はご存知の通り、第一王女ヴェロニカ・アンナ・デ・コヴァルよ。どうぞよろしく。」

そう名乗った。


「夫から承りました。ステラ・デ・ピノンと申します。謹んで殿下のご用命をお受けいたしますのでよろしくお願いいたします。」

と私が挨拶をすると

「そんなに堅苦しくする必要はないわ。どうぞ座って。」

彼女はくだけたように笑って話すと、着席して私にも着席を促した。

 

「なぜ自分が選ばれたんだ、と思っているでしょう?」

ヴェロニカは私に問いかけてすぐ説明を始めた。


「夫のいる女性が私に望むことはただ一つ、自分の夫を重要な役職につけて欲しい。」

彼女はそう言って小さくため息を吐いて、話は続く。

「でもそのうち降嫁することが決まっている王女に何ができるというの?

私はもうそういうのはうんざりよ。かといって未婚の女性たちは年下すぎる、ということ。」

納得だ。


私の夫は既に王女の下で働いており、その場所でそれなりの地位を既に与えてもらっているの。彼女に対して私が願うことは何もないだろう。


 そして年齢も離れ過ぎていない。しかしふと頭を()ぎるのは、少し前の私では彼女の眼中にも入ることができなかったのだろうなという感情だった。


 私が行き遅れたのに具体的な理由はない、とされている。不美人だと直接指摘されたことはないし、性格に問題があるとも言われたことはない。


 ただ誰かと楽しく話してみると、想像していたよりも面白い人だ、という反応がある。そんな自分の表面と内面の違いについて私は正しいと思っていたし、改善すべきだと思っていた。


 一方で私の妹は人の目を惹く美人だ。呼ばれたパーティではいつも周りに人が集まってきていた。そのように生活してきたからか性格もとても社交的で天真爛漫だ。それもあってか姉の私は結婚していなかったのか、というような立ち位置であった。


 そんな私が結婚する前、彼女には侯爵家から縁談の申し込みが来ていた。パーティで出会った侯爵令息と意気投合したことから、本人直々の要望であったようだ。

 

 しかし、父は妹が由緒正しい家の夫人になることに対して不安になっていた。なかなか返事を出せなかったのだ。妹は結婚していたがっていたが、彼女も彼女なりに不安を感じていたのか、父に強く要望することはなかった。


 その中で私の結婚の話が上がった。ここで私がこの話を飲み込むことによって家や両親の負担は減るだろうと考えた。話を受けることにしたのだ。


 確かに前向きではなかったが、そのおかげで私は父に妹のことをお願いすることができたし、無事に結婚の話はまとまったようだった。このことに関しては私と父しか知らない。


 ただ全てのことは終わった話だ。今更蒸し返すものでもない。

ここでシモーネと上手くやっていかなければ、私が整えた環境は全て崩れてしまう。誰にも心配をかけたくないのだ。

 私が結婚する際に寂しがっていた妹も今頃は幸せの真っ只中にいるだろう。彼女にだってこの先辛いことはたくさんあるかもしれないが、それは彼女が努力していくべきことだ。私は私で、自分の生活をしていく必要がある。新しく守る家ができたのだから。


「ご説明いただきましてありがとうございます。このお話をいただけて光栄だと思っております。」

と私はヴェロニカに返事をした。


それに対して

「ふっ、シモーネは奇特でしょう?」

彼女は突然そう問いかけた。


「どうか夫人として私が降嫁してからも良き友人として付き合ってくれると助かるわ。」 

と意味ありげな顔をする。


 確かにシモーネは自分が思っていた以上に普通ではないのかもしれない。

ただ彼を"奇特"と表現する人には初めて出会ったので面食らってしまう。


 彼は伯爵家の人間であるが、どのようにして殿下とここまで親しくなれたのだろうか、ということがより気になってきてしまう。


「こんなことをお尋ねするのは失礼かもしれませんが――」

そう問いかけようとした時

「ヴェロニカ様、遅くなりまして申し訳ありません。シモーネです。」

とシモーネが扉をノックして部屋に入って来た。

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