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31.思惑と幕引き

 ヴェロニカ殿下の言う通り、フィリア・トネットが関連した事件の調査は終了した。


彼女に協力した者は庶民から貴族まで様々な人物がいた。間違いなく関係があった裏社会の人間たちも殿下の派遣した調査員によって捕えられたという。


平民や特にごろつきたちは彼女の思想に共感していたようだ。一方で貴族は弱みを握られて渋々協力をさせられていたようであった。


 しかし、高位貴族への劣等感を感じていた者たちは積極的な部分もあったと考えられる。彼らの処分についても既に決定していた。


 そして、私たちに協力したエフィジオ・ギアッチは本当に単なる広告塔であったことが分かった。


 非常に残酷ながらもフィリアは彼を麻薬中毒にしてしまうと使い物にならないと考えていた。一線を越えさせなかったようだ。


 しかし城内の風紀を乱し、彼女の影響を煽動した行動は非常に罪深いものだ。彼はもうすぐ貴族ではなくなるであろう。あれだけ深く一人の女性を愛した末路がこんな風になってしまうことは、一番侮辱された私でさえも痛ましく感じる。


 あの時間を思い出す。彼を証言台に登らせたのは私だ。


「愛している人に二度と自分を忘れさせないようにする方法を教えてあげましょうか。」

そう言って復讐に駆り立てさせた。彼だってそんな簡単に態度を変えるような人間ではない。それでも私が言えば信用に足りるだろう。


 愛ゆえにみずぼらしく泥水を啜ることではなく、見るに耐えない姿で城中を闊歩することを選んだのだから。

 

 残るはフィリア・トネット本人だけだ。しかし、彼女が実際に手を下したことはあまりにも少なかった。


 私になりすまして行ったことは確実に重罪だ。しかし、幻惑という証拠の残らないものを使用していたことが非常に問題であった。それでも裁判室では彼女は麻薬中毒の可能性があるという判断を下したので、今と同じように収監され続けることとなった。


 殿下は何度も

「彼女がどうなるかは私にも分からないわ。様々な書物を取り寄せて確認してはいるものの、その後に関する記述を未だ見つけられていないから。」

と言うだけであった。


 それがどれだけ恐ろしいことであるか。


 そして改めて殿下に私のみが呼ばれた。部屋に向かう。

「ヴェロニカ殿下、ステラです。失礼いたします。」

そう話しかけると

「どうぞ。」

と言われる。


 前までの緊張感は落ち着いているようだ。少し前までは再び処分に追われていたので非常に大変そうであった。


 部屋の扉を開けると

「どうかしら?」

そう言って彼女は結婚式の際に着用するドレスを身に纏っていた。私と一緒に考えたものだ。


「素敵です。」

と心から言う。


 そうすると横から

「そうですよね。」

同調する声が聞こえてきて驚く。違和感なく部屋の中にセルジョ様がいるのだ。


「セルジョ様、ごきげんよう。」

と彼に向かって挨拶をすると

「ステラさん、お久しぶりです。」

彼も挨拶を返してくる。


 そして

「このドレスは貴方がお選びになったと聞きました。」

と言うので驚く。殿下はそのようなことももう話しているのか。 

 

「はい、そうですが。」

返事をする。


 セルジョは

「私とステラさんが友人だからでしょうか。私の好みを考えてとヴェロニカは言ったようですが、本当に綺麗だと思います。彼女は何でも似合うと思いますがね。」

と笑っている。


これは――私が褒められたようで、ただ二人の仲の良さを見せつけられただけなような気がする。あるべき姿に戻って良かったとは思うものの、本当に私がここにいて良いのだろうか。


「そうでしょう。」

そう殿下は笑って言った。


 そして殿下は

「初めて出会った時はどうしてこんな王城ではすぐに折られてしまいそうな、真面目な人物を連れてくるのかしら、と思ったものだけど。そうではなかったわね。貴方は強い。」

と話し始める。


「私は一度失敗することでしか強くなれなかったわ。そこで反省したの。でも貴方は違う。一度の人生で何度危機に陥ってもそこから逃げずにいつだって立ち向かっていた。」

彼女は私の目を真っ直ぐ見つめている。


「貴方が真実から目を逸らさなかったから、きっと人間の力では不可能だったことを解決できたのよ、ありがとう。」

その言葉が伝えられた途端、心が掴まれたような感覚に陥った。


 その間、精一杯下を向かないようにしていた。涙が溢れそうだった。

 

