50.推し生存ルートへの1歩
「なにか行き違いがあるのではないだろうか。魔王様は消して無意味な攻撃はしない。そして、君たちもここまで話してきて、きちんとした理由があってこの城に乗り込んでいることがわかった。もしかしたら……」
ソフィアの言葉に対し、勇者が子供のように目を輝かせて言葉を紡ぐ。
「戦い無しで、誰も傷つくことなく、問題を解決することが出来るかもしれない!」
「ああ。」
ソフィアと勇者のやり取りに、華と恵も注目していた。
心臓がドクドクと脈打つ。
戦いを避けられるということは、ヴォイドの死も回避することができるということ。
なんなら、ノアの死も先程回避できたのだ。
2人は気持ち前のめりになりながら、ソフィアと勇者に強く同意して頷いた。
「魔王様も平和を望んでいる。お互いの誤解を解くことができれば、きっといい方向にことが進むだろう。」
「杏のことも解放してもらえるだろうか?」
勇者の問いに、ソフィアは力強く頷く。
「ああ、勿論だとも。」
少し間を置いて、勇者は顎に手を当てて顔を傾けた。
「そもそもなんで杏は連れていかれたんだ?」
その問いに、答えづらいと口を閉ざすソフィア。
ソフィアは気を遣って、こちらに目線を配ることもしなかったが、華は自ら話すことに決めた。
「あー、それは私を治すためだと思います。かなり大怪我だった……というか酷い有様だったので……。」
自分で言いつつも、当時の惨状を思い出し華は悲しくなった。
忘れていた希死念慮が蘇りそうになる。
「杏が捕らえられたままってことは、まだ完治していないのか?」
「いえ、ほぼ完治してます。最近は治療を受けることもなくなったし。」
「じゃあなぜ帰して貰えないんだ?」
勇者の問いに、華は首を傾げた。
「……??確かに??」
蓮はなにか考えるように、 少し俯いた。
対して勇者は細かいことはあまり気にしない。
「まぁいいか、無事に帰ってこれば。」
「そこは安心して欲しい。彼女はどこも傷ついておらず元気だ。彼女の場所まで案内しよう。」
「そうだな、じゃあ早速……「本当に信じられると思う?」
勇者の言葉を1人の男が遮る。
いつの間にか、華たちの目の前に登場人物が1人増えていた。
フードの付いた長いローブに、体がすっぽりと覆われた、少し小柄の男の子……男性だ。
「僕はそうは思わない。相手は魔族だよ。僕たちを騙して、油断しているうちに攻撃してくるに違いない。」
男はフードで隠れていた赤い瞳を少し覗かせながら、少しトゲトゲした言い方をしてくる。
勇者はそれをまぁまぁと宥めた。
「なぁ陽、そんなこと言うなって。」
「ゴールに近づいたからって油断しすぎたよ。散々言ってきただろ……」
「ああ、分かってる、『理想を追い求めすぎて、やるべき事を見失うな』だろ。」
陽と呼ばれたフードの男は、改めて勇者を見て、短くため息をついた。
「分かってるならいい。」
「それより、陽。今までどこにいたんだよ。」
「城の前に着いた時言っただろ、周りを偵察してくるって。」
陽の言葉に、勇者は心当たりがない。
「そうだっけ?」
蓮と葵は勇者とは違う。
ここまで黙っていた2人だったが、勇者の言葉に続けて発言する。
「言ってたな。」
「言ってたよ♪」
急な3対1に気まずさを覚えた勇者は、変な表情をしている。
見かねた陽は、直ぐに助け舟を出した。
「そんなことは今はいいんだよ。とにかく、お姉さん。申し訳ないけど僕たちは君たちの敵です。魔王を倒しに来ました。立ち塞がるなら倒します。」
持っていた杖を構える陽。
エネルギーを集め始めたその杖の先を、勇者が手で抑える。
「申し訳ない。陽も過去に魔族と色々あったみたいで……。気を悪くしないで欲しい。貴方みたいないい魔族に出会ったことがないんだ。ほら、陽。この方たちは杏のことを知ってるらしい。道案内してもらおう。」
「翔は人が良すぎる。僕は絶対に信用しない。倒した方が間違いない。杏のことも敵を倒しながら見つけたらいい。」
陽は杖を振り、勇者の手を払おうとしたのだがビクともしなかった。
なんともない顔をして、軽く抑えているだけのように見せているが、やはり彼は強いのである。
「頼むよ。何かあれば俺が責任をとる。」
「……」
緊張感のある数秒間だった。
2人は目線を互いからそらさない。
こうなればもうこちらが折れるしかない、と陽は杖を下ろした。
「……何かある前に、僕が対処する。」
そう言いながらフードを深く下ろす陽に、勇者は微笑んだ。
「ありがとな、陽!」
では決まりということで、と言いながら、勇者は頷くソフィアに片手を差し出す。
ソフィアは躊躇いなくその手を握った。
人間と魔族の間で、力強い握手が交わされたのだ。
華と恵はその様子を、少し涙ぐみながら見つめた。
歴史が変わった瞬間を目の当たりにしたのだ。
まだまだ懸念事項はあるし、この変化が後々どう影響してくるのかをしっかりと考えなくてはいけない。
しかし何かいい方向に向かっているのではないかと、2人は確かに希望を抱いたのだった。




