49.推し不在の会議
「まぁ、俺たちも別に人殺しがしたい訳では無いからな……。」
先程の戦いからは想像ができなかった。
今、勇者パーティと華、恵、魔王の部下たちは話し合いのテーブルに付いていた。
ノアはこの場にいない。
さすがに致命傷を負っていたので、杏の元へ連れていったのだ。
勇者たちは特に止めることはしなかった。
また、自分たちを一緒に連れて行けと脅すこともなかった。
ノアと一緒に華と恵も帰ろうとしたのだが、ソフィアに引き止められた。
第3の立場として同席して欲しいと。
そうして今、エントランスで向かい合っている。
先に話し始めたのは、ソフィアだった。
ソフィアはノアを見逃してくれたわけを聞いた。
すると勇者は、殺したい訳じゃないと答えた。
「俺たちは仲間を助けるためにここに来た。まぁ最終的に魔王を倒すことにはなるけど、別に無闇矢鱈に殺したい訳じゃない。戦いだって必要最低限で済ませたいし。」
勇者の言葉を、ソフィアは本意かどうか測りかねているようだった。
口を挟むことなく、深く考え込んでいる。
華と恵は勇者の言葉が本心であることを知っている。
普通の冒険RPGだとレベル上げのために敵をざっくざく倒していくのが普通だ。
だが、このゲームでは、レベル上げは地味な訓練ミニゲームと、戦闘シミュレーションで行う。
魔王城までに訪れる村で何体かの魔物を倒すが、どれも魔物が悪さをしている場合に限っている。
道端で偶然出会ったモンスターを殺すような、通り魔のようなことはしない。
華はソフィアと目を合わせて、深く頷いた。
勇者は信用していいと、言葉なく伝える。
華と恵を信頼しているソフィアは、2人の様子を見て決心したようだった。
「では今後も、魔王城で出会う君達の敵に対して、戦いはすれど消して殺さないと約束して貰えないだろうか。」
「ああ、かまわ「それは承諾できません。」
ソフィアの魔王側にしか利点のなさそうな提案に、勇者は即答仕掛けたのだが、その言葉を仲間のひとりが遮る。
「そちら側は俺達を殺すつもりで戦うのに、こちらは峰打ちなんて。殺さない方が難しいの、分かってますか?それに、負けた振りをされて背後を襲われたらたまったもんじゃない。」
蓮が言うことはごもっともだった。
「もちろん、このままではフェアでないことは分かっている。君たちが魔王城で成し遂げたいことは2つだな。」
「ああ。」
「1つ、杏を取り戻すこと。2つ、魔王を倒すこと。」
「合っている……と言いたいところだが、2つ目はちょっと違うな。」
勇者は顎に手を当て、斜め上を見つめる。
「……というと?」
「俺達は魔王を倒すことが目的なんじゃなくて、世界平和が目的だ。だから魔王は倒しても倒さなくてもどっちでもいい。魔王があんたみたいに話し合いができるタイプなら、説得して終わるってこともありうる。」
さも当たり前かのように言ってのける姿に、蓮は頭を抱えた。
そんなことはありえないって何度も言ってるだろ、と小さく呟いて項垂れている。
「そうか、ならこの戦いは早く決着が着くかもしれないな。」
予想外なソフィアの言葉に、蓮は驚きの声をあげる。
勇者は良かったと、笑みを浮かべた。
「ほら言っただろう、蓮。魔族の人達だって人間と同じで、ちゃんと話せば通じるんだよ。今こうやってソフィアさんが話し合いさせてくれてるだろ?魔王だって一緒のはずさ!」
蓮は信じられないといったふうに、疑いの目をソフィアに向ける。
その視線に対し、ソフィアは嫌な顔をしなかった。
「ソル様……魔王様は、聡明な方だ。君たちの仲間を連れてきたことにも、何かしら意図があると思っている。君たちが聞けば、あるいは答えてくれるかもしれない。……少なくとも、問答無用で斬りかかってくるような外道ではない。」
ソフィアの言葉にうんうんと頷く勇者。
蓮は勇者とソフィアの顔を交互に見て、なにか言いたげに口を開きかけて閉じた。
葵は先程からずっと黙ったまま俯いている。
話し合いは全て勇者と蓮に任せているようだ。
「あの……。」
華が様子を伺いながら声を上げた。
華、そして恵もきっと、気になっていることがあった。
「そもそも、どうして魔王を討伐しに来たんですか?」
それは、ゲームでは語られることのない事だった。
なぜならゲーム開始時点で、魔王を倒しに行くことは決まっていたから。
そして最後は魔王を倒して世界は平和になり、主人公も大切な人と結ばれました。(ルートにより多少変わる)
という感じで、特に詳細は語られずに、ふわっと終わってしまう。
「それはもちろん……。」
勇者は即答するかのように見えて、返答につまる。
勇者が蓮の方を見ると、連絡は短くため息をついて答えた。
「俺は故郷を奪われました。魔王に。帰る家が無くなったんです。」
詳しく言わなくても、華と恵の脳内では、蓮の故郷が失われていく様子が、はっきりとイメージできてしまった。
「魔王様が、そのようなことを……?」
ソフィアが訝しむ。
その様子は演技をしているように見えないため、実際に魔王が街を滅ぼしていたとしても、ソフィアはそれに携わってはいないようだった。