「私は?」

そうセルジョ様が殿下に言った瞬間、しんみりしていた空気が一気に変わる。


「そうね、貴方も。」

と殿下が自分を飾り立てているジュエリーを外しながら片手間のように言うので

「私が違う人と結婚するって言ってたらどうしてたんだよ君は。」


そのように痴話喧嘩が始まってしまった。私は内容を聞かないようにしていた。


 そこで直立不動の状態で待っているといつの間にか終了したようで

「ヴェロニカ、愛しているよ。」

彼はそう殿下の頬に口付けをした。


 いくら婚約者だとしても、ヴェロニカ殿下にこのようなことができるのは彼しかいないと思う。

 

 そして彼は

「ステラさん、失礼しましたね。ではまたお話ししましょう。」

そう言い、退室しようとした。


 しかし、再び戻ってくると

「手鏡は貴方にお預けしようと思います。どうか受け取ってください。」

とのことであった。


 全ての回数を使い切ったものの、変わらず奇妙なものではある。殿下の言うとおり、時戻しの神器以外は形状が個体されていない。手鏡は普通の道具に戻ったのだ。彼がそう言うのであればありがたく受け取っておこう。


「ごほん。」

殿下は咳払いをして

「ちょっと着替えをしてくるわね。」

と隣の部屋へと移動した。


 彼女が戻って来た際に部屋のドアがノックされた。

「やっと来たわね。」

その言葉で察する。私たちは別々で呼ばれていたようだ。


「ヴェロニカ殿下失礼いたします。シモーネです。」

そう言って部屋に入ってきた彼は私の顔を見て表情を綻ばせる。なんて優しい笑顔なんだろう。


「さ、早く座って。」

と殿下が催促するので、彼は急いで私の隣に着席した。


「今日は二人にお願いしたいことがあって呼んだの。」

そう話は始まった。


 しかし殿下が

「処理の関係で彼はもう先に知っているんだけど。ごめんなさいね。」

と言うのだ。一体何の話なのだろうか。


「事件の処分は粗方終了したわ。」

そう彼女が言い放った。


「それでも元通りに運営していくのは難しい部分もあるの。でも私は結婚したら関わらないと約束してしまったから……」 

と言う彼女は全然残念そうではない。寧ろ嬉しそうであった。


 どうやらあの収拾方法を含め、全ては殿下の手中にあったに違いない。しかし、このことについて最も反対しているのは兄であるルデファノ殿下だった。


 新たに王族となる殿下の婚約者に負担がかかるため、どうにかヴェロニカ殿下を説得しようとしているようだ。しかし、あのように裁判の場で宣言してしまえば、撤回することはもう不可能だ。彼女は最も高度な悪戯を成功させたかのように微笑んでいる。


「そして私が請け負っていた執務に関しても解体されるわ。」 

それはつまり、と早とちりしてしまいそうであったが

「あ、二人とも解雇というわけではないのよ。」  

とすぐにそれは否定される。


「国の派遣員として処分を受けた貴族たちの領地を治めて欲しいの。」

そうやって過去にあまりにも強く願っていた夢が突然目の前に再び現れてしまったのだ。


 一体、どんな風に思えばいいのだろうか。私は何も言えず目の前の壁を見つめていると


「ステラさん。」

とシモーネに呼びかけられる。


 彼は先ほどとは違うしっかりとした顔をして微笑んでいた。私が諦めていた夢を彼は諦めていなかったのだ。


「建前としては国の土地として運用する予定だから、貴方たちの子孫に受け継ぐことができるという保証はできないわ。それでも領民たちが認めてくれたらそう難しくなはいでしょうね。」

そう殿下は得意げな顔をして言う。


「これがご褒美でいいかしら。」         

どうやら彼は最初からこのことを考えていたようだ。あまりにも計画的で唖然とする。


「いくら移住が楽しみだとしても私の結婚が終わるまではしっかりと務めてね。」

と殿下はシモーネに伝える。


私には

「お互いに首都を離れた後も呼びますからどうか私と話をしてちょうだい。」 

そう伝えてくる。


「もちろんです。本当にありがとうございます。」

と感謝すると

「もうそんなに畏まらなくていいわ。」

そう殿下は言う。


 そして

「さ、貴方の好きな紅茶のサブレを用意させたから食べて行って。」

と振る舞い始めるのであった。        

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